• 著者: Roni F. Rayes, Jack G. Mouhanna, Ioana Nicolau, France Bourdeau, Betty Giannias, Simon Rousseau, Daniela Quail, Logan Walsh, Veena Sangwan, Nicholas Bertos, Jonathan Cools-Lartigue, Lorenzo E. Ferri, Jonathan D. Spicer
  • Corresponding author: Jonathan D. Spicer (Department of Surgery, Montreal General Hospital, McGill University Health Center, Montreal, Quebec, Canada; jonathan.spicer@mcgill.ca)
  • 雑誌: JCI Insight
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-07-25
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31343990

背景

転移は癌患者の主要な死亡原因であり、腫瘍免疫微小環境 (TIME) の役割は癌の発生、進行、治療効果において確立されている Binnewies et al. NatMed 2018。好中球は哺乳類において最も豊富な白血球集団であり、その多様な細胞傷害性機能は癌の増殖と転移に関与することが示唆されている。好中球細胞外トラップ (NETs) は、DNA線維と顆粒タンパク質 (ミエロペルオキシダーゼ (MPO) や好中球エラスターゼ (NE) など) からなる細胞外ネットワークであり、当初は病原体を捕捉・殺傷する抗菌メカニズムとして同定された Brinkmann et al. Science 2004。しかし、近年では非感染性の役割も報告されている Kessenbrock et al. NatMed 2009

我々のグループは、敗血症によって誘導されるNETsが循環腫瘍細胞 (CTC) を捕捉し、二次部位での増殖を促進することで転移を促進することを初めて報告した Cools-Lartigue et al. JClinInvest 2013。その後、LPS、タバコ煙、腫瘍由来炎症性サイトカイン、手術ストレスなど、様々な全身性炎症性刺激によって誘導されるNETosisが癌の進行を増強することが複数の研究で示されている Albrengues et al. Science 2018Park et al. SciTranslMed 2016Tohme et al. CancerRes 2016。これらの前臨床的知見は、全身性炎症が癌患者においてNETosisを誘導し、疾患の進行を支持する可能性を示唆する。

しかし、以下の重要なギャップが残されていた。(i) 感染や手術ストレスがない状況で、原発腫瘍自体が全身性NETsを誘導するかどうかは未解明であった。(ii) 癌患者の循環NETsレベルが臨床病期と相関するバイオマーカーとして機能するかどうか、大規模なヒトデータは不足していた。(iii) DNase I、Sivelestat (好中球エラスターゼ阻害剤、NEi)、またはPAD4欠損など、臨床適用可能なNETs阻害戦略が自然転移を抑制するかどうかは未確立であった。特に、外科手術前の栄養状態や炎症状態がNETsに与える影響を分離し、腫瘍固有のNETs駆動機構を証明する必要があった。本研究は、これらの課題に対処し、NETsが癌進行における独立した予後因子であり、NETsを標的とした治療が転移を抑制する新たな戦略となる可能性を検証する。

目的

本研究の目的は、まず進行食道胃腺癌および肺腺癌患者60例を対象とした前向きコホート研究において、循環NETsレベルが疾患の病期と相関するバイオマーカーとして機能するかを検証することである。次に、H59肺癌およびMC38大腸癌のマウス自然転移モデルを用いて、原発腫瘍が感染や手術ストレス非依存的にNETsを誘導するメカニズムをin vivoで解明する。さらに、DNase I、Sivelestat (好中球エラスターゼ阻害剤、NEi)、およびPAD4欠損という3つの異なるNETs阻害戦略が、肝臓および肺への癌細胞接着と自然転移を抑制する治療効果を持つかを詳細に評価する。これらの検証を通じて、NETsが癌の進行における独立した予後因子であり、NETsを標的とした治療が転移を抑制する新たな戦略となり得るかを示すことを目指す。

結果

癌患者コホートにおける循環NETsレベルと病期相関: 進行癌患者 (食道胃腺癌の病期III-IV、肺腺癌の病期II-III) の血漿MPO-dsDNAレベルは、健常者 (n=15 individuals) (p=0.0265) および局所癌患者 (食道胃腺癌の病期I-II、肺腺癌の病期I) (p=0.009) と比較して有意に高値を示した (Figure 1A)。局所癌患者と健常者の間にはNETsレベルの有意な差は認められなかった (p=0.20)。食道胃腺癌コホート内では、病期III-IVの患者が病期I-IIの患者よりも有意に高いNETsレベルを示し (p=0.03、Figure 1B)、T3およびT4腫瘍がT1およびT2腫瘍よりも、リンパ節転移陽性患者がリンパ節転移陰性患者よりも、遠隔転移を有する患者が非転移性腫瘍患者よりも高いNETsレベルを示した (Supplemental Figure 2, A-C)。肺腺癌コホート内でも、病期II-IIIの患者が病期Iの患者よりも有意に高いNETsレベルを示し (p=0.05、Figure 1C)、T2+腫瘍がT1腫瘍よりも高いNETsレベルを示した (Supplemental Figure 2D)。これらの結果は、治療や手術ストレスがなくても癌患者においてNETosisが誘導され、腫瘍の存在自体がNETsレベルの上昇と相関することを示唆し、NETsが癌進行の独立したバイオマーカーとして機能する可能性を裏付ける。

進行癌病期と糖尿病がNETsレベルの独立予測因子であること: 多変量ロジスティック回帰分析により、癌病期と糖尿病がNETsレベルの有意な独立予測因子であることが示された (Table 2)。具体的には、糖尿病患者ではNETsレベルの上昇が認められ (p=0.001)、癌病期も独立した予測因子であった (p=0.020)。興味深いことに、NETsレベルは食道胃腺癌 (Figure 1B) および肺腺癌 (Figure 1C) の両方で全体病期と相関したが、好中球リンパ球比 (NLR) はどちらの患者群でも全体病期と相関しなかった (Supplemental Figure 3, A and C)。NLRはT病期とは相関したが (Supplemental Figure 3, B and D)、NETsレベルとは相関しなかった (Supplemental Figure 3E)。同様に、絶対好中球数も全体病期とは相関せず (Supplemental Figure 4, A and C)、NETsレベルとも相関しなかった (Supplemental Figure 4E)。これらの結果は、NETsレベルがNLRや好中球数とは独立して進行癌の強力な予後因子であり、従来の指標よりも癌関連炎症のより高感度な指標となる可能性を示唆する。

腫瘍依存的な全身性NETs誘導 (前臨床モデル): H59肺癌細胞を皮下接種したC57BL/6マウス (n=7 mice) において、腫瘍接種後3-4週目の循環NETsレベルは、非腫瘍保持マウスまたは腫瘍接種後1-2週目のマウスと比較して有意に高値を示した (Figure 2B)。腫瘍が約1.5 cm³に達した時点で切除すると、NETsレベルは腫瘍切除後2日以内にベースラインレベルまで低下し、2週間後もその状態を維持した (Figure 2B)。この結果は、患者コホートでの知見を裏付け、腫瘍の存在がNETsレベルの上昇と関連し、腫瘍切除によりNETsレベルがベースラインに戻ることを示し、感染や炎症がない状況下での純粋な腫瘍固有のNETs誘導を時系列的に証明した。

NETs阻害による自然転移の抑制: H59腫瘍を保持するマウス (n=4 mice) にDNase Iを投与するか (n=5 mice)、Sivelestat (NEi) を投与するか (n=6 mice)、またはPAD4欠損マウス (PAD4⁻/⁻) を用いることで (n=5 mice)、循環NETsレベルが有意に低下した (Figure 2D, p<0.05)。これらのNETs阻害戦略は、H59腫瘍からの自然肺転移を顕著に減少させた (コントロール群の肺あたり300個以上の腫瘍細胞から有意な削減、p<0.01、Figure 5, B and C)。同様に、肝臓への自然転移も3つの介入全てで有意に減少した (p<0.01、Figure 5, E and F)。脾臓内投与されたH59-GFP細胞の肝臓類洞へのin vivo接着は、腫瘍保持マウスで増加したが、DNase I、Sivelestat、またはPAD4⁻/⁻マウスでは有意に抑制された (Figure 4, A-C, p<0.05)。MC38-RFP大腸癌細胞を用いた実験でも同様の結果が得られ (Figure 4, D and E)、NETsが癌細胞の肝臓への接着を促進することが示された。これらのデータは、原発腫瘍が転移促進性のNETsを誘導し、NETsを標的とした治療が肺および肝臓への転移を抑制することを示す。

好中球プライミング表現型の回復: イメージングフローサイトメトリーを用いて、循環好中球の核面積を測定することで、NETosisへのプライミング状態を評価した。腫瘍保持マウス (n=7 mice) の好中球のベースライン核面積 (87 ± 3 µm²) は、非腫瘍保持マウス (n=6 mice) (88 ± 3 µm²) と有意な差はなかった (Figure 3C)。しかし、PMA刺激後の核サイズ増加率は、腫瘍保持マウスで10% ± 2%であったのに対し、非腫瘍保持マウスでは3% ± 1%と有意に高く、腫瘍の存在下で好中球がNETosisに対してプライミングされていることを示した (Figure 3, B-D, p<0.05)。Sivelestat処理マウス (n=6 mice) (3% ± 1%増加) およびPAD4⁻/⁻マウス (n=6 mice) (5% ± 1%増加) では、このプライミング表現型が回復した (Figure 3, B-D)。DNase I処理マウス (n=6 mice) では核脱凝縮への影響は認められず (11% ± 1%増加)、DNase IがNETs形成後に分解することを示唆する。これらのデータは、原発腫瘍が循環好中球をNETs放出に向けてプライミングし、NETs阻害剤がこの表現型を回復させることを示唆する。

考察/結論

本研究は、癌患者におけるNETsの役割に関する重要な知見を提供する。我々の先行研究 Cools-Lartigue et al. JClinInvest 2013 が敗血症誘導NETsによるCTC捕捉と転移促進モデルを確立したのに対し、本研究は感染非依存の腫瘍固有NETs誘導へとその概念を拡張した点で、これまでの研究と異なり新規性が高い。進行食道胃腺癌および肺腺癌患者において、循環NETsレベルが健常者や局所癌患者よりも有意に高く、疾患の進行と相関することを示したことは、本研究で初めて大規模なヒトデータを用いてNETsが癌進行の独立したバイオマーカーとして機能する可能性を提示した。

臨床的含意: 本研究の知見は、NETsを標的とした治療戦略の臨床応用に直結する。DNase I (ドルナーゼアルファとして承認済み) およびSivelestat (好中球エラスターゼ阻害剤、日本で急性肺損傷に承認済み) の両方がマウスモデルにおいて自然転移を抑制したことは、これらの既存薬を癌治療に再利用する可能性を示唆する。特に、DNase I、Sivelestat、およびPAD4欠損という3つの異なるNETs阻害戦略が独立して転移を抑制した相補性は、臨床試験におけるcombination therapy rationaleを強化する。例えば、ドルナーゼアルファの点滴・皮下投与とシベレスタットの周術期投与による食道胃癌・肺癌の術後転移予防に関する第II相試験の実施が検討される。また、血漿MPO-dsDNA ELISAを進行癌の層別化に実装し、NLRを補完する高感度な指標として活用することも可能である。さらに、化学療法反応予測や免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) とDNase/NEiの併用によるcold tumorのT細胞浸潤誘導など、多岐にわたる臨床的意義が考えられる。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。(i) 患者コホートは60例と限定的であり、食道胃腺癌と肺腺癌に特化しているため、他癌種 (大腸癌、乳癌、膵癌など) への一般化は未検証である。(ii) 観察研究であるため、NETsレベルの縦断的追跡 (治療経過や再発時) は行われていない。(iii) H59およびMC38という同系細胞株モデルを使用しており、腫瘍の遺伝的異質性が限定的である可能性がある。(iv) 肝転移における癌細胞接着メカニズムに焦点を当てており、骨転移や脳転移など他の転移部位におけるNETsの役割は十分に評価されていない。(v) NETs以外の転移促進メカニズム (凝固亢進、血管透過性亢進など) についての詳細な解析は限定的である。

Field内位置付け: 本研究は、Cools-Lartigue et al. JClinInvest 2013 の直接的な拡張であり、McGill大学Spicer/Ferri研究グループのNETs-癌研究系譜における第2のpillar paperと位置付けられる。2019年以降のNETsバイオマーカー臨床試験 (ClinicalTrials.govに登録されているMPO-dsDNAアッセイ採用試験) やドルナーゼアルファの癌適応試験 (NCT04402398など) の直接的な根拠を形成している。Wculek et al. NatMed 2015Park et al. SciTranslMed 2016 と共に、NETs-CTC-転移軸の前臨床的根拠を確立した高被引用論文であり、現在、NETsを標的とした抗転移治療の臨床開発を牽引するMcGillグループの中核的な成果である。

方法

臨床コホート: McGill University Health Center (MUHC) にて、治療歴のない食道胃腺癌患者37例および肺腺癌患者23例の合計60例を前向きに登録した。対照群として健常者15例を含めた。患者の人口統計学的データおよび臨床的特徴はTable 1に示されている。臨床病期は、化学療法によるダウンステージング効果を考慮し、病理学的病期ではなく臨床病期を用いた。

マウスモデル: 7-10週齢のC57BL/6雄マウス (Charles River Laboratories) およびPAD4欠損マウス (PAD4⁻/⁻、Alan Tsung教授より供与) を全ての実験に用いた。H59-GFP Lewis肺癌細胞およびMC38大腸癌細胞をマウスの側腹部に皮下接種し、腫瘍増殖を週2回キャリパーでモニタリングした。H59-GFP細胞はPnina Brodt教授より供与され、MC38細胞はNicole Beauchemin教授より供与された。

薬理介入:

  • DNase I (デオキシリボヌクレアーゼI): 2.5 mg/kg/dayを毎日筋肉内注射で投与した。DNase IはNETsを分解する酵素である。
  • Sivelestat (NEi): 2.2 mg/kg/dayを毎日経口投与した。Sivelestatは好中球エラスターゼ (NE) 阻害剤であり、NETs形成のROS依存性経路を阻害する。 これらの薬剤は、NETs形成の異なる経路 (ROS非依存性PAD4経路とROS依存性NE経路) を相補的に阻害することを目的とした。

NETs検出:

  • 血漿MPO-dsDNA複合体ELISA: ヒトおよびマウスの血漿中のMPO-dsDNA複合体レベルを測定した。Immulon 4HBX 96ウェルプレートにマウスまたはヒトMPO抗体 (クローン266-6K1) をコーティングし、dsDNA-POD (ペルオキシダーゼ標識dsDNA) 抗体と混合した血漿を添加して測定した。このELISAの感度と特異性は、PMA刺激によるNETs増加とDNase1処理によるNETs減少で検証された (Supplemental Figure 1, A-E)。
  • Citrullinated histone H3 (H3Cit) IHC: 組織切片において、NETsのマーカーであるH3Citの免疫組織化学染色を行った。
  • Imaging flow cytometry: 循環好中球の核脱凝縮 (核面積の増加) を測定し、NETosisへのプライミング状態を評価した。DAPIとLy6G-FITCで染色した好中球をAmnis ImageStream MarkIIで解析した。

機序解析:

  • Intravital video microscopy (IVM): 脾臓内投与されたH59-GFPまたはMC38-RFP癌細胞の肝臓類洞へのin vivo接着をリアルタイムで可視化した。LSM-780共焦点顕微鏡を用いて、CD31-PE染色による肝臓類洞とH59-GFP/MC38-RFP細胞の接着を観察した。
  • Western blot: 腫瘍組織、肝臓、肺からタンパク質を抽出し、H3Citおよびβ-アクチンに対するウェスタンブロット解析を行った。
  • 免疫蛍光染色: 肝臓および肺組織のホルマリン固定パラフィン包埋切片に対し、H3CitおよびLy6G-AF647を用いた免疫蛍光染色を行った。

統計解析: Kolmogorov-Smirnov検定を用いてデータの正規分布性を評価した。正規分布データには2標本t検定および一元配置ANOVAを、非正規分布データにはKruskal-Wallis非パラメトリック検定を用いた。多変量ロジスティック回帰分析を用いて、病期、年齢、性別、BMI、併存疾患、喫煙、糖尿病などの交絡因子を調整し、NETsレベルの独立予測因子を特定した。P値が0.05未満を有意とした。動物実験はMcGill Universityの動物管理委員会 (AUP 7724) の承認を得て実施された。臨床研究はMUHC研究倫理委員会 (REB) の承認を得て実施され、患者からは書面によるインフォームドコンセントを得た。