• 著者: Scott N. Gettinger, J. Choi, N. Mani, M.F. Sanmamed, I. Datar, Ryan Sowell, Victor Y. Du, E. Kaftan, S. Goldberg, W. Dong, D. Zelterman, K. Politi, P. Kavathas, S. Kaech, X. Yu, H. Zhao, J. Schlessinger, R. Lifton, D.L. Rimm, L. Chen, R.S. Herbst, K.A. Schalper
  • Corresponding author: Kurt A. Schalper (Yale Cancer Center / Yale School of Medicine, New Haven, CT, USA)
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-08-10
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30097571

背景

進行非小細胞肺癌 (NSCLC) に対する免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は、治療パラダイムを大きく変革したが、約20%の患者にしか奏効せず、大多数は臨床的利益を得られない。このため、治療奏効を予測するバイオマーカーの確立と、治療抵抗性の生物学的機序の解明が喫緊の課題である。これまでに、腫瘍におけるPD-L1タンパク質の発現がICIへの奏効と関連することが示されてきたが、FDA承認された4種のアッセイ間での結果の乖離や、PD-L1陰性腫瘍でも奏効する症例が存在するなど、その予測能には限界がある。例えば、Herbst et al. Nature 2014Borghaei et al. NEnglJMed 2015Garon et al. NEnglJMed 2015らの研究でPD-L1発現と奏効の関連が報告されているが、依然として予測バイオマーカーとしての課題が残されている。

また、腫瘍変異量 (TMB) や予測MHCクラスIネオアンチゲン、CD8陽性腫瘍浸潤リンパ球 (TIL: tumor-infiltrating lymphocyte) の増加、T細胞のクローン性拡大などもICIへの奏効と関連すると報告されてきた。例えば、Rizvi et al. Science 2015Le et al. NEnglJMed 2015らは、高TMBがPD-1阻害薬への感受性と関連することを示している。しかし、これらの因子間の生物学的関連性や、それらを組み合わせた場合の統合的予測価値については、依然として不明な点が多い。特に、ネオアンチゲン特異的T細胞は検出レベルが低く、変異量が高い腫瘍でもICIに奏効しない症例が存在することから、TILの単なる量だけでなく、その機能状態(活性化や増殖能)を組み合わせた、より包括的な予測モデルが必要とされていた。

さらに、Tumeh et al. Nature 2014らはPD-1阻害が適応免疫抵抗性を抑制することで奏効を誘導することを示したが、TILの機能的な側面、特に腫瘍微小環境におけるT細胞の活性化・増殖状態と臨床転帰との関連は十分に解明されていなかった。これらの背景から、NSCLCにおけるICIへの感受性を規定するTILの量と機能状態を統合的に評価し、新たな予測バイオマーカーを同定することが求められていた。しかし、既存のバイオマーカーでは捉えきれない奏効例を特定するための、より洗練されたアプローチが不足しており、腫瘍ゲノム変異と局所T細胞応答の統合的評価における学術的ギャップが未解明のまま残されていた。

目的

本研究の目的は、免疫チェックポイント阻害薬で治療されたNSCLC患者コホートにおいて、全エクソームDNAシーケンス (WES) と多重定量免疫蛍光 (QIF: quantitative immunofluorescence) を統合的に用いることで、腫瘍ゲノム変異、予測ネオアンチゲン、および局所T細胞応答(T細胞の数、活性化状態、増殖能)と臨床奏効との関連を包括的に評価することである。具体的には、PD-1/PD-L1経路阻害への感受性を規定する特異的なTILプロファイルを同定し、その生物学的意義を明らかにすることを目指した。さらに、同定されたTILプロファイルが、既存のバイオマーカーである腫瘍変異量やPD-L1発現とは独立して治療奏効を予測できるかを検証し、その臨床的有用性を評価することも目的とした。最終的には、患者由来異種移植 (PDX: patient-derived xenograft) モデルを用いて、同定されたTIL表現型がPD-1阻害によって再活性化されることを実験的に実証し、その機能的な可逆性を明らかにすることを目指した。

結果

ゲノム変異量と臨床的利益の相関: 49例のNSCLC患者コホートにおいて、平均体細胞変異量は633.27 (範囲 10-6926)、非同義変異量は444.7 (範囲 5-4577) であった。非同義変異量の中央値 (252) をカットオフとして層別化すると、高変異量群ではDCBの頻度が60%であり、低変異量群の16.7%と比較して高頻度であった (p=0.05, Fisher’s exact test) (Fig 1a)。非同義変異量高値群は有意に長いPFSを示した (p=0.005, log-rank test) (Fig 1d) が、3年OSには有意差が認められなかった (p=0.59, log-rank test) (Fig 1e)。非同義変異量の中央値カットオフを用いたDCB予測の感度は78.9%、特異度は66.6%であった。最も頻繁に変異を認めた遺伝子はTP53 (57.1%) であった。DNA修復関連遺伝子 (例: MLH3, MSH6, POLD1, POLE) の変異頻度は高変異量群で2.6倍高かったが、統計的有意差はなかった (32% vs 12.5%, p=0.31)。

ネオアンチゲン予測と実験的検証: 平均MHCクラスIネオアンチゲン数は138.8/症例 (範囲 2-2331) であり、変異量とネオアンチゲン数は強い正の相関を示した (Spearman’s R=0.95, p<0.0001) (Fig 1b)。DCB群は非DCB群よりもネオアンチゲン数が有意に多かった (p=0.0009, Mann-Whitney test) (Fig 1c)。HLA-A2結合実験では、予測された13個の変異ネオペプチドのうち9個 (67.9%) が陽性シグナルを示し、効果的なペプチド-クラスI MHC結合が確認された (Fig 2b)。特に、予測IC50が低いペプチドほど高いHLA-A2シグナルを示し、IC50 > 100 nMの5個の変異ペプチドのうち4個は結合が検出されなかった。変異ペプチドの平均IC50は103.6 nMであり、野生型ペプチドの2541 nMと比較して予測結合親和性が有意に高かった。T細胞再刺激実験では、8個の腫瘍ネオペプチドを含むプール#1が、CD8+T細胞集団の1.1%にIFNγとTNFαの二重陽性応答を誘導した (Fig 2c)。これは、ペプチドなしまたは無関係なペプチドプール#2と比較して15倍以上の応答であり、T細胞が変異ネオペプチドを認識することを示した。

EGFR/KRAS変異とTMBの関連: EGFR変異を有する腫瘍は、KRAS変異腫瘍およびEGFR/KRAS野生型腫瘍と比較して、TMBおよびクラスI/IIネオアンチゲン数が有意に低かった (p<0.01, Mann-Whitney test) (Fig 3b, c)。喫煙量とTMBは正の相関を示した (Spearman’s R=0.42, p=0.01) (Fig 3a)。EGFR変異ではエクソン19欠失が50%で最も多く、KRAS変異ではG12Cが54%で最も頻繁に検出された (Fig 3d, e)。

多重QIFによるTILプロファイルの同定: 39例のNSCLC患者の腫瘍組織において、多重QIFを用いてT細胞浸潤 (CD3)、T細胞活性化 (GZB/CD3)、T細胞増殖 (Ki-67/CD3) のレベルを測定した。CD3シグナルは広範な分布を示し、T細胞浸潤の程度を反映した (Fig 4a)。間質におけるCD3シグナルは腫瘍内 (サイトケラチン陽性領域) の2.5倍高かった (p<0.001, Mann-Whitney test)。CD3シグナルはT細胞GZBレベルとは相関せず (Spearman’s R=0.23, p=0.14)、T細胞増殖とはわずかに相関した (Spearman’s R=0.41, p=0.01)。DCB群ではT細胞浸潤レベルが2.4倍高かった (p=0.02, Mann-Whitney test) (Fig 4b)。

「Dormant TIL」シグネチャと治療奏効: CD3、T細胞GZB、T細胞Ki-67の各中央値に基づいて症例を3つのグループに層別化した結果、「dormant TIL」表現型 (Type 2) が同定された。これは、高レベルのCD3浸潤を伴うが、低レベルのT細胞GZBおよび低レベルのT細胞Ki-67を示す特徴を持つ (Fig 4e)。このdormant TIL表現型は、DCB率が86%と最も高く、無増悪生存期間および全生存期間が最も長かった (Fig 4f, g)。このシグネチャは、TMBやPD-L1発現とは独立して、PD-1経路阻害への感受性と生存利益を予測した。対照的に、免疫療法を受けていないNSCLC患者コホート (n=110 patients) では、dormant TIL表現型は生存利益と関連しなかった (Fig 5d)。

PDXモデルにおけるDormant TILの再活性化: NSGマウスを用いたNSCLC PDXモデル (n=4 mice) において、抗PD-1抗体処理後に、低レベルのGZBおよびKi-67を発現するヒトCD3+TILが、両マーカーの発現を有意に増加させることが示された (Fig 6a, b)。特に、CD8陽性TILにおいてGZB発現が2.5-fold increaseを示すなど顕著な活性化が認められた。Ki-67はCD4+Tリンパ球で、GZBはCD8+T細胞集団で主に増加した (Fig 6c)。これは、dormant TILが機能的に休止状態にあり、PD-1阻害によって再活性化 (reinvigorated) される生物学的根拠を提供する。

独立した予測因子としてのDormant TILシグネチャ: 腫瘍変異量と予測クラスIネオアンチゲンは、3つのTILサブタイプ間で有意な差はなかった (Fig 7a, b)。多変量Cox比例ハザードモデル解析において、dormant TILシグネチャはTMBおよびPD-L1発現から独立した全生存期間の予測因子であることが示された。これは、変異量、ネオアンチゲン、CD3浸潤、およびdormant状態を統合したモデルが、単独因子よりも高い予測性能を持つことを示唆する。

考察/結論

本研究は、NSCLCにおける免疫チェックポイント阻害薬への感受性が、腫瘍変異量やPD-L1発現だけでなく、局所腫瘍浸潤T細胞 (TIL) の量と機能状態(活性化および増殖能)の組み合わせによって規定されることを初めて統合的に示した。特に、高TIL浸潤を伴うものの、活性化および増殖能が低い「dormant TIL」という新規の表現型が、PD-1経路阻害薬への感受性と生存利益に独立して関連することを発見した。この「dormant TIL」の概念は、腫瘍内にT細胞が豊富に存在しても、その増殖やエフェクター機能が抑制された状態が可逆的であり、PD-1阻害によって機能が蘇生し得るという治療反応性の生物学的基盤を提供するものである。

先行研究との違い: これまでの研究では、Rizvi et al. Science 2015Le et al. NEnglJMed 2015らがTMBと奏効の関連を、Tumeh et al. Nature 2014らがCD8+TIL浸潤と奏効の関連を報告してきた。しかし、本研究はこれらの先行研究と異なり、TILの機能状態(Ki-67とGZBの発現)を多重定量免疫蛍光 (QIF) で同時に評価することで、T細胞の「質」が治療奏効に与える影響を詳細に解析した。特に、TMBが高くても奏効しない症例や、PD-L1陰性でも奏効する症例が存在する理由の一端を、TILの機能状態から説明する新規の視点を提供した。

新規性: 本研究で初めて、「dormant TIL」という特定のTIL表現型が、TMBやPD-L1発現とは独立した免疫チェックポイント阻害薬の予測バイオマーカーとして機能することを示した。さらに、患者由来異種移植 (PDX) モデルにおいて、PD-1阻害がdormant TILの活性化および増殖を誘導し、その機能的再活性化を実験的に実証したことは、この表現型の生物学的意義を裏付ける新規の発見である。この知見は、PD-1/PD-L1経路がT細胞の休眠状態を維持する主要なメカニズムの一つであることを示唆する。

臨床応用: Dormant TILシグネチャは、従来のPD-L1 IHCやTMBでは識別が困難であった免疫チェックポイント阻害薬の奏効例を同定する可能性を秘めている。特に、PD-L1陰性やTMB低値の患者群の中から、治療から利益を得られる可能性のある患者を選別するための有望なバイオマーカーとなり得る。Ki-67、GZB、CD3の多重QIFは、既存のFFPE病理検体にも適用可能であり、その実装性が高いことから、臨床現場への迅速な導入が期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、より大規模な独立コホートでのdormant TILシグネチャの予測能の検証が必要である。また、dormant状態を誘導する分子機序(例:代謝抑制、持続的なTCR刺激、制御性T細胞の介在など)のさらなる解明が求められる。さらに、dormant TILを積極的に再活性化するための併用療法の開発も今後の研究方向性として挙げられる。本研究の限界(limitation)としては、異なる免疫チェックポイント阻害薬で治療された患者コホートが含まれている点や、腫瘍採取部位および採取時期の異質性が挙げられる。これらの要因が結果に与える影響を評価するためには、前向きに収集された大規模コホートでの検証が不可欠である。

方法

症例と治療前検体: 2009年から2014年の間にイェール大学で免疫チェックポイント阻害薬(PD-1/PD-L1/CTLA-4抗体)で治療された進行NSCLC患者49例の治療前FFPE検体を収集した。内訳はPD-1抗体単独療法が29例、PD-L1抗体単独療法が12例、PD-1/CTLA-4二重阻害療法が7例、ニボルマブとエルロチニブ併用療法が1例であった。RECIST v1.1に基づき、24週以上持続する部分奏効または完全奏効、あるいは24週以上持続する安定病変を「持続的臨床的利益 (DCB)」と定義した。

全エクソームシーケンスと変異解析: 腫瘍組織と対応する正常組織からゲノムDNAを抽出し、Nimblegen 2.1Mヒトエクソームアレイを用いてDNAライブラリを調製後、Illumina HiSeq2500で74-bpペアエンドリードシーケンスを実施した。平均ターゲットカバレッジは206.3×であり、97.08%のヌクレオチドが20×以上のリードで読み取られた。リードはLi et al. Bioinformatics 2009のBWA-MEMプログラムを用いてヒトb37参照ゲノムにマッピングされ、GATKのBest Practicesガイドラインに従って変異コールが行われた。体細胞点変異とインデルはMuTect2で同定され、Wang et al. NucleicAcidsRes 2010のANNOVARを用いてアノテーションされた。非同義変異数を算出し、中央値 (252) で高変異群と低変異群に層別化した。

ネオアンチゲン予測と実験的検証: 患者特異的HLAクラスI型はATHLATES (accurate typing of human leukocyte antigen through exome sequencing) アルゴリズムを用いてin silicoで決定された。非同義変異配列は17-merポリペプチドに翻訳され、NetMHCconsアルゴリズムを用いて患者特異的HLAクラスIアレルへの結合親和性 (IC50 ≤ 500 nM) が予測された。T細胞認識予測も実施し、候補MHCクラスIネオアンチゲンを同定した。HLA-A2陽性LCL-174細胞を用いた組換え9-merペプチドによる表面HLA-A2安定化実験 (FACS) により、予測されたネオアンチゲンのHLA結合能を検証した。さらに、同一NSCLC患者の末梢血単核球 (PBMC) から分離したT細胞を、予測ネオアンチゲンを含むペプチドプールで刺激・拡張し、人工抗原提示細胞 (APC) と共に再刺激することで、細胞内IFNγ/TNFαフローサイトメトリーによりT細胞の機能的応答を評価した。

多重定量免疫蛍光 (QIF): FFPE切片を用いて、DAPI (核)、サイトケラチン (腫瘍細胞)、CD3 (Tリンパ球)、Ki-67 (細胞増殖)、グランザイムB (GZB: Granzyme-B) (T細胞エフェクター能) を同時に検出する5色多重蛍光染色プロトコルを実施した。AQUA (automated quantitative analysis) 法を用いて、CD3陽性T細胞コンパートメントにおける各マーカーのQIFスコアを客観的に定量した。CD3+TIL密度、Ki-67/CD3 (増殖)、GZB/CD3 (エフェクター能) の3つの指標を独立して評価した。

患者由来異種移植 (PDX) モデルでの検証: 免疫不全マウスであるNOD/SCID/IL2rg-/- (NSG) マウスにNSCLC患者の外科的切切除標本を皮下移植し、抗PD-1モノクローナル抗体を腹腔内投与した。治療後、腫瘍組織から細胞を分離し、マスサイトメトリー (CyTOF) を用いてヒトCD3+TILのKi-67およびGZB発現の変化を解析し、PD-1阻害によるdormant TILの再活性化を評価した。

統計解析: 変異データとQIFシグナルはSpearmanの順位相関関数を用いて解析された。症例データと特性は、連続変数にはノンパラメトリックt検定 (Mann-Whitney U test)、カテゴリ変数にはカイ二乗検定またはFisher’s exact検定を用いて比較された。全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) はKaplan-Meier法を用いて推定され、log-rank検定により統計的有意性が評価された。多変量解析にはCox regression比例ハザードモデルが用いられた。