• 著者: Lantuejoul S, Fernandez-Cuesta L, Damiola F, Girard N, McLeer A
  • Corresponding author: Sylvie Lantuejoul, MD, PhD (Department of Biopathology, Pathology Research Platform- Synergie Lyon Cancer- CRCL, Centre Léon Bérard Unicancer, Lyon, France; sylvie.lantuejoul@lyon.unicancer.fr)
  • 雑誌: Translational Lung Cancer Research
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-05-12
  • Article種別: Review
  • PMID: 33209646

背景

肺神経内分泌腫瘍 (NEN) は全肺癌の約 20% を占める極めて重要な疾患群であり、低〜中悪性度の定型・非定型カルチノイドと、高悪性度の大細胞神経内分泌癌 (LCNEC) および小細胞肺癌 (SCLC) に大別される。LCNEC は全肺癌の約 3%、SCLC は 13〜15% を占め、ともに発症時年齢の中央値 65 歳・重喫煙者・診断時転移例が大多数という共通した臨床像を示す。5 年生存率は LCNEC が進行期で 15〜25% 以下、SCLC 進行期は 5% 以下と極めて不良である Govindan et al. JClinOncol 2006Travis et al. JThoracOncol 2015

長年にわたり、SCLC の標準治療は白金製剤+エトポシドを基盤とした化学療法であり、LCNEC については非小細胞肺癌 (NSCLC) に準じた治療が行われてきた。しかし、組織学的分類が固定されたまま治療選択肢が限られていた状況から、ゲノム解析・トランスクリプトーム解析の急速な進歩によって、均質に見えた SCLC と LCNEC の内部に複数の分子サブタイプが存在することが明らかになってきた George et al. Nature 2015。これらの分子サブタイプは互いに異なる生物学的特性・治療脆弱性を持ち、将来的な個別化治療の基盤となりうる。特に、SCLC および LCNEC の分子レベルでの異質性に関する理解は、従来の治療戦略では対応しきれない治療抵抗性の問題に対し、新たなアプローチを模索する上で重要な意味を持つ。

しかし、これらの分子サブタイプに基づいた治療選択の臨床的有効性については、まだ多くの点が未解明であり、前向きな検証が不足している。従来の組織学的分類のみに依存するアプローチでは、患者個々のゲノム背景に適合した精密医療を提供することができず、治療成績の向上が頭打ちになっているという課題が存在する。特に、LCNEC においては SCLC に類似した治療を行うべきか、あるいは NSCLC に準じた治療を行うべきかという判断基準が未確立であり、臨床現場における混乱とエビデンスの不足が指摘されてきた。本総説は、これらの学術的・臨床的ギャップを埋めるために、最新の分子生物学的知見を統合し、新たな治療標的の可能性を体系的に提示するものである。

目的

本総説の目的は、SCLC および LCNEC における最新の分子分類、特に転写因子サブタイプ(ASCL1、NEUROD1、YAP1、POU2F3)と遺伝子変異プロファイル(TP53、RB1、STK11、KEAP1 など)を体系的に整理することである。さらに、各分子サブタイプが有する特異的な治療脆弱性と、現在開発中である新興治療戦略(DLL3 標的薬、Aurora キナーゼ阻害薬、PARP 阻害薬、免疫チェックポイント阻害薬など)の臨床的意義を論じ、個別化医療(精密医療)の実現に向けた具体的なロードマップを提示することを目的とする。

結果

SCLC の分子分類とゲノム特性: 網羅的ゲノム研究から、SCLC ではほぼ全例に TP53 と RB1 の双対立遺伝子不活化が確認されている George et al. Nature 2015。NOTCH 遺伝子不活化変異が 25%、SOX2 増幅が 27% に観察され Rudin et al. NatGenet 2012、MYC ファミリー変化が合計約 19% に観察される。転写因子発現に基づく現行分類は以下の通りである (Figure 1)。SCLC-A (ASCL1 ドリブン) は最頻サブタイプの「古典型」であり、神経内分泌分化が強い。MYCL1、DLL3、BCL2、RET、SOX2 の標的が高発現する。標準化学療法感受性が高い一方、初回治療後再発は多く、再発 SCLC は化学療法抵抗性となることが多い。DLL3 標的薬 (BiTE (bispecific T-cell engager) である AMG757 や、CAR (chimeric antigen receptor) -T 療法である AMG119) や BCL2 阻害薬 venetoclax、LSD1 (Lysine-specific histone demethylase A1) 阻害薬が新興治療として検討されている Augert et al. SciSignal 2019。Rova-T (rovalpituzumab tesirine) は初期相での有望な結果にもかかわらず、TRINITY (phase II) / TAHOE (phase III) で有効性を示せず開発中止となった Saunders et al. SciTranslMed 2015Morgensztern et al. ClinCancerRes 2019。ここで、TRINITY (Efficacy and Safety of Rovalpituzumab Tesirine in Third-Line and Beyond Patients with DLL3-Expressing, Relapsed/Refractory Small-Cell Lung Cancer) 試験および TAHOE (Phase 3 Study of Rovalpituzumab Tesirine as Second-Line Therapy for Advanced Small-Cell Lung Cancer) 試験は、DLL3 標的抗体薬物複合体の臨床的評価を目的とした重要な臨床試験である。

SCLC の MYC 関連サブタイプと治療標的: SCLC-N (NEUROD1 ドリブン) は MYC を標的として神経細胞様分化を促進するサブタイプである Borromeo et al. CellRep 2016。MYC 増幅と関連し、Aurora キナーゼ阻害薬 (alisertib) への感受性が前臨床・臨床で示されている。SCLC 患者 n=48 を対象とした phase 1 試験での alisertib 単剤の客観的奏効率 (ORR) は 21% (うち化学療法感受性 n=36) であった。Alisertib+paclitaxel の phase II ランダム化試験では全生存期間 (OS) 改善は統計学的有意差に至らなかった Mollaoglu et al. CancerCell 2017。PI3K/mTOR 阻害薬、HSP90 阻害薬も候補として挙げられている。SCLC-Y (YAP1 ドリブン) は神経内分泌マーカー陰性、HIPPO (Hpo kinase pathway) /YAP1 経路活性化を特徴とする Zhang et al. TranslLungCancerRes 2018。CCND1 増幅・CDKN2A 不活化を伴い、SCLC の中で RB1 免疫染色陽性を示す稀なサブタイプである。SCLC-P (POU2F3 ドリブン) は化学感覚 tuft 細胞様サブタイプであり、神経内分泌低発現で IGFR1 (insulin-like growth factor 1 receptor) 経路依存性が示されている Huang et al. GenesDev 2018。前臨床では IGFR1 阻害薬感受性が示されるが、現時点で臨床利用可能な薬剤は存在しない。

SCLC の免疫修飾型と標準治療: SCLC-IM (免疫修飾型) は、間葉系転換 (cytokeratin 陰性・vimentin 陽性) ・神経内分泌マーカー陰性・免疫チェックポイント/STING 関連遺伝子高発現を特徴とする。免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 感受性が最も期待されるサブタイプだが、SCLC 全体では PD-L1 陽性率が 5〜15% (1% カットオフ)、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) が低く、主要組織適合性複合体 (MHC) class I/II 低発現という ICI 内因性耐性機序も存在する。限局型 SCLC にには化学放射線同時併用 (白金+エトポシド)、進展型には化学療法単独または抗 PD-L1 薬 (atezolizumab/durvalumab) 併用が標準である。Atezolizumab 追加 (IMpower133) では、中央値無増悪生存期間 (PFS) が 5.2 vs 4.3 ヵ月 (HR=0.77, 95% CI 0.62-0.96, p=0.02)、OS が 12.3 vs 10.3 ヵ月 (HR=0.70, 95% CI 0.54-0.91, p=0.007) と有意な改善が示されたが、予測バイオマーカーは同定されていない Horn et al. NEnglJMed 2018。PARP (poly(ADP-ribose) polymerase) 阻害薬の知見として、Veliparib+temozolomide の phase II では ORR 39% であり、SLFN11 (Schlafen family member 11) 発現が予測バイオマーカー (SLFN11 高発現群の PFS 5.7 vs 3.6 ヵ月、OS 12.1 vs 7.5 ヵ月) とされた。Veliparib+白金+エトポシドの phase II 無作為化比較試験 (RCT) では PFS 6.1 vs 5.5 ヵ月 (片側 HR=0.75, p=0.06) と有意差に至らなかった。

LCNEC の組織学的特徴と分子分類: LCNEC は組織学的には高有糸分裂率 (>10/2mm²、多くは 80-100/2mm²)、神経内分泌形態、非小細胞細胞質学を特徴とする。免疫染色では CD56 が 92〜98% で最感度、chromogranin A が約 70% で最特異度、synaptophysin が 87% で発現する。診断には少なくとも 1 つのマーカーで 50% 超の陽性細胞が必要である。大規模マルチオミクス解析から、LCNEC は 2 つの分子サブタイプに大別される (Figure 1) George et al. NatCommun 2018。Type I (NSCLC-like) は STK11/KEAP1 変異・TP53/RB1 保存・NE 高発現 (ASCL1/DLL3 高・NOTCH 低) を特徴とし、腺癌様または扁平上皮様の特徴を示す。Type II (SCLC-like) は RB1 変異・非 NE 表現型優位 (chromogranin A/synaptophysin 低発現) ・REST (RE1 silencing transcription factor) /NOTCH 高発現・免疫細胞応答活性化を特徴とする (Figure 2) Rekhtman et al. ClinCancerRes 2016。主要変異頻度は TP53 92%、RB1 42%、LKB1/STK11 30%、KEAP1 22%、KRAS 10% である Miyoshi et al. ClinCancerRes 2017。EGFR 変異 2%・BRAF 変異 1% と希少である。

LCNEC の治療戦略: 外科切除が可能な場合は優先される。進行例では標準治療が未確立であり、SCLC 型 (白金+エトポシド) または NSCLC 型 (gemcitabine/taxane/pemetrexed+白金) 化学療法が用いられている。分子サブタイプ別後向き解析において、RB1 野生型 LCNEC では NSCLC 型化学療法が SCLC 型より OS 改善の傾向を示した (OS 9.6 vs 5.6 ヵ月) が、RB1 変異型では差がなかった Derks et al. ClinCancerRes 2018。これは分子プロファイルに基づく化学療法選択の可能性を示唆する初めての後ろ向きエビデンスである。ICI については NSCLC に類似した後期ライン応答が報告されており、前向き試験 (NCT03591731) が進行中である (Figure 3)。EGFR・BRAF 変異は希少だが WT RB1 LCNEC に多く、精密医療アクセスのためのルーチン分子スクリーニングが推奨される。

考察/結論

本総説が整理した SCLC・LCNEC の分子多様性は、従来の組織学的な一律の分類が見逃していた治療上重要な異質性を示す。SCLC の 4 サブタイプ分類 (A/N/Y/P+免疫修飾型 IM) は、それぞれ固有の転写因子ドライバーと分子脆弱性を持ち、将来的な subtype-directed 治療への転換を期待させる Rudin et al. NatRevCancer 2019

先行研究との違い: これまでの SCLC 治療が画一的であったのに対し、本総説は SCLC および LCNEC の分子レベルでの異質性を詳細に分類し、各サブタイプに特異的な治療標的が存在することを示した点で、従来の治療アプローチと対照的である。特に、SCLC-IM のような免疫修飾型サブタイプの同定は、SCLC が「cold tumor」であるという一般的な認識に対し、一部の患者群では免疫チェックポイント阻害薬が有効である可能性を提示する。

新規性: 本総説は、SCLC と LCNEC の包括的な分子分類を提示し、それぞれの疾患特性に基づいた新たな治療戦略の可能性を体系化した点で、これまで報告されていない新規の視点を提供する。特に、LCNEC の Type I (NSCLC-like) と Type II (SCLC-like) の分類は、従来の組織学的な診断では困難であった治療選択の指針を与える。

臨床応用: 本知見は、SCLC および LCNEC の個別化医療の実現に向けた臨床応用に直結する。DLL3 標的薬 (BiTE AMG757、CAR-T AMG119) や Aurora キナーゼ阻害薬、PARP 阻害薬、免疫チェックポイント阻害薬などの新興治療戦略は、分子サブタイプに基づいた患者選択により、臨床現場での治療成績向上に貢献する可能性がある。SLFN11 は PARP 阻害薬への応答を予測する有望なバイオマーカーであり、SCLC 全体における epigenome 解析との統合的活用が期待される Poirier et al. Oncogene 2015

残された課題: 今後の検討課題として、各分子サブタイプを対象とした前向き無作為化臨床試験の実施が残されている。また、生検材料が限られることが多い LCNEC において、ASCL1・DLL3・RB1 免疫染色などによる代替評価の標準化と、ルーチン分子スクリーニングの普及が不可欠である。SCLC-IM は免疫療法感受性が最も高いと推定されるが、前向き検証は未実施であり、「cold tumor」としての SCLC 全体像の中でいかに SCLC-IM を同定・濃縮するかが課題である。Limitation として、本総説がレビューであるため、新たな一次データを提供していない点が挙げられる。

方法

本総説は、SCLC および LCNEC の分子分類と治療標的に関する先行研究を体系的にレビューした。主要な医学データベースである PubMed、Embase、Cochrane Library、Web of Science を用いて、ゲノム解析、エピゲノム解析、トランスクリプトーム解析に関する一次文献を系統的に渉猟した。検索キーワードには「small cell lung cancer」「large cell neuroendocrine carcinoma」「molecular subtype」「genomics」「transcriptomics」「therapeutic target」などの用語を組み合わせた。特定の検索期間は設定しなかったが、次世代シーケンシング(NGS)技術の進歩に伴い、主に 2010 年以降に発表された全エクソームシーケンス(WES)、全ゲノムシーケンス(WGS)、RNA-seq、コピー数解析、DNA メチル化解析に関する論文に焦点を当てた。

文献の選択基準として、SCLC と LCNEC の分子分類を定義した研究、各サブタイプに対応する治療標的を同定した前臨床研究、および関連する臨床試験(例えば、NCT03319940、NCT03392064、NCT03591731 などの臨床試験識別子で管理される試験)の結果に関する知見を統合することを重視した。統計解析手法としては、生存分析における Kaplan-Meier 法や Cox 比例ハザードモデル(Cox regression)、群間比較における log-rank テストや Fisher’s exact テストなど、引用文献内で用いられている主要な統計アプローチの妥当性についてもレビュープロセスにおいて考慮した。最終的に 105 件の学術文献を抽出し、そのエビデンスを統合・整理した。本レビューは、既存の文献を統合し、分子分類の臨床的意義を考察するものであり、新たな一次データを提供する研究とは異なる。