• 著者: Matteo Repetto, Allison L. Richards, Monica F. Chen, Pier Selenica, Shalabh Suman, Yingjie Zhu, Clare Wilhelm, Soo Ryum Yang, Jorge S. Reis-Filho, Charles M. Rudin, Mark G. Kris, Andrea Ventura, Michael Berger, Britta Weigelt, Alexander Drilon, Noura J. Choudhury, Mark T.A. Donoghue (Repetto と Richards は equal contribution)
  • Corresponding author: Mark T.A. Donoghue (Marie-Josée and Henry R. Kravis Center for Molecular Oncology, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2026
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42340371

背景

MYC, MYCL, MYCN は basic helix-loop-helix leucine zipper 型転写因子 (C-MYC, L-MYC, N-MYC) をコードする MYC 遺伝子ファミリー (MYCf、MYC gene family) であり、増殖・分化・アポトーシス・DNA 損傷修復・代謝・血管新生・間質リモデリングといった細胞機能に必須である。これらは癌で高頻度に dysregulate され、ゲノムワイド解析により MYCf は最も高頻度に増幅される遺伝子ファミリーの一つと同定されてきた。MYCf 増幅は染色体内の重複に加え、癌で最初に extrachromosomal DNA (ecDNA、染色体外 DNA) 上の増幅が観察された oncogene でもある。腫瘍型分布も lineage 特異的で、MYC は卵巣癌・乳癌・扁平上皮肺癌、MYCL は小細胞肺癌、MYCN は神経芽腫・横紋筋肉腫・髄芽腫・Wilms 腫瘍などの小児神経系腫瘍に多い。MYCL を高頻度に伴う小細胞肺癌のゲノムランドスケープは先行研究で詳細に記述されている (George et al. Nature 2015)。

MYC 依存性癌は、C-MYC/N-MYC/L-MYC が disordered な構造を持ちポケット様の cleft を欠き核内に局在するため、長らく “undruggable” と見なされてきた。加えて正常組織での広範な発現に由来する on-target toxicity も懸念であった。しかし近年 anti-MYC 創薬は大きく進展し、2025 年 9 月時点で MYCf 増幅または過剰発現を選択基準に挙げる第 I 相試験が 6 件 clinicaltrials.gov に登録されている。OMO-103 (MYC 蛋白阻害) や MRT-2359 (GSPT1 阻害による RNA 発現修飾)、siRNA、アンチセンスオリゴなどが探索されており、真に MYC をドライバーとする腫瘍を見分け患者選択を最適化することの重要性が高まっている。

しかし先行研究には明確なギャップがあった。本研究はそれを「これまでの研究は個別遺伝子または特定癌腫に焦点を当て、主に増幅”頻度”のみを強調してきた」と明示する。すなわち copy number amplitude、focality (増幅セグメントの広狭)、共存 oncogenic alteration や ecDNA status で定義される genomic context、そしてこれらが pan-cancer で転写出力 (mRNA 発現) とどう関係するかを系統的に捉える枠組みが不足 (gap in knowledge) していた。さらに MYC 依存性を判定する標準化バイオマーカーが存在せず、試験ごとに copy number / log ratio 閾値が恣意的に異なる点も未解決であった。本研究はこのギャップを埋めるため、MSK-IMPACT と TCGA の 2 大 pan-cancer データセットを用いて MYCf 増幅腫瘍のゲノムランドスケープを定義し、患者選択基準の精緻化を目指した。MSK-IMPACT を確立した先行コホート (Zehir et al. NatMed 2017) や、ecDNA が染色体転写を mobile enhancer として globally に増幅させる機構 (Zhu et al. CancerCell 2021) を基盤とする。

目的

MYC, MYCL, MYCN 増幅腫瘍のゲノム的特徴 (増幅 amplitude、amplicon の focality、ecDNA 上の増幅か否か、共存する oncogenic alteration) を pan-cancer で網羅的に特徴づけ、これらの特徴が mRNA 発現・共存ドライバー・全生存 (OS) とどう関係するかを定量化することで、現在進行中の MYCf 標的療法試験における患者選択基準を精緻化する根拠を提供する。具体的には (1) MSK-IMPACT 大規模コホートで MYCf 増幅の頻度・segment size・TCN・clonality・ecDNA 率を遺伝子別/腫瘍型別に記述し、(2) 共存ドライバーとの co-occurrence / mutual-exclusivity を focal vs broad で比較し、(3) TCGA で増幅特徴と mRNA 発現の関係を回帰モデルで解析し、(4) MYC 増幅の focality / amplitude と OS の関連を多変量 Cox で検討することを目的とした。

結果

MYC が最頻だが MYCL/MYCN とは桁違いの稀少性を示す:高品質 QC を通過した 45,468 検体の MSK-IMPACT pan-cancer コホートにおいて、MYCf 増幅は全体の 7.6% に認められた (Fig 1A-C)。内訳は MYC が圧倒的に多く 6.5% (n=2,949)、MYCL 0.7% (n=310)、MYCN 0.5% (n=217) であった。最頻癌腫は乳癌 (12%, n=5,607)、大腸癌 (12%, n=5,397)、肺腺癌 (10%, n=4,540) で、MYC 増幅頻度は triple negative 乳癌で 27% (78/285)、HER2 陽性乳癌 21% (67/315)、卵巣癌 13% (261/2087)、肺腺癌 8% (367/4540) と高かった。一方 MYCL は肺神経内分泌癌で最高 6% (30/484)、MYCN は神経芽腫で 21% (38/178) と lineage 特異的に集積した。MYCN 増幅検体は採取時年齢中央値 53 歳と MYCf 非増幅 63 歳より有意に若く (Wilcoxon p = 9×10⁻¹⁴)、若年発症の neuronal 腫瘍に偏ることを反映した。

MYCL/MYCN は focal・高 TCN、MYC は broad で segment size と copy number が逆相関する:3 遺伝子で増幅様式が明瞭に異なった (Fig 1G, 1H)。MYCL 増幅の 93% (288/310)、MYCN の 79% (172/217) が 10Mb 未満の focal セグメント上にあったのに対し、MYC は 38% (1116/2949) のみが focal で、62% が broad (>10Mb) であった。segment size 中央値は MYC 17Mb (range <0.1〜>100Mb)、MYCL 3.4Mb、MYCN 1.9Mb で、MYCL/MYCN は MYC より有意に短かった (ともに p<0.001)。逆に TCN 中央値は MYCN が 24 (range 6-745) と MYC 9 (range 6-143)・MYCL 11 (range 6-69) より有意に高かった (p<0.001)。重要なことに 3 遺伝子すべてで高 TCN と大 segment size はほぼ相互排他的で、最も強い逆相関は MYC (Spearman rho = -0.49, p<0.001) と MYCN (rho = -0.49) で、MYCL は弱め (rho = -0.36) であった (Fig 1D-F)。MYC の segment size と FGA の相関は弱く (R=0.07) で、増幅が全般的ゲノム不安定性の副産物ではないことを示した。増幅はいずれも clonal 傾向で、90% 未満の癌細胞でのみ増幅を持つ検体は 4% (135/3476) に過ぎなかった。

ecDNA 陽性率は遺伝子間で大きく異なり MYCN で過半数に達する:ecDNA 検出可能であった 3,251 検体 (94%) のうち、MYCN は ecDNA ベース増幅の頻度が最も高く 51% (101/200) に達し、MYCL 11% (32/289)、MYC 5.1% (141/2762) と続いた。focal 増幅に限ると MYCN の 56% (92/164) が ecDNA 陽性で、focal MYC の 13% (135/1042)・focal MYCL の 12% (32/270) を大きく上回った。10Mb 未満の focal 増幅全体の 18% (259/1476) が ecDNA 由来であり、MYCf 遺伝子間で増幅に至る進化経路が大きく異なることを示した (Boundless Bio の ECS (ecDNA Harboring Oncogenes) アルゴリズムによる ecDNA probability >0.5 を陽性と定義)。

MYCf 増幅はドライバーと相互排他的で WGD・高 FGA と強く関連する:3 遺伝子すべてが microsatellite instability (MSI) と相互排他的であった (MYC p<0.0001, MYCL p=0.002, MYCN p=0.01)。MYC 増幅は TMB-H とも相互排他的 (p<0.0001) であったのに対し、MYCL 増幅は逆に TMB-H 腫瘍に集積した (p<0.0001)。whole-genome doubling (WGD) との関連は MYC・MYCL が強く (OR 3.9 と 4.0、ともに p<0.0001)、MYCN は控えめ (OR 1.4, p=0.02) であった。高 FGA との関連も MYC・MYCL で強かった (OR 4.4 と 4.0)。腫瘍型別 co-occurrence / mutual-exclusivity 解析では、多くの腫瘍型で MYCf が腫瘍型特異的ドライバー (mutation/fusion) と相互排他的で (Fig 2A)、強力な oncogenic event が epistatic equilibrium にあるという進化的観察と一致した。

ドライバーとの相互排他性は MYC amplicon size から概ね独立だが例外的 lineage 依存性も存在する:MYC は最も広い segment size 範囲を持つため、focal vs broad で機能差があるかを検討した。focal/broad MYC 増幅はともに WGD・高 FGA・転移検体に同等に集積し (いずれも p<0.0001、Fig 2B)、MET/ERBB2 など focal 増幅が epistatic 排他性を示す他 oncogene とは対照的に、MYC では bladder 癌の FGFR3 変異 (q<0.01)、肺腺癌の KRAS 変異 (q<0.0001)、PTEN、uterine 癌の FGFR2 変異 (q<0.01) などとの相互排他性が focal/broad で共通していた。ただし notable exception もあり、卵巣癌では NF1 変異が focal MYC と相互排他的・broad MYC と co-occurring (q<0.001) で、focal event がよりドライバーとして働く可能性を示唆した。逆に uterine 癌では focal MYC が ERBB2 増幅と co-occurring・broad MYC が相互排他的 (q<0.0001) で、ERBB2/MYC 共増幅 13 例中 6 例が高 FGA の uterine serous 腫瘍であった。

MYC 増幅は mRNA 発現を亢進させるが focality の寄与は限定的で共存変異が発現を修飾する:TCGA 8,477 検体で発現を解析した結果、MYCL 増幅検体 (4 腫瘍型, n=1,498) で MYCL mRNA が有意に上昇 (Wilcoxon BH-adjusted p<0.002)、MYC 増幅検体 (4,394 検体, 13 腫瘍型) でも大半の腫瘍型で MYC 発現が wild type より有意に高かった (Fig 3A)。しかし focal と broad の間で発現差が有意だったのは NSCLC のみ (BH-adjusted p=0.018) であり、focality は発現に限定的影響しか与えなかった。quantile regression では ploidy 補正 TCN × segment size の交互作用が卵巣上皮腫瘍を除く全腫瘍型で MYC 発現と有意に相関し (p<0.02)、TCN と focality が協調的に発現を規定することを示した。GLM-NET lasso 回帰で MYC 発現に影響する 6 遺伝子 (TP53, CDKN2A, PIK3CA, KRAS, ARID4A (AT-rich interaction domain 4A), TERT) を同定し、TP53/CDKN2A/ARID4A/TERT 変化は正に、PIK3CA/KRAS 変化は負に関連した。特に NSCLC では focal MYC 増幅が高発現をもたらす (Wilcoxon p=1.6×10⁻⁴) 一方、KRAS 変異の共存は MYC 発現を抑制し、focal 増幅検体でも非増幅検体と区別できないレベルまで低下させた (p=0.068, Fig 3C)。なお転写出力との対応づけは TCGA の 4,394 MYC 増幅検体を用いた cohort 解析であり、ploidy 補正 TCN と segment size の交互作用が MYC 発現と腫瘍型横断で有意に相関した (variable p<0.02、n=8,477 検体プール)。同様の co-occurring 抑制効果は HR 陽性乳癌の PIK3CA 変異でも観察された (Suppl Fig 2I)。

MYC focality と amplitude は膵癌の OS と逆方向に nominal な関連を示す:MYC 増幅を持つ 1,432 例の OS を解析し、40 例以上を有する 7 癌腫で多変量 Cox を行った。膵癌で高 TCN は不良 OS と関連し (nominal p=0.040)、focality も OS と関連した (nominal p=0.043, Fig 3D)。興味深いことに focal と高 TCN はしばしば共起する (膵癌 47 例中 26 例が focal かつ高 TCN) にもかかわらず、focal MYC 増幅は長い OS と、高 TCN は不良 OS と逆方向に関連した。ただし多重検定補正後はいずれも有意に達せず (BH-adjusted p=0.14)、検出力不足が示唆された。

考察/結論

本研究は、これまで報告された中で最大規模の MYCf 増幅患者コホートを用いて MYC/MYCL/MYCN 増幅の genomic landscape を系統的に定義した。先行研究との違い:従来の研究は個別遺伝子・特定癌腫に焦点を当て増幅”頻度”のみを強調していたのと異なり、本研究は ploidy 補正 copy number・segment size・genomic context を pan-cancer 横断で同時に評価し、希少な MYCL/MYCN についても robust な解析を可能にした点で対照的である。MYCN 増幅が ecDNA を介する割合が 51% と過半数に達するという知見は、MYC が 5.1%、MYCL が 11% と桁違いに低いことと併せ、MYCf 遺伝子間で増幅に至る進化経路が大きく異なることを示し、頻度ベースの解析では捉えられなかった次元である。

新規性:本研究で初めて、増幅特徴 (focality・amplitude)・共存ドライバー・mRNA 発現の三者を統合した枠組みが pan-cancer で提示された。特に MYC では segment size と TCN が逆相関する (Spearman rho = -0.49) という新規な関係を明らかにし、focal MYC 増幅が高発現をもたらしても KRAS 変異の共存がそれを打ち消す (NSCLC) という、copy number 単独では予測できない発現修飾を初めて定量的に示した。MET/ERBB2 など focal 増幅が epistatic 排他性を示す他 oncogene とは異なり、MYC の相互排他性が focal/broad で概ね共通する点も、MYC が既存の amplified oncogene のパラダイムに収まらない unique な振る舞いを持つことを示す新規知見である。

臨床応用・橋渡し:これらの知見は MYC 標的療法試験の患者選択基準の精緻化に直結する。現行の多くの試験が単一の copy number / log ratio 閾値で適格性を判定しているが、本研究は MYC 依存性が TCN だけでなく segment size・共存ドライバー・lineage 文脈に依存することを示し、将来高活性な薬剤が見つかった際には腫瘍型ごとに異なる臨床的に意味のある cutoff を設定し、multiomic アプローチで患者を同定すべきと提言する。例えば前立腺癌は segment size に依らず MYC ドライバーの hallmark を示しうる一方、uterine 癌では focal かつ高 copy の event を要する可能性がある。

残された課題・今後の検討:本研究は単一施設・後ろ向きで治療データを含まず、de novo か acquired かの MYCf 増幅を区別できない。MYCL/MYCN の症例数は特に TCGA で小さく、focality 別解析が不可能な場面があった。MYCf 蛋白は mRNA 発現だけでなく post-translational 過程にも影響されるため、mRNA を MYC 依存性の代理指標とする解釈には限界が残る。膵癌の OS 関連も検出力不足で有意に達しておらず、より大規模コホートでの検証が今後の検討課題である。結論として、本研究は MYC/MYCL/MYCN 増幅が腫瘍型横断的に強力な oncogenic driver であり他の疾患特異的ドライバーと epistatic に相互排他的であること、そして driver oncogene 増幅を判定する際に focality・copy number・genomic context を考慮することの重要性を示し、MYC 標的療法の創薬と患者選択を導く基盤を提供した。

方法

2 つのコホートを解析した。MSK-IMPACT コホートは FDA 承認標的シーケンスパネル (IM3/IM5/IM6/IM7、いずれも MYC/MYCL/MYCN の baits を含む) で配列決定された 68,920 の matched tumor-normal pair (data freeze 2022/11/14、90 以上の腫瘍型)、TCGA コホートは whole exome sequencing による 10,683 pair である (IRB 16-1431、NCT01775072 で書面同意取得)。両コホートとも FACETS (Fraction and Allele-Specific Copy Number Estimates from Tumor Sequencing) で copy number alteration (CNA) を評価し、facets-suite で ploidy・fraction of genome altered (FGA)・WGD を算出した。QC 通過かつ tumor purity ≥20% の検体のみ採用 (MSK 49,910、TCGA 8,477) し、患者ごとに腫瘍型ユニークな 45,468 検体に絞った (primary 27,120、metastatic 17,065、local recurrence 427、unknown 856)。

増幅は ploidy 補正 total copy number (TCN、gene TCN − sample ploidy) ≥4 と定義し、focal は segment size ≤10Mb (ecDNA が通常この範囲内) とした。clonal は clonal fraction / purity >0.9 で定義。ecDNA は Boundless Bio 開発の ECS (ecDNA Harboring Oncogenes) アルゴリズムで gene-level probability >0.5 を陽性とした。非 MYCf 体細胞変異・CNA・構造変異は OncoKB で oncogenic / likely-oncogenic を選別した。統計解析として、segment size と TCN の分布差は Mann-Whitney 検定、TCN と segment size の相関は Spearman 相関係数、MSI との関連は Fisher の正確検定、TMB/FGA/WGD は chi-squared 検定を用いた。co-occurrence / mutual-exclusivity は 200 例以上の腫瘍型で RediscoveR (inbuilt FDR 補正、有意性 adjusted q<0.01) で評価。発現解析は RSEM 値を log 変換し ssGSEA (gsva, Hallmark pathways) を実施。発現と増幅特徴の関連は quantile regression (quantreg) と lasso-penalized linear regression (glmnet、10-fold cross-validation、lambda.min) でモデル化した。OS は多変量 Cox 比例ハザードモデル (MYC 増幅 40 例以上の 7 癌腫: HR+乳癌・大腸癌・肺腺癌・卵巣癌・前立腺癌・子宮癌・膵癌) で focality・amplitude・FGA・年齢・性別・診断時 stage・共存 oncogene を投入し、Wald 検定と Benjamini-Hochberg 補正を用いた (survival R package 3.8-3)。全検定は特記なき限り two-sided。