- 著者: Andrew M. Leader, John A. Grout, Barbara B. Maier, Barzin Y. Nabet, Matthew D. Park, Alexandra Tabachnikova, Christie Chang, Laura Walker, Alona Lansky, Jessica Le Berichel, Leanna Troncoso, Nausicaa Malissen, Melanie Davila, Jerome C. Martin, Giuliana Magri, Kevin Tuballes, Zhen Zhao, Francesca Petralia, Robert Samstein, Natalie Roy D’Amore, Gavin Thurston, Alice O. Kamphorst, Andrea Wolf, Raja Flores, Pei Wang, Soren Muller, Ira Mellman, Mary Beth Beasley, Helene Salmon, Adeeb H. Rahman, Thomas U. Marron, Ephraim Kenigsberg, Miriam Merad
- Corresponding author: Miriam Merad (Icahn School of Medicine at Mount Sinai, New York, NY)
- 雑誌: Cancer Cell
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-09-13
- Article種別: Original Article
- PMID: 34767762
背景
免疫チェックポイント阻害薬は非小細胞肺癌 (NSCLC) の標準治療として確立されているが、その奏効予測因子として用いられるPD-L1発現や腫瘍変異負荷 (TMB) は精度が不十分であり、治療恩恵を正確に予測することが依然として重要な課題であった。従来のバルクRNAシーケンス解析では、腫瘍免疫微小環境 (TME) 内の細胞型や細胞状態の多様性を詳細に解析するには限界があり、特に免疫細胞サブタイプ間の機能的差異を捉えることが困難であった。このため、免疫応答の複雑なメカニズムを解明し、より効果的なバイオマーカーを開発するための深い理解が不足していた。
特に、TMBという変異量の指標のみならず、TP53やKRASなどの特定のドライバー遺伝子変異や、癌精巣抗原 (CTA) のような異所性抗原が、腫瘍の免疫状態を独立して修飾するかどうかは未解明な点が多かった。これらのゲノム特性がTMEに与える影響を包括的に理解することは、個別化された免疫療法の開発に不可欠である。さらに、細胞表面タンパク質とmRNAの同時計測を可能にするCITE-seq (Cellular Indexing of Transcriptomes and Epitopes by Sequencing) 技術の導入により、単一細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) 単独では識別が困難であった免疫細胞サブタイプの精密なアノテーションが可能になりつつあったが、大規模なNSCLC前治療コホートへの適用はこれまで報告されておらず、技術的・知見的なギャップが残されていた。先行研究では、TMEにおける免疫細胞の多様性が示されているが (Binnewies et al. NatMed 2018)、NSCLCにおける免疫細胞の表現型が患者間でどのように異なるか、また、それが免疫チェックポイント阻害薬への応答とどのように関連しているかについては、依然として完全な理解が不足していた。また、腫瘍の空間的免疫細胞分布と免疫療法応答との関連性についても、詳細な解析は手薄であった。本研究は、これらのギャップを埋めることを目的としている。
目的
本研究の目的は、未治療の早期NSCLC患者の腫瘍病変を対象とした大規模なscRNA-seq、CITE-seq、およびT細胞受容体シーケンス (TCR-seq) の統合解析を通じて、腫瘍免疫微小環境における共通の規則性と患者間変動要素を詳細に解析することである。具体的には、腫瘍のゲノム特性 (TMB、ドライバー変異、ネオ抗原) と免疫状態との関係を解明し、免疫療法への奏効を予測する新たな免疫活性化モジュールであるLCAM (Lung Cancer Activation Module) を同定することを目指した。これにより、既存のバイオマーカーの限界を克服し、より精度の高い患者層別化と個別化された治療戦略の確立に貢献することを目指した。さらに、LCAMが免疫療法への奏効を予測する非冗長なバイオマーカーとなる可能性を検証することも重要な目的であった。
結果
腫瘍免疫細胞の多様性とCITE-seqによる精密アノテーション: scRNA-seq解析により、30の免疫細胞転写状態が同定された。腫瘍組織では、正常肺 (nLung) と比較してB細胞が 6.4-fold increase (IQR 2.5-8.4) および形質細胞が 4.1-fold increase (IQR 2.2-9.4) と最も顕著に増加した。一方、肺胞マクロファージは枯渇し、腫瘍由来単球性マクロファージが増加する傾向が認められた。腫瘍間の免疫組成の多様性はnLung間の多様性よりも有意に大きく (t=8.3、p<10⁻¹⁰)、患者個々の特性が腫瘍免疫表現型変動の主要な要因であることが示された (Figure 1E, 1F)。CITE-seqは、RNA単独では分類が困難であった活性化T細胞のCD4+/CD8+内訳 (それぞれ15.5%と74.8%) を正確に同定し、転写ベースの分類の検証精度が86%に達したことを確認した (Figure 1C, 1D)。この結果は、CITE-seqがscRNA-seqの細胞アノテーション精度を大幅に向上させることを示している。
LCAM (肺癌免疫活性化モジュール) の同定と空間的特徴: 細胞頻度のSpearman相関解析 (n=26 patients 由来腫瘍) により、PDCD1+CXCL13+活性化T細胞、IgG+形質細胞、およびSPP1+マクロファージ (MoM-II) の3つの細胞集団が高い相関を示すことが明らかとなり、これらを「LCAM-hi」と命名した。LCAM-loはB細胞、TCM/naive-like-II、肺胞マクロファージ、cDC1/cDC2、およびAZU1+マクロファージ (AZU1+ M F) と定義された。患者をLCAMスコアで層別化すると、明確なパターンが確認され、公開データセット (Lambrechts et al. NatMed 2018; Zilionis et al. Immunity 2019) を含むn=50 patients 由来腫瘍、n=36 nLung試料での外部検証でも同様のパターンが再現された (Figure 5B, 5D)。LCAMは全体的な免疫浸潤量とは独立しており、適応免疫活性化の独立した指標であることが示された。MICSSSでは、LCAM-hi腫瘍においてCD138+形質細胞がPD-1+T細胞およびCD20+B細胞からなる三次リンパ様構造 (TLS) を包囲し、CD68+/FABP4-マクロファージが適応免疫細胞と近接した空間配置を示すことが確認された (Figure 5E, 5G)。CellPhoneDBによる細胞間シグナル解析では、LCAM-hi腫瘍においてT細胞-B細胞間のCXCL13-CXCR5軸およびBTLA-TNFRSF14軸、ならびにマクロファージ-T細胞間のCXCL9/10/11-CXCR3軸が有意に増強されており、適応免疫応答の協調的活性化機構が示唆された (Figure 5I, 5K)。
TMB、TP53変異、癌精巣抗原とLCAMの独立した相関: TCGA LUADデータ (n=512 patients) を用いた解析では、LCAMアンサンブルスコアがLogTMBと有意に相関すること (Spearman r=0.49、p<10⁻¹⁰) が示された (Figure 6C)。この相関は喫煙由来変異シグネチャーの有無によらず維持された (シグネチャー検出なし群でもr=0.36、p=3.3×10⁻⁴)。TMBで調整した残差解析では、TP53変異腫瘍はTMB以上のLCAMスコアを示し (p=4.0×10⁻⁴)、KRAS変異腫瘍はTMB未満のLCAMスコアを示した (p=2.7×10⁻³) (Figure 7C, 7D)。これにより、TP53変異とKRAS変異がTMBとは独立して免疫状態を修飾することが実証された。さらに、癌精巣抗原 (CTA) 発現スコアがTMB調整残差と有意に相関し (Spearman r=0.18、p=2.4×10⁻⁴)、変異ネオ抗原以外の異所性抗原もLCAM誘導に寄与することが示唆された。これは、腫瘍の免疫原性がTMB以外の要因によっても影響を受けることを示唆している。
LCAM-hiはアテゾリズマブ応答を予測し、化学療法では予測しない: POPLARランダム化試験 (Fehrenbacher et al. Lancet 2016) での外部検証において、LCAM-hi (上位25%) 患者はアテゾリズマブ群で無増悪生存期間 (PFS) 中央値7.3か月 (LCAM-lo群2.7か月) と有意に改善した (HR 0.58、95% CI 0.35-0.95、p=0.03) (Figure 7G)。一方、ドセタキセル群ではLCAMスコアによるPFSの差は認められなかった (HR 0.95、95% CI 0.62-1.65) (Figure 7H)。さらに、TMB中央値以上の患者内でもLCAM-hiはPFS改善と関連し (PFS中央値11.0か月 vs. 2.7か月、p=0.044)、LCAMはTMBに相関しながらも非冗長な独立バイオマーカーであることが示唆された (Figure 7J)。多変量Cox比例ハザード解析でもLCAMとTMBの独立した傾向が確認された (Figure 7I)。この結果は、LCAMが免疫療法における患者層別化の新たなツールとなる可能性を示している。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、バルクRNA由来の「免疫hot/cold」分類やPD-L1免疫組織化学 (IHC) よりも、シングルセルレベルで評価されたLCAMのような免疫状態が、免疫療法へのより強力な予測能を示すことを示しており、従来の単一バイオマーカーによる層別化アプローチや先行研究 (Binnewies et al. NatMed 2018) の知見と対照的である。バルク解析では見落とされていた適応免疫系と先天免疫系の協調的活性化パターンを、単一細胞解像度で捉えることで、患者間の免疫微小環境の不均一性をより精密に分類することに成功した。
新規性: 本研究で初めて、NSCLC治療前腫瘍免疫微小環境の最大規模のscRNA-seq/CITE-seq統合解析を通じて、PDCD1+CXCL13+活性化T細胞、IgG+形質細胞、SPP1+マクロファージの3細胞タイプからなるLCAMという新規の免疫活性化指標を同定した。CITE-seqの導入によりscRNA-seqの細胞アノテーション精度を大幅に向上させた方法論的革新も、これまで報告されていない新規の貢献である。さらに、腫瘍のゲノム特性であるTMBやTP53変異が、このLCAMスコアとどのように独立して相関するかを明確に示した点も極めて独創的である。
臨床応用: 本知見は、LCAMスコアが現行のPD-L1/TMB単一バイオマーカーを超えた多次元的な免疫療法適応判断ツールとなりうる点で、高い臨床的有用性を有する。特にTMB-hiかつLCAM-hiの患者群でICIの恩恵が最大化されることから、LCAMとTMBを組み合わせた統合バイオマーカー戦略が臨床現場における治療意思決定に貢献できる。また、LCAMを構成する細胞間相互作用(CXCL13-CXCR5軸など)を標的とした新たな複合免疫療法の開発など、新規治療戦略の策定にも臨床的含意をもたらす。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) LCAMの臨床実装に向けたバルクRNAやIHCによる代替計測法の開発、(2) 35例という小規模コホートの限界を克服するための独立した前向きコホートによる検証、(3) LCAMが免疫療法の腫瘍型を超えた普遍的バイオマーカーとなるかの検証、(4) LCAM低値かつTMB低値の患者への最適な治療戦略の解明、が残されている。特に、空間的な細胞配置と機能的状態の連関について、より大規模な空間トランスクリプトーム解析を用いた追試が必要不可欠である。
方法
本研究では、35例の未治療早期NSCLC患者から外科切除された腫瘍組織および隣接する正常肺 (nLung) 組織を採取し、合計361,929個の細胞を解析した。コアコホートでは、22の腫瘍組織と19のnLung組織に対して10X Chromium 3’V2プラットフォームを用いたscRNA-seqを実施した。さらに、8名の患者からはCITE-seq(15〜81抗体パネル)を用いて5’遺伝子発現と細胞表面タンパク質を同時計測し、3名の患者からは5’ scRNA-seqとTCR-seqを併用してT細胞のクローン性を評価した。
データ解析には、バッチ効果を考慮したクラスタリングアルゴリズムを使用し、49の免疫細胞クラスターをT細胞、B細胞、形質細胞、マスト細胞、形質細胞様樹状細胞 (pDC)、単核食細胞であるMNP (mononuclear phagocyte) の6つの主要なコンパートメントに分類した。CITE-seqデータは、RNAベースの細胞分類の検証と、scRNA-seq単独では識別困難な細胞サブタイプの精密なアノテーションに利用された。この解析では、ヒト患者由来組織のみを対象とし、A549やH1299などの肺癌細胞株は使用しなかった。
外部検証には、Lambrechts et al. (2018) (Lambrechts et al. NatMed 2018) および Zilionis et al. (2019) (Zilionis et al. Immunity 2019) の公開scRNA-seqデータセット(合計86腫瘍、nLung)を用いた。LCAMスコアの臨床的予測能は、The Cancer Genome Atlas (TCGA) の肺腺癌 (LUAD) バルクRNA-seqデータ (n=512)、Clinical Proteomic Tumor Analysis Consortium (CPTAC) LUADデータ (n=110)、およびアテゾリズマブとドセタキセルを比較したPOPLARランダム化試験 (Fehrenbacher et al. Lancet 2016) のデータを用いて検証された。POPLAR試験では、アテゾリズマブ群とドセタキセル群における無増悪生存期間 (PFS) のハザード比 (HR) を評価するためにCox regression (コックス比例ハザードモデル) が使用された。統計解析には、Wilcoxon符号順位検定、Spearman correlation (スピアマン相関解析)、多変量Cox比例ハザード解析などが用いられ、p値はBonferroni補正が適用された。細胞間シグナル解析にはCellPhoneDBが用いられた。多重免疫組織化学であるMICSSS (multiplexed immunohistochemical consecutive staining on a single slide) は、LCAM細胞タイプの空間分布を評価するために実施された。