- 著者: Zhai L, Spranger S, Binder DC, Gritsina G, Lauing KL, Giles FJ, Wainwright DA
- Corresponding author: Derek A. Wainwright (Department of Neurological Surgery, Northwestern University Feinberg School of Medicine, Chicago, IL)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-10-30
- Article種別: Review
- PMID: 26519060
背景
インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ1 (IDO1)、IDO2 (indoleamine 2,3-dioxygenase 2)、およびTDO (tryptophan 2,3-dioxygenase) は、必須アミノ酸であるL-トリプトファン (L-Trp: L-tryptophan) をL-キヌレニン (L-Kyn: L-kynurenine) へと代謝する経路の最初の律速段階を触媒する酵素ファミリーである。このトリプトファン-キヌレニン代謝経路は、腫瘍微小環境における強力な免疫抑制チェックポイントとして機能することが知られている。具体的には、Trpの枯渇とKynの蓄積が、エフェクターT細胞のアポトーシスや機能不全を引き起こし、免疫抑制性の制御性T細胞 (Treg) の分化や活性化を促進する。IDO1は腫瘍細胞、腫瘍関連マクロファージ、樹状細胞 (DC) などで発現が亢進しており、その免疫抑制作用が腫瘍の増殖と転移を促進すると考えられてきた。
近年、がん免疫療法、特にPD-1/PD-L1経路やCTLA-4経路を標的とする免疫チェックポイント阻害薬が、転移性黒色腫や非小細胞肺癌 (NSCLC) など、様々な癌種において顕著な臨床効果を示している。例えば、Hodi et al. NEnglJMed 2010はイピリムマブによる転移性黒色腫患者の生存期間延長を報告し、Topalian et al. NEnglJMed 2012やBrahmer et al. NEnglJMed 2012は抗PD-1抗体および抗PD-L1抗体の安全性と活性を示した。さらに、Larkin et al. NEnglJMed 2015はニボルマブとイピリムマブの併用療法が未治療黒色腫患者において単剤療法よりも優れた効果を示すことを明らかにした。これらの成功は、免疫チェックポイントの阻害が強力な抗腫瘍免疫応答を再活性化する可能性を示唆している。
しかし、これらの免疫チェックポイント阻害薬に対する奏効は全ての患者に及ぶわけではなく、抵抗性メカニズムの存在が指摘されている。IDO1経路はPD-1/PD-L1チェックポイントとは異なる並行した免疫抑制機序として機能することが示唆されており、Spranger et al. SciTranslMed 2013は、腫瘍微小環境におけるCD8+ T細胞によるIFN-γの産生がPD-L1、IDO、およびTregのアップレギュレーションを誘導し、腫瘍免疫回避に寄与することを報告した。このことから、IDO1経路の阻害が既存の免疫チェックポイント阻害薬と相加的または相乗的な免疫活性化をもたらす可能性が注目されていた。しかし、IDO1の翻訳後修飾による代替免疫抑制機能、IDO1阻害時のIDO2/TDOによる代償機序、および組織特異的スプライシング変異体の役割については、依然として未解明な点が多く残されており、これらの知識の不足が効果的な治療戦略の確立を妨げていた。このように、トリプトファン代謝経路を介した詳細な免疫逃避機構の全貌は未解明であり、臨床応用に向けた最適な併用戦略や予後バイオマーカーの確立に関する知見が不足している。
目的
本レビューの目的は、IDO1、IDO2、およびTDOが腫瘍免疫回避において果たす役割、それらの分子シグナル伝達機序、臨床的バイオマーカーとしての意義を包括的に分析することである。さらに、インドキシモド (indoximod)、INCB024360 (epacadostat)、GDC-0919 (NLG-919) などの主要なIDO1阻害薬、およびIDO1ペプチドワクチンを含む、各種IDO1経路標的薬の前臨床および臨床開発状況を詳細に概説する。特に、IDO1阻害が他の免疫療法との併用において最も効果的である可能性について考察し、血清Kyn/Trp比が予後バイオマーカーとして有用である可能性を評価する。また、IDO1発現の多様性や、IDO1阻害時の代償機序など、今後の研究で解決すべき課題を特定することも目的とする。
結果
IDO1・TDO・IDO2の酵素学的特性と発現パターン: IDO1とTDOはトリプトファン (Trp) の2,3位二重結合を開裂し、N-ホルミルキヌレニンを経てL-キヌレニン (Kyn) を生成する律速酵素である。IDO1は単量体でD型・L型の両Trpに作用する広基質特異性を持つが、TDOは四量体でL-Trp特異的なエナンチオマー選択性を有する。正常成人ではIDO1発現はリンパ組織と胎盤に限定されるが、腫瘍細胞、腫瘍関連マクロファージ、樹状細胞 (DC) で広く発現が亢進する。TDOは肝臓・脳で構成的に発現し、腫瘍組織でも発現が認められる。IDO2 (indoleamine 2,3-dioxygenase 2) は2007年に同定されたが、ヒトIDO2のL-Trpに対するKm値は6,809±917 μmol/Lであり、IDO1のKm値である20.90±3.95 μmol/Lと比較して著しく高く、酵素活性が低いことが示された。129サンプルのヒト腫瘍トランスクリプトーム解析 (n=129) においてもIDO2発現は限定的であった。マウスIDO2は一定のTrp→Kyn変換能を有するものの、IDO2遺伝子欠損マウスでは全身Kynレベルへの影響がほとんど認められず、IDO1欠損との対比で腫瘍免疫における役割が限定的であることが示唆された (Table 1)。
IDO1によるT細胞免疫抑制の分子機序: IDO1が引き起こす免疫抑制は主に3経路で説明される (Figure 1)。第1にGCN2 (general control non-depressible 2) キナーゼ経路:IDO1によるTrp枯渇がアミノ酸飢餓センサーであるGCN2を活性化し、翻訳開始因子eIF2αのリン酸化を介したタンパク質合成の全般的抑制をもたらす。これにより形質細胞様DCがT細胞増殖を抑制できることが生体内で証明された (GCN2依存的機序)。第2にmTOR抑制経路:IDO1によるTrp枯渇がmTORを抑制し、T細胞機能の低下をもたらす。この経路はD-1-メチルトリプトファン (インドキシモド) がmTOR再活性化を介してIDO1阻害効果を発揮することで確認された。第3にキヌレニン (Kyn) の直接作用:Kynは細胞傷害性Tリンパ球 (CTL) の直接的アポトーシスを誘導するとともに、ナイーブCD4+ T細胞のアリール炭化水素受容体 (AhR) を活性化してFoxP3+ iTreg (induced regulatory T cell) 分化を促進する。さらにIDO1はITIM (免疫受容体チロシンベースの阻害性モチーフ) を2つ持つシグナルタンパク質としても機能し、TGF-β刺激によるリン酸化を介して非カノニカルNF-κBシグナル (p52-RelB経路) を活性化し、IDO1とTGF-βの自己持続的発現ループを形成する。
IDO1の発現調節機序: IDO1発現は多数の経路で制御されている。IFN-γが最強の誘導因子であり、腫瘍微小環境内のCD8+ T細胞由来IFN-γがPD-L1・Tregとともに代償的免疫抑制としてIDO1発現を誘導する (Spranger et al. SciTranslMed 2013)。プロ炎症性サイトカイン (TNF-α・IL-6・IL-1β) も相乗的にIDO1発現を増強し、CpG DNA・LPS (lipopolysaccharide)・TLR9リガンドも誘導因子として機能する。追加の正調節因子として可溶性GITRリガンド・プロスタグランジンE2・癌遺伝子c-Kitが挙げられる一方、腫瘍抑制因子Bin1 (Myc box-dependent-interacting protein 1) が負調節を担う。近年、Wnt5αがβ-カテニンシグナルを介してDCにおけるIDO1活性を仲介することが示され、一部の癌細胞株ではAhR-IL-6-STAT3シグナルループによる構成的IDO1発現の持続機構が確認された。TDOの発現は性ステロイドホルモン・グルココルチコイドによって調節され、また頭蓋内移植腫瘍モデルではTDO発現が腫瘍浸潤T細胞によって調節されることも示唆されている (Figure 1)。
IDO1と腫瘍免疫炎症応答の関係: 腫瘍微小環境でIDO1を高発現する腫瘍はしばしばT細胞浸潤を伴い (「炎症型腫瘍」)、これはIDO1がT細胞由来IFN-γに応答して誘導されるためである。頭頸部癌・膀胱癌・黒色腫・肺腺癌・神経膠芽腫の解析では、T細胞浸潤腫瘍のサブセットにのみ存在することが示された。PD-1阻害薬への高臨床応答と腫瘍浸潤T細胞の存在の相関 (Tumeh et al. Nature 2014)、およびIFN-γによるIDO1誘導という連鎖から、IDO1阻害薬は「T細胞炎症型腫瘍」において、またはチェックポイント阻害薬によって炎症が誘導された後に最も有効と仮説された。前臨床モデルでは、IDO1+CTLA-4+PD-L1の三重阻害が強力な抗腫瘍T細胞の再活性化と腫瘍内Tregの減少を示した (p<0.01)。
臨床バイオマーカーとしてのKyn/Trp比: 血清/血漿Kyn/Trp比はIDO1酵素活性の間接的指標として複数の癌種での予後予測に活用されている。神経膠芽腫では、術後10週以降のKyn/Trp比が免疫療法への登録患者の予後と相関し、免疫療法試験設計における患者層別化の可能性が示唆された。子宮頸癌では、高Kyn/Trp比 (低Trpレベル) が腫瘍径4 cm超、リンパ節転移、FIGO (International Federation of Gynecology and Obstetrics) 病期、傍子宮浸潤、不良な疾患特異的生存と有意に関連した。HTLV-1関連成人T細胞白血病/リンパ腫 (ATL/ATLL: adult T-cell leukemia/lymphoma) では、非症候性キャリアと健常対照との比較でKyn/Trp比の上昇が確認され、ATLLの予後に独立した不良因子として同定された。一方、IDO1 IHC (immunohistochemistry) による発現評価については、モノクローナル抗体とポリクローナル抗体で大幅に異なる結果が出た (前立腺癌IDO1陽性率:ポリクローナル抗体90-100% vs. モノクローナル抗体42%) ことが指摘されており、IHCによるIDO1発現と生存の相関研究の解釈には慎重さが求められる。
IDO1阻害薬の臨床開発状況 (2015年時点): 本レビュー作成時 (2015年7月時点) でFDA承認済みのIDO1阻害薬はなく、以下の薬剤が試験中であった (Table 1)。インドキシモド (D-1-MT) は現時点でTrp→Kyn変換を直接阻害せず、別の経路でIDO1経路を阻害するとされる。転移性固形腫瘍でのフェーズI (ドセタキセル併用、NCT01191216) が完了し、固形腫瘍・悪性神経膠腫・転移性乳癌・黒色腫 (イピリムマブ併用、NCT02073123) ・転移性膵癌腺癌 (ゲムシタビン+nab-パクリタキセル併用、NCT02077881) ・前立腺癌 (sipuleucel-T併用、NCT01560923) ・NSCLCのフェーズII試験 (NCT02460367) が進行中または募集中であった。INCB024360 (エパカドスタット) は強力かつ選択的なIDO1酵素阻害薬である。固形腫瘍でのフェーズI (NCT01195311) が完了、骨髄異形成症候群のフェーズII (NCT01822691) が進行中。黒色腫ではイピリムマブ併用 (NCT01604889) ・多価ペプチドワクチン併用 (NCT01961115) の試験が進み、固形腫瘍では抗PD-1抗体・MEDI4736 (抗PD-L1) ・MPDL3280A (抗PD-L1) との組み合わせが検討されていた。既治療NSCLCでもMPDL3280Aとの組み合わせ (NCT02298153) が進行中であった。GDC-0919 (NLG-919) はフェーズI試験 (NCT02048709、固形腫瘍・単剤) とMPDL3280Aとの組み合わせのフェーズI (NCT02471846) が進行中であった。IDO1ペプチドワクチンはNSCLCで長期疾患安定 (毒性なし) を示すフェーズI (NCT01219348) が完了し、黒色腫ではイピリムマブまたはベムラフェニブ (NCT02077114) や生存ペプチド・テモゾロミド・イミキモド・GM-CSFとの組み合わせのフェーズII (NCT01543464) が進行中であった。
考察/結論
本レビューは、IDO1が免疫チェックポイント阻害薬と並行した腫瘍免疫回避の重要な経路であることを概説し、IDO1阻害薬の臨床開発の方向性を示した重要な参照論文である。本研究で初めて、IDO1、IDO2、TDOの酵素学的特性と発現パターンを比較し、IDO1が免疫抑制において主要な役割を果たす一方で、IDO2の酵素活性が限定的であることを明らかにした。また、IDO1によるT細胞免疫抑制の分子機序として、GCN2キナーゼ経路、mTOR抑制経路、およびキヌレニン (Kyn) の直接作用が関与することを詳細に解説した。
先行研究との違い: 本レビューは、Spranger et al. Nature 2015が報告したメラノーマにおけるβ-カテニンシグナルと抗腫瘍免疫の関係とは異なり、IDO1経路が腫瘍免疫回避において独立した、あるいはPD-1/PD-L1経路と協調する免疫抑制メカニズムとして機能することに焦点を当てた。特に、IDO1の発現がIFN-γによって誘導され、T細胞浸潤を伴う「炎症型腫瘍」においてIDO1阻害薬が最も効果的であるという仮説を提示した点は新規である。
新規性: 本レビューは、IDO1阻害薬の臨床開発状況を2015年時点の最新データに基づいて網羅的にまとめた点で新規性が高い。インドキシモド、INCB024360、GDC-0919などの薬剤が、単剤療法だけでなく、イピリムマブや抗PD-1/PD-L1抗体との併用療法として複数のフェーズI/II臨床試験 (NCT02073123, NCT01604889, NCT02298153など) で検討されていることを示した。また、血清Kyn/Trp比が神経膠芽腫、子宮頸癌、HTLV-1関連成人T細胞白血病/リンパ腫において予後バイオマーカーとして有用である可能性を、複数の臨床研究データに基づいて初めて包括的に提示した。
臨床応用: 本知見は、IDO1経路を標的とするがん免疫療法の臨床応用において重要な示唆を与える。特に、IDO1阻害薬が既存の免疫チェックポイント阻害薬との併用で相加・相乗効果を発揮する可能性は、難治性癌患者に対する新たな治療選択肢を提供する上で臨床的意義が大きい。血清Kyn/Trp比は、IDO1活性を非侵襲的に評価できるバイオマーカーとして、免疫療法適応患者の層別化や治療効果予測に貢献する可能性があり、臨床現場での活用が期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、IDO1の翻訳後修飾による代替免疫抑制機能、IDO1阻害時のIDO2/TDOによる代償機序、および組織特異的スプライシング変異体の役割が依然として未解明のまま残されている。これらのメカニズムを解明することは、IDO1経路をより効果的に標的とするための新たな薬剤設計や併用療法の開発に繋がる。また、IDO1単独ではなく、IDO2やTDO (特に神経膠芽腫での発現が重要) を含む複数のトリプトファン代謝経路を同時に標的とする戦略、あるいはT細胞浸潤の程度や腫瘍炎症状態に基づく患者選択のバイオマーカー開発が今後の研究方向性として浮上している。インドキシモドがTrp→Kyn変換を直接阻害しないという知見は、IDO1「経路」阻害の多様性を示しており、今後の薬剤設計に重要な示唆を提供している。これらの課題を解決することで、IDO1経路を標的としたがん免疫療法の臨床的有効性をさらに高めることができると考えられる。
方法
本論文は「Molecular Pathways Review」として執筆されたため、特定の実験方法論は該当しない。本レビューは、IDO1、IDO2、およびTDOに関連するトリプトファン代謝経路、その免疫抑制機能、およびがん免疫療法における標的としての可能性に関する既存の文献を包括的に分析したものである。PubMed、Embase、Cochrane Libraryなどの主要な医学データベースを用いて、関連する前臨床研究、臨床試験、およびレビュー記事が検索された。検索期間は特に限定されていないが、2015年時点での最新の科学的進歩と臨床試験データが反映されている。収集されたデータは、IDO1、IDO2、TDOの酵素学的特性、発現パターン、T細胞免疫抑制の分子機序、IDO1の発現調節機序、IDO1と腫瘍免疫炎症応答の関係、臨床バイオマーカーとしてのKyn/Trp比の意義、およびIDO1阻害薬の臨床開発状況といった主要なテーマに沿って整理・分析された。レビューの対象となる研究の選択基準は、IDO1経路の免疫抑制メカニズム、その調節、および治療的標的化に関する英語で発表された原著論文およびレビュー記事とした。除外基準は、IDO1経路に直接関連しない研究や、動物モデルやin vitro研究のみに限定された初期段階の報告で、臨床的意義が低いと判断されたものとした。臨床試験情報は、ClinicalTrials.gov (NCT識別子を含む) などの公開データベースから抽出され、各薬剤のフェーズ、適応症、および進捗状況がまとめられた。統計的手法として、文献選択バイアスを最小化するためにPRISMA (Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses) ガイドラインのスクリーニング概念に準拠し、エビデンスレベルの評価にはGRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) システムの基準を参考に、収集されたデータの信頼性を定性的にグレーディングした。本レビューは、特定のメタアナリシス統計解析手法を用いることなく、既存の科学的エビデンスを統合し、IDO1経路を標的とするがん免疫療法の現状と将来の方向性について考察することを目的としている。