• 著者: Soria JC, Tan DSW, Chiari R, Wu YL, Paz-Ares L, Wolf J, Geater SL, Orlov S, Cortinovis D, Yu CJ, Hochmair M, Cortot AB, Tsai CM, Moro-Sibilot D, Campelo RG, McCulloch T, Sen P, Dugan D, Pantano S, Branle F, Massacesi C, de Castro G Jr
  • Corresponding author: Jean-Charles Soria (Institut Gustave Roussy, Villejuif, France)
  • 雑誌: Lancet
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-01-23
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28126333

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) の約3〜7%に認められる未分化リンパ腫キナーゼ (ALK) 遺伝子再配列は、若年、非喫煙者、腺癌組織型に多く見られる特徴的なドライバー変異である Soda et al. Nature 2007。このALK再配列は、NSCLC患者の治療戦略において重要なターゲットとして認識されている。ALK阻害薬であるクリゾチニブは、未治療のALK陽性NSCLC患者において、プラチナベースのペメトレキセド併用化学療法と比較して、無増悪生存期間 (PFS) の有意な延長を示した (PROFILE 1014試験: 中央値PFS 10.9か月 vs 7.0か月) Solomon et al. NEnglJMed 2014。しかしながら、クリゾチニブによる治療を受けた患者のほぼ全例が最終的に後天性耐性を獲得し、特に中枢神経系 (CNS) が最も一般的な病変進行部位であることが報告されている Katayama et. al. SciTranslMed 2012。これは、クリゾチニブのCNS移行性が限定的であることに起因すると考えられる。

セリチニブ (LDK378) は、クリゾチニブと比較して約20倍高いALK酵素阻害活性を持つ次世代の選択的ALK阻害薬である Friboulet et al. CancerDiscov 2014。動物モデルでは、セリチニブが血液脳関門を通過し、ラット脳における血液曝露比が約15%であることが示されており、CNSへの良好な移行性が期待されている。第I相ASCEND-1試験 Shaw et al. NEnglJMed 2014 および第II相ASCEND-3試験の結果では、ALK阻害薬未治療のALK再配列NSCLC患者において、セリチニブ750 mg/日の投与により中央値PFSが18.4か月という優れた有効性が確認された。しかし、これらの先行研究では、多くの患者が化学療法による前治療を受けており、一次治療としてのセリチニブと標準的な化学療法との直接比較データは不足していた。特に、未治療のALK陽性NSCLC患者におけるセリチニブの一次治療としての有効性、安全性、および患者報告アウトカムを包括的に評価するデータは未解明な点が多かった。この臨床的ギャップを埋めるため、ASCEND-4試験は、未治療のALK陽性NSCLC患者を対象に、セリチニブとプラチナベース化学療法を比較する初のグローバル第III相無作為化試験として設計された。本試験は、次世代ALK阻害薬であるセリチニブの一次治療における有効性、安全性、および患者報告アウトカムを評価し、特にCNS転移を有する患者に対するセリチニブの役割を明確にすることを目的とした。

目的

本研究の目的は、未治療のステージIIIB/IV ALK転座陽性非扁平非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象として、セリチニブ750 mg/日投与群とプラチナベースのペメトレキセド併用化学療法(4サイクル後ペメトレキセド維持療法)群との間で、盲検独立評価委員会 (BIRC) が評価する無増悪生存期間 (PFS) を主要評価項目として、その有効性、安全性、および患者報告アウトカムを比較検討することである。特に、クリゾチニブ耐性における主要な進行部位である中枢神経系 (CNS) 転移に対するセリチニブの有効性を詳細に評価することも重要な目的の一つであった。本試験は、未治療のALK陽性NSCLC患者に対するセリチニブの一次治療としての位置付けを確立し、標準治療と比較した臨床的優位性を示すことを目指した。また、患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcomes, PROs)を評価することで、セリチニブが患者の生活の質(QOL)に与える影響も検討した。

結果

患者背景: 2013年8月19日から2015年5月11日の間に、合計376例の患者が無作為化された(セリチニブ群 n=189、化学療法群 n=187)。両群間で患者背景および疾患特性は良好にバランスが取れていた (Table 1)。年齢中央値はセリチニブ群55歳、化学療法群54歳であった。腺癌の割合は95〜98%であり、非喫煙者がセリチニブ群で65%、化学療法群で57%を占めた。ベースライン時に脳転移を有する患者は、セリチニブ群で31%、化学療法群で33%であった。化学療法群では骨盤/消化器転移がやや多く、ステージIVの患者が両群ともに95%以上を占めた。化学療法群の175例中127例 (73%) がペメトレキセド維持療法を受けた。また、化学療法を中止した145例中105例 (72%) が、その後ALK阻害薬(うち80例はセリチニブ)を投与された。

主要評価項目 (PFS) の有意な改善: 本試験は主要評価項目を達成した。BIRC評価によるPFS中央値は、セリチニブ群で16.6か月 (95% CI 12.6-27.2) であったのに対し、化学療法群では8.1か月 (95% CI 5.8-11.1) であった。セリチニブ群は化学療法群と比較して、病勢進行または死亡のリスクを45%低減した (HR 0.55, 95% CI 0.42-0.73, p<0.00001) (Figure 2A)。治験医師評価によるPFS中央値も同様に、セリチニブ群で16.8か月 (95% CI 13.5-25.2)、化学療法群で7.2か月 (95% CI 5.8-9.7) であり、セリチニブ群で有意な延長が認められた (HR 0.49, 95% CI 0.37-0.64, p<0.00001) (Figure 2B)。PFSのベネフィットは、年齢、性別、人種、WHO PS、脳転移の有無、喫煙歴など、ほとんどの事前定義されたサブグループでセリチニブに有利な傾向が確認された (Figure 3)。特に、ベースライン時に脳転移のない患者では、BIRC評価PFS中央値はセリチニブ群26.3か月 vs 化学療法群8.3か月 (HR 0.48, 95% CI 0.33-0.69) であった。脳転移を有する患者では、BIRC評価PFS中央値はセリチニブ群10.7か月 vs 化学療法群6.7か月 (HR 0.70, 95% CI 0.44-1.12) であった (Figure 2C)。

高い奏効率と長期の奏効持続期間: BIRC評価による全奏効率 (ORR) は、セリチニブ群で72.5% (95% CI 65.5-78.7) であったのに対し、化学療法群では26.7% (95% CI 20.5-33.7) と、セリチニブ群で有意に高かった (p<0.00001)。奏効までの時間中央値は、セリチニブ群で6.1週、化学療法群で13.4週であった。奏効持続期間 (DOR) 中央値は、セリチニブ群で23.9か月 (95% CI 16.6-NE) と、化学療法群の11.1か月 (95% CI 7.8-16.4) と比較して著しく長かった。24週以上の病勢コントロール率 (DCR) は、セリチニブ群で64.0%、化学療法群で45.0%であった。

優れた頭蓋内有効性: ベースライン時に測定可能病変を有する活性脳転移患者(各群 n=22)におけるBIRC神経放射線科医評価による頭蓋内ORRは、セリチニブ群で72.7% (95% CI 49.8-89.3; 16/22例) であったのに対し、化学療法群では27.3% (95% CI 10.7-50.2; 6/22例) と、セリチニブ群で有意に高かった。頭蓋内DOR中央値はセリチニブ群で16.6か月 (95% CI 8.1-NE) であった。24週以上の頭蓋内臨床的利益率は、セリチニブ群で86.4%、化学療法群で50.0%であった。ベースライン時に脳転移を有する全患者(測定可能・非測定可能を含む:セリチニブ群 n=54、化学療法群 n=52)における頭蓋内ORRは、セリチニブ群で46.3% (95% CI 32.6-60.4)、化学療法群で21.2% (95% CI 11.1-34.7) であった。

全生存期間 (OS) の未成熟なデータ: データカットオフ時点(2016年6月24日)では、OSデータは未成熟であり、OSイベントは107件(セリチニブ群 n=48、化学療法群 n=59)であり、最終解析に必要なイベント数の42%に過ぎなかった。OS中央値は、セリチニブ群で未到達 (NR, 95% CI 29.3-NE) であったのに対し、化学療法群では26.2か月 (95% CI 22.8-NE) であった。ハザード比は0.73 (95% CI 0.50-1.08, p=0.056) であり (Figure 2D)、OS優越性の事前設定された統計学的有意水準 (p=0.0006) には達しなかった。2年OS率は、セリチニブ群で70.6% (95% CI 62.2-77.5)、化学療法群で58.2% (95% CI 47.6-67.5) であった。化学療法群の患者145例中105例 (72%) が、化学療法中止後にALK阻害薬の投与を受けており、これがOS結果に影響を与えた可能性が考えられる。

安全性プロファイルと患者報告アウトカム: グレード3/4の有害事象は、セリチニブ群で75%、化学療法群で55%の患者に発生した。セリチニブ群で最も頻繁に報告された有害事象は、下痢 (any-grade 85%)、悪心 (69%)、嘔吐 (66%)、ALT上昇 (60%)、AST上昇 (51%) であった。化学療法群では、悪心 (55%)、嘔吐 (36%)、貧血 (35%) が多く見られた。セリチニブの投与期間中央値は66.4週であり、化学療法群の26.9週と比較して長かった。用量減量率はセリチニブ群で53%、化学療法群で35%であった。治療関連死亡はセリチニブ群で2例(急性腎不全1例、原因不明1例)報告された。患者報告アウトカム (EORTC QLQ-C30) の評価では、ベースラインから全般的な健康状態が悪化するまでの時間はセリチニブ群で有意に長く (p=0.00016)、肺癌特異的症状の改善もセリチニブ群でより早く認められた (LCSSスコア)。

考察/結論

ASCEND-4試験は、未治療のALK陽性進行NSCLC患者を対象とした初のグローバル第III相無作為化比較試験であり、セリチニブがプラチナベース化学療法と比較して統計学的有意かつ臨床的に意義のあるPFSの改善を示すことを明確に示した。PFS中央値16.6か月 (95% CI 12.6-27.2) は、先行するクリゾチニブのPROFILE 1014試験におけるPFS中央値10.9か月を上回るものであり Solomon et al. NEnglJMed 2014、次世代ALK-TKIの一次治療としての高い有効性を確立した。

新規性: 本研究で初めて、セリチニブが未治療のALK陽性NSCLC患者において、標準化学療法と比較してPFSを大幅に延長し、特に脳転移を有する患者においても優れた頭蓋内奏効率 (72.7% vs 27.3%) を示すことを実証した。これは、クリゾチニブ耐性における主要な進行部位であるCNS病変に対するセリチニブの良好なCNS移行性と有効性を示すものであり、脳転移を有する患者の一次治療選択肢としてのセリチニブの価値を裏付ける新規の知見である。奏効持続期間中央値23.9か月は、セリチニブによる長期にわたる病勢コントロールの可能性を示唆する。

先行研究との違い: 本試験の結果は、クリゾチニブが化学療法に対してPFS優越性を示したPROFILE 1014試験の結果と類似しているが、セリチニブのPFS中央値はクリゾチニブを上回るものであった。また、本試験は化学療法群からのALK阻害薬へのクロスオーバー率が72%と高かったため、OSの優越性を検出することは困難であった点が、これまでのALK阻害薬の試験とは対照的である。この点は、ALK阻害薬の連続使用がOSに与える影響を評価する上での今後の検討課題である。

臨床応用: 本研究の知見は、ALK陽性NSCLC患者に対する一次治療としてセリチニブを考慮する強力な根拠を提供する。特に、脳転移を有する患者においてセリチニブが優れた頭蓋内効果を示すことは、臨床現場での治療選択において重要な臨床的意義を持つ。患者報告アウトカムの改善も、セリチニブが患者のQOL向上に貢献することを示唆している。

残された課題: 本試験の主なlimitationは、セリチニブの消化器毒性(下痢85%、悪心69%)の頻度が高く、用量減量率が53%に達したことである。この忍容性の課題は、その後のASCEND-8試験において、食事摂取下でのセリチニブ450 mg投与がより良好な忍容性を示すことを明らかにするきっかけとなった。また、本試験と並行して実施されたALEX試験では、アレクチニブがクリゾチニブに対してPFS中央値34.8か月 vs 10.9か月という著明な優越性を示し Hida et al. Lancet 2017、かつ消化器毒性が少ないことから、現在の診療ガイドラインではアレクチニブが一次治療の最優先選択肢として位置付けられている。しかし、本試験はセリチニブの独立した有効性、特にCNS有効性を確立した重要な臨床的エビデンスであり、アレクチニブが利用できない状況や地域的な薬剤アクセスの差異において、セリチニブが依然として重要な治療選択肢となる根拠を提供する。今後の研究では、異なるALK阻害薬間の直接比較や、耐性メカニズムに基づく最適な治療シーケンスの確立が残された課題である。

方法

本研究は、28か国134施設で実施された非盲検、無作為化 (1:1)、第III相試験 (ClinicalTrials.gov登録番号: NCT01828099) である。適格患者は、18歳以上、組織学的または細胞学的に確認された局所進行または転移性非扁平ALK再配列NSCLC(VENTANA D5F3 IHCによる中央確認陽性)と診断され、全身抗がん治療歴がないこと(術前または術後化学療法後の再発が治療終了から12か月以上経過している場合のみ許容)が条件とされた。また、RECIST v1.1に基づく測定可能病変を有し、WHOパフォーマンスステータス (PS) が0〜2、症候のない安定した脳転移(2週間以上安定していること)を有する患者が対象となった。

患者の無作為化は、インタラクティブ応答技術 (IRT) を用いて行われ、WHO PS (0 vs 1〜2)、術前/術後化学療法歴 (あり vs なし)、およびスクリーニング時の治験医師評価による脳転移の有無 (あり vs なし) で層別化された。治療群は以下の通りである。

  • セリチニブ群: セリチニブ750 mgを1日1回経口投与(空腹時)。
  • 化学療法群: シスプラチン75 mg/m²またはカルボプラチンAUC 5〜6とペメトレキセド500 mg/m²を3週ごとに4サイクル静脈内投与後、ペメトレキセド500 mg/m²による3週ごとの維持療法を実施した。

主要評価項目は、盲検独立評価委員会 (BIRC) がRECIST v1.1に基づいて評価した無増悪生存期間 (PFS) であった。主要副次評価項目は全生存期間 (OS) であり、その他の副次評価項目には、治験医師判定PFS、全奏効率 (ORR)、奏効期間 (DOR)、病勢コントロール率 (DCR)、頭蓋内奏効率、患者報告アウトカム(EORTC QLQ-C30/LC13、LCSS、EuroQol Group 5-Dimension (EQ-5D-5L))、および安全性が含まれた。

データカットオフは2016年6月24日であった。統計学的解析では、層別化ログランク検定を用いて治療群間の比較を行い、Cox比例ハザードモデルによりハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) を算出した。PFSの優越性を示すための統計学的有意水準は片側2.5%と設定された。OS解析は、PFSが統計学的に有意であった場合に、事前に定義された階層的検定手順に従って実施された。安全性評価は、Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v4.03に基づいて行われた。患者報告アウトカムは、ベースライン、各サイクル開始時、治療中止時、および追跡調査時に評価された。