• 著者: Yukihiro Toi, Satoshi Sugawara, Shunichi Sugawara, Akira Ono, Takehiro Kasahara, Yuki Fujita, Masayuki Kawashima, Taku Nakamura, Takahiro Asaka, Masanori Tsuchiya, Hiroshi Makino, Yoshihiro Hashimoto, Satoshi Oizumi, Koichi Hagiwara, Yasuhito Fujisaka, Masaaki Mori, Koji Ito, Nobuyuki Yamamoto, Noriyuki Masuda
  • Corresponding author: Shunichi Sugawara, MD, PhD (Department of Pulmonary Medicine, Sendai Kousei Hospital, Sendai, Japan)
  • 雑誌: JAMA Oncology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2018-12-27
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30589930

背景

抗PD-1抗体 (ニボルマブ、ペムブロリズマブ) による免疫チェックポイント阻害療法 (ICI) は、進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において、従来の化学療法と比較して全生存期間 (OS) を有意に改善することが複数の第III相臨床試験で示され、標準治療としての地位を確立している Brahmer et al. NEnglJMed 2015Borghaei et al. NEnglJMed 2015Herbst et al. Lancet 2016。しかし、ICI治療はT細胞活性化を介して、従来の抗癌剤では見られない免疫関連有害事象 (irAE) を引き起こすことが知られている Weber et al. JClinOncol 2012。irAEは皮膚反応、甲状腺機能障害、間質性肺炎、肝炎など多岐にわたり、重症化すると全身性免疫抑制療法や治療中止を要する場合がある。irAEの発生は患者のQOLに影響を与えるだけでなく、治療継続を困難にするため、irAE発症リスクを事前に予測し、適切な管理を行うことが重要である。

irAEの病態生理は自己免疫疾患と類似していることが指摘されており、治療前の自己抗体の存在がirAE発症と関連する可能性が示唆されてきた。例えば、PD-1遺伝子欠損マウスではループス様自己免疫疾患を発症することが報告されており Nishimura et al. Immunity 1999、PD-1/PD-L1経路の遮断が自己反応性T細胞の活性化を促進し、自己抗体の産生を誘導する可能性が考えられる。先行研究では、既存の自己免疫疾患を有する患者におけるICIの安全性と有効性が検討されてきたが Menzies et al. AnnOncol 2017、サブクリニカルな自己免疫素因、すなわち治療前の自己抗体陽性患者におけるICIの安全性と有効性については、体系的な評価が不足していた。特に、リウマチ因子 (RF)、抗核抗体 (ANA)、抗甲状腺抗体 (抗サイログロブリン抗体、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体) といった一般的な自己抗体が、NSCLC患者のirAE発症や治療効果にどのように影響するかは未解明であった。

また、irAEの発症が抗腫瘍効果と関連する可能性も報告されており Haratani et al. JAMAOncol 2018、irAEの予測因子を特定することは、患者の個別化医療において極めて重要な課題である。しかし、進行NSCLC患者において、抗PD-1療法後のirAEを予測するための簡便で有用な臨床バイオマーカーは確立されていなかった。本研究は、これらの知識のギャップを埋めることを目的とし、治療前の自己抗体プロファイルがirAE発症および臨床的ベネフィットに与える影響を詳細に解析した。

目的

本研究の主要な目的は、進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者に対する抗PD-1療法 (ニボルマブまたはペムブロリズマブ単剤療法) において、治療開始前の自己抗体 (リウマチ因子 (RF)、抗核抗体 (ANA)、抗サイログロブリン抗体、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体) の存在が、免疫関連有害事象 (irAE) の発症リスクと独立して関連するかどうかを評価することである。

副次的な目的として、以下の点を検討した。

  1. 治療前の自己抗体陽性患者における客観的奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、および全生存期間 (OS) といった臨床効果を評価し、自己抗体陰性患者と比較すること。
  2. 特定の自己抗体 (RF、ANA、抗甲状腺抗体) と、特定の臓器特異的irAE (例: RFと皮膚反応、抗甲状腺抗体と甲状腺機能障害) の発症との関連を解析すること。
  3. irAE発症の有無が抗PD-1療法の臨床効果に与える影響を評価すること。
  4. 自己抗体プロファイルがPD-L1発現レベルとは独立した予測因子である可能性を検討すること。

これらの目的を達成することで、治療前の自己抗体スクリーニングが、NSCLC患者における抗PD-1療法のirAEリスクと治療効果の予測に有用な臨床バイオマーカーとなりうるか否かを検証する。

結果

患者背景と自己抗体陽性率: 対象となった進行NSCLC患者137例の患者背景は以下の通りであった。男性105例 (77%)、女性32例 (23%)。中央値年齢は68歳 (範囲36〜88歳) であった。ECOG PS 0または1の患者が134例 (98%) を占めた。組織型は、扁平上皮癌51例 (37%)、非扁平上皮NSCLC 86例 (63%) であった。PD-L1発現は、TPS ≥50%が27例 (20%)、1% ≤ TPS < 50%が30例 (22%)、TPS < 1%が15例 (11%) であり、65例 (47%) は不明であった。治療前の自己抗体陽性率は、RF 27.7% (38/137例)、ANA 35.0% (48/137例)、抗サイログロブリン抗体 17.5% (24/137例)、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体 9.5% (13/137例) であった。いずれかの自己抗体陽性 (any preexisting antibodies) の患者は80例 (58.4%) であった。

irAE発症とPreexisting antibodiesの関連: irAEは全患者の66例 (48%) で発症し、このうち46例 (70%) は治療開始から8週間以内に症状が出現し、中央値発症期間は4.7週であった。irAEの内訳は、皮膚反応42例 (64%)、間質性肺炎14例 (21%)、甲状腺機能低下症15例 (23%)、甲状腺機能亢進症1例 (2%)、肝炎6例 (9%)、筋炎または末梢神経障害5例 (8%)、下痢2例 (3%) であった。 irAE発症群では、いずれかの自己抗体陽性患者の割合が有意に高かった (48/66例, 73% vs 32/71例, 45%; p=0.002)。特に、RF陽性患者はirAE発症群で有意に多かった (26/66例, 39% vs 12/71例, 17%; p=0.006)。多変量解析の結果、いずれかの自己抗体陽性であることは、irAE発症と独立して有意な関連を示した (オッズ比 (OR) 3.25, 95% CI 1.59-6.65, p=0.001)。Grade 3以上の重症irAEの発症率は、自己抗体陽性群と陰性群間で有意差は認められなかった (6/80例, 8% vs 3/57例, 5%; p=0.86)。

Preexisting antibodiesと抗腫瘍効果の関連: いずれかの自己抗体陽性患者群では、陰性患者群と比較して客観的奏効率 (ORR) が有意に高かった (41% vs 18%; p=0.006)。病勢コントロール率 (DCR) も自己抗体陽性群で有意に高かった (81% vs 54%; p=0.001)。 無増悪生存期間 (PFS) の中央値は、いずれかの自己抗体陽性患者群で6.5ヶ月 (95% CI 4.4-12.9ヶ月) であったのに対し、陰性患者群では3.5ヶ月 (95% CI 2.4-4.1ヶ月) であり、自己抗体陽性群で有意に良好な予後を示した (ハザード比 (HR) 0.53, 95% CI 0.36-0.79, p=0.002) (Figure 2A)。RF陽性患者群でも、陰性患者群と比較してPFSが有意に長かった (中央値10.1ヶ月 vs 3.7ヶ月; HR 0.61, 95% CI 0.38-0.97, p=0.04) (Figure 2B)。ANAまたは抗甲状腺抗体の有無とPFSの間には有意差は認められなかった (Figure 2C, 2D)。 全生存期間 (OS) の中央値は、いずれかの自己抗体陽性患者群で17.6ヶ月 (95% CI 11.8-NRヶ月) であったのに対し、陰性患者群では14.6ヶ月 (95% CI 9.2-18.3ヶ月) であったが、両群間で有意差は認められなかった (Figure 3)。

irAE発症と抗腫瘍効果の関連: irAEを発症した患者群では、非発症群と比較してORRが有意に高かった (52% vs 13%; p<0.001)。DCRもirAE発症群で有意に高かった (92% vs 49%; p<0.001)。 PFSの中央値は、irAE発症群で10.3ヶ月 (95% CI 5.5-15.2ヶ月) であったのに対し、非発症群では3.4ヶ月 (95% CI 2.4-3.8ヶ月) であり、irAE発症群で有意に良好なPFSを示した (HR 0.45, 95% CI 0.30-0.68, p<0.001) (Figure 1A)。OSの中央値は、irAE発症群で未到達 (95% CI 14.5-NRヶ月) であったのに対し、非発症群では11.4ヶ月 (95% CI 7.5-15.2ヶ月) であり、irAE発症群で有意に良好なOSを示した (HR 0.42, 95% CI 0.24-0.71, p<0.001) (Figure 1B)。

臓器特異的な自己抗体とirAE臓器の関連: 皮膚反応は、いずれかの自己抗体陽性患者群で有意に多く認められた (40% vs 18%; p=0.009)。特にRF陽性患者では、陰性患者と比較して皮膚反応の発症率が有意に高かった (47% vs 24%; p=0.02)。甲状腺機能低下症は、抗甲状腺抗体陽性患者で有意に多く発症した (20% vs 1%; p<0.001)。間質性肺炎、肝炎、筋炎または末梢神経障害の発症率については、各自己抗体の有無による有意差は認められなかった。

考察/結論

新規性: 本研究は、進行NSCLC患者に対する抗PD-1療法において、治療開始前の自己抗体 (RF、ANA、抗甲状腺抗体) の存在が、免疫関連有害事象 (irAE) の発症リスクおよび臨床的ベネフィット (ORR、PFS) の両方と独立して関連することを初めて系統的に示した単施設後ろ向きコホート研究である。本研究の最大の新規性は、治療前の自己抗体陽性がirAE発症リスクを約3倍 (OR 3.25, 95% CI 1.59-6.65, p=0.001) に高める一方で、PFSを有意に延長する (HR 0.53, 95% CI 0.36-0.79, p=0.002) という「双方向の臨床的意義」を持つことを明らかにした点である。これは、自己抗体陽性患者ではirAE発症リスクが高いものの、治療効果も期待できるというトレードオフの関係を示唆するものであり、臨床現場での患者説明や治療戦略の策定において重要な情報となる。

先行研究との違い: 先行研究では、irAEの発症が抗腫瘍効果と関連することが報告されていたが Haratani et al. JAMAOncol 2018、本研究の結果もこれを支持するものであった。irAE発症患者は非発症患者と比較して、ORR、PFS、OSのいずれも有意に良好であった。この現象の機序として、治療前から存在する潜在的な自己免疫素因が、PD-1経路の遮断によって免疫応答がさらに増強され、その結果として腫瘍免疫反応とirAEの両方が促進されるという仮説が考えられる。PD-1は活性化B細胞にも豊富に発現しており、PD-1遮断がB細胞を介した自己抗体産生を誘導し、irAEを引き起こす可能性も示唆されている。

特定の自己抗体とirAE臓器との臓器特異的な関連も本研究で示された。具体的には、RF陽性患者で皮膚関連irAEが多く、抗甲状腺抗体陽性患者で甲状腺機能低下症の発症率が有意に高かった。この所見は、Osorio et al. (2017) がペムブロリズマブ治療を受けたNSCLC患者において抗甲状腺抗体と甲状腺機能障害の関連を報告した結果と一致する。これらの臓器特異的関連は、治療前の自己抗体スクリーニングが、irAEの発生部位を予測し、個別化されたirAEモニタリング戦略を立てる上で有用であることを示唆する。

残された課題: 本研究の限界としては、単施設の後ろ向き研究であるため、選択バイアスや情報バイアスの可能性を完全に排除できない点が挙げられる。また、対象患者数が137例と比較的少数であるため、結果の一般化には慎重な解釈が必要である。PD-L1発現レベルが不明な患者が約半数を占めていたため、PD-L1発現と自己抗体の相互作用を詳細に解析できなかったことも今後の検討課題である。さらに、自己抗体の「陽性」カットオフ値が臨床検査室の基準値に依存しており、治療中の自己抗体動態の変化を追跡していない点も限界として挙げられる。重症irAE (Grade ≥3) のリスクは自己抗体の有無によらなかったため、自己抗体は重症度予測には直接寄与しない可能性も残されている。

臨床応用: 今後の検討課題として、本研究で示された知見を前向き多施設共同研究で検証し、より大規模なコホートで自己抗体プロファイルとirAE・治療効果との関連を詳細に評価する必要がある。また、自己抗体プロファイルに基づいた個別化irAE管理アルゴリズムの開発や、自己抗体とPD-1/PD-L1経路の分子メカニズムに関する基礎研究も重要である。臨床応用としては、抗PD-1療法開始前に自己抗体スクリーニングを実施することで、irAEリスクの高い患者を特定し、より厳重なモニタリングや早期介入を計画することが可能となる。これにより、治療の安全性と有効性を最大化し、irAEを最小限に抑えるための個別化医療の実現に貢献できると考えられる。

方法

本研究は、日本の仙台厚生病院において実施された後ろ向き単施設コホート研究である。対象患者は、2016年1月から2018年1月までの期間に、進行NSCLCに対してニボルマブ (3 mg/kgを2週間ごとに投与) またはペムブロリズマブ (200 mgを3週間ごとに投与) のいずれかの単剤療法を受けた137例であった。本研究は、臨床試験登録番号は付与されていないが、後ろ向きコホート研究として設計された。治療は病勢進行、許容できない毒性、または同意撤回まで継続された。全患者は死亡、連絡不能、または同意撤回まで追跡された。本研究は仙台厚生病院の施設内倫理審査委員会の承認を得ており、データが匿名で解析されたため、インフォームドコンセントの取得は免除された。

自己抗体測定: 治療開始前のスクリーニング時に採取された血液サンプルを用いて、リウマチ因子 (RF)、抗核抗体 (ANA)、抗サイログロブリン抗体、および抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体が測定された。RFの陽性カットオフ値は15 IU/mL、ANAの陽性カットオフ値は1:40と設定された。いずれかの自己抗体 (RF、ANA、抗サイログロブリン抗体、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体) が治療前に陽性であった場合、「いずれかの自己抗体陽性 (any preexisting antibodies)」と定義された。抗サイログロブリン抗体または抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体のいずれかが陽性であった場合、「抗甲状腺抗体陽性 (preexisting antithyroid antibodies)」と定義された。

評価項目: 主要評価項目は、irAEの発症 (Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) version 4.0に基づくGrade 1以上のイベント) と、治療前の自己抗体との関連であった。irAEは、皮膚反応、内分泌障害、消化管障害、肝障害、神経障害、肺障害など、免疫学的な機序が関与する可能性のある有害事象として定義された。客観的に認識可能な有害事象のみを考慮し、モノクローナル抗体によって普遍的に引き起こされる輸液反応は除外された。

副次評価項目は、客観的奏効率 (ORR)、病勢コントロール率 (DCR)、無増悪生存期間 (PFS)、および全生存期間 (OS) であった。腫瘍反応は、8〜9週間ごとに実施されたCTスキャンに基づき、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) version 1.1に従って評価された Eisenhauer et al. EurJCancer 2009。PFSは治療開始から病勢進行またはあらゆる原因による死亡までの期間、OSは治療開始からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。

統計解析: 患者変数とニボルマブまたはペムブロリズマブ単剤療法への反応との関連は、EZR (R Foundation for Statistical Computingのグラフィカルユーザーインターフェース) を用いた単変量および多変量ロジスティック回帰分析により解析された。カテゴリカル変数は、χ二乗検定、t検定、Mann-Whitney U検定、またはWelchのt検定を用いて比較された。PFSおよびOSはKaplan-Meier曲線を用いて推定され、2側ログランク検定により比較された。ハザード比 (HR) はCox比例ハザード回帰分析を用いて推定された。すべてのp値は両側検定であり、p < 0.05が統計的に有意であるとみなされた。多変量解析では、年齢、性別、ECOG Performance Status (PS)、PD-L1発現、前治療歴、および薬剤種別が調整変数として含まれた。