- 著者: Sai-Hong Ignatius Ou, Jin Seok Ahn, Luigi De Petris, Ramaswamy Govindan, James Chih-Hsin Yang, Brett Hughes, Hervé Lena, Denis Moro-Sibilot, Alessandra Bearz, Santiago Viteri Ramirez, Tarek Mekhail, Alexander Spira, Walter Bordogna, Bogdana Balas, Peter N. Morcos, Annabelle Monnet, Ali Zeaiter, Dong-Wan Kim
- Corresponding author: Sai-Hong Ignatius Ou (Chao Family Comprehensive Cancer Center, University of California Irvine School of Medicine, Orange, CA, USA)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2016
- Epub日: 2015-11-23
- Article種別: Original Article
- PMID: 26598747
背景
Kwak et al. NEnglJMed 2010、Camidge et al. LancetOncol 2012、Shaw et al. NEnglJMed 2013らの報告により、クリゾチニブはALK再構成非小細胞肺癌 (NSCLC) の標準一次治療として確立されている。クリゾチニブは、ALK再構成NSCLC患者において化学療法と比較して無増悪生存期間 (PFS) を改善することが示されているが、ほぼ全ての患者で最終的に病勢進行を経験する。特に、ALK再構成NSCLC患者の約40%が中枢神経系 (CNS) を初発の病勢進行部位とすることが報告されており、これはクリゾチニブのCNS浸透性が不十分である可能性を示唆している。このCNS浸透性の不足は、クリゾチニブ治療後の病勢進行における主要な課題の一つであった。
クリゾチニブ治療後に病勢進行したALK陽性NSCLC患者を対象とした後続のALK阻害剤試験では、約60%の患者がベースラインでCNS転移を有していた。これは、一次治療としてのPROFILE-1014試験に登録された治療歴のないALK再構成NSCLC患者におけるベースラインCNS転移の割合 (26%) とは対照的であり、クリゾチニブ耐性後のCNS病変に対する効果的な治療の必要性が浮き彫りになっていた。既存の治療法では、CNS転移に対する効果的なアプローチが不足しており、この点が大きな未解明な課題として残されていた。
アレクチニブ (CH5424802) は、経口投与可能な低分子ATP競合的ALK阻害剤であり、酵素アッセイにおいてクリゾチニブと比較して約5倍強力なALK阻害活性を示す。また、クリゾチニブ耐性に関与するほとんどの既知のALK耐性変異を阻害する能力を持つことがSakamoto et al. CancerCell 2011により報告されている。アレクチニブはMETやROS1のキナーゼ活性を阻害しないが、RETに対してはALKと同程度の阻害活性を示す。前臨床試験では、アレクチニブはマウス脳転移異種移植モデルにおいて優れたCNS浸透性と腫瘍縮小効果を示し、脳脊髄液 (CSF) と血漿中の非結合型アレクチニブ濃度が同等であることがCosta et al. JClinOncol 2011により確認されている。
北米での第I/II相試験 (AF-002JG) において、アレクチニブの推奨第II相用量は600mg 1日2回 (BID) と設定された。本NP28673試験は、クリゾチニブ治療後に病勢進行したALK再構成NSCLC患者 (化学療法既治療および未治療を含む) を対象に、アレクチニブ600mg BIDの安全性、有効性、および薬物動態 (PK) を評価する目的で実施された国際共同第II相試験である。特に、CNS転移に対するアレクチニブの活性は、これまでの治療では不足していた重要な臨床的課題であり、本研究の主要な焦点の一つであった。
目的
本研究の主要目的は、クリゾチニブ治療後に病勢進行したALK再構成非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者 (化学療法既治療および未治療の双方を含む) におけるアレクチニブ600mg 1日2回 (BID) 投与の客観的奏効率 (ORR) を、独立中央判定委員会 (IRC) の評価に基づき決定することであった。この主要目的は、全患者集団および先行化学療法既治療患者のサブグループの両方で評価された。
副次目的として、アレクチニブの薬物動態 (PK) プロファイル、安全性および忍容性プロファイル、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS) を評価することが含まれた。さらに、中枢神経系 (CNS) におけるアレクチニブの有効性を詳細に評価することも重要な目的であった。具体的には、ベースラインでCNS転移を有する患者におけるCNS奏効率、CNS病勢コントロール率、およびCNS奏効期間を評価し、アレクチニブの優れたCNS浸透性に基づく頭蓋内活性を明らかにすることを目指した。これらの目的は、クリゾチニブ耐性後のALK再構成NSCLC患者に対する新たな治療選択肢としての、アレクチニブの潜在的なベネフィットを包括的に評価するために設定された。
結果
患者背景: 2013年6月から2014年4月までにn=138例の患者が登録され、安全性、PFS、およびOSの評価対象となった。IRC評価でRECIST測定可能病変を有さないn=16例を除外し、n=122例がIRCによる奏効評価可能 (RE) 集団とされた。患者の年齢中央値は52歳 (範囲 22-79歳) であり、女性が56%を占めた。人種はWhiteが67%、Asianが26%であった。喫煙歴では、never-smokerが70%と多数を占めた。組織型は腺癌が96%であった。ベースラインでCNS転移を有する患者はn=84例 (61%) であり、そのうちn=35例 (25%) が測定可能なCNS病変を有していた。CNS転移を有する患者の73% (n=61/84例) が過去に脳放射線治療を受けており、そのうち64%はアレクチニブ開始の6ヶ月以上前に放射線治療を完了していた。全患者の80%がクリゾチニブに加え、少なくとも1ラインのプラチナ製剤ベースの化学療法歴を有していた。クリゾチニブ治療期間の中央値は364日 (約12ヶ月) であった。クリゾチニブ最終投与からアレクチニブ初回投与までの期間の中央値は15日 (範囲 7-676日) であった。最新の有効性データカットオフ時点での追跡期間中央値は47週 (範囲 2-73週) であった (Table 1)。
全身奏効 (co-primary endpoint): IRCによる奏効評価可能集団 (n=122) において、主要評価項目である客観的奏効率 (ORR) は50% (95% CI, 41-59%) であり、統計的有意性が達成された。病勢コントロール率 (DCR) は79% (95% CI, 70-86%) であった。先行化学療法既治療患者n=96例のサブグループにおけるORRは45% (95% CI, 35-55%) であり、化学療法未治療患者n=26例のサブグループではORR 69% (95% CI, 48-86%) と高い奏効率を示した。最新のデータカットオフ時点で、n=61例の奏効のうちn=41例 (67%) が継続中であった。奏効期間 (DOR) 中央値は11.2ヶ月 (95% CI, 9.6ヶ月-未到達) であり、イベント発生はn=20例 (33%) であった (Fig 1B)。全患者n=138例における無増悪生存期間 (PFS) 中央値は8.9ヶ月 (95% CI, 5.6-11.3ヶ月) であった (Fig 1C)。化学療法未治療患者n=28例のサブグループにおけるPFS中央値は13.0ヶ月 (95% CI, 5.5ヶ月-未到達) であった。6ヶ月時点でのイベントフリー率は87% (95% CI, 81-92%) であった。
CNS奏効: ベースラインでCNS転移を有するn=84例の患者のうち、n=35例が測定可能なCNS病変を有していた。これらの患者におけるCNS ORRは57% (95% CI, 39-74%) であり、n=7例 (20%) がCNS完全奏効 (CR) を達成した (Fig 2A)。ベースラインでCNS転移を有する全n=84例の患者において、n=23例 (27%) がCNS CRを達成し、全体のCNS DCRは83% (95% CI, 74-91%) であった。CNS奏効期間 (DOR) 中央値は10.3ヶ月 (95% CI, 7.6-11.2ヶ月) であった (Fig 2B)。特に、過去に脳放射線治療歴のないn=23例の患者では、n=10例 (43%) がCNS CRを達成し、未治療のCNS病変に対するアレクチニブの強力な活性が示唆された。
競合リスク解析による病勢進行パターン: 12ヶ月時点での累積CNS病勢進行率は24.8% (n=33例) であり、累積非CNS病勢進行率は33.2% (n=43例) であった。死亡はn=9例 (累積発生率6.6%) で、病勢進行が確認されずに死亡した。非CNS病勢進行の発生率はCNS病勢進行よりも早期に増加し、累積発生率も高かった。この結果は、アレクチニブがCNS転移の発生を予防または遅延させる可能性を示唆するものであった (Fig 2C)。
安全性プロファイル: データカットオフ時点での治療期間中央値は27.1週 (範囲 2.4-53.0週) であった。原因を問わない最も一般的な有害事象 (AE) は、便秘 (33%)、疲労 (26%)、末梢性浮腫 (25%)、筋肉痛 (23%) であった (Table 2)。薬剤関連のAEで最も多かったのは、筋肉痛 (17%)、便秘 (15%)、疲労 (14%)、無力症 (11%) であった。Grade 3-4のAEの発生率は低く、いずれのAEも5%を超えるものはなかった。用量減量または中断はn=29例 (21%) で発生し、主に臨床検査値異常が原因であった。治療中断期間の中央値は10日間であった。平均用量強度は97%であり、ほとんどの患者が治療期間を通じて治療濃度を維持できたことを示している。AEによる永続的な治療中止はn=11例 (8%) であった。AEによる死亡はn=4例 (3%) であり、このうち腸穿孔のn=1例のみが治験薬との関連が疑われた。末梢性浮腫の発生率 (25%) は、クリゾチニブからのウォッシュアウト期間が中央値15日と短かったため、クリゾチニブの残存効果を一部反映している可能性が考察された。
薬物動態 (PK): アレクチニブ600mg BIDを食後に複数回経口投与した場合、定常状態のDay 21におけるアレクチニブの幾何平均ピーク・トラフ比は1.23であり、アレクチニブの薬物動態プロファイルが比較的平坦であることを示し、投与間隔を通じて持続的なアレクチニブ曝露が維持されることを裏付けた。限られた数の患者 (White人種 n=6、Asian人種 n=20) における定常状態でのアレクチニブ血漿中濃度を探索的に評価したところ、曝露量に大きな重複が見られ、600mg BID投与においてWhite人種とAsian人種間でアレクチニブ曝露量に顕著な差はないことが示唆された。
考察/結論
本NP28673試験は、クリゾチニブ治療後に病勢進行したALK再構成NSCLC患者を対象とした国際共同第II相試験であり、アレクチニブ600mg BIDが強力な全身抗腫瘍活性と顕著な中枢神経系 (CNS) 活性を示すことを明らかにした。全身奏効率 (ORR) は50% (95% CI, 41-59%)、無増悪生存期間 (PFS) 中央値は8.9ヶ月 (95% CI, 5.6-11.3ヶ月) であった。特に、ベースラインで測定可能なCNS病変を有する患者におけるCNS ORRは57% (95% CI, 39-74%)、CNS完全奏効 (CR) 率は27%、CNS奏効期間 (DOR) 中央値は10.3ヶ月 (95% CI, 7.6-11.2ヶ月) であり、アレクチニブの優れたCNS浸透性を示す前臨床データや、他の臨床試験で観察された脳脊髄液 (CSF) と非結合型血漿中濃度の比率と整合する結果であった。また、アレクチニブが軟膜播種にも有効であるという臨床報告とも一致する。
先行研究との違い: 本研究で観察されたCNS病勢進行の累積発生率が非CNS病勢進行よりも低いという結果は、アレクチニブがCNS転移の出現を予防または遅延させる可能性を示唆する点で、これまでのクリゾチニブ治療後の病勢進行パターンとは対照的である。クリゾチニブ治療患者ではCNSが初発進行部位となる割合が高いことが報告されているが、アレクチニブではその傾向が逆転する可能性が示唆された。ただし、ベースラインでCNS転移のない患者において定期的な脳画像評価が行われなかったため、真のCNS進行発生率は過小評価されている可能性があり、この点は今後の検討課題である。
新規性: 本研究は、クリゾチニブ耐性ALK再構成NSCLC患者において、アレクチニブが全身および頭蓋内において持続的かつ強力な抗腫瘍活性を示すことを、大規模な国際共同試験で初めて実証した。特に、過去に脳放射線治療歴のない患者における高いCNS CR率 (43%) は、未治療のCNS病変に対するアレクチニブの新規かつ顕著な効果を示すものである。
臨床応用: アレクチニブの安全性プロファイルは良好であり、ほとんどの有害事象はGrade 1-2であった。用量減量または中断が必要となった患者は21%であり、これはセリチニブの第I相試験で報告された用量減量率58%と比較して管理しやすい忍容性プロファイルを示している。主な有害事象である筋肉痛や末梢性浮腫も、多くが軽度であった。これらの結果は、クリゾチニブ耐性ALK再構成NSCLC患者に対するアレクチニブの臨床的有用性を強く支持するものである。アレクチニブの優れたCNS浸透性と活性は、脳転移の有無にかかわらず、この患者集団における重要な治療選択肢となることを示唆する。本研究の結果は、後にアレクチニブがALK陽性NSCLCの一次治療として標準化されるALEX試験 (NCT02075840) の基礎となり、臨床現場での治療戦略に大きな影響を与えた。
残された課題: 今後の検討課題として、他の第二世代ALK阻害剤 (セリチニブ、ブリガチニブなど) との直接比較試験が必要である。また、アレクチニブ耐性メカニズムの解明と、ロルラチニブなどの次世代ALK阻害剤への最適なシーケンシング戦略の確立も重要である。化学療法未治療コホートにおけるPFS中央値13.0ヶ月という良好な結果の長期追跡データ蓄積も求められる。さらに、ベースラインで脳転移のない患者における定期的なMRIサーベイランスの役割を評価し、アレクチニブがCNS転移の出現を遅延または予防する効果をより正確に評価するための研究が必要である。
方法
本研究は、国際的な単群非盲検第II相試験として、2013年6月から2014年4月にかけて16カ国56施設で実施され、合計138例の患者が登録された。
患者選択基準: 組織学的に確認された進行性または転移性ALK再構成NSCLC患者が対象とされた。ALK再構成は、米国食品医薬品局 (FDA) 承認のFISH法 (Abbott Vysis LSI breakapart FISH) により事前に評価されていることが条件とされた (再検査は不要)。主要な適格基準として、RECIST 1.1に基づきクリゾチニブ治療中に病勢進行した患者、18歳以上、ECOGパフォーマンスステータスが2以下、十分な臓器機能、およびRECIST 1.1で測定可能な病変を有することが含まれた。脳転移または軟膜播種を有する患者も登録可能であり、治療済みの場合は2週間以上安定していること、未治療の場合は無症状で2週間以上安定していることが条件とされた。クリゾチニブ最終投与からアレクチニブ初回投与までのウォッシュアウト期間は最低7日間とされた。患者は化学療法未治療でも、プラチナ製剤ベースの化学療法既治療でも許容された。
治療プロトコル: アレクチニブは600mgを1日2回、食後30分以内に経口投与された。病勢進行、許容できない毒性、または同意撤回まで治療が継続された。担当医の判断とスポンサーとの協議により、病勢進行後も治療継続が許可される場合があった。
評価項目: 有害事象 (AE) はNCI-CTCAE v4.0に基づきグレード分類された。薬物動態 (PK) 評価のため、血漿サンプルが採取された。腫瘍画像評価はベースライン時に胸部・腹部CTおよび脳画像 (CTまたはMRI) を実施し、治療中は8週間間隔で再評価スキャンが実施された。ベースラインで脳転移を有する患者では、脳画像も8週間間隔で実施された。局所担当医による画像評価に加え、独立中央判定委員会 (IRC) がEisenhauer et al. EurJCancer 2009に基づき全ての画像スキャンを独立して評価した。CNSエンドポイントもIRCによって評価された。
統計解析: 本研究は単群の国際第II相試験としてデザインされた。主要評価項目であるORRの検出力を確保するため、先行化学療法既治療患者のサブグループにおいて、ORRが35%であるという帰無仮説を棄却し、50%のORRを検出するためにn=85例のサンプルサイズが設定された。これにより、全体でn=130例の登録が計画され、最大n=45例の化学療法未治療患者を含むこととされた。これは、両側5%の有意水準でORRが35%から50%に15%増加することを検出するために、単一割合の正確検定に基づいて93%の検出力を達成するものであった。階層的検定が用いられ、まず全患者群で主要解析が実施され、有意であった場合に先行化学療法既治療患者のサブグループで後続の検定が実施された。奏効評価可能 (RE) 集団は、ベースラインで測定可能病変を有し、ベースライン腫瘍評価を受け、アレクチニブ600mg BIDを少なくとも1回投与された患者と定義された。安全性データは、アレクチニブを少なくとも1回投与された全ての患者について集計された。ORRは、RE集団において完全奏効 (CR) または部分奏効 (PR) を達成した患者の割合と定義された。PFSは、アレクチニブ初回投与日から病勢進行またはあらゆる原因による死亡までの期間として算出された。イベント発生までの期間データは、Kaplan-Meier法により中央値が推定され、95%信頼区間 (CI) はBrookmeyer-Crowley法により算出された。CNSにおける病勢進行までの期間における競合リスクを考慮するため、ハザードベースのアプローチを用いた競合リスクモデルが使用された。CNS進行、非CNS進行、または死亡が最初のイベントとなる確率を累積発生関数を用いて推定した。全ての解析はSAS統計ソフトウェアバージョン9.2を用いて実施された。