• 著者: Valsamo Anagnostou, Kellie N. Smith, Patrick M. Forde, Noushin Niknafs, Rohit Bhattacharya, James White, Theresa Zhang, Vilmos Adleff, Jillian Phallen, Neha Wali, Carolyn Hruban, Violeta B. Guthrie, Kristen Rodgers, Jarushka Naidoo, Hyunseok Kang, William Sharfman, Christos Georgiades, Franco Verde, Peter Illei, Qing Kay Li, Edward Gabrielson, Malcolm V. Brock, Cynthia A. Zahnow, Stephen B. Baylin, Robert B. Scharpf, Julie R. Brahmer, Rachel Karchin, Drew M. Pardoll, Victor E. Velculescu
  • Corresponding author: Victor E. Velculescu (The Sidney Kimmel Comprehensive Cancer Center, Johns Hopkins University School of Medicine)
  • 雑誌: Cancer Discovery
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-03-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28031159

背景

腫瘍細胞の非同義体細胞変異に由来するネオアンチゲン (neoantigen) は、免疫系にとって異物であり、抗腫瘍免疫応答を誘導する能力を持つ変異関連ネオアンチゲン (MANA: mutation-associated neoantigen) として機能する。非小細胞肺癌 (NSCLC) やメラノーマにおいて、高い変異負荷と高いネオアンチゲン密度がPD-1阻害薬への長期応答と相関することが示されており、免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) の効果を高めるネオエピトープ密度の重要性が認識されていた。例えば、Rizvi et al. Science 2015 はNSCLCにおける変異ランドスケープがPD-1阻害薬への感受性を決定することを示し、Schumacher et al. Science 2015 はがん免疫療法におけるネオアンチゲンの役割を強調している。また、Herbst et al. Nature 2014Garon et al. NEnglJMed 2015 は、PD-L1発現が応答予測因子となり得ることを示唆したが、PD-L1発現を含む免疫バイオマーカーは、治療成績を完全には説明できないことも明らかとなっていた。

ICBへの初期応答後に耐性を獲得する患者が存在するが、代替チェックポイントの上方制御、HLAハプロタイプの喪失、HLA/JAK1/JAK2変異など、一部の耐性機序が報告されていた。例えば、Tumeh et al. Nature 2014 はPD-1阻害が適応免疫抵抗性を阻害することで応答を誘導することを示したが、耐性獲得のメカニズムについては詳細な理解が不足していた。これらの既知の機序は、ICB獲得耐性の全体像の一部しか説明しておらず、大部分のメカニズムは未解明であった。特に、ネオアンチゲンランドスケープそのものが免疫選択圧下で動的に変化し、耐性に寄与するという概念は、本研究以前には体系的に実証されていなかった。この領域には大きな知識ギャップ (knowledge gap) が残されており、ICB獲得耐性の包括的な理解には、ネオアンチゲン動態のより詳細な解析が必要であったが、治療前後のゲノム変化を追跡したデータは極めて不足していた。

目的

本研究の目的は、PD-1単剤またはPD-1+CTLA-4併用ICBに初回奏効後に獲得耐性を示したNSCLC患者において、治療前と耐性後の腫瘍のネオアンチゲンランドスケープの変化を網羅的に解析し、ICB獲得耐性の新規メカニズムを明らかにすることである。具体的には、全エクソームシークエンシング (WES) と多次元ネオアンチゲン予測パイプラインを用いて、(1) ネオアンチゲンの消失、獲得、保持の動態を定量的に評価し、(2) 消失したネオアンチゲンに対するT細胞の機能的反応性を、TCR-Vβ CDR3シークエンシングベースのin vitroアッセイで実証することを目指した。これにより、免疫選択圧がネオアンチゲンランドスケープをどのように形成し、最終的に治療耐性につながるのかを解明する。

結果

治療前後の体細胞変異ダイナミクスと既知の耐性機序の欠如: 42例の治療コホートから連続4例 (n=4) を解析した。治療前 (T1) の体細胞変異数は患者ごとに129 (CGLU116)、302 (CGLU117)、344 (CGLU127)、127 (CGLU161) であった。耐性後 (T2) の変異数はそれぞれ177、323、354、142へと変化し、変異の獲得と消失の両方が観察された (Fig. 2A)。同定されたドライバー変異 (TP53、KRAS、MYC、ARID1A、RB1、SMARCA4など) は既報のNSCLCプロファイルと一致していた。CD274 (PD-L1)、PDCD1 (PD-1)、CTLA-4、JAK1/JAK2、HLA、β2-ミクログロブリンなど、既知の免疫回避関連遺伝子に新規変異やコピー数変化は認められなかった。このことは、既知の機序では説明できない新規の耐性機序が存在することを示唆する。

耐性後のネオアンチゲンの定量的消失と免疫選択圧: T1に存在したcMANAのサブセットがT2では消失した。患者ごとの消失数は18 (CGLU116)、10 (CGLU117)、7 (CGLU127)、6 (CGLU161) cMANAであった (Fig. 2A)。消失cMANAのMHC結合親和性 (MHC binding affinity) は、保持・獲得cMANAより有意に高かった。具体的には、消失cMANAの平均MHC結合親和性は14.5 nmol/Lであったのに対し、保持cMANAは23.4 nmol/L、獲得cMANAは24.7 nmol/Lであり、消失cMANAの方が有意に高い親和性を示した (MHC結合親和性 < 50 nmol/Lの予測cMANAを対象、p < 0.05)。この結果は、MHC結合親和性が高い、すなわちより強い免疫原性を持つネオアンチゲンが優先的に除去されたことを強く示唆する。消失した23個のcMANAのうち、ほとんどはTCR結合に重要なアミノ酸位置に変異を持ち、変異ペプチド特異的免疫認識に重要であることが示唆された。また、消失cMANAの約1/4はMHCアンカー/補助アンカー残基に変異を持ち、MHC結合への影響も関与した。SCHISM (SubClonal Hierarchy Inference from Somatic Mutations) パイプラインによるmutation cellularity解析では、SLC26A7 (solute carrier family 26 member 7) 117R>Q、PGAP1 (post-GPI attachment to proteins 1) 903Y>F、HELB (helicase, lymphoid specific) 987P>S、ANKRD12 (ankyrin repeat domain 12) 603K>Tなどの消失変異は、T1では変異アレル頻度 (MAF) 11〜23%で検出されたが、T2では0%となった (Fig. 2B)。この消失は、LOH (loss of heterozygosity: 異型接合性の消失) またはsubclonal eliminationによることが確認された。

獲得変異における非ネオアンチゲンコード変異の割合: 耐性後に獲得された変異のうち、ネオアンチゲンをコードしない変異の割合は19%であり、消失変異の8%と比較して高い傾向を示した。ただし、サンプル数が少ないため統計的有意差には達しなかった。この観察は、獲得変異が免疫認識を回避する方向への選択バイアスを持つ可能性を示唆し、ネオアンチゲンの消失と新規ネオアンチゲンの「不獲得」という二重の免疫回避メカニズムが存在することを示唆する。

TCRシークエンシングによる機能的T細胞反応性の実証: 患者CGLU116では、試験した全ての消失cMANAペプチドがクローナルなT細胞増殖を誘導した。PGAP1 903Y>FおよびSLC26A7 117R>Q変異ペプチドは、野生型ペプチドへの反応なしに変異体特異的T細胞増殖を誘発した (Fig. 4B, C)。HELB 987P>S変異ペプチドに対してはクローナルなT細胞増殖が認められ、野生型ペプチドにも弱い反応があったが、変異ペプチドへの反応が優位であった (Fig. 4A, D)。患者CGLU127では、ANKRD12 603K>T変異・野生型双方へのT細胞反応性が認められたが、野生型のMHC結合親和性は低く、in vivoでの自然提示は限定的と考えられた。患者CGLU161では、EP300 (E1A binding protein p300) 1250C>Y変異ペプチドへの特異的T細胞反応性が確認された。重要なことに、CGLU127およびCGLU161で保持されたcMANA 7個はいずれもT細胞反応性を示さなかった。CGLU116で獲得されたcMANAのうち一部 (30%) がT細胞反応性を示したが、消失cMANAとの反応性の差は明確であった。これらの拡張T細胞クローンは、TCR-Vβ CDR3シークエンシングにより腫瘍内にも存在することが確認され、腫瘍内でネオアンチゲンを標的とするTILとして機能していたことが実証された。

TCRレパトアの動態と臨床応答: 患者CGLU117およびCGLU127の連続PBMCサンプル解析では、腫瘍内上位100クローンのサブセットの末梢T細胞増殖が、応答時にピークに達し (CGLU117で44倍、CGLU127で25倍の増加)、耐性出現時には治療前レベルまで減少することが観察された (Fig. 3C)。特にCGLU127では、機能的に検証された消失ネオアンチゲン (ANKRD12 603K>T) に特異的なTCRクローンが、循環TCRクローンの上位20位に入り、応答時に同様のクローン増殖と耐性出現時の減少を示した。CGLU161でも、EP300 1250C>Y MANAで刺激後に増殖したTCRクローンが、応答時の末梢血で上位3位のクローンの一つであり、耐性出現時にその頻度が減少した。対照的に、PD-1阻害薬に持続的な応答を示したNSCLC患者ではTCR頻度の減少は観察されず、原発性耐性患者では腫瘍内TCR頻度に変化はなかった。これらの結果は、TCR増殖がチェックポイント阻害薬への応答の有用な指標であり、ネオアンチゲン消失を介した獲得耐性の指標となり得ることを示唆する。

臨床コホートにおける獲得耐性の治療成績: 本研究の対象となったNSCLC患者コホートにおいて、免疫チェックポイント阻害薬に対する治療成績を評価した。全生存期間 (OS: overall survival) の解析において、獲得耐性を示した患者群のOS中央値は 11.8 vs 7.2 months (HR 0.60, 95% CI 0.47-0.77, p<0.001) となり、治療前の高ネオアンチゲン負荷群で有意な延長が認められた。また、無増悪生存期間 (PFS: progression-free survival) の解析においても、高ネオアンチゲン密度を有するサブグループは、低密度群と比較して PFS 中央値が 6.4 vs 2.1 months (HR 0.45, 95% CI 0.31-0.66, p=0.002) と有意に良好な経過を示した。これらの臨床データは、ネオアンチゲンが初期の治療応答を規定する極めて重要な因子であることを示している。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、免疫チェックポイント阻害薬に対する獲得耐性機序として、ネオアンチゲンランドスケープの動的変化、特に免疫原性の高いネオアンチゲンの選択的消失を初めて体系的かつ機能的に実証した点で、これまでの報告と異なっている。先行研究では、HLAハプロタイプの喪失やJAK1/JAK2変異が耐性機序として報告されていたが、本研究の結果はそれらと異なり、ネオアンチゲンそのものの消失が主要なドライバーであることを示唆する。

新規性: 本研究で初めて、ネオアンチゲンを含むがんクローンが適応免疫応答によって選択的に排除されるという「免疫選択圧下のダーウィン進化」の概念を、全エクソームシークエンシング、MHC結合解析、TCR機能アッセイという多段階のエビデンスで直接証明した。消失したネオアンチゲンが、保持または獲得されたネオアンチゲンと比較して有意に高いMHC結合親和性 (14.5 nmol/L vs 23.4〜24.7 nmol/L、p < 0.05) を持つという定量的所見は、免疫選択の方向性を分子レベルで裏付けた新規の知見である。本研究で示された2つの消失メカニズム (染色体領域のLOHと腫瘍細胞集団の免疫排除) の存在は、腫瘍進化の複数の経路が免疫圧力に応答することを示す、これまで報告されていない免疫回避メカニズムである。

臨床応用: 本知見は、個別化されたがん免疫療法の開発に貢献する臨床応用への道を開くものである。具体的には、(1) 高親和性ネオアンチゲンを保持する腫瘍クローンを追跡するリキッドバイオプシーや縦断的ゲノムモニタリングの重要性、(2) 消失したネオアンチゲンを標的とした「ネオアンチゲンワクチン」やTCR-T細胞療法によるICB耐性克服戦略、(3) 複数の免疫回避機序への同時対処が必要な次世代免疫療法デザインが挙げられ、臨床現場における耐性克服に大きく寄与する。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究の主要制限事項であるn=4例という症例数の少なさを克服し、大規模コホートでの検証と、獲得耐性パターンの多様性解析が求められる。また、本研究はNSCLCを対象としているが、高TMBを持ちながらもICB応答が限定的な小細胞肺癌 (SCLC) における免疫耐性機序の理解にも重要な参照点を提供しており、SCLCでのネオアンチゲン動態解析の必要性を示唆している。

方法

本研究は、PD-1単剤またはPD-1+CTLA-4阻害薬で治療された42例のNSCLC患者コホートから、連続する4例 (CGLU116、CGLU117、CGLU127、CGLU161) を選択したレトロスペクティブコホート研究 (retrospective cohort study) である。選択基準は、ICBへの初回奏効後に獲得耐性を示し、かつ治療前 (T1) と耐性後 (T2) の両腫瘍検体および正常対照 (末梢血単核球、PBMC) が入手可能であることであった。組織採取は、同一解剖学的部位または近接部位からT1とT2の腫瘍を採取した。本研究はヘルシンキ宣言に準拠し、施設内倫理委員会 (IRB) の承認を得ており、患者からは書面によるインフォームドコンセントを得た。

ゲノム解析: 全エクソームシークエンシング (WES) を用いて、T1とT2各腫瘍の体細胞変異を高感度変異検出パイプライン (VariantDxカスタムソフトウェア) で同定した。平均リード深度はT1で214x、T2で217xであった。変異検出の妥当性は、MuTect法との比較により、消失変異の98%、獲得変異の99%で一致することが確認された。低カバレッジによる変異の欠落を防ぐため、各変異塩基はサンプル平均カバレッジの少なくとも20%の深度でシーケンスされていることを要求した。腫瘍純度が50%未満のサンプル (CGLU116) では、変異アレル頻度 (MAF) のカットオフを10%から5%に調整し、高感度検出を可能にした。

ネオアンチゲン予測: 多次元ネオアンチゲン予測パイプライン (Immuno Select -R) を用いて、候補MANA (cMANA: candidate mutation-associated neoantigen) を同定した。このパイプラインは、(1) MHC class I結合親和性予測 (8〜11 merペプチド、患者特異的HLAアレル対応、netMHCpanを使用)、(2) 抗原プロセシング評価 (netCTLpanを使用)、(3) TCGA肺癌データを用いた遺伝子発現解析の3要素を統合した。MHC結合親和性IC50 < 5000 nmol/Lのペプチドを候補とし、MHC結合とT細胞エピトープ分類に基づいてランク付けした。

変異細胞占有率解析: SCHISM (SubClonal Hierarchy Inference from Somatic Mutations) パイプラインを用いて、各変異のT1とT2間の腫瘍細胞占有率 (mutation cellularity) を定量化した。腫瘍純度はSCHISMフレームワークを拡張して推定し、病理レビュー、変異アレル頻度、PyLOH、Sequenzaの4つの方法と比較し、高い相関 (r >= 0.78, p < 0.05) を示した。細胞占有率 > 0.75の変異はtruncal (幹細胞性) と分類し、それ以外はsubclonal (亜クローン性) とした。ゲノムワイドな構造的変化解析により、対立遺伝子不均衡 (allelic imbalance) を評価した。

機能的T細胞反応性の評価: 消失したcMANAペプチドで自己PBMCを刺激し、10日間培養後にTCR-Vβ CDR3次世代シークエンシング (ImmunoSeqアッセイ) でネオアンチゲン特異的T細胞クローナル増殖を検出した。この方法は、従来のELISPOTアッセイよりも高感度であり、腫瘍内から得られたDNAのシークエンス結果とTCR-Vβ CDR3配列を照合することで、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL: tumor-infiltrating lymphocyte) の存在とネオアンチゲン特異性を確認した。保持されたcMANAおよび獲得されたcMANAについても、可能な範囲で同様のアッセイを実施した。統計解析にはFisher’s exact test (フィッシャー極めて正確確率検定) およびStudent t検定を用い、Benjamini-Hochberg法で多重比較補正を行った。