• 著者: Yoko Nishiga, Alexandros P. Drainas, Maya Baron, Debadrita Bhattacharya, Amira A. Barkal, Yasaman Ahrari, Rebecca Mancusi, Jason B. Ross, Nobuyuki Takahashi, Anish Thomas, Maximilian Diehn, Irving L. Weissman, Edward E. Graves, Julien Sage
  • Corresponding author: Edward E. Graves (Department of Radiation Oncology, Stanford University, Stanford, CA, USA); Julien Sage (Department of Pediatrics and Genetics, Stanford University, Stanford, CA, USA)
  • 雑誌: Nature Cancer
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-11-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 36411318

背景

放射線治療は全癌患者の50%以上が受ける主要な癌治療モダリティであるが、腫瘍完全消失に至らないこと、また局所療法という性質上転移病変への効果が限定的であることが課題である。このため放射線と免疫療法 (多くはT細胞活性化戦略) の併用が盛んに研究されている Weichselbaum et al. NatRevClinOncol 2017。臨床的にはアブスコパル効果 (irradiationにより非照射遠隔腫瘍も縮小する現象) が1953年から知られるが、その機序は不明瞭で、臨床再現性は低い。従来は腫瘍抗原のcross-primingとCD8+ T細胞活性化で説明されてきたが、このルートでのアブスコパル効果誘導は困難であると報告されている Ngwa et al. NatRevCancer 2018

Small cell lung cancer (SCLC) は約65%が診断時に転移を伴い、5年生存率1-2%と極めて予後不良である Rudin et al. NatRevDisPrimers 2021。SCLCの治療において放射線治療は第一選択の一部であり、PD-1/PD-L1阻害との併用で若干の予後改善に留まっている Horn et al. NEnglJMed 2018。SCLC細胞はCD47を高発現し、「don’t-eat-me」シグナルを発することが先行研究で示されており Gordon et al. Nature 2017、マクロファージによる貪食を回避している。しかし、放射線治療とCD47 (Cluster of Differentiation 47) 阻害の併用がSCLCにおいてアブスコパル効果を誘導する可能性、およびその詳細なメカニズムは未解明であり、特にT細胞非依存的な経路の存在については知識のギャップが残されている。従来のT細胞中心のアブスコパル効果の研究では、SCLCのようなT細胞浸潤が少ない腫瘍タイプにおける効果的な治療戦略が不足していた。

目的

SCLC前臨床モデルにおいて、放射線治療とCD47阻害の併用が局所抗腫瘍効果およびアブスコパル効果を誘導する可能性を検証し、その細胞・分子機構を解明すること。特に、T細胞非依存的なマクロファージ媒介性アブスコパル効果のメカニズムを詳細に解析することを目的とした。

結果

CD47阻害によるSCLC放射線感受性増強: 免疫不全NSGマウスのKP1 SCLC皮下腫瘍モデルにおいて、5Gy単独または抗CD47単独治療は部分的な効果に留まったが、併用療法では有意な腫瘍増殖抑制が観察された (p<0.0001)。この効果は腫瘍へのマクロファージ浸潤の増加と相関した (Figure 1a-c)。Cd47ノックアウトSCLC細胞はin vitroで骨髄由来マクロファージ (BMDM) により効率的に貪食され、放射線併用でさらに増強された (Figure 1d)。ヒトSCLC異種移植モデル (抗human CD47) および免疫正常マウスモデル (遺伝的・薬理的CD47阻害) でも同様の結果が得られ、T/B/NK細胞非依存性であることが示された (Extended Data Fig. 1c-j)。例えば、NJH29ヒトSCLC異種移植モデル (n=4-5 mice) では、併用療法群で腫瘍増殖が有意に抑制された (p=0.0009)。

アブスコパル効果の誘導: 両側皮下KP1腫瘍モデル (n=5 mice) において、右側腫瘍のみを照射し抗CD47抗体を全身投与した併用群では、非照射左側腫瘍も有意に縮小するアブスコパル効果が観察された (p=0.0012) (Figure 2a,b)。この効果は単回5Gy照射および分割20Gy/5fx照射の両方で再現され、肝転移照射後の皮下腫瘍モデルでも確認された (Figure 2c-h)。全ての場合において、アブスコパル効果は併用療法でのみ観察された。

T細胞非依存性・マクロファージ依存性: 抗CD8抗体によるCD8+ T細胞除去後もアブスコパル効果は保持され (p=0.0159, n=5 mice)、T細胞浸潤の増加も認められなかった (Figure 3a-c, Extended Data Fig. 2a,b)。免疫不全NSGマウスを用いた異種移植モデルでもアブスコパル効果が確認され、T細胞非依存性がさらに裏付けられた (Figure 3d,e, Extended Data Fig. 3a-f, Extended Data Fig. 4a-f)。異なるヒトSCLC細胞株 (NJH29とNCI-H82) を両側に移植し、NJH29を照射した場合でも非照射NCI-H82腫瘍が縮小し、抗原特異的T細胞の非関与が示唆された (Figure 3f,g)。一方、抗CSF1抗体によるマクロファージ除去は、免疫正常マウスおよび免疫不全マウスの両方でアブスコパル効果を消失させた (p=0.0079, n=5 mice) (Figure 4a-c, Extended Data Fig. 5a-c)。scRNA-seq解析では、併用療法群の非照射腫瘍において「炎症性マクロファージ/顆粒球」集団が選択的に増加しており、GFP+ SCLC細胞を貪食したマクロファージの割合も有意に増加していた (p<0.0001) (Figure 4f-h)。この貪食活性はCD47阻害単独群と比較して約2.5-fold増加した。

照射SCLC細胞からのCSF1分泌がマクロファージ動員を誘発: 照射されたKP1/KP3マウスSCLC細胞およびNCI-H82ヒトSCLC細胞のbulk RNA-seq解析では、炎症・ストレス応答関連遺伝子が上位に誘導された (Extended Data Fig. 7a-c)。サイトカインアレイでは、照射SCLC細胞の上清中でCSF1、CCL2、MCP3 (CCL7) などのマクロファージ動員・活性化サイトカインの分泌増加が確認された (Figure 5a,b, Extended Data Fig. 7d)。照射SCLC細胞上清はBMDMの貪食能および移動能をin vitroで増強した (Figure 5c, Extended Data Fig. 7e-i)。in vivoでは、照射部位のSCLC細胞でCsf1単独ノックアウト (n=8 mice) (Figure 5d-f) またはCsf1とCcl2のダブルノックアウト (Extended Data Fig. 7j-l) により、対側の非照射腫瘍におけるアブスコパル効果が有意に減弱し (p<0.0001)、非照射部位へのマクロファージ浸潤も有意に減少した (p<0.0001) (Figure 5g)。

CD47阻害は非照射部位でも必要: scRNA-seq解析では、非照射腫瘍におけるマクロファージ数の増加は細胞増殖の増加によるものではなく、炎症性マクロファージ/顆粒球集団の強い遊走シグネチャーが示唆された (Figure 6a, Extended Data Fig. 8a)。FITC-ferumoxytolを用いたin vivoマクロファージ遊走アッセイ (n=7 mice) では、CD47阻害単独および併用療法群で非照射部位への標識マクロファージの移動が促進された (p=0.0249) (Figure 6b,c)。野生型とCd47ノックアウトSCLC細胞の組み合わせ移植実験 (n=5-7 mice) において、全身性抗CD47抗体投与なしでは、照射腫瘍がCd47ノックアウト細胞で構成され、かつ非照射腫瘍もCd47ノックアウト細胞で構成されている場合にのみアブスコパル効果が観察された (p=0.0001) (Figure 6d,e)。この結果は、アブスコパル効果には照射部位と非照射部位の両方でCD47遮断が必要であることを示唆する。

他の癌モデルへの一般化と臨床的示唆: MC38結腸癌およびRamosリンパ腫モデルでもT細胞非依存的なアブスコパル効果が確認された (Figure 7a-d, Extended Data Fig. 10a-c)。MC38モデル (n=6-7 mice) では、PD-1阻害を追加した三重療法 (RT+anti-CD47+anti-PD-1) により、長期的なアブスコパル効果とT細胞浸潤の増加がさらに増強され、相補的な効果が示された (p<0.0001) (Figure 7e,f)。SCLC患者1例において、放射線治療後にM7824 (PD-L1/TGF-β二機能性融合タンパク質) を投与したところ、単球/マクロファージおよびCD8+ T細胞の増加が観察され、臨床相関の可能性が示唆された (Extended Data Fig. 9a-c)。

考察/結論

本研究は、放射線治療にCD47阻害を併用することで、T細胞完全非依存的にマクロファージ介在性のアブスコパル効果を再現性良く誘導できることを初めて明確に示した。これは伝統的なアブスコパル効果機構 (CD8 T細胞・cross-priming) とは根本的に異なる、「照射腫瘍細胞からのCSF1等炎症性サイトカイン分泌→マクロファージmigration→non-irradiated部位での局所CD47遮断による貪食活性化」という新規パラダイムを提示する。

先行研究との違い: これまでのアブスコパル効果に関する研究の多くがT細胞の活性化に焦点を当ててきたのに対し、本研究はT細胞非依存的なマクロファージ媒介性のアブスコパル効果の存在を明確に示した点で対照的である。特にSCLCのようなT細胞浸潤が少ない腫瘍タイプにおいて、このメカニズムは重要な意味を持つ。

新規性: 本研究で初めて、放射線照射によって誘導される炎症性サイトカイン (CSF1など) がマクロファージを非照射部位へ動員し、CD47阻害がその貪食活性を促進するという、マクロファージ媒介性アブスコパル効果の具体的な細胞・分子機構を新規に解明した。これは、アブスコパル効果の誘導における新たな治療標的とメカニズムを提示するものである。

臨床応用: 本知見はSCLC患者における新たな治療戦略の臨床応用に直結する。SCLCはMHC class I低発現、CD8+ T細胞浸潤が少なく、PD-1/PD-L1阻害の効果が限定的である一方、マクロファージ浸潤が豊富であるという特徴を持つ。本研究で提案された放射線+CD47併用療法はこれらの特徴に合致し、既に進行中のCD47阻害抗体臨床試験と組み合わせて容易に臨床検証可能である。また、広範な転移を持つ患者で「照射不能病変の間接治療」として転移性病変への効果拡張の可能性を示唆する。

残された課題: 今後の検討課題として、CD47抗体の全身性投与による副作用 (特に赤血球への交差反応・貧血) を軽減するための腫瘍指向性ドラッグデリバリーシステムの開発が挙げられる。また、放射線+CD47の効果を一部模倣するサイトカイン組み合わせの検討や、他の「don’t-eat-me」分子 (CD24, PD-L1, β2M) のブロッカーとの相乗効果検証も必要である。さらに、T細胞活性化 (抗PD-1等) との3剤併用によるinnate-adaptive相互作用の最大化 (MC38モデルで実証) の臨床的意義を評価することも今後の方向性である。SIRPα (Signal Regulatory Protein Alpha) 欠失マクロファージがT細胞活性化を誘発する報告もあり、innate/adaptive免疫の境界の再検討も残された課題である。

方法

モデル:KP1/KP3 (マウスSCLC細胞株) マウスSCLC細胞 (Rb/p53欠失、SCLC-Aサブタイプ) を免疫不全NSG (NOD scid gamma) miceおよび免疫正常B6129SF1 (B6.129S-Gt(ROSA)26Sor<tm1(FLP1)Dym>/J) syngeneic miceへ皮下・両側皮下・肝臓転移移植した。ヒトSCLC細胞 (NJH29/NCI-H82/NCI-H69/NCI-H526) のNSG mice xenograftも使用した。MC38結腸癌 (C57BL/6J) およびRamos lymphoma (NSG) モデルも使用した。CD47遮断:抗CD47抗体 (MIAP410 for mouse, B6H12 for human)、Cd47ノックアウト細胞 (CRISPR/Cas9) を用いた。放射線:単回5Gy、または分割20Gy/5fxで照射した。細胞解析:腫瘍浸潤マクロファージ (CD11b+F4/80+) のフローサイトメトリーによる定量、T細胞depletion (抗CD8抗体)、マクロファージdepletion (抗CSF1抗体)、scRNA-seq (single-cell RNA sequencing) (非照射腫瘍CD45+細胞)、FITC-ferumoxytol (IO粒子でマクロファージ標識・migration tracking) を実施した。腫瘍細胞応答:bulk RNA-seq、cytokine array (CSF1、CCL2、MCP3)、CSF1/CCL2ノックアウト細胞作製、in vitro BMDM (bone marrow-derived macrophage) phagocytosis assayを行った。統計解析:GraphPad Prismソフトウェアを用いて統計的有意性を評価した。成長曲線比較には二元配置分散分析 (two-way ANOVA) 後にStudent’s t-testを、複数群比較には一元配置分散分析 (one-way ANOVA) 後にStudent’s t-testを用いた。分散のF検定で有意差がある場合はMann-Whitney U検定を適用した。RNA-seqデータ解析にはDESeq2 Love et al. GenomeBiol 2014、scRNA-seqデータ解析にはSeurat v.4パッケージおよびscMCAパッケージを用いた。CIBERSORTx Newman et al. NatMethods 2015 を用いて患者腫瘍サンプル中の免疫細胞量を定量した。