- 著者: Lindsay CR, Shaw EC, Moore DA, Rassl D, Jamal-Hanjani M, Steele N, et al.
- Corresponding author: Colin R. Lindsay (University of Manchester / The Christie NHS Foundation Trust)
- 雑誌: British Journal of Cancer
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-09-06
- Article種別: Consensus Statement
- PMID: 34489586
背景
LCNEC (Large cell neuroendocrine carcinoma) は肺がんの2〜3%を占める希少なサブタイプであり、その管理における進歩は、標的療法や免疫チェックポイント阻害薬を用いたNSCLC (非小細胞肺がん) で見られる著しい発展に遅れをとっている。進行期LCNECのOS (全生存期間) 中央値は1年未満にとどまる一方、同程度の有病率であるALK転座陽性NSCLCでは標的治療により生存期間が数年単位で延長されてきた (例: Solomon et al. NEnglJMed 2014、Peters et al. NEnglJMed 2017、Camidge et al. NEnglJMed 2018)。この遅れの主要因として、包括的な病理学的定義の欠如、疫学データの不足、無作為化比較試験の不在が挙げられる。特に、LCNECの診断基準は曖昧であり、英国のNational Lung Cancer Audit (NLCA) にLCNECのデータ収集の場がないことが、疫学データの不足を助長している。
LCNECの診断は、1991年に初めて提案されたWHO基準に依拠するが、これらの基準は本質的に現在まで変わっていない。しかし、この診断基準は、英国の肺がん診断の約85%を占めるEBUS (Endobronchial Ultrasound) や小生検材料への適用が難しいという課題がある。実際、既存のWHO LCNEC分類は、非常に大規模な生検または切除検体が入手可能でない限り、確定診断を避けるよう警告している。この診断基準の一貫性のなさは、LCNECに焦点を当てた2つの前向き第2相臨床試験において顕著に示された。これらの試験では、中央病理レビュー後に約25%の症例がSCLC (小細胞肺がん) またはNSCLCに再分類されるという問題も生じており、診断の不確実性が臨床試験の進展を妨げる大きな課題となっている。このような診断の困難さから、多くの病理医は切除検体なしにはLCNECの確定診断を下すことができないと感じている。その結果、しばしば「混合型NSCLC/SCLC」、「神経内分泌分化を伴うNSCLC」、または「HGNEC (High Grade Neuroendocrine Carcinoma) NOS (Not Otherwise Specified)」といった代替の記述的用語が用いられ、LCNECの標準化された命名法が確立されていない。
さらに、LCNECの分子病理学的特徴に関する初期の報告は、患者数や解析範囲の制約により限定的であった。これにより、LCNECがNSCLCとSCLCの間の「分化転換」現象であるという仮説が提唱されたが、その実態は未解明な部分が多かった。また、LCNECの治療法についても、進行期におけるOS中央値が1年未満と不良であるにもかかわらず、明確な標準治療が確立されておらず、第3相無作為化比較試験の不在がこの状況をさらに悪化させている。これらの課題は、LCNEC患者の治療成績向上を阻む大きな障壁となっており、LCNECの診断、疫学、標準治療に関するコンセンサスを確立し、今後の研究および臨床試験のための明確なフレームワークを提示することが喫緊の課題であると認識された。
目的
本コンセンサスステートメントの目的は、LCNECの臨床およびトランスレーショナル研究の進歩を阻んできた根本的な問題、すなわち「①LCNECとは何か」「②何人の患者が影響を受けるか」「③標準治療は何か」を明確に定義することである。これらの問いに答えることで、今後の研究および臨床試験のための具体的なフレームワークを提示し、LCNEC患者の治療成績向上に貢献することを目指す。
具体的には、病理学的診断基準の曖昧さを解消し、小生検材料における診断の困難性に対応可能な新しい診断アプローチを提案する。また、LCNECの疫学データを推定し、その患者数が国際的な臨床試験を実施する上で十分であることを示す。さらに、既存の治療エビデンスを評価し、早期病変および進行期病変における最適な治療戦略を議論するとともに、分子サブタイプに基づいた層別化治療の可能性を探る。最終的には、LCNECの診断、患者レジストリの構築、および臨床試験の立案を促進するための「変革のためのアジェンダ」を提示し、この希少がんに対する理解と治療の進歩を加速させることを意図する。
結果
LCNECの病理学的定義と診断の困難性: LCNECの診断は、その病理学的基準の曖昧さから困難を伴う。現行のWHO基準(神経内分泌形態、高増殖率 >10/HPF (high-power field)、広汎な壊死、およびNE IHC陽性のうち少なくとも1つ)は、英国の肺がん診断の約85%を占めるEBUSや小生検材料への適用が難しい。この診断基準の一貫性のなさは、LCNECに焦点を当てた2つの前向き第2相臨床試験において顕著に示された。これらの試験では、中央病理レビュー後に約25%の症例がSCLCまたはNSCLCに再分類されている。本コンセンサスでは、診断カテゴリの再編が提案された。切除検体ではLCNEC、LC (Large cell) carcinoma with NE differentiation、LC carcinoma with NE morphologyの3群に分類し、小生検では「probable LCNEC」またはHGNEC (High Grade Neuroendocrine Carcinoma) NOSへの分類を推奨している。さらに、RB1/p16 IHC (免疫組織化学) と標的NGS (次世代シーケンシング) の補助的な使用が、診断の精度向上に役立つとされた (Table 1)。LCNECはSCLCとは細胞質量の豊富さ、核小体の存在、核の大きさによって区別されるが、圧挫や形態学的異質性のある細胞診検体や小生検ではこれらの基準の評価が困難である (Figure 1, Figure 2)。
分子サブタイプの確立とゲノムプロファイリング: 3件の大規模ゲノム解析研究(Rekhtman et al. ClinCancerRes 2016 (n=45)、George et al. NatCommun 2018 (n=75/69転写解析)、Miyoshi et al. ClinCancerRes 2017 (n=78)) により、LCNECはRB1および/またはKRASおよび/またはSTK11/LKB1変異に基づき「NSCLC-type」と「SCLC-type」の2つの分子サブタイプに分類されることが示された (Table 2)。これらの変異は、Cancer et al. Nature 2014などの大規模ゲノム解析でNSCLCまたはSCLCの遺伝的特徴として頻繁に同定されている。最大規模のGeorge et al. NatCommun 2018の研究では、LCNECはSCLCに近縁ながらも独立した癌エンティティとして転写分類され、NSCLCやSCLCよりも高いTMB (腫瘍変異負荷) を示すことが明らかになった。LCNECとSCLCの間でRB1変異頻度に有意な差(26% vs. 40%、p=0.039)も確認された。また、EGFR変異やALK転座を有するLCNECにおいて、TKI (チロシンキナーゼ阻害薬) による長期奏効が報告されており、標準的な分子検査が一部の患者に大きな利益をもたらす可能性が示唆された。
疫学と患者数推計: LCNECは肺がん全体の2〜3%を占めると推定される。英国では年間約1,000〜1,500例、米国では年間約4,500〜7,000例がLCNECと診断されると推計された(英国の年間肺がん新規症例46,000例、米国の年間肺がん新規症例229,000例を基準)。これらの患者の約75%が進行期で診断される。この患者数は、ALK転座陽性NSCLCを対象とした先行する国際第3相試験(最大343例)と同規模であり、LCNEC専用の国際無作為化試験の実施可能性を否定する理由はないことが強調された。診断の不確実性により、LCNECの真の発生率が過小評価されている可能性も指摘された。
標準治療の現状と免疫チェックポイント阻害薬への予備的示唆: 早期LCNEC(IA〜IIIA期)では外科的切除が推奨される。米国National Cancer Databaseの6,000例超の解析では、SBRT (体幹部定位放射線治療) や化学放射線療法よりも外科的切除がOSにおいて優れていることが示された。また、同データベースの1,672例の解析では、LCNECは全切除可能病期において術後補助化学療法が有益な唯一のNSCLCサブタイプであるとされた。進行LCNECの前向き第2相試験では、cisplatin-etoposide群のOS中央値が7.7ヶ月 (95% CI 6-9.6) であったのに対し、cisplatin-irinotecan群では15.1ヶ月 (95% CI 11.2-19) であった。中央病理レビュー後のLCNEC確定群のOS中央値は12.6ヶ月 (95% CI 9.3-16.0) と報告された。SCLC群ではOS中央値が17.3ヶ月 (95% CI 11.2-23.3) であり、LCNEC群との間に有意差が認められた (p=0.047)。ICI (免疫チェックポイント阻害薬) については、PD-L1低発現にもかかわらず、特に「SCLC-type」のLCNECで予想を上回る奏効率が予備データで示唆されている。LCNECの高いTMBが、PD-L1 IHCよりも優れたICI効果予測バイオマーカーとなる可能性が議論された。しかし、TMBがICIの生存利益を予測するバイオマーカーとしての役割は、Hellmann et al. NEnglJMed 2019で依然として議論の的となっている。ICIに抵抗性を示すLCNEC患者では、NSCLCにおいてICI抵抗性と強く関連するSTK11変異を有する「NSCLC-type」LCNECである可能性が予測される。
考察/結論
本コンセンサスステートメントは、LCNECが「適切な病理定義の欠如」により、臨床および研究の両面で著しく遅れをとっていることを明確に示した。この状況を打破するため、「変革のためのアジェンダ」として、①過去症例のブラインド病理レビュー、②全LCNEC患者の共通レジストリ構築、③臨床試験の立案を提言する。
先行研究との違い: これまでのLCNECに関する研究は、診断基準の曖昧さや患者数の少なさから、一貫した結果が得られにくいという課題を抱えていた。本コンセンサスステートメントは、既存のWHO分類の限界を指摘し、特に小生検材料における診断の困難性を強調した点で、これまでの報告と異なり、より実践的な診断アプローチの必要性を提示している。また、LCNECの分子サブタイプ分類を明確に提示し、これに基づいた治療層別化の可能性を具体的に議論した点も、先行研究とは一線を画す。
新規性: 本研究で初めて、LCNECの分子サブタイプ(SCLC-typeとNSCLC-type)に基づいた治療層別化の可能性を明確に提唱し、RB1/p16 IHCや標的NGSの補助的利用を推奨した。これは、LCNECの診断と治療戦略における新規の方向性を示すものである。さらに、LCNECの疫学データを推定し、その患者数がALK転座陽性NSCLCと同規模であり、国際的な無作為化試験の実施が現実的であることを示した点も新規性が高い。これにより、LCNECが希少がんであるという認識が、臨床試験実施の障壁とならないことを明確に提示した。
臨床応用: 本知見は、LCNECの診断精度向上と治療個別化の臨床応用に直結する。特に、分子サブタイプに基づく治療戦略(SCLC準拠化学療法、NSCLC準拠化学療法、一部の標的治療)は、後方視的データで既に支持されており、今後の国際無作為化試験での検証が急務である。ALK陽性NSCLCと同規模の患者集団が存在することを踏まえれば、IRCI (International Rare Cancer Initiative) やEORTC (European Organisation for Research and Treatment of Cancer) 等を活用したLCNEC専用の国際臨床試験の実施は現実的であり、臨床現場での治療選択肢拡大に繋がる。また、早期LCNECにおける術後補助化学療法の有用性を示唆するデータは、切除可能病期の患者に対する治療戦略に直接的な臨床的含意を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、LCNECの診断基準の国際的な統一、特に小生検材料における診断の標準化が残されている。また、LCNEC患者の共通レジストリを構築し、長期的な臨床アウトカムデータを収集することが重要である。さらに、分子サブタイプに基づいた層別化治療の有効性を前向き臨床試験で検証し、最適な治療レジメンを確立する必要がある。ICIの有効性に関する予備的示唆は得られているものの、TMBがPD-L1よりも優れた予測バイオマーカーとなるか否か、またICI耐性機序の解明も今後の研究方向性である。LCNECの空間的異質性の詳細な解析も、トランスレーショナル研究の領域で残された課題である。
方法
本コンセンサスステートメントは、BTOG (British Thoracic Oncology Group) およびAPP (Association of Pulmonary Pathologists) のメンバーによる反復的なコンセンサス形成プロセスを通じて作成された。2020年2月に、主要なサブヘッディングを含む骨格となる原稿草案を共著者であるBTOGおよびAPPメンバーに送付し、フィードバックを収集した。2020年4月までにこれらのフィードバックに基づき原稿を改訂し、2020年6月には全著者が最終版に合意した。本ステートメントは、系統的文献レビューを含む記述的な内容で構成されており、LCNECに関する既存の知識を集約し、今後の方向性を提示するものである。
本コンセンサス形成プロセスでは、LCNECの診断基準、分子病理、疫学、および治療に関する既存の文献が広範にレビューされた。特に、LCNECの病理学的診断における課題、すなわち小生検材料での診断の困難さや、WHO分類基準の適用における問題点が詳細に検討された。分子病理学的側面では、LCNECのゲノムプロファイリングに関する大規模研究のデータが分析され、SCLC-typeとNSCLC-typeの分子サブタイプ分類の妥当性が評価された。疫学に関しては、英国および米国の肺がん新規症例数に基づき、LCNECの年間発生数が推定された。治療戦略については、早期LCNECにおける外科的切除の役割、進行期LCNECにおける化学療法の有効性、および免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の潜在的な役割に関するデータが検討された。
本研究は、特定の臨床試験デザイン(例: RCT、phase II試験)を伴うものではなく、既存の知見に基づいたコンセンサス形成を目的としているため、primary endpointの定義や統計手法(例: Cox proportional hazards, log-rank test)は適用されない。しかし、将来的な臨床試験の設計に資するよう、LCNECの診断基準の改善、共通レジストリの構築、および層別化治療の検討といった具体的な提言がなされた。また、病理医のネットワークによる候補LCNEC症例のブラインド評価や、CRUK (Cancer Research UK) TRACERxプログラムにおける空間的異質性の解析など、今後の研究アジェンダが提案された。これらの活動は、NHS England (National Health Service England) における次世代シーケンシングのルーチン化と、7つのゲノミクスラボハブの設立といった共通インフラの整備によって促進されることが期待される。