• 著者: Stefani Spranger, Riyue Bao, Thomas F. Gajewski
  • Corresponding author: Thomas F. Gajewski (Department of Medicine and Department of Pathology, The University of Chicago, Chicago, IL, USA)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-05-11
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25970248

背景

免疫チェックポイント阻害剤 (ICI; anti-CTLA-4, anti-PD-1, anti-PD-L1) はメラノーマ治療に革命をもたらしたが Mellman et al. Nature 2011、奏効する患者は一部に限られる。先行研究では、ベースラインで腫瘍内にCD8+ T細胞浸潤を認める「T-cell-inflamed」表現型の腫瘍がICIに反応しやすい一方、T細胞浸潤のない「non-T-cell-inflamed」(T-cell-excluded)腫瘍は免疫療法に抵抗性を示すことが報告されている Galon et al. Science 2006。このnon-inflamed表現型を規定する腫瘍内在性の分子機序は未解明であり、これを解明することはICI抵抗性患者への新規治療標的の同定に直結する。Wnt/β-cateninシグナルは胎生発生、幹細胞維持、癌進展に関与することが知られているが、免疫排除との直接的な関連はこれまで確立されていなかった。特に、腫瘍細胞内在性の遺伝子変異やシグナル経路が、どのようにして腫瘍微小環境におけるT細胞浸潤を阻害し、免疫療法抵抗性を引き起こすのかについては、知識のギャップが残されている。この重要な課題に取り組むことは、より効果的な免疫療法戦略を開発する上で不可欠である。本研究は、この重要な課題に取り組むものである。これまでの研究では、PD-L1発現や腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の存在がICIの奏効予測因子として注目されてきたが、T細胞浸潤が乏しい腫瘍における免疫回避のメカニズムについては、詳細な分子経路が不足していた。特に、腫瘍細胞自体が免疫応答を抑制する内在性メカニズムの解明は、免疫療法抵抗性を克服するための新たな戦略を開発する上で喫緊の課題であった。

目的

本研究の目的は、ヒト転移性メラノーマにおいてT細胞浸潤と逆相関する腫瘍内在性経路を同定することである。具体的には、活性β-cateninシグナルがT細胞排除を引き起こす分子機序を、遺伝子改変マウスモデル(GEM)を用いて実証する。最終的に、この経路が抗PD-L1/CTLA-4抗体療法への抵抗性の原因となるかを検証し、免疫療法抵抗性を克服するための新たな治療標的を特定することを目指す。また、このメカニズムを標的とすることで、T細胞浸潤が乏しい「non-T-cell-inflamed」腫瘍においても免疫療法の効果を高める可能性を探る。

結果

ヒトactive β-cateninとT細胞排除の強い相関: TCGA SKCMコホートの解析により、non-T-cell-inflamed患者91例中48% (n=44) が6個のβ-catenin標的遺伝子(EFNB3, APC2, TCF1, c-MYC, TCF12, VEGFA)のうち5個以上を発現していたのに対し、T-cell-inflamed患者106例では3.8% (n=4) に留まった (Fig. 1b)。CTNNB1のgain-of-function変異はnon-inflamed群で7.7% (n=7) に検出され、inflamed群の1% (n=1) と比較して有意に高かった。また、APC, AXIN1, TCF1といった経路の負の制御因子のloss-of-function変異はnon-T-cell-inflamed腫瘍の11% (n=10) で同定された。CTNNB1スコア高値はT細胞欠如のオッズ比OR 4.9で予測された (Extended Data Fig. 1a)。個々のβ-catenin標的遺伝子(c-MYC, TCF1, WNT7B)とCD8A転写産物の間には負の相関が認められ (Pearson検定でWNT7B, c-MYC, EFNB3, TCF1全てp ≤ 0.0002)、これはPD-L1発現パターンとは対照的であった (Fig. 1c)。独立したメラノーマ生検サンプル (n=49) のIHC解析でも、安定化β-cateninとCD8+ T細胞数は逆相関を示した (Fig. 1d, p<0.0001)。

マウスモデルでのT細胞排除の再現: 自家性メラノーマモデルにおいて、BPマウスのメラノーマにはCD3+ T細胞(CD4+/CD8+共存、CD44hi/CD62Lloの活性化型)が浸潤したが、BPC (BrafV600E/Pten-/-/CAT-STA) マウスのメラノーマではT細胞がほぼ完全に排除された (90%以上の減少, p<0.0001) (Fig. 1f, g)。n=20 miceの解析で、BPC腫瘍のCD3+ T細胞数はBP腫瘍と比較して有意に少なかった。BP由来T細胞はPD-1/Lag3を発現しIFN-γ産生能を維持するが、IL-2産生は減弱しており、T細胞機能不全を示唆した (Extended Data Fig. 4e-h)。MDSCやTregの数には両群で差がなく、CD11b+Gr1+系統の関与は否定された (Extended Data Fig. 4k)。

CCL4産生欠損とCD103+ DCリクルート不全: BPC腫瘍では炎症性ケモカインのうちCCL4 (MIP-1β) が選択的に低下していた (Fig. 3a, b)。CCL4は基底層の単球/DCを腫瘍内へ動員する重要なケモカインである。結果として、BATF3系統のCD103+ DCがBPC腫瘍内でほぼ消失し、ナイーブCD8+ T細胞のクロスプライミング基盤が失われた (Fig. 2c-e)。n=12 miceの解析で、BPC腫瘍におけるCD103+ DCの割合は有意に減少していた (p<0.0001)。CCL4を腫瘍内強制発現させると、BPC腫瘍にもCD103+ DCとCD8+ T細胞が回復し、腫瘍重量のわずかな減少が認められた (Extended Data Fig. 5c)。メカニズム的に、β-cateninが転写抑制因子ATF3を誘導し、ATF3がCCL4の転写を抑制するという経路が同定された (Fig. 3f, g)。siRNAによるAtf3またはCtnnb1のノックダウンは、BPC腫瘍細胞におけるCCL4産生を回復させた (Fig. 3h)。ヒトメラノーマ細胞株においても、β-catenin高発現細胞株mel888ではATF3発現が増加し、CCL4産生が減少することが確認された (Extended Data Fig. 7b)。CCL4のmRNA発現はBPC腫瘍でBP腫瘍と比較して約50倍低下しており (fold change 0.02)、これはCD103+ DCの腫瘍内リクルート不全に直接寄与すると考えられた。

抗PD-L1/CTLA-4抵抗性の獲得: BPマウス (n=10 mice) では抗CTLA-4 + 抗PD-L1併用療法で腫瘍退縮を認めたが、BPCマウス (n=10 mice) では併用療法で全く奏効せず、腫瘍は非治療群と同等の進行速度で増殖した (Fig. 4a, b, p<0.0001)。SIY抗原特異的2C TCRトランスジェニックCD8+ T細胞養子移入実験 (n=8 mice) でも、BP腫瘍では効果的に活性化・浸潤するが、BPC腫瘍では所属リンパ節(TdLN)でのプライミング自体が失敗した (Fig. 2a, b)。Flt3リガンド誘導樹状細胞の腫瘍内投与により、BPC腫瘍におけるT細胞浸潤が部分的に回復し、抗CTLA-4 + 抗PD-L1抗体との併用で治療効果が有意に改善された (Fig. 4c, p<0.01)。Flt3リガンドDCの腫瘍内注射は、BPC腫瘍のCD3+ T細胞数を約3倍に増加させた。この結果は、CD103+ DCの補充が免疫療法抵抗性を克服する上で重要であることを示唆する。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、腫瘍細胞内在性の発癌性経路(活性β-cateninシグナル)が腫瘍微小環境のT細胞構成を直接規定するという新規概念を確立し、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)治療抵抗性を「腫瘍細胞の免疫学的”sterility”」として説明可能にした最初の研究の一つである。これまでのPD-L1発現解析や腫瘍浸潤リンパ球(TIL)浸潤評価が表現型レベルの記述に留まっていたのに対し、本研究はCTNNB1 → ATF3 → CCL4抑制 → BATF3+ CD103+ DC排除 → CD8+ T細胞プライミング失敗 → ICI抵抗性という機序的因果鎖を証明した点で独自性が高く、先行研究とは異なるアプローチで免疫排除のメカニズムを解明した。

新規性: 本研究で初めて、メラノーマ細胞内在性の活性β-cateninシグナルが、転写抑制因子ATF3 (activating transcription factor 3) を介してCCL4ケモカインの産生を抑制し、その結果、CD103+樹状細胞のリクルート不全を引き起こすことで、CD8+ T細胞の排除と抗PD-L1/CTLA-4抗体療法への抵抗性をもたらすメカニズムを新規に同定した。この経路は、免疫療法抵抗性の新たな治療標的となる可能性を示唆する。

臨床応用: 本知見は、ICI治療前にCTNNB1またはβ-catenin標的遺伝子発現を評価することでnon-responderを予測するバイオマーカー戦略、Wnt/β-catenin阻害剤(PORCN阻害剤LGK974、tankyrase阻害剤など)とICIの併用、あるいはFLT3LによるBATF3 DC増幅戦略の併用といった臨床応用に直結する。後続研究でβ-catenin経路は大腸癌、肝癌、前立腺癌など他癌種でもT細胞排除と関連することが示され、pan-cancerなICI抵抗性機序として確立された。

残された課題: 今後の検討課題として、(a) β-catenin阻害剤の効果的かつ安全な臨床応用(Wntシグナルは正常組織恒常性に必須であるため)、(b) ATF3を超える付加的下流因子の同定、(c) 他のT細胞排除機序(PTEN欠失、MYC、腫瘍代謝など)との相互作用の解明が残されている。Limitationとして、本研究は主にマウスモデルとin vitro実験に基づいているため、ヒトにおける経路の完全な検証にはさらなる臨床研究が必要である。これらの課題を解決することで、より広範な患者群に対する免疫療法の効果を最大化できる可能性がある。

方法

ヒト解析: TCGA SKCM (Skin Cutaneous Melanoma) コホート266例の転移性皮膚メラノーマを対象とした。T細胞シグネチャー遺伝子発現に基づき、T-cell-inflamed (n=106) とnon-T-cell-inflamed (n=91) に分類し、差次発現解析と経路解析を実施した。197例の全エクソームシーケンス(WES)データを用いて、CTNNB1のgain-of-function変異およびAPC/AXIN1/TCF1のloss-of-function変異を解析した。6個のβ-catenin標的遺伝子(EFNB3, APC2, TCF1, c-MYC, TCF12, VEGFA)の発現レベルからactive β-catenin pathwayを定義した。さらに、独立したメラノーマ生検サンプルを用いた免疫組織化学(IHC)により、安定化β-cateninとCD8+ T細胞浸潤の関連を検証した。統計解析にはFisher’s exact testおよびPearson相関分析を用いた。

マウスモデル: Tamoxifen誘導性conditional active Braf (BrafCA)、conditional Pten欠失 (Ptenloxp/loxp)、および活性化型β-catenin (CAT-STA, constitutively active β-catenin, exon 3 deletion) を組み合わせたTyr-CreERT2; BrafV600E/Pten-/- (BP) マウスとTyr-CreERT2; BrafV600E/Pten-/-/CAT-STA (BPC) マウスを用いて、自家性メラノーマを誘導した。使用したマウス系統はC57BL/6Jであり、細胞株はBPおよびBPC腫瘍細胞株を用いた。腫瘍内T細胞浸潤はフローサイトメトリーおよびIHCで定量した。腫瘍細胞由来サイトカイン/ケモカイン分泌はマルチプレックスアレイで測定した。BATF3+樹状細胞(DC; CD103+/CD8α+)はCD11c+ MHCII+ CD24+ CD11b-でゲーティングして解析した。免疫療法は、抗CTLA-4抗体と抗PD-L1抗体の併用療法を実施した。メカニズム検証のため、SIY抗原特異的TCRトランスジェニック2C T細胞の養子移入実験、Batf3-/-骨髄キメラマウスの作製、およびCCL4の腫瘍内強制発現実験を行った。CCL4プロモーターへのATF3結合はクロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイで評価し、CCL4産生に対するATF3およびCTNNB1の役割はsiRNAノックダウン実験で検証した。統計解析にはMann–Whitney U testおよび二元配置分散分析(ANOVA)を用いた。