- 著者: Miho J Fuse, Koutaroh Okada, Tomoko Oh-hara, Hayato Ogura, Naoya Fujita, Ryohei Katayama
- Corresponding author: Ryohei Katayama (Cancer Chemotherapy Center, Japanese Foundation for Cancer Research, Tokyo, Japan; ryohei.katayama@jfcr.or.jp)
- 雑誌: Molecular Cancer Therapeutics
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-07-27
- Article種別: Original Article
- PMID: 28751539
背景
NTRK1 (Neurotrophic receptor tyrosine kinase 1) 遺伝子再編成は、1986年に大腸癌において最初に同定された融合癌遺伝子である。TPM3-NTRK1などのNTRK1融合タンパク質は、融合パートナーのオリゴマー化ドメインを介した構成的二量体化と恒常的なTRKA (Tropomyosin receptor kinase A) キナーゼ活性化を引き起こし、神経成長因子である NGF (Nerve growth factor) 非依存性に強力な発癌ドライバーとして機能する。NTRK1、NTRK2、NTRK3の3遺伝子すべてにおいて融合体が報告されており、甲状腺癌 (12%)、膠芽腫 (2.5%)、肺癌 (1%)、大腸癌をはじめとする複数のがん種で報告されている。近年、entrectinibやLOXO-101 (larotrectinib) などのNTRK阻害薬 (NTRK tyrosine kinase inhibitor) が、NTRK再編成陽性のがん患者において劇的な腫瘍縮小効果を示すことが臨床試験で報告され、注目を集めていた。例えば、Vaishnavi et al. CancerDiscov 2015やVaishnavi et al. NatMed 2013は、NTRK融合遺伝子の重要性とNTRK-TKIの有効性を preclinical および臨床データから実証している。また、Drilon et al. CancerDiscov 2017などの臨床試験の進展により、複数のがん種に対する治療薬としての有用性が確立されつつあった。
しかし、EGFR、ALK、ROS1などの先行キナーゼ標的薬の歴史的経験から、NTRK-TKIに対する獲得耐性の出現は不可避であると予測されていた。実際に、他のキナーゼ阻害薬においては、Kobayashi et al. NEnglJMed 2005がEGFR変異肺癌におけるゲフィチニブ耐性機序を、Choi et al. NEnglJMed 2010やKatayama et al. SciTranslMed 2012がALK再編成肺癌におけるクリゾチニブ耐性機序をそれぞれ体系的に報告しており、二次変異やバイパス経路の活性化が主要な耐性要因となることが知られていた。NTRK-TKIの臨床導入が目前に迫る中、NTRK1再編成陽性がんにおける獲得耐性メカニズムの全貌は未解明であり、特にキナーゼドメインにおける新規二次変異のプロファイルや、非変異依存的なバイパス耐性経路の存在については知識が不足していた。また、これらの耐性を克服するための効果的な治療戦略も確立されておらず、臨床現場における大きな課題となっていた。本研究は、これらの学術的・臨床的ギャップを埋めることを目的として実施された。
目的
本研究の目的は、TPM3-NTRK1再編成陽性のがん細胞モデルを用いて、NTRK-TKIに対する獲得耐性メカニズムを包括的に同定することである。具体的には、ENU (N-ethyl-N-nitrosourea) ランダム変異導入スクリーニングおよびin vitroにおける長期薬剤曝露による耐性株樹立の2つのアプローチを組み合わせ、キナーゼドメインの二次変異およびバイパス経路活性化を同定する。さらに、FDA承認済み阻害薬を含む低分子化合物ライブラリースクリーニングを通じて、同定された各耐性メカニズムを克服するための最適な治療戦略および薬剤併用療法を開発・提示することを目指す。
結果
NTRK1阻害薬に対する感受性プロファイルの確立: Ba/F3-TPM3-NTRK1細胞は、cabozantinib (IC50 16.1 nmol/L)、entrectinib (IC50 1.7 nmol/L)、foretinib (IC50 1.9 nmol/L)、nintedanib (IC50 57.1 nmol/L)、crizotinib (IC50 99.1 nmol/L)、LOXO-101 (IC50 16.2 nmol/L) に対して良好な感受性を示した (Fig. 1A)。KM12細胞においても同様の感受性傾向を確認した (Fig. 1B)。免疫ブロット解析において、foretinibおよびentrectinibは10 nmol/LでNTRK1の自己リン酸化を完全に阻害した一方、cabozantinibおよびLOXO-101は100 nmol/Lで阻害を示し、nintedanibは100 nmol/Lでも部分的な阻害に留まった (Fig. 1C)。
ENUスクリーニングによる新規NTRK1耐性変異の同定: cabozantinib、nintedanib、foretinibによる選択圧下でのENUスクリーニングにより、NTRK1キナーゼドメイン内に5種の二次変異を同定した: L564H (αCヘリックス領域)、G595LおよびG595R (solvent front領域)、F646I (DFGモチーフ近傍)、D679G (活性化ループ近傍) (Fig. 2A, B)。G595R変異は、3種すべての選択薬において最も高頻度に出現する共通の耐性変異であった (Fig. 2A)。一方で、選択圧を生き延びた221クローンにおいてはNTRK1キナーゼドメインに変異が認められず、非変異依存的な耐性メカニズムの存在が示唆された。変異を導入したBa/F3細胞は、野生型 (WT) と比較して選択薬に対する著明な耐性を示し (Fig. 2C)、100 nmol/Lのcabozantinib処理下でもNTRK1のリン酸化が維持されていた (Fig. 2D)。
各二次変異の感受性プロファイルと耐性克服戦略: 同定された各変異体は、薬剤ごとに特徴的な感受性プロファイルを示した (Fig. 4A)。L564H変異体はentrectinib感受性を維持していたが、ponatinib、cabozantinib、foretinibに耐性であった。F646I変異体はponatinib感受性を示したが、cabozantinibに耐性であった。D679G変異体はentrectinibおよびLOXO-101感受性を示したが、ponatinibやcabozantinibに耐性であった。臨床で報告されているG667C変異体は、entrectinibやLOXO-101に対して高度耐性を示す一方、cabozantinibに対しては感受性が亢進していた (Fig. 3B-D)。36種の阻害薬スクリーニングの結果、マルチキナーゼ阻害薬であるponatinibおよびnintedanibが、G667C変異体に対して野生型よりも低いIC50値で強力な増殖抑制効果を示した。具体的には、G667C変異体に対するponatinibの IC50 7.0 nmol/L vs WTに対する IC50 70.0 nmol/L であり、10.0-fold の感受性亢進が認められた (Fig. 3F, G)。一方で、solvent front変異であるG595RおよびG595L変異体は、テストしたすべてのNTRK-TKIに対して高度な耐性を示し、下流シグナルを阻害するMEK阻害薬trametinibのみが有効であった (Fig. 3E)。また、Hsp90 (Heat shock protein 90) 阻害薬である 17-AAG (17-allylamino-17-demethoxygeldanamycin) は、野生型およびすべての変異型TPM3-NTRK1融合タンパク質の分解を誘導し、一様に優れた増殖抑制効果を示した (Supplementary Fig. S4)。in vivoモデルにおいて、ponatinib (30 mg/kg)、cabozantinib (10 mg/kg)、entrectinib (15 mg/kg) は、n=5 mice 以上の治療群においてKM12皮下移植腫瘍の増殖を有意に抑制し (p<0.05)、腫瘍組織内でのpNTRK1およびpAKTのシグナル阻害が確認された (Supplementary Fig. S5)。
IGF1Rバイパス経路活性化を介したcabozantinib耐性: KM12親株から樹立された複数のcabozantinib耐性クローン (CR4、CR20など) は、NTRK1キナーゼドメインに変異を保有しておらず、cabozantinibに対するIC50値が10.0-fold 以上上昇していた (Fig. 5A, B)。CR20細胞では、cabozantinib処理によってNTRK1のリン酸化は完全に阻害されているにもかかわらず、下流のpAKTシグナルが維持されていた (Fig. 5C)。phospho-RTK arrayを用いた解析により、cabozantinib処理下のCR20細胞において IGF1R (Insulin-like growth factor 1 receptor) の活性化亢進が同定された (Fig. 5E)。IGF1R選択的阻害薬であるAEW541またはOSI-906を併用することにより、CR20細胞のcabozantinibに対する感受性は完全に回復した。OSI-906 (300 nmol/L) 併用時において、CR20細胞におけるcabozantinibの IC50 は 1910 nmol/L から 37.3 nmol/L へと著明に改善した (Fig. 5G)。この併用効果は、entrectinibやLOXO-101などの他のNTRK-TKIに対しても同様に観察された (Fig. 5F, G)。また、NTRK1とIGF1Rの両者を同時に阻害するデュアル阻害薬AZD3463は、単剤でCR20細胞およびKM12親株の双方に対して同等の強力な増殖抑制効果を示した (Supplementary Fig. S8D)。
Persister細胞の存在と初期併用療法による根絶: ソフトアガーコロニー形成アッセイにおいて、KM12親株および単一クローン (WT-5) 由来細胞をcabozantinib単剤で14日間処理した場合、生存し続ける persister コロニーが多数観察されたが、cabozantinibとOSI-906 (300 nmol/L) の併用処理により、これら persister 細胞の出現は著明に抑制された (Fig. 5I)。さらに、感受性単一クローンであるWT-6細胞を、高濃度のcabozantinibまたはentrectinib存在下で2ヶ月間長期培養した結果、de novo (新規) にG595R変異 (1783G>A) を獲得した耐性株 (6-CR、6-EntreR1) が出現した (Fig. 6A, C)。樹立された6-CR細胞は、すべてのNTRK阻害薬に高度耐性を示し、OSI-906を併用しても耐性は克服されなかった (Fig. 6B)。これは、初期の不完全な治療によって生き残った persister 細胞から、ゲノム変異を伴う真の獲得耐性細胞へと進化する経路が存在することを示している。
考察/結論
本研究は、NTRK阻害薬が臨床承認される以前の2017年当時において、NTRK1再編成陽性がんにおけるNTRK-TKIに対する獲得耐性メカニズムを前臨床モデルを用いて体系的に解明した、極めて先駆的な報告である。本研究の成果は、他の主要なドライバーキナーゼ阻害薬における耐性研究、例えば Sharma et al. Cell 2010 が示した可逆的な薬剤耐性状態 (drug-tolerant state) や、Hata et al. NatMed 2016 がEGFR変異肺癌細胞において示した persister 細胞からの耐性進化経路と非常によく一致している。
先行研究との違い: 本研究は、単一の耐性クローン解析のみに依存した従来の耐性研究と異なり、ENUランダム変異導入スクリーニングと、患者由来細胞株 (KM12) を用いた長期薬剤曝露による耐性株樹立という2つの相補的アプローチを組み合わせることで、キナーゼドメイン変異とバイパス経路活性化の双方を網羅的にマッピングした点で大きく異なる。
新規性: 本研究で初めて、NTRK1キナーゼドメインにおける新規二次変異 (L564H、G595L、F646I、D679G) を同定し、さらにG667C変異に対してponatinibやnintedanibが有効であるという特異的な感受性プロファイルを新規に同定した。また、NTRK阻害薬耐性におけるIGF1Rバイパス経路の活性化を初めて実証し、これが初期の persister 細胞の生存維持に寄与していることを明らかにした。
臨床応用: 本知見は、NTRK再編成陽性がん治療における「耐性克服」および「耐性出現の予防」という2つの観点から臨床応用に直結する。特に、G667C変異獲得時にはponatinibへの切り替えが有効であること、また治療初期からNTRK-TKIとIGF1R阻害薬 (あるいはAZD3463のようなマルチキナーゼ阻害薬) を併用することで、persister 細胞を事前に根絶し、将来的な高度耐性変異 (G595Rなど) の出現を予防できる可能性を示した。この概念は、次世代NTRK阻害薬であるrepotrectinibやselitrectinibの臨床開発を強力に後押しする基盤データとなった。
残された課題: 今後の検討課題として、最も高度な耐性を示したG595R solvent front変異を直接阻害できる次世代NTRK阻害薬の創薬開発 (当時未解決) が挙げられる。また、本研究で得られた知見がNTRK2やNTRK3融合陽性症例にどの程度外嘘可能であるか、さらには実際の臨床検体における各耐性機序の発生頻度や、単一患者内における複数耐性機序の不均一性 (heterogeneity) への対応戦略について、さらなる臨床的検証が必要である。
方法
細胞株およびモデル系: KM12大腸癌細胞株から抽出した TPM3-NTRK1 cDNAをpLenti6.3ベクターに挿入し、レンチウイルスを用いてBa/F3細胞 (IL3依存性マウスpro-B細胞) に形質導入した。IL3 (Interleukin-3) 非依存性増殖能を獲得した TPM3-NTRK1 依存性Ba/F3細胞を樹立した。また、内因性に TPM3-NTRK1 融合遺伝子を保有するKM12大腸癌細胞株も実験に使用した。KM12細胞株は2016年にショートタンデムリピート (STR) プロファイリング分析により認証され、すべての細胞株は解凍後6ヶ月以内に使用された。
ENUランダム変異導入スクリーニング: TPM3-NTRK1 依存性Ba/F3細胞の単一クローン (clone 28) をENU (100 μg/mL、24時間) で処理し、DNA変異をランダムに導入した。その後、cabozantinib (300, 1,000, 2,000 nmol/L)、nintedanib (700, 1,000, 2,000 nmol/L)、foretinib (100, 300, 1,000 nmol/L) の各濃度条件下で4週間培養し、耐性クローンを選択した。得られた耐性株のNTRK1キナーゼドメイン領域を抽出し、Sangerシーケンシング法により二次変異を同定した。
in vitro耐性株の樹立: KM12親株および限界希釈法により得られた単一クローンである WT-5 (wild-type clone 5) および WT-6 (wild-type clone 6) に対し、高濃度のcabozantinib (1 μmol/L) またはentrectinib (600 nmol/L) を最長2ヶ月間持続曝露し、生き残った persister (薬剤残存) 細胞から耐性クローンである CR4 (cabozantinib-resistant clone 4)、CR20 (cabozantinib-resistant clone 20)、6-CR、6-EntreR1を限界希釈法により樹立した。
薬剤感受性アッセイおよびスクリーニング: 36種の各種キナーゼ阻害薬 (臨床承認済みまたは臨床試験中の化合物) に対する感受性を、CellTiter-Gloアッセイを用いて72時間処理後に測定し、IC50値を算出した。変異型Ba/F3細胞に対する阻害効果はヒートマップにより可視化した。
シグナル伝達および分子機能評価: 免疫ブロット (Western blotting) 法により、pNTRK1、NTRK1、pAKT、AKT、pERK、ERK、pIGF1R、IGF1R、pS6、S6、および b-actin の発現およびリン酸化状態を評価した。活性化受容体チロシンキナーゼ (RTK) の網羅的同定には、phospho-RTK arrayを使用した。足場非依存性増殖能の評価には、0.3%ソフトアガーを用いたコロニー形成アッセイ (soft agar assay) を実施した。
in vivo治療効果検証: KM12細胞 (3 × 10⁶ cells) を BALB/c nu/nu マウス (Balb-c nu/nu) の皮下に移植し、腫瘍体積が約200 mm³に達した時点でランダム化を行い、車両対照群、entrectinib群、cabozantinib群、ponatinib群に分けて経口投与を行った。腫瘍組織を回収し、免疫ブロットによりシグナル阻害を検証した。統計解析には Mann-Whitney U test (Mann-Whitney U 検定) を用いた。