• 著者: Rapolas Zilionis, Camilla Engblom, Christina Pfirschke, Virginia Savova, David Zemmour, Hatice D. Saatcioglu, Indira Krishnan, Giorgia Maroni, Claire V. Meyerovitz, Clara M. Kerwin, Sun Choi, William G. Richards, Assunta De Rienzo, Daniel G. Tenen, Raphael Bueno, Elena Levantini, Mikael J. Pittet, Allon M. Klein
  • Corresponding author: Mikael J. Pittet (MGH/Harvard Medical School); Virginia Savova (Sanofi); Allon M. Klein (Harvard Medical School)
  • 雑誌: Immunity
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-04-09
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30979687

背景

腫瘍浸潤骨髄細胞 (TIM: Tumor-Infiltrating Myeloid cells) は、単球、マクロファージ、樹状細胞 (DC)、好中球から構成され、がんの増殖調節における重要なレギュレーターとして、次世代免疫療法の有望な標的として注目されている。しかし、その複雑なサブタイプ構成は十分に理解されていなかった。特に、マクロファージのM1/M2という二元論的分類が実際の腫瘍内表現型を正確に捉えられないことは広く認識されており、より包括的な解析の必要性が指摘されていた (Ginhoux et al., 2016; Mantovani et al., 2017)。また、好中球の腫瘍内サブセットの転写的プロファイルも患者レベルでは不明な点が多かった (Coffelt et al. NatRevCancer 2016)。これらのTIMの多様性を包括的に把握することが不足していた。

さらに、マウスモデルでの研究結果がヒトへの橋渡しに有用かどうかも不明であり、特にLy6G (マウスのみ) やCD141/CD103 (DC)、CD14/Ly6C (単球) といった種特異的マーカーの存在が、ヒト-マウス間のTIM生物学を調和させることを困難にしていた。従来のフローサイトメトリーや組織学的手法は、事前の表面マーカー知識や検証済み抗体を必要とするため、未知のTIMサブポピュレーションや、既存マーカーでは識別できない細胞状態を見落とす可能性があった。また、腫瘍微小環境によるマーカー遺伝子発現の変化が細胞タイプの分画を混乱させることも課題であった。これらの限界により、TIMの多様性を包括的に把握することが不足しており、その複雑なサブタイプ構成は依然として未解明であった。

単一細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) は、事前の表面マーカー知識を必要とせずに個々の細胞の全トランスクリプトームを網羅的に取得できるため、種間の偏りのない比較を可能にするアプローチとして本研究に採用された (Briggs et al., 2018)。この技術は、TIMの複雑なサブタイプ構成を解明し、その機能的役割を理解するための新たな道を開くものと期待された。既存の免疫チェックポイント阻害療法が一部の患者にしか効果を示さない現状 (Sharma et al. Science 2015) を踏まえ、T細胞以外の免疫細胞、特にTIMを標的とした新たな治療戦略の開発が急務であり、そのためにはTIMの包括的な理解が不可欠であった (Binnewies et al. NatMed 2018)。

目的

本研究の目的は、非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者の腫瘍とマウス肺腫瘍モデルにおける腫瘍浸潤骨髄細胞 (TIM) を単一細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) により網羅的にマッピングし、TIM状態の多様性、患者間および種間での保存性を解析することである。さらに、患者の血液骨髄細胞と腫瘍内TIMとの比較を行い、TIMサブポピュレーションの臨床予後との関連を評価することで、TIMを診断ツールや治療標的として活用する可能性を探る。特に、マウスモデルがヒトTIM生物学の理解にどの程度貢献できるかを検証し、種間で保存された骨髄細胞集団と疾患特異的な細胞状態を特定することを目指した。

結果

25種のTIM状態の同定と患者間再現性: ヒトNSCLC患者腫瘍から、好中球5サブセット (hN1-5)、DC4サブセット (hDC1-3 + hpDC)、単球3サブセット+MonoDC+MøCycl (hMono1-3・hMonoDC・hMøCycl)、マクロファージ9サブセット (hMø1-9) から構成される計25種類のTIM状態を同定した (Figure 1C)。これら主要なTIM lineageは、7患者中6患者で検出された。DCは4サブセット全てが7患者中6患者で、単球・マクロファージは全14サブセットが7患者中任意の4患者で再現性高く検出された。稀なhDC3サブセット (全細胞の0.25%) も全患者で再現性良く観察された。腫瘍上皮細胞の状態が患者特異的であったのとは対照的に、TIM状態は患者間で重複しており、骨髄細胞の微小環境が腫瘍実質より定型化されていることを示唆した (Figure 6A, 6B)。

DC4サブセットの種間完全一致とcDC1/cDC2の機能的同定: ヒトDCはhDC1 (cDC1様: XCR1+・CLEC9A+・TBHD+・CADM1+)、hDC2 (cDC2様: CD1A+・CD1C+・CD1E+・CD207+・FCER1A+)、hDC3 (活性化DC様: BATF3+・IRF8+だがXCR1-・CLEC9A-; CCR7+移行型と考えられる)、hpDC (形質細胞様DC) の4サブセットに分類された (Figure 4B)。マウスDCも同様にmDC1-3・mpDCの4サブセットが同定され、種間で一対一のほぼ完全な対応が確認された (Figure 4P-4R)。4種のDCサブセットはすべて腫瘍担癌マウスで腫瘍なしより有意に増加しており、約10-20倍の増加が見られた (Figure 4M)。また、腫瘍内DC3 (mDC3) はCCR7発現を持ち、IL-12分泌・抗腫瘍活性を持つCCR7+腫瘍浸潤DCに対応することが先行研究 (Garris et al. Immunity 2018) との比較で示された。

好中球5サブセット:保存された軸と腫瘍特異的サブセット: ヒト好中球はN1→N3/4→N5という連続した状態スペクトルに分解され、さらに別個のI型IFN応答サブセット (hN2) が同定された (Figure 3A-3C)。hN1は古典的好中球マーカー (MMP8・MMP9・S100A8・S100A9・ADAM8) を高発現し、hN5はCCL3・CSF1・CSTB・CTSB・IRAK2を発現する腫瘍特異的かつ腫瘍促進的サブセットであった。hN2 (hN5よりも稀なサブセット) はIFIT1・IRF7・RSAD2等I型IFN応答遺伝子を発現し、GO term「cellular response to type I interferon」が FDR=4×10^-26 で有意に濃縮された。マウス好中球は6サブセット (mN1-6) に分類され、mN4・mN5は腫瘍組織で腫瘍なしより10-20倍増加、mN3・mN6は腫瘍組織にのみ存在した (Figure 3I)。SiglecF high細胞 (mN4-6) が腫瘍特異的であることをqPCR・フローサイトメトリーで独立検証し、Car4・Clec4n・Clec5a・Csf1等11遺伝子のSiglecF high細胞での過発現を確認した (Figure S3E-S3H)。これらのサブセットは、ヒトとマウスの間でN1からN5への連続的な表現型軸と、I型インターフェロン応答サブセット (hN2/mN2) の存在という点で保存されていることが示された (Figure 3J-3L)。

単球の種間保存とマクロファージの種差: ヒト単球は古典的 (hMono1: CD14+・FCN1+)、非古典的 (hMono2: CDKN1C+・LILRB2+・ITGAL+)、好中球関連遺伝子発現サブセット (hMono3: S100A8・S100A9・CSF3R+) の3サブセットとMonoDCに分類され、マウスのmMono1-3およびmMonoDCとそれぞれ一対一対応を示した (Figure 5K, 5L)。ヒトMono1はLy6Chiマーカー (Ly6c1・Ly6c2・Ccr2) のマウス対応と、hMono2はLy6Cloマーカー (Cx3cr1・Fcgr4) のマウス対応と一致した。MonoDCはCLEC10A・MHCクラスII遺伝子・CD74を高発現し、ヒト・マウスで共通の状態として同定された。一方、マクロファージ (ヒト9サブセット・マウス4サブセット) は種間の転写的対応が複雑で、mMø3はヒト対応が見つからず、hMø1・hMø2はマウスで十分に代表されなかった (Figure 5M)。M0/M1/M2シグネチャーはヒト・マウスとも個別のマクロファージクラスターに明確に対応せず、すべてのマクロファージがM2様表現型を示した。マクロファージは独自の化学遊走因子発現パターンも示し、hMø1はCXCL5 (好中球誘引)、hMø8はCXCL12 (CXCR4リガンド)、hMø9はCXCL9/CXCL10/CXCL11 (T細胞誘引) を発現したが、マウスではCXCL9/10/11を発現するマクロファージが認められなかった (Figure S5K, S5L)。

TIMサブポピュレーションの予後関連マーカーとin situ検証: 1,127例の肺腺癌患者データセット (PRECOG) (Gentles et al. NatMed 2015) を用いた系統的な予後スコアリングにより、各TIMサブポピュレーションの特異的マーカー遺伝子と臨床転帰の関連が同定された。hN2マーカーISG15とhN5マーカーPI3はいずれも予後不良と有意に関連し (Kaplan-Meier解析でp<10^-6 および p<10^-9)、hMø1・hMø9マーカーも予後不良と関連した (Figure 6D, 6E)。hDC2マーカーCD207 (langerin) は予後良好と関連し (p=0.014)、他のDCサブセット・マスト細胞サブセットも概ね良好な関連を示した。hN5 PI3+好中球についての患者間の差異は、患者3ではPI3+細胞がほぼ検出されず、患者7では多数が浸潤するというscRNA-seqの予測をin situ hybridization (RNAscope) で独立検証した (10視野定量化、p<0.01の有意差) (Figure 6G, 6H)。MPO (汎好中球マーカー) の免疫組織化学では両患者で同等数の好中球が確認され、PI3+細胞がMPO+であることも確認された (Figure 6I, 6J)。

血液と腫瘍TIMの限定的な重複: NSCLC患者6例の末梢血 (14,411細胞) と腫瘍 (7例) のSPRING可視化では、大多数の細胞が血液・腫瘍間で重複しなかった (Figure 7A)。血液単球は3サブセット+MonoDCに分類され腫瘍TIMと一対一対応を持つが、血液・腫瘍単球間で412遺伝子が5%FDRで2倍以上差異を示し (血液単球でCCR2、腫瘍単球でCXCL3の強い差異が代表例)、血液好中球 (hbN1-6の6サブセット) では719遺伝子が2倍以上差異 (腫瘍でCXCL8高発現、血液でIL17RA高発現) が見られた (Figure 7G, 7K)。血液hbN2はI型IFNシグネチャー (IFIT1・IFIT2・IFIT3・RSAD2) で腫瘍hN2に対応する一方、腫瘍特異的CCL3+サブセット (hN5) に対応する血液集団は存在しなかった。血液のみに存在するhbN6サブセット (血液好中球の6.0%±0.4%) はTNFRSF13B+であり、BAFF/APRILの受容体を発現する機能未知の好中球集団であった (Figure 7D, 7I)。

考察/結論

本研究は、NSCLC腫瘍浸潤骨髄細胞 (TIM) の最初の包括的scRNA-seqアトラスを提供し、ヒトとマウスの間でDCおよび単球においてほぼ完全な転写的一対一対応が存在することを明らかにした。この発見は、DCおよび単球生物学のマウス-ヒト翻訳可能性を支持する最も直接的な証拠を提供するものであり、これまでの研究とは異なり、網羅的な遺伝子発現プロファイルに基づく比較により、種間の保存性を明確に示した点で新規性が高い。

腫瘍特異的hN5好中球がPI3マーカーの組織検証を通じて1,127例の予後データと結合されたことは、scRNA-seqから診断・予後ツールへの橋渡しという臨床応用の具体例を示している (Kaplan-Meier解析 p<10^-9)。hDC2マーカーCD207の予後良好との関連 (p=0.014) は、cDC2を活性化・腫瘍内誘導する戦略が免疫療法増感に有効である可能性を示唆し、FLT3L・CD40アゴニスト等のDC誘導戦略の理論的根拠を提供する。

一方、マクロファージの種差という発見は、M1/M2という単純な分類の不適切さをゲノム規模で実証するとともに、免疫療法標的としてのマクロファージ研究においてマウスモデルの限界を示唆する。ヒト9サブセット対マウス4サブセットという非対称な多様性は、ヒト腫瘍マクロファージが独自の分化経路を持つことを示唆しており、腫瘍微小環境の種特異性の証拠として重要である。これはこれまで報告されていない知見であり、今後のマクロファージを標的とした治療開発において、ヒト特異的なアプローチの必要性を示唆する。

血液と腫瘍骨髄細胞の限定的な重複という知見は、TIMを血液バイオマーカーで代替することの困難さを確立しており、血液骨髄細胞と腫瘍TIMで412遺伝子 (単球) および719遺伝子 (好中球) が2倍以上差異を示すというデータは、将来の液体生検ベースの骨髄細胞モニタリング戦略の設計に重要な制約を与える。この結果は、腫瘍微小環境の特殊性を強調し、血液検査のみではTIMの全貌を捉えることができないという残された課題を浮き彫りにした。

本研究の主な限界として、7患者のみでの解析、1つのマウスモデルのみの使用、希少サブセット検出能の制約が挙げられる。今後の検討課題として、25種のTIM状態それぞれの機能的役割の実験的検証、他のがん種へのアトラスの拡張、およびCSF1R阻害・CCR2阻害・TIM3標的等の骨髄細胞を直接標的とした治療介入と特定TIMサブポピュレーション存在量の相関の検証が重要である。

方法

ヒトNSCLC患者試料: 未治療のNSCLC患者7例 (肺腺癌5例、扁平上皮癌2例; 年齢61-83歳; 女性4例、男性3例; 多様な病期) の腫瘍生検からinDropプラットフォームを用いてscRNA-seqを実施した。生細胞フィルタリング後、合計40,362細胞のトランスクリプトームを取得し、うち5,912細胞 (15%) が線維芽細胞、内皮細胞、赤血球、上皮細胞と分類され、残りの34,450細胞が免疫細胞として解析された。患者の同意はDana-Farber Brigham and Women’s Cancer Center IRBの承認を得て取得された。

マウス肺腫瘍モデル: KP1.9腫瘍細胞株を注入した肺腺癌担癌マウス (n=2) および腫瘍なし健常マウス (n=2) から、CD45+細胞約17,000個をソーティングし、フィルタリング後15,939細胞をscRNA-seqで解析した。マウスは10週齢のC57BL/6雄マウスを使用し、腫瘍細胞注入から4週間後に解析した。マウス実験はMGH Institutional Animal Care and Use Committee (IACUC) の承認を得て実施された。

scRNA-seqデータ解析: 取得したscRNA-seqデータは、SPRING (Single-cell RNA-seq Processing, Interpretation, and Network Generation) を用いて2次元可視化された。細胞の同定には、ヒトではFACSソーティングされた細胞集団のバルク全トランスクリプトームプロファイル (Newman et al. NatMethods 2015) を、マウスではIMMGEN (Immunological Genome Project) コンソーシアムのデータ (Heng et al., 2008) を参照データとして、Bayesian分類器 (Zemmour et al., 2018) を適用した。細胞多重体 (doublet) の除去にはScrublet (Wolock et al., 2018) を用いた。

種間比較: ヒトおよびマウスのTIMサブポピュレーション間の転写的対応は、Bayesian分類器と階層的クラスタリングを用いて系統的に解析された。遺伝子発現の類似性は、直交遺伝子リスト (Table S4) を用いて定量化された。

予後解析: 肺腺癌患者1,127例のデータセット (PRECOG) (Gentles et al., 2015) を用いて、TIMサブポピュレーション特異的マーカー遺伝子の発現と臨床予後の関連を系統的に解析した。Kaplan-Meier曲線と単変量Cox回帰分析を用いて、各マーカー遺伝子の予後予測能を評価した。

in situ検証: scRNA-seqで予測されたhN5好中球の患者間での存在量の差異を、in situ hybridization (RNAscope) と免疫組織化学 (IHC) を用いて検証した。PI3 (hN5マーカー) とミエロペルオキシダーゼ (MPO、汎好中球マーカー) の発現を腫瘍組織切片で評価し、定量化した。

血液骨髄細胞との比較: NSCLC患者6例の末梢血を赤血球除去後、scRNA-seqで解析し14,411細胞を取得した。腫瘍内TIMと血液骨髄細胞のSPRING可視化、階層的クラスタリング、および差次的遺伝子発現解析 (Mann-Whitney U検定、5% FDR) を行い、両組織間の細胞状態の重複と差異を評価した。