• 著者: Hung KL, Yost KE, Xie L, Shi Q, Helmsauer K, Luebeck J, Schöpflin R, Lange JT, Chamorro González R, Weiser NE, Chen C, Valieva ME, Wong ITL, Wu S, Dehkordi SR, Duffy CV, Kraft K, Tang J, Belk JA, Rose JC, Corces MR, Granja JM, Li R, Rajkumar U, Friedlein J, Bagchi A, Satpathy AT, Tjian R, Mundlos S, Bafna V, Henssen AG, Mischel PS, Liu Z, Chang HY
  • Corresponding author: Chang HY (Stanford University / Howard Hughes Medical Institute)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-11-24
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34819668

背景

染色体外環状DNA (extrachromosomal DNA; ecDNA) はヒトのがんゲノムに高頻度で認められるがん遺伝子増幅の一形態であり、がんの進行や治療抵抗性に深く関与する。Wu et al. Nature 2019 はecDNAが高度に開放的なクロマチン状態をもちがん遺伝子の高発現をもたらすことを示し、Kim et al. NatGenet 2020 は汎がん種ゲノム解析でecDNAが予後不良と有意に相関することを報告した。Turner et al. Nature 2017 は、セントロメアを持たないecDNAが細胞分裂時に娘細胞へランダムに分配されることで急速な腫瘍内不均一性と遺伝的多様性の創出に寄与することを示した。これらの先行研究により、ecDNAが単体で開放的クロマチン・共増幅エンハンサーを持ちがん遺伝子を高発現させることは確立されていた。しかし、ecDNAが核内で空間的にクラスター化するという現象は細胞分裂時やDNA損傷後に断片的に報告されていたものの、このクラスター化の生物学的意義・分子テザリング機構・転写への影響については gap in knowledge として完全に不足していた。とくに、異なるecDNA分子間で「分子間 (trans) エンハンサー-遺伝子相互作用」が生じうるか否かという概念は未提唱であり、従来のエンハンサー生物学における「エンハンサーは同一染色体上の遺伝子をcisに活性化する」という原則に真っ向から問いを投げかける可能性が手薄であった。また、ecDNA由来がん遺伝子転写に特異的な薬物標的が存在するか否かも不明であった。

目的

複数のecDNA含有がん細胞株および初代腫瘍においてecDNA分子の核内空間クラスター (「ecDNAハブ」) の実態を直接可視化し、(1) ハブ形成と転写バーストの相関、(2) ハブのタンパク質テザリング分子の同定 (BRD4依存性)、(3) BET阻害薬JQ1によるハブ解離と選択的転写抑制の証明、(4) CRISPRi (CRISPR interference) による分子間エンハンサー-遺伝子活性化の直接マッピング、を包括的に解明することを目的とした。さらにecDNAハブが「協調的がん遺伝子発現の機能単位」として作動するという新概念を提唱し、治療的標的可能性を示すことを目指した。

結果

ecDNAハブの発見:全ecDNA陽性細胞株・初代腫瘍でのクラスター化確認:DNA FISHにより、評価したすべてのecDNA陽性がん細胞株 (COLO320-DM・PC3・HK359・SNU16) および初代神経芽腫腫瘍3例で、数十〜数百個のecDNA分子が核内で局所的に集積する「ecDNAハブ」が確認された (Fig 1a)。ハブは回折限界を超えるサイズ (>0.3 μm) を持ち、染色体内増幅シグナルの空間分布とは明らかに異なる大型の核内構造をなしていた。自己相関関数g(r)の解析では、ecDNA信号が短距離 (0〜1.95 μm、0〜40ピクセル) でランダム分布に比べて有意に高いクラスター化を示した (Wilcoxon検定、COLO320-DM n=22細胞、PC3 n=23細胞) (Fig 1b)。初代神経芽腫腫瘍患者3例 (患者09・11・17) でもMYCN ecDNAが大多数のがん細胞にecDNAハブを形成しており (Fig 1c)、ハブ形成が様々ながん腫・異なるがん遺伝子増幅に共通する現象であることが示された。

ecDNAクラスター化が転写バーストと強く相関:コピー数よりも優れた予測因子:PC3・COLO320-DM細胞での同時DNA/新生RNA FISH解析において、コピー数補正後にMYCの大部分の転写がecDNAハブから生じ、染色体座位からの寄与は少数であった (Fig 1d-e)。ecDNAクラスター化 (g(r) at r=0で定量) とMYC転写確率のPearson相関は高く (両側検定p<0.05)、ecDNAコピー数よりもクラスター化スコアの方がMYC転写確率の優れた予測因子であることが示された (Fig 1f)。ハブ内ecDNAはシングルトンecDNAより高い転写活性を示し (Extended Data Fig 1i)、ハブを構成するecDNA数が多いほど個々のecDNA分子のがん遺伝子転写確率が上昇するという協調的・非線形的な転写増強機構が証明された。

BRD4がecDNAハブをテザリング:JQ1で選択的にハブが解離し転写が4-fold低下:エンドジェナスBRD4-HaloTagの生細胞観察では、BRD4がTetO標識ecDNAハブに著明に富化することが直接示された (Fig 2a)。ATAC-seq・H3K27ac ChIP-seq・BRD4 ChIP-seqによる解析で、ecDNA上の活性型エンハンサー (H3K27ac高) が同時にBRD4によっても占拠されていることが確認された (Fig 2b)。BET阻害薬JQ1 (500 nM、6時間) 処理でCOLO320-DM (ecDNA) では大型ecDNAハブ (g(r) > 2) が消失し、ecDNAが分散した (Fig 2c-d)。一方、同一患者由来のアイソジェニック細胞COLO320-HSR (染色体内MYC増幅/HSR) では同条件でecDNA相当構造の空間分布に有意な変化は生じなかった。α-アマニチン (RNAポリメラーゼII阻害) や1,6-hexanediolはecDNAハブに影響を与えなかったことから、ハブ維持がBRD4のbromodomain-H3K27ac相互作用に特異的に依存することが示された。同時DNA/RNA FISHではJQ1処理によりecDNA 1コピーあたりのMYC転写確率が4-fold低下した (Fig 2e)。RT-qPCRによるMYC mRNA定量 (n=3生物学的反復、Student’s t-検定) では、JQ1 500 nMがCOLO320-DM (ecDNA) で有意なMYC抑制を示した一方、同線量でCOLO320-HSRへの効果は有意でなく、ecDNA由来転写への選択的感受性が確認された (Fig 2f)。BRD4 ChIP-seqではJQ1によるゲノムワイドなBRD4解離は両細胞株で同等であったにもかかわらず転写効果が異なることから、ecDNAハブ特異的な転写規定因子の存在が示唆された。6種の追加化合物スクリーンでBET阻害薬 (JQ1・MS645) のみが選択的MYC抑制を示し、他の転写/ヒストン修飾阻害薬は無効であった。

PVT1-MYC融合がecDNAハブのtrans活性化を受容:4.328 Mb ecDNA構造解明:5手法統合 (WGS・ナノポア・光学マッピング・PFGE・深部シーケンシング) によりCOLO320-DM ecDNAは4.328 Mbと解明され、染色体6・8・13・16からの複雑な再配列を含む既報最大規模の ecDNA構造として報告された (Extended Data Fig 4e)。このecDNA上に体細胞再編成によりPVT1プロモーター-MYC融合体が複数コピー存在し、COLO320-DM細胞でのMYC転写の>70%をPVT1-MYC融合転写産物が占めることがRNA-seq exon junction解析で明らかになった (Fig 3a)。COLO320-DM細胞にPVT1プロモーター (2 kb、PVT1p) 搭載NanoLucレポータープラスミドを導入すると、PVT1p活性はTKpや最小プロモーター比で約25-fold高く (3生物学的反復、Bonferroni補正Student’s t-検定)、ecDNA陽性COLO320-DM対ecDNA陰性COLO320-HSRで約4-fold高かった (Fig 3c)。JQ1処理によりCOLO320-DMでのPVT1p媒介転写は約5-fold抑制され、COLO320-HSRでは約2-fold抑制にとどまった (Fig 3c)。同時DNA/RNA FISHではPVT1pレポーターの転写活性がecDNAハブへの共局在時に著明に増大することが確認され (Fig 3d-f)、外来エピソーム上のPVT1pがecDNAハブからのtransシグナルによってJQ1感受性の様式で活性化されることが直接示された。

CRISPRiによる分子間エンハンサー-遺伝子活性化の直接実証:異なるecDNA間の5つのtransエンハンサーを同定:2種類の異なるecDNA (MYC ecDNA・FGFR2 ecDNA) を持つSNU16-dCas9-KRAB細胞 (中期FISH n=29細胞で96.8%が独立した両ecDNAを確認) において、H3K27ac HiChIPで FGFR2-MYC ecDNA間のtrans接触が低頻度ながら焦点的に検出された (Fig 4d)。2,747ガイドを用いたCRISPRiスクリーン (20ガイド/エレメント、Benjamini-Hochberg補正) で、FGFR2 ecDNA上の5つのエンハンサーがMYC発現をtrans (異なるecDNA上の遺伝子) に活性化することが同定された (FDR < 0.1; E1 FDR=0.048、E2 FDR=0.052ほか) (Fig 4e-f)。cisの複数MYC ecDNAエンハンサーへの摂動と統計的有意性が同等であったことから、transエンハンサー活性化が機能的に重要であることが裏付けられた。一方、MYC ecDNA上のエンハンサーはFGFR2を活性化しなかった。二重カラー中期DNA FISH・in vitro CRISPR-Cas9消化で、FGFR2 transエンハンサーがecDNA分子の98〜100%でMYC遺伝子と共有連結していないことが確認された。MYCプロモーターのCRISPRiでMYCとFGFR2の両発現が低下し、MYCタンパク質がFGFR2の転写アクティベーターとしても機能する相互制御回路が示された (Fig 4g)。独立がん種である神経芽腫TR14細胞でも、Hi-C解析でMYCNとODC1 (ornithine decarboxylase 1)増幅子間のtrans接触が検出され (Fig 4h)、H3K27ac高領域でtrans Hi-Cコンタクトが濃縮していたことから、ecDNAハブを介した分子間エンハンサー活性化が多様ながん種に共通する機構であることが確認された。

考察/結論

本研究で発見されたecDNAハブによる分子間 (trans) 転写制御機構は、がんゲノム生物学に根本的な概念転換をもたらす。これまでの研究と異なり、本研究はecDNAが単なる「高コピー増幅の器」ではなく、核内で「タンパク質テザリングによる機能的クラスター構造 (ハブ)」を形成し、異なるecDNA分子間のtransエンハンサー-遺伝子相互作用を通じてがん遺伝子を協調的に過剰発現させるという全く新規の機構を確立した点で既報の知見と対照的である。Kim et al. NatGenet 2020 がecDNAの汎がん種での臨床的有害性を記述したのに対し、本研究はその分子基盤 — すなわちハブ形成を通じた協調的転写増幅 — を機能的実験で解明した。染色体上の転写ハブが100〜300 nmの空間スケールでcis制御のみを行うのに対し、ecDNAハブが>1,000 nmの超大型構造を持ちtrans制御を実現するという対照は本質的な生物学的差異を示す。

本研究で新規に示された知見として、(1) ecDNAハブという核内機能単位の存在、(2) BRD4 (BET protein) がタンパク質テザーとしてハブを維持するという分子機序、(3) PVT1-MYC融合という体細胞再編成がecDNA上のプロモーターを「プロミスキャス」なtransシグナル受容体に転化させる機構、(4) CRISPRiによる異なるecDNA分子間のtransエンハンサー-遺伝子活性化の初の直接実証 — の4点がこれまで報告されていない点として特筆される。従来の染色体内cis制御のパラダイムでは説明できない分子間 (trans) 協調転写の概念は、ecDNA生物学を新たな次元に導く。

臨床応用・臨床的意義の観点では、ecDNAハブとBRD4の依存性が重要な治療的示唆をもたらす。染色体増幅 (HSR) と異なりecDNAハブはタンパク質で連結されているため、BET阻害薬 (JQ1・MS645) によってハブを選択的に解離させることで、ecDNA由来がん遺伝子転写を染色体増幅への影響より強く抑制できるという「ecDNA特異的な分子脆弱性」の概念は臨床的意義が大きい。MYC増幅大腸がん・MYCN増幅神経芽腫・EGFR増幅膠芽腫など多様なecDNA増幅腫瘍においてBET阻害薬の選択的感受性が期待され、bridge-to-bedside (bench-to-bedside) への直接的経路が示された。また、複数のがん遺伝子がtransで協調活性化されるハブ機構は単一遺伝子標的療法への抵抗性を説明しうるものであり、多重標的戦略の重要性を支持する。

残された課題として、BRD4はMYC増幅大腸がん細胞での知見であり、他のecDNA増幅がん種では異なるタンパク質テザーが機能する可能性があって今後の検討が必要である。ecDNAハブのin vivo腫瘍微小環境下での動態・免疫細胞との相互作用・3次元核構造決定因子、ならびにBET阻害薬の臨床試験での有効性評価・患者選択バイオマーカーの開発もfuture researchとして急務である。さらに、ecDNA hubs are tethered by proteinsという原則が成立するためにはBRD4以外の複数のコアクティベーターやメディエーター複合体の関与が想定され、これらのtethering機構の全体像の解明はlimitationとして残る。ecDNAの協調進化がウイルス準種集団の混合変異体協調現象と類似するという evolutionary analogyも今後の実験的検証が望まれる。

方法

対象細胞株は複数のecDNA含有がん細胞株 — COLO320-DM (colorectal cancer cell line; MYC ecDNA)、PC3 (prostate cancer cell line; MYC ecDNA)、HK359 (glioblastoma cell line; EGFR ecDNA)、SNU16 (gastric cancer cell line; MYC/FGFR2 ecDNA)、TR14 (neuroblastoma cell line; MYCN/CDK4/MDM2/ODC1 ecDNA) — およびMYCN ecDNA陽性初代神経芽腫腫瘍3例とした。ecDNA局在の可視化にはOligopaintライブラリーを用いたDNA FISH (蛍光in situハイブリダイゼーション) を行い、中期分裂期・間期両方でecDNA分布を解析した。間期ecDNAクラスター化の定量には自己相関関数 (autocorrelation function) g(r) をMATLABで実装し、両側Wilcoxon検定でランダム分布との有意差を評価した。COLO320-DM細胞ではMYC ecDNA内にTet-operator (TetO) アレイをノックインしTetR (tetracycline repressor)-eGFPで標識するライブセルイメージングシステムを構築、BRD4はエンドジェナスHaloTagノックインで可視化した。同時DNA/新生RNA FISHにより個々のecDNA分子のがん遺伝子転写確率をコピー数補正後に算出し、ecDNAクラスター化との関係をPearsonの相関係数 (両側検定) で定量した。アイソジェニック比較として、同一患者由来のCOLO320-DM (ecDNA) とCOLO320-HSR (均一染色領域; homogeneously staining region; HSR) を用いてJQ1 (500 nM、6時間処理、3生物学的反復) の選択的効果を検証し、Student’s t-検定で解析した。ecDNA制御要素の同定にはATAC-seq・H3K27ac ChIP-seq (クロマチン免疫沈降シーケンシング) ・BRD4 ChIP-seqを実施し、3次元エンハンサーコネクトームはH3K27ac HiChIP (タンパク質指向型クロマチン高次構造解析法) でFitHiChIP/HiCCUPS (10 kb解像度) を用いて解析した。COLO320-DM細胞のecDNA構造は、全ゲノム配列決定 (WGS; 0.3× coverage)・ナノポアシングル分子シーケンシング (50× MYC amplicon coverage)・光学マッピング (400× coverage)・in vitro CRISPR-Cas9消化後のパルスフィールドゲル電気泳動 (PFGE; pulsed-field gel electrophoresis)・深部シーケンシングという5手法を統合して再構築した。SNU16-dCas9-KRAB (Krüppel-associated box domain)細胞でのCRISPRiスクリーンは2,747ガイド (20ガイド/エレメント) をプール形式で設計し、RNA flowFISH (6段階FACS分取後MAGeCK解析)・Benjamini-Hochberg法FDR補正でエンハンサー機能を同定した。TR14では Hi-C解析 (433.7百万read pairs、KR (Knight-Ruiz)正規化) でecDNA間trans接触を評価した。PVT1プロモーターのtrans活性化能はNanoLucルシフェラーゼレポータープラスミドを用いた二重ルシフェラーゼアッセイ (Nano-Glo Dual reporter、Bonferroni補正Student’s t-検定) と組み合わせたDNA/RNA FISHで定量した。単細胞 multiome ATAC-seq + RNA-seq (72,049細胞) でecDNA制御要素とMYC発現の関連を解析した。