• 著者: Jiawan Wang, Zhan Yao, Philip Jonsson, Amy N. Allen, Alice Can Ran Qin, Sharmeen Uddin, Ira J. Dunkel, Mary Petriccione, Katia Manova, Sofia Haque, Marc K. Rosenblum, David J. Pisapia, Neal Rosen, Barry S. Taylor, Christine A. Pratilas
  • Corresponding author: Christine A. Pratilas (The Sidney Kimmel Comprehensive Cancer Center at Johns Hopkins)
  • 雑誌: Cancer Discovery
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-07-09
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29880583

背景

ERKシグナル経路の変異活性化はヒト腫瘍の約3分の1に認められ、BRAF点変異・融合、RAS-GTPaseの変異活性化、RTK (receptor tyrosine kinase) の調節異常など多様な機序で生じる。BRAF変異はヒト癌全体で高頻度に認められ (Davies et al. Nature 2002)、ATP競合型のタイプI RAF阻害薬 (vemurafenib、dabrafenib) はBRAF V600E変異メラノーマに対して顕著な奏効を示し承認されている (Chapman et al. NEnglJMed 2011)。これらの薬剤はBRAF V600Eがモノマーとして機能する細胞でのERKシグナルを選択的に抑制するという独特な機序をもつが、奏効後に獲得耐性が生じることが臨床上の課題となっている。

BRAF V600E腫瘍でのRAF阻害薬獲得耐性機序として、メラノーマや大腸癌での研究からRAS再活性化、RTK活性化、p61 BRAF V600Eなど異常スプライシングBRAFアイソフォームによるRAFダイマー駆動型ERKシグナルへの切り替えが報告されてきた。一方、EGFR T790MやKIT二次変異のように標的キナーゼ自体の二次変異 (secondary mutation) による獲得耐性は他のキナーゼでは臨床的に重要な機序として確立されており (Balak et al. ClinCancerRes 2006)、EGFRやKITでは耐性症例の相当割合を占める。しかし、BRAFの二次変異が実際の患者検体において奏効後に新規獲得され、臨床的な獲得耐性を引き起こすことを明確に示した報告は手薄であった。過去の報告はin vitro mutagenesis screenや単例症例報告にとどまり、治療前検体での変異不在を感度高く確認したものはなかった。また、小児脳腫瘍という腫瘍系統 (lineage) 特異的な耐性機序がメラノーマ以外でも生じるかについての知見も不足していた。すなわち、BRAF変異腫瘍においてBRAF自体の二次変異が治療誘導性に出現するか、その分子的根拠は何かという問いは未解明のまま残されており、このギャップを埋めることが耐性克服に向けた薬剤開発に不可欠であった。

目的

BRAF V600E変異退形成性ガングリオグリオーマ (anaplastic ganglioglioma、WHO grade 3) の小児患者においてRAF阻害薬ダブラフェニブへの完全奏効後に獲得耐性が生じた症例のゲノム的・機能的機序を解明することを目的とした。具体的には、治療前後の腫瘍検体および耐性由来短期培養株の多角的シーケンシングと機能実験により、BRAFの二次変異が実際に獲得耐性を駆動するかを検証し、当該耐性を克服しうる治療薬候補を同定することを目指した。

結果

BRAF L514V二次変異の同定とin cis配置の確認:15歳男児のBRAF V600E変異退形成性ガングリオグリオーマは、ダブラフェニブ (小児用第I/II相試験 NCT01677741) 投与開始8週で部分奏効を示し、12週には完全奏効 (complete radiographic response) に達したが、40週で進行し治療中止となった (Fig. 1A)。外科的に切除された治療前・後腫瘍のWES解析では、治療前腫瘍にBRAF V600E変異 (clonal、cancer cell fraction 約1.00)、SMAD4 G510R、ATM E1428Kfs*23変異、CDKN2A/Bホモ接合性欠失が認められた。治療後腫瘍では、これらのクローン変異を共有しつつ、治療前には検出されなかったサブクローナルなBRAF L514V変異がcancer cell fraction 約0.30 (約30%の腫瘍細胞) で新規出現した (Fig. 1B)。SK-BT-DR細胞株も同様のゲノムプロファイルを示し、治療後腫瘍のゲノム的代表性が確認された。BRAF L514V変異は、ddPCR (感度0.016%) を用いた治療前腫瘍および末梢血の解析でいずれも検出されなかった。n=20の細菌コロニーシーケンス解析により、L514V変異は常にV600E変異と同一アレル (in cis) 上に存在し、L514V単独のアレルは認められなかった。BRAF V600E-ダブラフェニブ共結晶構造 (PDB 4XV2) の解析により、L514残基はATP結合ポケット内のαC-β4ループに位置し、ダブラフェニブ結合部位から約4 Åの距離にある (Fig. 1C)。この位置はEGFR T790Mと相同な部位に該当し、薬剤結合親和性の変化が示唆された。

BRAF V600E/L514VによるRAFダイマー化誘導とRAF阻害薬感受性低下:BRAF V600E/L514V (VELV) を4種類の細胞株に発現させると、BRAF V600E (VE) 単独と比較してダブラフェニブ (100 nmol/L) によるpERK抑制が有意に低下した (Fig. 2A-C)。pERK抑制の濃度-反応曲線はVELV発現細胞で右方シフトし、低用量での感受性低下が確認された (Fig. 2E-F)。72時間増殖アッセイではVELV発現細胞のIC50がVE発現細胞より有意に上昇した。ソフトアガーコロニー形成アッセイ (2週間) においても、ダブラフェニブ 100 nmol/L存在下でVELV発現A375細胞はVE発現細胞と比較して有意に多いコロニーを形成した (n=3 wells per condition、p<0.0001、Fig. 2I)。免疫沈降アッセイにより、BRAF V600E/L514VはBRAF V600E単独よりも強いBRAFホモダイマー形成を示し、発現量が中〜高レベルでも維持された (Fig. 3A-B)。この現象はRAS活性に依存しなかった。ダイマー化阻害変異R509Hの導入により、BRAF V600E/L514V発現細胞のpERK活性が低下し、ダブラフェニブ感受性が部分的に回復した (Fig. 3C-D、p<0.01)。in vitroキナーゼアッセイでは、kinase-dead MEK1を基質とした場合にBRAF V600EとBRAF V600E/L514Vの間でダブラフェニブによるキナーゼ活性阻害の差は認められず、L514Vはゲートキーパーではなくダイマーインターフェース変異として機能することが示された。これらのデータは、BRAF L514VがBRAF V600Eとin cisに存在することでRAFダイマー化を促進し、モノマー特異的なtype I RAF阻害薬からERKシグナルを解離させることを示している。

新規RAFダイマー阻害薬BGB3245/BGB3290による耐性克服:8種類のRAF阻害薬パネルスクリーニング (A375安定発現系およびSKBR3一過性発現系) において、BGB3245とBGB3290のみがBRAF V600E単独とBRAF V600E/L514V両方に対して同等の効力でERKシグナルを抑制し、細胞増殖を阻害した (Fig. 5A-D)。BGB3245のIC50はVE発現細胞およびVELV発現細胞でいずれも約10 nMと同等であった。これに対し、dabrafenib、vemurafenib、PLX7904、PLX8394、LY3009120、TAK-632はすべてVELVに対してVEより有意に低い活性を示した。MEK阻害薬trametinib (20 nmol/L) は単剤またはdabrafenib併用でERKシグナルを部分的に抑制したが、72時間増殖アッセイおよび2週間コロニー形成アッセイでは、VEとVELVの間の感受性の差を完全には解消できなかった (Fig. 4C-D、data mean ± SEM)。ERK阻害薬SCH772984はBGB3245と同様にVEおよびVELVに対して同等の抑制効果を示した。BGB3245の同等効力の分子基盤として、LGX818によるRAFダイマー第一サイト占有後の残る第二サイトへのBGB3245の親和性試験から、BGB3245がモノマーBRAF V600Eとダイマー第二サイトの双方を同等の効力で阻害できることが示された (Supplementary Fig. S18)。

考察/結論

本研究は、これまでの研究では臨床検体での明確な証拠が手薄だったBRAF二次変異による獲得耐性機序を、治療前後の患者腫瘍検体とddPCR (感度0.016%) による厳密な確認を通じて初めて実証した。

既報との違い: これまでのBRAF V600E変異腫瘍でのRAF阻害薬耐性研究は、RAS再活性化、RTK活性化、p61 BRAF V600Eなど異常スプライシングによるRAFダイマー化が主要機序として同定されてきた。これらと対照的に、本研究で同定されたBRAF L514Vは一次変異V600Eと同一アレル上に出現するBRAF自体の二次変異であり、タンパク構造的にはダイマーインターフェースを直接修飾する機序をもつ。過去の2つの症例報告 (Choi 2014、Hoogstraat 2015) ではBRAF L505Hが候補として示されたが、治療前検体での不在が確認されていないか、治療前から存在が知られていた点で問題が残っており、本研究の知見は既報とは根本的に異なる。

新規性: BRAF L514VがαC-β4ループでダブラフェニブ結合面に約4 Å以内で近接しつつ、キナーゼ活性の直接阻害感受性を変えることなくRAFホモ/ヘテロダイマー化を促進するという novel なメカニズムは、これまで報告されていない形のtype I RAF阻害薬耐性機序を示す。L514Vはゲートキーパー変異ではなくダイマーインターフェース変異として機能し、RAS非依存的なダイマー駆動型ERKシグナルを確立する。この知見は、BRAF変異腫瘍の組織型 (lineage) が異なっても、RAF阻害薬に対する獲得耐性がRAFダイマー化という共通のアウトカムに収束しうることを示す重要な概念的貢献でもある (Yao et al. CancerCell 2017)。

臨床応用: BGB3245とBGB3290はBRAF V600E単独とBRAF V600E/L514V双方をほぼ同等の効力 (IC50約10 nM) で抑制することが示されており、L514Vのような二次変異による耐性腫瘍への切り替え治療薬として臨床応用の可能性がある。臨床的意義として、ダブラフェニブ耐性BRAF V600E腫瘍に対して、従来のRAS/RTK活性化機序のスクリーニングに加え、BRAF自体の二次変異の探索が必須であることが示唆される。臨床現場での再生検やcell-free DNA解析による耐性機序の同定が治療選択を最適化するうえで不可欠となる。また、bench-to-bedside研究として、本研究は小児脳腫瘍においても成体腫瘍と類似した分子的耐性機序が生じうることを示しており、腫瘍系統横断的な耐性監視の必要性を示している。ERK阻害薬SCH772984も同等の克服効果を示しており、次世代ERK阻害薬を含む複数の治療戦略が候補となりうる。

残された課題: 本研究の主要なlimitationは単一症例の詳細解析であることであり、BRAF L514Vのような二次変異がBRAF V600E変異腫瘍全般での耐性において一般的な機序を構成するか、またその頻度は不明である。BGB3245とBGB3290の臨床有効性・安全性の評価、および他の腫瘍型・他のRAF阻害薬レジメン後での類似変異出現の検証が今後の研究課題として残されている。大規模クリニカルシーケンシングコホート (Zehir et al. NatMed 2017) を活用した後ろ向き探索は、BRAF耐性二次変異の頻度推定に貢献できる。さらに、耐性出現前のサブクローナルな変異前駆体を早期検出するための高感度スクリーニング戦略の確立も今後の展望として重要である。

方法

患者・検体収集: 15歳男児のBRAF V600E変異退形成性ガングリオグリオーマ患者を対象とした。本患者は小児用ダブラフェニブのグローバル第I/II相試験 (NCT01677741) に登録され、試験登録前 (pre-dabrafenib) および治療後進行時 (post-dabrafenib) の外科的切除検体を解析した。再発後腫瘍から短期培養細胞株SK-BT-DR (Sloan Kettering, brain-tumor, dabrafenib resistant) を樹立した。検体収集はMSKCC IRB 06-107および10-130承認のプロトコル下でヘルシンキ宣言に準拠して実施した

ゲノム・シーケンシング解析: 治療前後腫瘍検体とSK-BT-DRに対してWES (whole-exome sequencing)、RNA-seq、MSK-IMPACT targeted sequencing (MSK-IMPACT: hybridization capture-based NGS clinical assay) を実施した。コピー数変異はWESデータから算出し、FISH (fluorescence in situ hybridization) で確認した。BRAF L514V変異の時期特異性をddPCR (droplet digital PCR、検出感度0.016%) で評価し、治療前腫瘍および末梢血での不在を確認した。L514VとV600EのIn cis (same-allele) 配置の確認のため、SK-BT-DR由来のBRAFコーディング配列を持つプラスミドで細菌を形質転換しn=20コロニーをSanger sequencingで解析した。タンパク構造解析にはBRAF V600E-ダブラフェニブ複合体結晶構造 (PDB 4XV2) を使用した。

細胞・機能実験: SKBR3 (HER2-amplified breast cancer cell line, low intrinsic RAS activity)、DBTRG-05MG (BRAF V600E brain tumor cell line)、NIH-3T3 (wild-type BRAF murine fibroblast cell line)、A375 (BRAF V600Eメラノーマ) の4種の細胞株を用いた。A375細胞にはドキシサイクリン (doxycycline) 誘導性ベクターにてBRAF V600E (VE) またはBRAF V600E/L514V (VELV; double-mutant construct) を安定導入した。免疫沈降 (IP: co-immunoprecipitation) アッセイによりBRAFホモダイマー化を評価し、ダイマー化阻害ツール変異R509Hを導入してダイマー依存性を確認した。統計解析は対応のないStudent t-testを使用した。

薬剤感受性評価: pERK抑制はウェスタンブロット・デンシトメトリーで定量し、72時間細胞増殖はCell Counting Kit-8 (CCK-8, tetrazolium-based cell viability assay)で評価 (96ウェル、n=4 replicates、data mean ± SEM (standard error of the mean))、2週間ソフトアガーコロニー形成アッセイ (n=3 wells) で長期増殖阻害を評価した。IC50・IC75・IC90はCompuSynソフトウェアで算出した。タイプI RAF阻害薬 (vemurafenib、dabrafenib)、paradox breaker (PLX7904、PLX8394)、タイプII RAFダイマー阻害薬 (LY3009120、TAK-632)、新規RAFダイマー阻害薬 (BGB3245、BGB3290) の8化合物に加え、MEK阻害薬trametinibおよびERK阻害薬SCH772984に対する感受性を比較検討した。