- 著者: Topper MJ, Vaz M, Chiappinelli KB, DeStefano Shields CE, Niknafs N, Yen RC, Wenzel A, Hicks J, Ballew M, Stone M, Tran PT, Zahnow CA, Hellmann MD, Anagnostou V, Strissel PL, Strick R, Velculescu VE, Baylin SB
- Corresponding author: Baylin SB (sbaylin@jhmi.edu)
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2017
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 29195073
背景
肺がんは世界最大のがん死因であり、免疫チェックポイント療法は非小細胞肺癌 (NSCLC) において大きな進歩をもたらしたが、恩恵を受けるのは依然として少数の患者にとどまる。先行臨床知見として、低用量 DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤 (DNMTi) であるアザシチジン (Aza) と間欠的ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤 (HDACi) を組み合わせた後に免疫チェックポイント療法を実施した患者で NSCLC の持続的奏効が観察されており (Juergens et al., 2011)、エピジェネティック療法が免疫チェックポイント療法を増強する可能性が示唆されていた。
DNMTi は異常プロモーター DNA メチル化によって抑制された遺伝子の再発現を誘導し、さらに内因性レトロウイルス (ERV) の転写を活性化して二本鎖 RNA (dsRNA) 誘導性のインターフェロン (IFN) 応答を引き起こすことが Chiappinelli et al. Cell 2015 により報告されている。また、免疫チェックポイント阻害剤の臨床試験では、PD-1阻害剤ニボルマブが進行非扁平上皮NSCLC患者の全生存期間を延長することが示され Borghaei et al. NEnglJMed 2015、ペムブロリズマブもPD-L1陽性NSCLC患者において化学療法と比較して優位性を示すなど Reck et al. NEnglJMed 2016、免疫療法の有効性が確立されつつある。しかし、DNMTi と HDACi の最適な薬理学的組み合わせ (HDACi のアイソフォーム特異性・薬物動態パラメーターに基づく選択) と最適投与スケジュール、そして免疫回避逆転の分子メカニズムは未解明であった。特に MYC シグナルがエピジェネティック療法の効果と免疫応答にどのように関与するかは明らかでなく、この点に知識ギャップが残されていた。
目的
多様な NSCLC 腫瘍内遺伝子型を網羅する細胞パネルを用いて、アザシチジン (Aza) との最適な併用ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤 (HDACi) を薬理学的・アイソフォーム特異性の観点から選定し、NSCLC における (1) 増殖抑制・抗腫瘍効果のメカニズム、 (2) 免疫回避逆転の分子機序 (インターフェロン [IFN] 応答・抗原提示・MYC シグナルとの関連) を in vitro および in vivo で解明する。さらに今後の臨床試験に向けた相関指標を確立することを目的とする。
結果
アザシチジンとhydroxamic acid系HDACiの逐次投与が相乗的増殖抑制と免疫応答を誘導: 16 種の NSCLC 細胞株パネルにおいて、アザシチジン (Aza) とヒストン脱アセチル化酵素阻害剤 (HDACi) の逐次投与のみが強い相乗性 (CI < 1) を示し、同時投与では相乗性が認められなかった (Fig 1B, 1C)。3 種の HDACi の中で hydroxamic acid 系である ITF-2357 が最も強力な増殖抑制を達成した。特に RAS 変異を有する A549、H460、H23 の 3 細胞株で顕著な効果が認められた。アイソフォーム別解析では、HDAC1/2/3 が増殖抑制に、HDAC6 (非核アイソフォーム) がインターフェロンα/β (IFNα/β) シグナル誘導に特に重要であることが判明した。IFNα/β 経路は遺伝子セット濃縮解析 (GSEA) において最も顕著に上昇した経路であり、内因性レトロウイルス (ERV) 転写 (特に ERV9-1) の誘導も Aza + ITF-2357 で最大化された (Fig 3G, 3H)。さらに抗原提示関連の主要組織適合性複合体 (MHC) class I 遺伝子 (TAP1・β2-ミクログロブリン等) の発現増加と癌精巣抗原の誘導が確認された。免疫不全マウスへの 3 種の異種移植モデル (H460、H1299 NSCLC 細胞株および TP53/KDR/KRAS 変異を有する患者由来異種移植モデル [PDX]) で、いずれも Aza + ITF-2357 により有意な腫瘍縮小が達成された (p < 0.05) (Fig 1F-1H)。
アザシチジンによるMYC枯渇がHDACi感受性を規定し、免疫シグナルへのMYCの抑制的役割を明示: 全 NSCLC 細胞株 (n=16 cells) で、アザシチジン (Aza) は MYC mRNA およびタンパク質を少なくとも 1.4倍以上低下させ、MYC 基礎発現量と Aza 誘導性 MYC 低下の程度が HDACi 感受性と有意に相関した (Fig 4A)。shRNA による MYC ノックダウンは Aza 誘導性の HDACi 感受化を模倣し、MYC 強制過剰発現は Aza による HDACi 感受化を部分的に解消した (Fig 4C, 4D)。Aza + HDACi は MYC 上位 200 標的遺伝子群を強力に抑制した (Fig 4B)。重要なことに、MYC 過剰発現は Aza + ITF-2357 誘導性のインターフェロンα/β (IFNα/β) 応答 (ウイルス防御遺伝子サブセット) と MHC class I 抗原提示の誘導を拮抗した (Fig 4E, 4F)。これにより、MYC 枯渇が (1) HDACi 感受性付与、 (2) IFNα/β 応答・抗原提示機構の活性化の両面で中心的役割を担うことが実証された。The Cancer Genome Atlas (TCGA) の NSCLC (LUAD) データでも MYC と CCL5 の RNA 発現に逆相関が確認され (Fig 7F)、パイロット臨床検体解析では 4 例中 1 例の非奏効例にのみ MYC 遺伝子座の有意な増幅が認められた (Fig 7G, 7H)。
2つのNSCLCマウスモデルで腫瘍免疫回避の逆転、CD8+ T細胞活性化、CCL5誘導を実証: LSL-Kras G12D マウスモデル (腺腫出現 16 週後から 3 ヶ月の交互低用量治療) では、Aza + ITF-2357 により肉眼的肺腺癌病変の完全抑制と残存腺腫病変の面積 60% 超の減少が達成され (p < 0.05)、残存病変での Ki67 陽性細胞数が著明に減少した (Fig 5A-5C)。腫瘍全体のトランスクリプトームでは 5,167 遺伝子が上昇、4,540 遺伝子が低下し、上昇した 18 の遺伝子セットのうち 12 が免疫・サイトカイン・インターフェロン (IFN) 関連であり、下方調節された 52 の遺伝子セットでは MYC 経路・細胞周期関連が支配的だった (Fig 5G-5K)。腫瘍関連マクロファージ (TAM) (F4/80+CD11b+) の有意な減少と、FACS で単離した TAM での血管新生・低酸素応答遺伝子の低下が確認された (Fig 6A-6E)。CD8+ 腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) 数の増加と IFNγ 応答シグネチャーが腫瘍全体の転写プロファイルで示された (Fig 6F, 6G)。Lewis Lung Carcinoma (LLC) モデル (n=19 mice, 1ヶ月治療) では Aza + ITF-2357 により一次腫瘍重量の有意な減少 (p < 0.05) と肺転移頻度・転移量の劇的な抑制が達成された (Fig 5D, 5E)。CD8 枯渇実験により Aza + ITF-2357 の一次腫瘍縮小効果が有意に減弱し (T 細胞依存性を確認)、転移頻度 (モック: 100%, 非枯渇 Aza + ITF: 0%, 枯渇 Aza + ITF: 20%) も増加した (Fig 7A, 7B)。LLC の CD8+ TIL では IFNγ 陽性率が 2.25倍増加した (Fig 6H)。LSL-Kras G12D の TIL トランスクリプトーム解析では疲弊関連遺伝子の低下と活性化・メモリー関連遺伝子の増加が観察され、疲弊状態からエフェクター/メモリー表現型へのリプログラムが示された (Fig 6I-6K)。CCL5 転写が NSCLC 細胞と LSL-Kras G12D 腫瘍の両方で増加し、気管支肺胞洗浄液 (BAL) での CCL5 タンパク質蓄積が確認された (Fig 7C, 7D)。MYC 過剰発現はエピジェネティック治療誘導性 CCL5 増加を拮抗し、MYC ノックダウンはその逆を示した (Fig 7E)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究の最も重要な発見は、MYC 枯渇を共通の中心的メカニズムとして、アザシチジン (Aza) と ITF-2357 が NSCLC に対して (1) 直接的な増殖抑制 (HDAC1/2/3 抑制) と (2) 免疫回避逆転 (インターフェロンα/β [IFNα/β] 応答・内因性レトロウイルス [ERV] 誘導・抗原提示増強・MYC 抑制による CCL5 誘導) の両面を同時に達成することを体系的に実証した点にある。これはこれまでの研究が個別のメカニズムに焦点を当てていたのと異なり、統合的な視点を提供している。
新規性: 特に MYC が IFNα/β 応答・MHC class I 発現・CCL5 の拮抗因子として機能するという発見は、MYC 増幅 NSCLC が免疫チェックポイント療法に抵抗性を示す分子的根拠を本研究で初めて示した点で新規性が高い。また、HDACi のアイソフォーム特異性の観点から、HDAC1/2/3 が抗増殖に寄与する一方、HDAC6 (細胞質 HDAC) が IFN シグナリングに重要であるという知見は、hydroxamic acid 系 (HDAC1/2/6 全体を阻害) が最適である理由を説明し、将来の臨床試験における HDACi 選択の科学的根拠を提供する。
臨床応用: 腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の疲弊状態からメモリー・エフェクター表現型への変調という所見は、demethylating agent が T 細胞の疲弊プログラム自体を逆転させうることを示す Ghoneim et al. Cell 2017 の研究と整合的であり、エピジェネティック療法から免疫チェックポイント療法への逐次アプローチの機序的根拠を強化する。CCL5 誘導により CD8 T 細胞が「免疫砂漠型」腫瘍に誘導されるメカニズムは、現在の NSCLC 免疫療法が抱える T 細胞浸潤不良問題に対する重要な解決策を示唆し、臨床応用への大きな可能性を秘める。MYC 枯渇と CCL5 誘導は、免疫チェックポイント療法との組み合わせ臨床試験での奏効予測バイオマーカー候補として提示される。
残された課題: 今後の検討課題として、より大規模な患者コホートでの MYC 増幅の臨床的意義の検証が残されている。また、エピジェネティック治療レジメンが NSCLC 患者における免疫チェックポイント療法を増強しうるかどうかの検証も今後の研究で必要である。本研究の Limitation として、in vivo モデルでの抗 PD-1 抗体との併用効果が、エピジェネティック療法単独の強力な効果により明確に評価できなかった点が挙げられる。
方法
- In vitro HDACi 選定と薬剤相乗性評価: 16 種の NSCLC 細胞株パネルに対して低用量アザシチジン (Aza, 500 nM) 前処理後に benzamide 系 (MS-275, MGCD0103) ・hydroxamic acid 系 (ITF-2357) ・cyclic tetrapeptide 系 HDACi を逐次投与 (同時投与と比較) し、4 パラメーター用量応答解析・Combination Index (CI) 算出で相乗性を定量した。HDAC1/2/3/6 の各アイソフォーム特異的阻害剤 (RGFP996、Tubastatin A) を用いた等效量比較で各 HDAC isoform の寄与を特定した。
- トランスクリプトーム・経路解析: 治療後の差次発現遺伝子 (DEG) 解析 (マイクロアレイ)、遺伝子セット濃縮解析 (GSEA) Subramanian et al. ProcNatlAcadSciUSA 2005、DAVID/KEGG 解析 Huang et al. NatProtoc 2009 で免疫・MYC・代謝関連経路の変化を解析した。インターフェロンα/β (IFNα/β) 経路・主要組織適合性複合体 (MHC) class I 抗原提示・内因性レトロウイルス (ERV, ERV9-1 等) ・MYC 標的遺伝子群の変化を定量した。
- MYC 機能解析: shRNA によるノックダウン・強制過剰発現・inducible overexpression を用いて MYC がエピジェネティック療法への感受性・IFN 応答・抗原提示・CCL5 に与える因果的役割を検証した。
- In vivo 有効性評価 - 2 つのマウスモデル: (1) LSL-Kras G12D 誘導性 NSCLC モデル (遮断モデル) :肺腺腫出現後 16 週から 3 ヶ月間の交互低用量 Aza + ITF-2357 投与。腫瘍面積・Ki67・腫瘍転写プログラム・腫瘍関連マクロファージ (TAM) サブセット・CD8+ 腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) ・TIL 疲弊状態を評価した。 (2) Lewis Lung Carcinoma (LLC) モデル (治療モデル) :1 ヶ月投与後の初代腫瘍重量と肺転移頻度・転移量を評価した。CD8 枯渇実験で T 細胞依存性を確認した。
- 免疫マイクロ環境解析: FACS によるマクロファージ (F4/80+CD11b+) と CD8+ TIL の分離・解析。TIL トランスクリプトーム (Wherry の疲弊・活性化・メモリー遺伝子サイン) の変化を評価した。気管支肺胞洗浄液 (BAL) でのタンパク質 CCL5 レベルを定量した。
- 臨床検体パイロット解析: 既報の 4 例の NSCLC 免疫チェックポイント療法コホート Anagnostou et al. CancerDiscov 2017 で MYC 遺伝子座のコピー数変化と臨床奏効の関係を探索的に検討した。統計解析には GraphPad Prism を用いた t 検定が使用された。