- 著者: Li B, Cui Y, Nambiar DK, Sunwoo JB, Li R
- Corresponding author: Ruijiang Li (Stanford University)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-03-04
- Article種別: Original Article
- PMID: 30833271
背景
扁平上皮癌 (SCC) は、気道消化管、泌尿生殖器上皮組織に由来する悪性腫瘍であり、頭頸部、食道、肺、子宮頸部などに高頻度で発生する。これらのSCCは、共通の組織学的特徴と、喫煙、飲酒、ヒトパピローマウイルス (HPV) 感染といった共通のリスク因子を共有することが知られている (Dotto GP et al. Cancer Cell 2016)。近年のTCGA (The Cancer Genome Atlas) 研究 (Campbell JD et al. Cell Rep 2018, Hoadley KA et al. Cell 2018) により、SCCは他の癌種とは異なる細胞内在性の分子パターンを示すことが明らかにされてきたが、これらの解析は主に腫瘍細胞内在性の体細胞変異、コピー数変化、シグナル伝達経路に焦点を当てたものであった (Riaz N et al. Cell 2017)。
近年、免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) は、現代のがん治療における重要な柱となりつつある。特に、抗PD-1抗体などのICBは、複数の固形癌種において持続的な奏効と前例のない臨床的利益を示している (例えば、Pardoll et al. NatRevCancer 2012、Topalian et al. NEnglJMed 2012、Brahmer et al. NEnglJMed 2012、Brahmer et al. NEnglJMed 2015、Garon et al. NEnglJMed 2015、Ribas et al. Science 2018)。しかしながら、単剤でのICBの奏効率は一般的に低く、免疫療法から利益を得られる患者は限られている (Ribas A et al. Science 2018)。治療奏効および抵抗性のメカニズムを特定し、免疫療法との合理的な併用戦略を設計することが、満たされていない重要なニーズである (Sharma P et al. Cell 2017)。
腫瘍免疫微小環境 (TME) の複雑で動的な性質は、依然として十分に理解されていない (Chen DS et al. Nature 2017, Binnewies et al. NatMed 2018)。特に、SCCに特化した包括的な免疫特性評価はこれまで存在せず、この領域には知識ギャップが残されている。先行研究であるpan-cancer免疫解析 (例えば、Thorsson et al. Immunity 2018) では、33種類の癌種を6つの免疫クラスに分類したが、SCCの90%〜95%が類似した予後を持つ2つのサブタイプ(C1: 創傷治癒、C2: IFNγ優位)に集約されており、SCC内部の多様性を十分に捉えられていなかった。また、頭頸部SCCに特化した解析 (Chen Y et al. Ann Oncol 2019) でも3つの免疫クラスに留まっており、より精密なSCC横断的な分類と、その分子・細胞・臨床的特徴の包括的な理解が不足していた。このような背景から、SCCにおけるTMEの複雑性を詳細に解明し、免疫療法の効果を予測するためのバイオマーカー開発に資する新たな分類体系を確立することが喫緊の課題であった。
目的
本研究の目的は、TCGA pan-SCCコホート(頭頸部扁平上皮癌 (HNSC)、肺扁平上皮癌 (LUSC)、子宮頸部扁平上皮癌 (CESC)、食道扁平上皮癌 (ESCA) の4種の主要SCC)の免疫関連遺伝子発現プロファイルに基づき、再現性のある免疫サブタイプを同定・検証することである。さらに、各サブタイプにおける分子、細胞、および臨床的特性を詳細に解析し、グラフ構造学習を用いた次元削減手法により、SCCの複雑な免疫ランドスケープを連続的なスペクトラムとして可視化することを目的とする。これにより、SCCの腫瘍免疫微小環境の多様性を包括的に理解し、個別化された免疫療法戦略の設計に貢献する新たな概念的フレームワークを構築することを目指す。
結果
6つの再現性のある免疫サブタイプの同定と検証: TCGAコホートの1,368例の腫瘍の免疫関連遺伝子発現プロファイルに基づき、コンセンサスクラスタリングにより6つの堅牢な免疫サブタイプ (IS1〜IS6) と7つの遺伝子モジュール(血管新生、炎症、線維化間質、T細胞、IFNγ、TGFβ、分化)が同定された。これらの遺伝子モジュールは、各サブタイプ間でANOVAにより有意に異なる発現パターンを示し (いずれもFDR P<0.001)、生物学的な実態を反映したクラスタリングであることが確認された (Figure 1A, B)。独立したGEO検証コホートにおいて、遺伝子モジュール発現パターンはTCGAコホートと高い一致性を示し (平均Pearson相関=0.93)、患者レベルでの再現性 (IGP) はIS1〜IS6でそれぞれ0.61、0.63、0.61、0.60、0.72、0.55であり、いずれもランダム分割のIGP=0.17と比較して有意に高かった (P<2×10⁻¹⁶)。各癌種内でのサブタイプ分布は癌種特異的であった (Chi-squared P<2.2×10⁻¹⁶)。例えば、肺SCCの約75%がIS1とIS5に集積し、子宮頸SCCの約80%がIS4とIS6に集積していた。HPV陽性例の多数はIS4 (40.9%) とIS6 (32.3%) に分類された (Figure 1C)。
免疫サブタイプと臨床転帰の関連: TCGAコホートにおいて、免疫サブタイプはOSおよびPFSに有意な予後的影響を示した (ログランク検定 P<0.005) (Figure 2)。IS4が最も良好な予後を示し、IS3 (immune-cold) が最悪であった。この生存差は、癌種、病期、年齢、性別、HPV感染状態を共変量とした多変量Cox回帰分析でも独立して確認された (Table 1)。IS3 vs IS4のOSハザード比 (HR) は1.63 (95% CI 1.08-2.48, P=0.021) であり、IS6 vs IS4のOS HRは1.55 (95% CI 1.02-2.35, P=0.040) であった。IS1、IS2、IS5は中間的な予後を示した。HPV陽性の頭頸部・子宮頸部癌サブグループ解析においても、IS6 vs IS4でOSに有意差 (HR=2.04, 95% CI 1.06-3.95, P=0.034) が認められた。LUSC単独ではIS6とIS4がわずかに良好なOS傾向 (P=0.071) を示した。
6サブタイプの分子・免疫細胞特性: IS3 (immune-cold) は、炎症、T細胞、IFNγ遺伝子モジュールの発現が最も低く、リンパ球浸潤シグネチャースコアとTCR多様性が最低であった (Figure 3A, B)。興味深いことに、IS3は体細胞コピー数変異の程度が最も高く、高異数性スコアと関連していた (Figure 3C)。これはT細胞排除のメカニズムとして先行研究と一致する。IS6も白血球および間質分画が低かったが、IS3と比較してCD8+ T細胞や活性化NK細胞を含むリンパ球の割合が増加していた (Figure 3D, E)。IS5 (immune-hot suppressive) は、白血球分画、リンパ球浸潤スコア、TCR多様性が最高であったが、腫瘍関連マクロファージ (TAM) が白血球浸潤の40%以上を占め、その大部分がM2極性化であった (Figure 3G, H)。また、TGFβ応答スコアも最高値を示し (Figure 3F)、高い免疫浸潤にもかかわらず免疫抑制的な微小環境であることが示された。IS4 (immune-favorable) は、活性化CD4+メモリーT細胞、Tfh細胞、CD8+ T細胞、活性化NK細胞の浸潤が豊富で、M1/M2比が最高、局所細胞傷害活性 (CTA) スコアが最高、IFNγ応答スコアが高く、TGFβ応答スコアが低いという、最も有利な免疫プロファイルを示した (Figure 3D, E, F, H, I)。IS1とIS2は中間的な免疫浸潤を示し、IS1はM2 TAMの高比率、B細胞偏向、高異数性、高TGFβ応答を示した。
免疫ランドスケープと不均一性の可視化: グラフ学習に基づく次元削減によりSCCの免疫ランドスケープを可視化したところ、多くの患者は明確なクラスターを形成したが (IS3、IS5、IS6)、離散的なクラスターと連続スペクトラムが共存する複雑な構造が明らかになった (Figure 4A)。水平軸はT細胞および炎症遺伝子モジュールと高い相関 (それぞれr=0.91およびr=0.78、いずれもP<2.2×10⁻¹⁶) を示し、全体的な免疫浸潤を反映した。垂直軸は線維化間質およびTGFβモジュールと関連した (それぞれr=0.61およびr=0.62、いずれもP<2.2×10⁻¹⁶)。IS4内部では、ランドスケープ上の位置に基づいてさらに3つのサブグループ (IS4A、IS4B、IS4C) に分類でき、これらは異なる遺伝子発現パターンと予後と関連していた (Figure 4B, C, D)。特にIS4Aは最も高いT細胞モジュール発現を示し、最良の予後を呈した (Figure 4D)。この階層的不均一性はIS1、IS2、IS6にも認められ、免疫サブタイプ分類を補完する生物学的情報をもたらした。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究の最大の強みは、同一の組織学および類似のリスク因子を共有する4種のSCCを対象に包括的な免疫サブタイプを同定し、大規模独立コホートでその再現性を検証した点にある。Thorsson et al. Immunity 2018のpan-cancer解析とは異なり、SCCという組織学的に均一な集団に特化することで、従来は2つのサブタイプに集約されていたSCC内部の免疫多様性を精密に解明した。
新規性: 本研究で初めて、既存の免疫シグネチャーを用いることなく、1,989個の免疫関連遺伝子の包括的セットを独自に構築し、各遺伝子モジュールの生物学的機能を明示的に定義したことも方法論的貢献として評価できる。また、グラフ学習による免疫ランドスケープの解析は、純粋なクラスタリング分析を超えた付加価値を持つ新規な知見である。IS4内部のサブグループ分類が独立した予後情報を提供した事実は、「サブタイプ特異的」バイオマーカー戦略の有用性を示す先例となりうる。
臨床応用: 本研究の臨床的含意として、ICBの有効性は免疫サブタイプによって大きく異なることが予想され、患者選択のための新しいバイオマーカー層別化フレームワークを提供する。例えば、IS4では既存の抗腫瘍免疫を増強するICBが有効である可能性があり、IS6ではOX-40や4-1BBなどの免疫共刺激抗体との組み合わせが推奨される。IS3 (immune-cold) では、がんワクチン、オンコリティックウイルス、放射線療法、化学療法など炎症誘導戦略とICBの組み合わせが理論的に推奨される。IS1、IS2、IS5では、TGFβ阻害、抗血管新生療法、マクロファージ標的療法、NK細胞標的療法、またはCAF標的療法との組み合わせが考慮される。
残された課題: 今後の検討課題として、これらの併用療法戦略の有効性を前向き臨床試験で検証する必要がある。本研究のlimitationとしては、レトロスペクティブな解析であること、およびTCGAデータセットの追跡期間が比較的短いことが挙げられる。しかし、本研究はSCCの腫瘍免疫微小環境理解のための概念的フレームワークを構築し、免疫療法の合理的な組み合わせ戦略設計と患者選択最適化に向けた基盤を提供する。
方法
患者およびデータセット: 本研究は、機関審査委員会 (IRB) の承認を得て、ヘルシンキ宣言などの倫理的ガイドラインに従って実施された。既存の匿名化された公開データセットを使用するため、患者のインフォームドコンセントは免除された。免疫サブタイプ同定のための発見コホートは、TCGA由来の1,368例のSCC患者(HNSC 502例、LUSC 501例、CESC 304例、ESCA 161例)で構成された。検証コホートとしては、GEO (Gene Expression Omnibus) から収集した4癌種それぞれで最大の独立コホート計938例(メタコホート)が使用された。データ前処理の詳細は補足資料に記載されている。
免疫サブタイプおよび機能的遺伝子モジュールの同定と検証: 1,989個の免疫関連遺伝子発現プロファイルに基づき、コンセンサスクラスタリング (Wilkerson et al. Bioinformatics 2010) を適用して、堅牢な患者クラスター(免疫サブタイプ、IS)および免疫遺伝子モジュール (GM) をTCGA発見コホートで同定した。その後、独立したGEOメタコホートにおいて、Ingroup Proportion (IGP) および遺伝子モジュールスコアのセントロイド間のPearson相関を用いて、患者レベルおよびサブタイプレベルでの再現性を定量的に評価した。
免疫サブタイプに関連する臨床的、分子、細胞的特徴の評価: まず、癌種およびHPV感染状態に応じた免疫サブタイプの分布を評価した。次に、全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) をエンドポイントとして、ログランク検定および多変量Cox回帰(年齢、病期、癌種、性別、HPV感染状態を共変量として)を用いて免疫サブタイプの予後予測価値を評価した。TCGAコホートでは、比較的短い追跡期間と後期イベントの少なさから、60ヶ月以降の死亡および進行イベントは打ち切りとした。免疫サブタイプと57種類の免疫関連分子・細胞特徴(白血球分画、TCR多様性、異数性スコア、TGFβ応答スコア、M1/M2比など)との関連は、ANOVAを用いて評価した。
免疫ランドスケープの定義: 免疫系の動的な性質を考慮し、グラフ構造学習に基づく次元削減手法 (Mao Q et al. KDD 2015) を免疫遺伝子発現プロファイルに適用し、個々の患者の分布を可視化した。この解析は、高次元の遺伝子発現データを低次元空間のツリー構造に投影し、局所的な幾何学的情報を保持する。これにより、離散的な免疫サブタイプ分類を補完する、非線形多様体における患者間の関係を反映する免疫ランドスケープが定義された。免疫ランドスケープ定義後、免疫サブタイプ1、2、4、6内のクラスター内異質性を遺伝子モジュール発現に関してANOVAで評価した。また、免疫サブタイプ4の3つのサブグループの生存差はログランク検定を用いて比較された。