- 著者: Ibiayi Dagogo-Jack, Alice T. Shaw
- Corresponding author: Alice T. Shaw (Massachusetts General Hospital, Boston)
- 雑誌: Nature Reviews Clinical Oncology
- 発行年: 2018
- Epub日: 2017-11-08
- Article種別: Review
- PMID: 29115304
背景
がんは動的な疾患であり、発症後も継続して進化し、遺伝的に多様なサブクローン集団から成る分子的に不均一な腫瘍塊が形成される。Hanahan & Weinberg による「がんの特徴」の提唱以降、複数の機能獲得が腫瘍進化の基盤として理解されてきたが、単一腫瘍内に遺伝的に異なるサブクローンが共存し、それぞれが異なる治療感受性を持つという「腫瘍内不均一性 (intratumoural heterogeneity: ITH)」の臨床的重要性は近年になって急速に認識されるようになった。Gerlinger et al.による腎細胞がんの多領域シークエンシング (Gerlinger et al. NEnglJMed 2012) は、同一患者の異なる腫瘍領域間で遺伝的プロファイルが大きく異なることを初めて大規模に実証し、ITH研究の潮流を作った。続くJamal-Hanjani et al.による100例NSCLCの多領域解析 (Jamal-Hanjani et al. NEnglJMed 2017) では、体細胞変異の中央値30%がサブクローン性であり、コピー数不均一性の高さが予後の独立した予測因子であることが示された。さらに、Le et al.によるMMR欠損腫瘍への免疫チェックポイント阻害薬の奏効報告 (Le et al. NEnglJMed 2015) は、ゲノム不安定性から生じる高変異量が免疫療法感受性と直結することを示した先行研究の一つである。しかしながら、これらの先行研究は単一がん種または単一測定技術に焦点を絞っており、「ITHがどのような分子機序で治療耐性を駆動するか」「複数の測定技術をどう使い分けるか」「ITHを克服するための合理的治療設計とは何か」という包括的な知見の統合は未解明のまま残されており、先行研究の蓄積にもかかわらず手薄な状態であった。特に、空間的・時間的という2軸でITHを体系化し、薬物寛容細胞という新たな耐性経路を統合した上でコンビネーション戦略の合理的根拠を示す枠組みが不足していた点に本論文が埋めるべきギャップが存在する。
目的
腫瘍内不均一性 (空間的・時間的) の発生原因と実態を体系的に整理し、ITHが治療耐性をいかに推進するかを論じる。多領域サンプリング・単細胞シークエンシング・ctDNA液体生検・剖検研究という4種の新興技術の可能性と限界を評価し、ITHを考慮した合理的な抗腫瘍療法戦略の設計方法を概観する。
結果
ゲノム不安定性とAPOBEC変異シグネチャー:ゲノム不安定性は点変異から全ゲノム倍加まで多様なスペクトルを持ち、ITH発生の根本的な「原料」となる。外来変異原 (UV照射・タバコ煙) と内在的プロセス異常 (DNA複製エラー・修復欠陥・酸化ストレス) が変異蓄積を促進する。マイクロサテライト不安定性 (MSI) はDNA不適正修復 (MMR) の機能不全により発生し、一部のCRCなどで腫瘍変異量 (TMB) を著しく増加させる。このMMR欠損腫瘍では pembrolizumabへの奏効率が40% (MMR正常CRCでは0%) であり、組織横断 (tumor-agnostic) での初のFDA承認を取得した。DNA脱アミノ化酵素APOBEC3Bの発現上昇は全がんの約半数でAPOBEC変異シグネチャー (TpCサイトのC>T・C>G変異) を生成し、ER陽性乳がんの全ゲノムシークエンシング (n=1,500例) でAPOBEC3B高発現が無病生存期間・全生存期間の短縮と有意に関連した。APOBEC変異シグネチャーは腫瘍後期ほど濃縮され、化学療法曝露後により顕著となる。染色体不安定性 (CIN) は分裂時の分配エラーによりゲノム多様性を生成する。Nowellの1976年クローン進化モデルは現在も主流の枠組みであり、線形進化 (連続的変異の積み重ねで後継クローンが先行クローンを淘汰) と分岐進化 (共通祖先から複数の遺伝的に異なるサブクローンが独立して拡張) を区別する。固形腫瘍では分岐進化が一般的であり、より高いITHが生成される (Fig 2)。
空間的不均一性:空間的不均一性とは、異なる腫瘍領域・転移巣間での遺伝的多様性の不均一分布を指す (Fig 1)。100例早期NSCLCの多領域サンプリング (327腫瘍領域) では体細胞変異の中央値30%がサブクローン性であり、単一領域のみ生検した場合、サブクローン変異の約76%がクローン性と誤分類される可能性が示された。コピー数不均一性が高い患者 (>48%サブクローン性コピー数変化) では死亡リスクが有意に高く、HR 4.9 (95% CI 1.8-13.1、P=0.0004) と報告された。RCCでは少なくとも3領域の採取で5つの主要変異の90%を検出できるとされ、現在の単一生検ベースの診断には限界がある。黒色腫の多領域全エクソームシークエンシング (n=41領域/8例) では、BRAFやNRAS などの主要ドライバー変異は均一に分布する一方、追加の体細胞変異は不均一に分布した。転移巣については、原発巣から転移巣への単クローン播種という単純モデルに加え、腫瘍自己播種・転移間クロス播種・多クローン性播種も報告されており、CRCの遠隔転移の2/3がリンパ節転移と遺伝的に異なる独立クローン由来であるという知見は従来仮定を覆す。膵臓がんでは数理モデルから転移能獲得まで少なくとも10年を要することが示唆される。単細胞シークエンシングは膠芽腫での単細胞レベルEGFRコピー数変動・2種の切断型EGFRバリアントが独立サブクローンに由来することを解明した。
時間的不均一性と薬物寛容細胞:時間的不均一性とは治療曝露・自然病勢進行に伴う腫瘍の分子組成の時間的変化を指す (Fig 1b)。テモゾロミド投与による膠芽腫ではMMR遺伝子変異が濃縮されて高変異表現型が生成される。分子標的療法は強力な選択圧を腫瘍に与え、感受性クローンを急速に除去する一方、前処置腫瘍に低変異アレル頻度で既存していた耐性サブクローンを選択的に増殖させる (Fig 3a)。細胞バーコード実験はこの機序を前臨床的に確認した。erlotinib耐性として出現したEGFR T790M変異は、10ヶ月の休薬後に消失し再投与で再出現したという症例は、選択圧なしに耐性クローンが消退し得るクローン可塑性を示す。3種のALK-TKI連続治療の結果、次世代ALK-TKI全てに高度耐性をもたらすcompound変異が出現しながらcrizotinibへの感受性が回復するという例外的知見は、逐次TKI使用の限界と反復生検の重要性を示す。一方で薬物寛容 (drug-tolerant) 細胞は、適応的代謝変化・生存シグナル・エピジェネティクス変化によって初期治療を生き延びる小集団であり、EGFR T790MやMET増幅などの耐性変異をde novoで「獲得」し得ることが前臨床研究で示された (Fig 3b)。この発見は、耐性が「既存クローンの選択」のみならず「drug-tolerant細胞からの新規変異獲得」という2経路で生じることを意味し、残存病変を標的とする治療戦略の重要性を強調する。
液体生検 (ctDNA) による不均一性の非侵襲的追跡:ctDNA解析は血漿中の循環腫瘍DNA (circulating tumor DNA) をシークエンシングすることで腫瘍由来の遺伝的変化を非侵襲的に検出する技術であり、多くの転移がんで組織生検との高い一致率が実証されている。転移CRC前向き試験 (n=121) では、26例で組織遺伝子型判定では検出されなかったKRAS変異が血漿で検出され、これら全例が抗EGFR抗体に奏効しなかった。早期NSCLC (n=96) では術前に46例 (48%) でctDNAが検出され、術後再発の検知は放射線学的再発の平均70日前、一部では6ヶ月以上前にctDNAで先行した。Osimertinib開始6週時点での血漿EGFR T790Mのクリアランスは奏効率70% vs 35% (95% CI 59-79% vs 22-50%、P<0.05) と中央値PFS 10.9ヶ月 vs 5.5ヶ月 (95% CI 9.5-15.2 vs 3.9-6.7ヶ月、P<0.05) という有意な予測価値を示した (Fig 4)。FGFR増幅胆管がんのFGFR阻害薬耐性後では、血漿で5種のFGFR2変異が同定されたのに対し12部位の剖検サンプリングでは3種のみであり、ctDNA解析が剖検よりも包括的な耐性プロファイルを提供した。クローン性ネオアンチゲンが均一に分布する腫瘍では、CTLAもしくはPD-1阻害薬への永続的奏効と有意に関連し (Spearman r=0.56、p<0.01)、高TMB群 (≥10 mut/Mb) のNSCLC (n=312) ではnivolumab奏効率47% vs 低TMB群18% と大きく乖離した。一方、0.1%変異アレル頻度の変異を検出するには≥10 cm³ (約3億2600万細胞) の腫瘍量が必要という線形モデリングの結果は、早期病変への適用における現状の技術的限界を示す。
ITH克服戦略:ITHに起因する耐性を克服するために複数のアプローチが検討されている。第一に、より強力な次世代TKIの早期導入がある。ALK陽性NSCLCのPhase III試験でalectinib一次治療は奏効率76%→83%に改善し中央値PFSを約2倍に延長した (Peters et al. NEnglJMed 2017)。Osimertinib一次治療は2つのPhase I拡張コホートのプール解析で中央値PFS 19.3ヶ月を達成した。ただし、三世代EGFR-TKIの早期使用はEGFR C797S変異など新たな耐性の出現が前臨床的に確認されており、耐性クローンの進化方向を変えるにすぎない。第二に、数学的モデリングに基づく断続投与スケジュールがある。PDXメラノーマモデルでBRAF阻害薬の断続投与が連続投与より耐性出現を遅延させ、疾患安定化を延長した。BRAF・NRAS変異共存患者でのvemurafenib+cobimetinib断続投与は白血病増殖を抑制しつつメラノーマをほぼ完全寛解させた。第三に、感受性クローンと耐性クローンを同時標的とする組み合わせ療法がある。Afatinib+cetuximabはマウスモデルでEGFR T790M出現を遅延させ、MET増幅・EGFR T790M双方を標的とするEGFR T790M特異的阻害薬+MET TKIの組み合わせ (NCT02335944) が試験中である。Drug-tolerant細胞に対しては、EGFR T790M特異的阻害薬+navitoclax (抗アポトーシス) の組み合わせが感受性を回復させ、臨床試験 (NCT02520778) が開始された (Fig 5)。局所療法との統合として、限定的疾患量のNSCLCでの残存病変への局所アブレーション治療が中央値PFS 3.9ヶ月→11.9ヶ月への改善を示した (第II相無作為化試験)。
考察/結論
本論文の新規な点は、ITHを空間的・時間的の2軸で体系化し、NSCLC・RCC・乳がん・黒色腫・CRC・膵臓がん・膠芽腫など多がん種にわたる横断的エビデンスを統合した点にある。これまでの研究とは異なり、「クローン選択による既存耐性サブクローンの増殖」と「薬物寛容細胞からのde novo耐性変異獲得」という2つの独立した耐性経路を対比的に論じ、どちらか一方のみを標的とする戦略の不十分性を明示した点は本論文で初めて明確に整理された貢献である。先行研究が個々のがん種・個々の技術に特化していたのに対し、4種の測定技術 (多領域サンプリング・単細胞シークエンシング・ctDNA・剖検) の比較評価を統合したことも本論文の差異となる貢献である。
臨床応用の観点から、ITHの高い患者—特にCIN高値・APOBEC変異シグネチャー保有者—はより積極的・多角的な治療戦略を必要とし、早期の次世代TKI導入と感受性・耐性クローンへの同時標的が最も持続的な奏効をもたらす可能性がある。Osimertinib開始6週時点のctDNA T790Mクリアランスが奏効率・PFSの独立した予測因子であるという知見は、liquid biopsyによる治療効果モニタリングの臨床実装に直結し、臨床現場での動的な治療方針変更を支える根拠となる。診断時の単一生検に依存する現状から、縦断的ctDNA解析を組み込んだ「bench-to-bedside」の実装が、がんの動的な性質に適した新標準となることが提言される。
残された課題として以下が挙げられる。①ctDNAアッセイの感度向上—現状は腫瘍量≥10 cm³が0.1%アレル頻度変異検出の閾値であり早期病変への適用には技術的改善が必要である (limitation)。②ITHに基づく個別化治療選択アルゴリズムの前向き検証—EGFR T790Mアレル比を用いたosimertinib単独療法vs組み合わせ療法の選択基準の確立。③薬物寛容細胞状態の分子機序解明とその臨床的標的化。④多転移巣剖検研究の倫理的・実践的枠組みの整備 (現状では症例数が限定的で普遍的知見の導出が困難)。⑤孤立した血漿変異出現の予後的意義の解明—ctDNAでの分子的再発検出後の早期介入が患者アウトカムを改善するかを検証する無作為化試験が必要である。今後の研究としては、ITHの定量的測定と治療アウトカムの関連を前向きに評価する大規模バイオマーカー試験の実施と、計算論的腫瘍進化モデルに基づく先制的治療設計の実践的検証が最優先課題となる。更なる検討として、空間的トランスクリプトミクスを用いた腫瘍微小環境とITHの統合解析も今後期待される方向性である。
方法
PubMed・Web of Scienceデータベースを用いた包括的文献レビュー (2017年10月まで)。検索語は “intratumour heterogeneity”、“clonal evolution”、“acquired resistance”、“ctDNA liquid biopsy”、“single-cell sequencing” を組み合わせ、英語原著・総説を対象とした。対象がん種はNSCLC・腎細胞がん (RCC)・乳がん・黒色腫・大腸がん (CRC)・膵臓がん・卵巣がん・膠芽腫・慢性骨髄性白血病など多がん種に及ぶ。解析手法として多領域サンプリング・単細胞シークエンシング・ctDNA液体生検・患者由来異種移植 (PDX) モデル・剖検研究のエビデンスを統合的に考察した。ゲノム不安定性の分子機序 (APOBEC3B変異シグネチャー・マイクロサテライト不安定性 (MSI)・染色体不安定性 (CIN)) とクローン進化フレームワーク (線形進化・分岐進化・Nowell 1976年クローン選択モデル) を基盤理論として用いた。薬物寛容細胞の生物学・組み合わせ治療戦略・免疫チェックポイント阻害との関連についても横断的に論じた。量的エビデンスとして前向きコホート試験 (log-rank検定・Cox比例ハザードモデル・HR・95% CI)、無作為化Phase III試験データ、PDXモデル実験および数理シミュレーション結果を参照し統合した。