• 著者: Topalian SL, Sznol M, McDermott DF, Kluger HM, Carvajal RD, Sharfman WH, Brahmer JR, Lawrence DP, Atkins MB, Powderly JD, Leming PD, Lipson EJ, Puzanov I, Smith DC, Taube JM, Wigginton JM, Kollia GD, Gupta A, Pardoll DM, Sosman JA, Hodi FS
  • Corresponding author: Suzanne L. Topalian, MD (Department of Surgery, Johns Hopkins University School of Medicine, Baltimore, MD)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2014
  • Epub日: 2014-03-03
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 24590637

背景

PD-1 (Programmed cell death 1) は活性化T細胞およびB細胞に発現する抑制性受容体であり、そのリガンドであるPD-L1 (B7-H1) およびPD-L2 (B7-DC) との結合によりリンパ球活性化を負に調節することが知られている。前臨床研究では、悪性腫瘍がこのPD-1/PD-L1経路を利用して免疫監視から逃避するメカニズムが示されており、PD-1経路の遮断が新たな治療標的として注目されていた。この経路の阻害は、T細胞の疲弊を解除し、抗腫瘍免疫応答を再活性化することで、がん治療に革新をもたらす可能性を秘めていた。

メラノーマは、ヒトのがん種の中でも体細胞変異頻度が最も高い部類に入ることが報告されている (Lawrence et al. Nature 2013)。この多様な遺伝子変異は、腫瘍特異的抗原の生成を促し、免疫療法が共通の基盤として機能する可能性を示唆していた。適応免疫系は広範な容量と精緻な特異性を持ち、さらに免疫記憶能を有することから、適切に教育された免疫系が自己持続的なメカニズムでメラノーマを排除し、長期的に制御できる可能性が示唆されていた。しかし、この免疫記憶がPD-1阻害によってどの程度確立され、治療中止後も持続するのかについては、まだ未解明な点が多かった。

抗CTLA-4抗体であるイピリムマブ (ipilimumab) の臨床的成功 (Hodi et al. NEnglJMed 2010) は、T細胞チェックポイント阻害という治療概念を確立し、PD-1を含むCD28/B7ファミリー分子の臨床的探索を加速させた。ニボルマブ (nivolumab, BMS-936558; MDX-1106; ONO-4538) は、ヒトPD-1を遮断する完全ヒトIgG4モノクローナル抗体であり、先行するfirst-in-human試験 (Topalian et al. NEnglJMed 2012) で許容できる安全性プロファイルと持続的な客観的腫瘍縮小が示されていた。その後、進行治療抵抗性メラノーマ、非小細胞肺がん (NSCLC)、腎がんの患者において、約20-30%の客観的奏効が報告された。しかし、これらの初期報告では、長期的な全生存期間 (OS) や治療中止後の奏効維持、および長期投与における蓄積毒性に関する詳細なデータが不足しており、これらの重要な臨床的疑問に対する体系的な評価が求められていた。本報告は、メラノーマ患者群の長期フォローアップデータを解析し、OS、反応持続性、治療中止後の反応維持、および長期安全性を初めて体系的に評価することを目的とした。

目的

本研究の目的は、進行治療抵抗性メラノーマ患者107例を対象としたニボルマブ投与後の長期追跡解析により、以下の主要評価項目を評価することである。

  1. 全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) の評価: ニボルマブ単剤療法が進行メラノーマ患者の生存期間に与える影響を定量的に評価する。特に、1年および2年生存率、ならびにOSおよびPFSの中央値を算出する。これにより、ニボルマブの長期的な生存ベネフィットを明確にすることが目的である。
  2. 奏効の持続期間と治療中止後の反応維持の評価: 客観的奏効 (OR) を達成した患者における奏効の持続性を評価し、さらに疾患進行以外の理由で治療を中止した患者において、治療中止後も奏効が維持される割合とその期間を詳細に検討する。これは、免疫記憶の確立と自己持続的な抗腫瘍効果の可能性を検証する上で重要な目的である。
  3. 長期安全性プロファイルの評価: ニボルマブの長期投与における安全性プロファイルを詳細に分析し、特に曝露調整毒性の蓄積性の有無を検討する。NCI-CTCAE v3.0に基づき有害事象を分類し、免疫関連有害事象の発生率と重症度を評価することで、長期治療の許容性を確認する。

これらの評価を通じて、ニボルマブが進行治療抵抗性メラノーマ患者に対する有効かつ安全な長期治療選択肢となり得るか否かを判断する。

結果

患者背景: 本試験には107例の進行メラノーマ患者が登録された。患者の62%が2〜5ラインの全身治療歴を有しており、中央値は2〜5レジメンであった。内臓転移を有する患者は78%に上り、乳酸脱水素酵素 (LDH) 高値の患者は36%であった。LDH高値は進行メラノーマにおける不良予後因子として知られている。全患者の治療開始から最低14ヶ月以上の追跡期間が確保された。

全生存期間 (OS): ニボルマブ投与患者におけるOS中央値は16.8ヶ月 (95% CI, 12.5-31.6ヶ月)​であった。1年OS率は62% (95% CI, 53-72%)、2年OS率は43% (95% CI, 32-53%)​と推定された (Fig 1A)。107例中60例 (56%) が解析時点で死亡していた。OS曲線は1年以降に平坦化する傾向を示し、長期生存者が存在することを示唆した。これは、イピリムマブの第III相試験におけるコントロール群のmOS 6.4ヶ月や、第II相試験のmOS 8.7-11.4ヶ月と比較して良好な成績であった。また、BRAF変異陽性メラノーマに対するベムラフェニブ (mOS 15.9ヶ月、1年OS 58%) やトラメチニブ (mOS 14.2ヶ月、1年OS 59%) と比較しても遜色のない生存期間であり、本試験がBRAF変異の有無を問わない全メラノーマ患者を対象としていたことを考慮すると、その臨床的意義は大きい。

無増悪生存期間 (PFS): PFS中央値は3.7ヶ月 (95% CI, 1.9-9.1ヶ月)​であった。1年PFS率は36% (95% CI, 27-46%)、2年PFS率は27% (95% CI, 17-36%)​と推定された (Fig 1B)。107例中77例でイベント (疾患進行または死亡) が発生した。PFS曲線もOSと同様に1年以降で平坦化する傾向が認められた。OSとPFSの間に大きな乖離が見られたことは、一部の患者で疾患進行後も長期生存していることを示唆しており、免疫療法の効果が従来のPFS評価基準では過小評価される可能性を示した。

奏効率と奏効パターン: 客観的奏効率 (ORR) は31% (33/107例)​であり、内訳は完全奏効 (CR) 1例、部分奏効 (PR) 32例であった。さらに、7例 (7%) の患者が24週間以上の安定病変 (SD) を示した (Table 1)。奏効は、0.1 mg/kg (6/17例 = 35%)、0.3 mg/kg (5/18例 = 28%)、1.0 mg/kg (11/35例 = 31%)、3.0 mg/kg (7/17例 = 41%)、10.0 mg/kg (4/20例 = 20%) と、試験された全ての用量コホートで観察され、用量反応性の明確な傾向は認められなかった。 従来のRECIST基準を満たさない非典型的免疫応答パターンが4例 (4%) に観察された。これには、新規病変の出現下でのターゲット病変の持続的縮小や、初期進行後の縮小が含まれる。これらの非典型的奏効は、免疫チェックポイント阻害薬に特徴的な応答パターンとして注目された。0.1 mg/kgまたは0.3 mg/kgで進行後に1.0 mg/kgへ増量した11例では、追加の奏効は認められなかった。

奏効の持続性: 33例の奏効者における奏効持続期間中央値は24ヶ月 (2年、95% CI, 17.0-推定不能)​であった (Fig 1C)。解析時点で、19/33例 (58%) で奏効が継続中であった。15例 (45%) は治療開始8週後の初回腫瘍評価で既に奏効が認定されており、速やかな効果発現が示された。皮膚、脳、骨、腸間膜リンパ節、副腎など、多部位の原発巣および転移病変において腫瘍縮小が確認された (Fig 3, Fig 4)。

治療中止後の反応維持: 奏効中に疾患進行以外の理由で治療を中止した17例の患者を追跡した結果、12/17例 (71%) が治療中止後少なくとも16週間 (範囲: 16週〜56週以上) 反応を維持した。このうち8例は、解析時点でも反応が継続中であった。治療中止の理由は、治験責任医師評価による完全奏効 (n=2)、最大治療期間到達 (n=5)、有害事象 (n=6)、その他 (患者同意撤回、治験責任医師判断など、n=4) であった。この「drug-off効果」は、化学療法やキナーゼ阻害薬では一般的に観察されない特徴であり、PD-1阻害によって腫瘍選択的免疫記憶応答が確立された可能性を強く示唆する。

長期安全性: 全107例のメラノーマ患者における安全性評価では、Any gradeの治療関連有害事象が90/107例 (84.1%) に認められた。Grade 3-4の治療関連有害事象は24/107例 (22.4%)​であった (Table 2)。最も頻繁に報告された有害事象 (3%以上の患者に発生) は、倦怠感 (31.8%)、皮疹 (23.4%)、下痢 (17.8%)、掻痒 (13.1%) などであった。 免疫関連select有害事象 (any grade) は107例中58例 (54%) に観察され、内訳は皮膚障害 (36%)、消化器系障害 (18%)、内分泌障害 (13%) であった。Grade 3-4の免疫関連事象は5例 (5%) に認められた。メラノーマ患者集団における薬物関連死は0例であった。全306例 (他の固形腫瘍患者を含む) では、肺炎関連の死亡が3例 (1%、NSCLC 2例、大腸がん1例) 報告された。 曝露調整毒性の蓄積性に関する解析 (全306例対象) では、ほとんどの有害事象が治療開始後6ヶ月以内に発現し、長期投与による蓄積毒性は認められなかった。最大耐用量 (MTD) は、試験された用量範囲内では到達されなかった。

考察/結論

本試験の位置づけと臨床的意義: 本試験は、PD-1阻害薬ニボルマブのメラノーマ患者における最長追跡データ (一部最大4.3年) を提供し、抗PD-1療法の生存アウトカム、反応持続性、治療中止後の反応維持、および長期安全性を初めて体系的に示した画期的な報告である。mOS 16.8ヶ月、1年OS 62%、2年OS 43%という生存成績は、当時の治療抵抗性メラノーマの標準的な予後 (イピリムマブ比較試験でのコントロール群mOS 6.4ヶ月、イピリムマブ3 mg/kg試験でのmOS 8.7-11.4ヶ月) を大きく上回るものであった。また、BRAF阻害薬やMEK阻害薬の成績とも遜色がなく、本試験がBRAF変異の有無を問わない全メラノーマ患者を対象としていたことを考慮すると、その臨床的意義は極めて大きい。

PD-1阻害の独自性: 反応の持続性と中止後維持: 本試験の最も重要な新規知見の一つは、治療中止後も71%の奏効患者で反応が維持されたことである。この「drug-off効果」は、化学療法や分子標的薬では一般的に観察されない免疫療法固有の特性であり、PD-1阻害が腫瘍特異的免疫記憶を誘導する機序を強く示唆する。腫瘍微小環境におけるPD-1シグナルによるT細胞疲弊が遮断された後に生成された免疫記憶細胞が、治療終了後も自己持続的に抗腫瘍活性を発揮すると考えられる。この仮説は、感染症における抗原曝露後の免疫記憶形成と平行する概念であり、immunotherapy paradigmの根本的な優位性を示している。この点で、本研究の知見はこれまでの治療法と異なり、免疫療法の長期的な恩恵を明確に示した。

OS-PFS乖離の免疫療法的解釈: OS (中央値16.8ヶ月) とPFS (中央値3.7ヶ月) の間に大きな乖離が認められたことは、イピリムマブでも観察されており、免疫チェックポイント阻害薬において早期の疾患進行が必ずしも長期生存を妨げないことを示唆する。この結果は、PFS単独で免疫調節薬の有効性を評価することの限界を示し、後のRECIST基準の免疫療法への適用に関する議論の嚆矢となった。

長期安全性プロファイルの重要性: 全306例を対象とした曝露調整解析において、長期投与による蓄積毒性が認められなかったことは、抗PD-1療法の長期投与の安全性根拠を提供した。皮膚、消化器、内分泌系の免疫関連有害事象は、副腎皮質ステロイドやホルモン補充療法で管理可能であり、メラノーマ患者における治療関連死は認められなかった。この知見は、外来設定での持続投与と長期維持の実行可能性を示し、臨床現場でのニボルマブの有用性を裏付けるものである。

残された課題と今後の方向性: 本試験は抗PD-1療法の独立した有効性と安全性を包括的に示したが、残された課題も存在する。例えば、治療中止後に奏効が維持されるメカニズムのさらなる解明や、長期奏効後の疾患再燃の機序については、今後の研究で詳細な検討が必要である。また、PD-L1発現と臨床アウトカムの関連性、および複雑な腫瘍免疫微小環境のプロファイリングに関する分子解析は、さらなる治療標的を明らかにする可能性を秘めている。ニボルマブとイピリムマブの併用療法 (Wolchok et al. NEnglJMed 2013) や、化学療法、キナーゼ阻害薬、がんワクチンなどとの組み合わせに関する複数の第III相試験 (CheckMate 067、238、214など) が進行中であり、本報告はこれらの開発の礎となった。

方法

試験デザイン: 本研究は、用量漸増・コホート拡大型の第I相試験 (NCT00730639) の長期追跡解析である。患者登録は2008年11月から2012年1月にかけて行われた。データカットオフは2013年3月5日であり、全患者は最低14ヶ月、一部の患者は最大4.3年の追跡期間を有した。本試験はBristol-Myers SquibbとOno Pharmaceutical Companyの支援を受けて実施された。

対象患者: 進行メラノーマ患者107例が登録された。原発部位は皮膚、眼部、粘膜など多岐にわたった。RECIST v1.0 (修正版) に基づく測定可能病変を有することが必須であった。前治療歴は1〜5ラインであり、62%の患者が2〜5ラインの全身治療を受けていた。脳転移の既往がある患者も、治療済みで臨床的に8週間以上安定していれば対象とされた。自己免疫疾患の既往、T細胞調節抗体 (抗PD-1、抗PD-L1、抗CTLA-4など) の前治療歴、免疫抑制を必要とする状態、慢性感染症、過去2年以内の他の浸潤性がんの既往がある患者は除外された。

投与方法: ニボルマブは2週間ごとに静脈内投与され、最大96週間 (12サイクル) 継続された。用量漸増相では1、3、10 mg/kgが評価され、コホート拡大後には0.1、0.3、1.0、3.0、10 mg/kgの5つの用量コホートが設定された。0.1 mg/kgまたは0.3 mg/kgで疾患進行を認めた患者には、1.0 mg/kgへの増量が許可された。疾患進行後も臨床的に安定しており、治療継続による恩恵が見込まれる場合は、immune response criteriaに準拠して治療継続が許可された。安定病変または奏効が継続している患者は、治療終了後1年間観察され、その後疾患進行が認められた場合には1年間の再投与が提供された。

有効性評価: 腫瘍評価は各治療サイクル後 (8週ごと) に放射線学的検査により実施された。奏効および安定病変は、modified RECIST v1.0に基づき、スポンサーによる中央評価で判定された。全生存期間 (OS)、無増悪生存期間 (PFS)、および奏効持続期間は、Kaplan-Meier法を用いて推定され、信頼区間 (CI) はGreenwoodの公式に基づいて算出された。生存データは後方視的に収集された。

安全性評価: 有害事象はNCI-CTCAE v3.0に基づいて分類された。全306例 (メラノーマ患者107例と他の固形腫瘍患者を含む) を対象とした曝露調整解析 (事象率/100人年) を実施し、長期投与による蓄積毒性の有無を検討した。免疫関連select有害事象は、MedDRA用語に基づく事前規定リストを用いて分類された。