• 著者: Shaw AT, Kim TM, Crinò L, Gridelli C, Kiura K, Liu G, Novello S, Bearz A, Gautschi O, Mok T, Nishio M, Scagliotti G, Spigel DR, Deudon S, Zheng C, Pantano S, Urban P, Massacesi C, Viraswami-Appanna K, Felip E
  • Corresponding author: Alice T. Shaw, MD (Massachusetts General Hospital, Boston, MA, USA)
  • 雑誌: Lancet Oncology
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-05-06
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28602779

背景

ALK遺伝子再配列は非小細胞肺癌 (NSCLC) の約3-7%に認められる主要なドライバー変異であり、ALKチロシンキナーゼ阻害薬 (ALK-TKI) はこの患者集団の治療において劇的な進歩をもたらした。特に、クリゾチニブはALK陽性NSCLCの一次および二次治療として確立され、化学療法と比較して優れた有効性を示したことが、Shaw et al. NEnglJMed 2013Solomon et al. NEnglJMed 2014などの第III相試験で報告されている。しかし、クリゾチニブによる治療を受けた患者は最終的に獲得耐性により疾患が進行することが避けられない。クリゾチニブ耐性の主要なメカニズムとしては、ALKキナーゼドメイン変異(例: L1196M、G1269A)、ALK遺伝子増幅、EGFRやc-KIT、Srcなどの代替シグナル経路の活性化、および脳への薬剤移行不良による薬物動態学的失敗がDoebele et al. ClinCancerRes 2012Katayama et al. SciTranslMed 2012によって報告されている。特に脳はクリゾチニブ耐性後の主要な再発部位であり、クリゾチニブ治療後に進行した患者の約60%が脳転移を有していることが示されている。

セリチニブは、クリゾチニブよりも約20倍強力なALK選択的阻害薬であり、前臨床モデルにおいてL1196M、G1269A、I1171Thr、S1206Tyrなどのクリゾチニブ耐性変異を強力に阻害することが報告されている。セリチニブは、第I相試験(ASCEND-1)および第II相試験(ASCEND-2)において、クリゾチニブ前治療歴のある患者に対して高い全身性および頭蓋内抗腫瘍活性を示すことが確認された。しかし、クリゾチニブおよびプラチナベース化学療法の両方に前治療歴を持つ、より治療抵抗性の高い患者集団を対象としたセリチニブと標準化学療法を比較する第III相無作為化比較試験は、本研究の開始時点では存在せず、この治療ギャップが残されていた。したがって、クリゾチニブおよび化学療法後に進行したALK陽性NSCLC患者におけるセリチニブの有効性と安全性を確立することは、重要な臨床的課題であった。本研究であるASCEND-5試験は、この患者集団(三次治療相当)においてセリチニブと化学療法を比較した初の第III相無作為化試験であり、その臨床的有用性を評価することが目的とされた。クリゾチニブ耐性後の最適な治療戦略は未解明であり、この患者集団における標準治療は化学療法であったが、その有効性は不足していた。

目的

本研究の目的は、プラチナベース化学療法とクリゾチニブの両方に前治療歴があり、その後疾患が進行したALK陽性NSCLC患者において、セリチニブ(750 mg/日、空腹時投与)と単剤化学療法(ペメトレキセドまたはドセタキセル)の有効性および安全性を比較検証することである。主要評価項目は、独立評価委員会(IRC)評価による無増悪生存期間(PFS)とし、セリチニブが化学療法に対して統計学的に有意かつ臨床的に意義のあるPFSの改善を示すかを評価した。副次評価項目として、全生存期間(OS)、客観的奏効率(ORR)、奏効持続期間、頭蓋内奏効、安全性プロファイル、および患者報告アウトカム(PROs)を評価した。本試験は、クリゾチニブ耐性後のALK陽性NSCLC患者に対する最適な治療戦略を確立するための重要なデータを提供することを目指した。

結果

PFS(主要評価項目)の有意な改善: IRC評価によるPFS中央値は、セリチニブ群で5.4ヶ月(95% CI 4.1-6.9)であったのに対し、化学療法群では1.6ヶ月(95% CI 1.4-2.8)であった。ハザード比(HR)は0.49(95% CI 0.36-0.67, p<0.0001)であり、セリチニブが化学療法と比較して統計学的に有意かつ臨床的に意義のあるPFSの改善を示した (Figure 2)。研究者評価によるPFS中央値も同様に、セリチニブ群で6.7ヶ月(95% CI 4.4-7.9) vs 化学療法群で1.6ヶ月(95% CI 1.4-2.6)であり、HR 0.40(95% CI 0.29-0.54)と一致した結果であった。化学療法群の内訳として、ペメトレキセド投与患者のPFS中央値は2.9ヶ月(95% CI 1.5-5.1)、ドセタキセル投与患者のPFS中央値は1.5ヶ月(95% CI 1.4-1.8)であった。セリチニブとペメトレキセドの比較におけるHRは0.73(95% CI 0.47-1.13)、セリチニブとドセタキセルの比較におけるHRは0.32(95% CI 0.22-0.47)であった。

ORRおよびDCRの顕著な差: IRC評価による客観的奏効率(ORR)は、セリチニブ群で39%(95% CI 30-49%)であったのに対し、化学療法群では7%(95% CI 3-13%)と顕著な差が認められた(p<0.0001)。研究者評価によるORRも同様に、セリチニブ群で43% vs 化学療法群で6%であった。奏効持続期間中央値は、セリチニブ群で6.9ヶ月(95% CI 5.4-8.9)であったが、化学療法群では奏効例が少なかったため8.3ヶ月(95% CI 3.5-推定不能)と推定が不安定であった。疾患制御率(DCR)は、セリチニブ群で77% vs 化学療法群で36%であった。奏効までの期間中央値は、セリチニブ群で6.7週、化学療法群で7.4週であり、セリチニブによる奏効は比較的迅速に得られることが示された。セリチニブ群の奏効者n=45例中36例(80%)が最初の12週以内に奏効を達成した。

OSデータとクロスオーバーの影響: データカットオフ時点でのOSデータは未成熟であり、必要なOSイベント数(n=196)の約50%しか発生していなかった。OS中央値は、セリチニブ群で18.1ヶ月(95% CI 13.4-23.9) vs 化学療法群で20.1ヶ月(95% CI 11.9-25.1)であり、HR 1.0(95% CI 0.67-1.49, p=0.50)と統計学的な有意差は認められなかった (Table 2)。これは、化学療法群の患者の70%(n=75/108)が疾患進行後にセリチニブへクロスオーバーしたことが主要な交絡因子であると考えられた。化学療法群のOS中央値が約20ヶ月と、一般的な二次化学療法(ドセタキセルやペメトレキセド)の報告されている6-10ヶ月と比較して著しく良好であったことは、クロスオーバーによるセリチニブの恩恵がOSを押し上げた可能性を示唆する。

脳転移サブグループにおける有効性: ベースライン時に脳転移を有する患者集団(セリチニブ群57% vs 化学療法群59%)においても、セリチニブのPFSベネフィットは一貫していた。脳転移あり群におけるPFS中央値は、セリチニブ群で4.4ヶ月(95% CI 3.5-6.2) vs 化学療法群で1.4ヶ月(95% CI 1.2-1.6)であり、HR 0.50(95% CI 0.33-0.76)であった。頭蓋内奏効率は、活動性標的脳病変を有する患者(セリチニブ群n=17、化学療法群n=20)において、セリチニブ群で35%(95% CI 14.2-61.7%) vs 化学療法群で5%(95% CI 0.1-24.9%)であり、セリチニブの良好な頭蓋内活性が確認された。頭蓋内奏効持続期間中央値はセリチニブ群で6.9ヶ月(95% CI 2.7-8.3)であった。

全サブグループにおけるPFSの一貫性: 年齢(<65歳 vs ≥65歳)、性別、人種、喫煙歴、WHOパフォーマンスステータス、脳転移の有無、クリゾチニブへの前治療奏効、疾患負荷(target lesionの直径の合計)のすべてのサブグループにおいて、セリチニブは化学療法と比較してPFSの優越性を示した(HR 0.26-0.68) (Figure 3)。例えば、WHOパフォーマンスステータス0の患者では、セリチニブ群のPFS中央値は6.9ヶ月 vs 化学療法群の1.7ヶ月であり、HR 0.38(95% CI 0.24-0.60)であった。

患者報告アウトカム(PROs)の改善: 肺癌症状スケール(LCSS)の複合エンドポイント(咳嗽、疼痛、呼吸困難)における症状悪化までの期間中央値は、セリチニブ群で18.0ヶ月(95% CI 13.4-推定不能) vs 化学療法群で4.4ヶ月(95% CI 1.6-8.6)であった (Figure 4)。EORTC QLQ-LC13の複合エンドポイント(疼痛、咳嗽、息切れ)では、セリチニブ群で11.1ヶ月(95% CI 7.1-14.2) vs 化学療法群で2.1ヶ月(95% CI 1.0-5.6)であった。これらの結果は、セリチニブ群で消化器毒性が多く報告されたにもかかわらず、肺癌関連症状の有意な改善と悪化までの期間の延長が示されたことを意味する。EuroQoL 5 Dimensions (EQ-5D-5L) による全体的な健康状態スコアも、セリチニブ群で有意に良好であった(効果差 0.08, p=0.0004)。

安全性プロファイル: 治療関連有害事象(任意のグレード)は、セリチニブ群で96% vs 化学療法群で79%の患者に報告された。グレード3-4の有害事象は、セリチニブ群でALT上昇21%、GGT(γ-グルタミルトランスフェラーゼ)上昇21%、AST上昇14%が最も頻繁に認められた (Table 3)。化学療法群では好中球減少症15%、無力症6%、呼吸困難6%が最多であった。セリチニブ群で多く見られた消化器毒性(下痢68% [グレード3: 4%]、悪心58% [グレード3: 8%]、嘔吐44% [グレード3: 8%])は、大部分がグレード1-2であり、管理可能であった。肝酵素上昇は一過性で、ビリルビン値の同時上昇は認められず、Hy’s lawの基準を満たす症例はなかった。用量調整または中断は、セリチニブ群の80% vs 化学療法群の38%で必要とされた。用量減量はセリチニブ群の61%で実施され、化学療法群(ペメトレキセド18%、ドセタキセル26%)と比較して高頻度であった。治療中止に至った有害事象は、セリチニブ群で5% vs 化学療法群で7%であった。治療期間中の死亡は、セリチニブ群でn=15/115例(13%) vs 化学療法群でn=5/113例(4%)であったが、セリチニブ群の死亡の87%は疾患進行によるものであり、治療関連死と判断されたのは2例(脳血管事故、呼吸不全)であったが、いずれも担当医により治療関連外と判断された。

考察/結論

ASCEND-5試験は、クリゾチニブおよびプラチナベース化学療法の両方に前治療歴があり、その後疾患が進行したALK陽性NSCLC患者(三次治療相当の高度前治療患者)において、セリチニブが化学療法と比較して有意に優れたPFS(HR 0.49, 95% CI 0.36-0.67, p<0.0001)とORR(39% vs 7%)を示すことを明確に確立した初の第III相無作為化比較試験である。

先行研究との違い: 本研究の化学療法群におけるPFS中央値1.6ヶ月は、クリゾチニブ治療歴のない二次治療患者を対象としたPROFILE 1007試験の化学療法群のPFS中央値3.0ヶ月と比較して著しく短かった。これは、ASCEND-5試験の患者集団がより多くの前治療歴を持ち、より治療抵抗性が高く、脳転移合併率が高い(約60% vs 35%)こと、また化学療法群におけるペメトレキセドの使用割合が低い(34% vs 57%)ことなど、患者背景の差異に起因すると考えられる。ALK陽性NSCLC患者はペメトレキセドに感受性が高いことがCamidge et al. J Thorac Oncol 2011などで報告されており、この違いが化学療法群のPFSに影響を与えた可能性がある。

新規性: 本研究で初めて、クリゾチニブおよび化学療法後に進行したALK陽性NSCLC患者において、セリチニブが標準化学療法よりも優れていることを無作為化第III相試験で示した。特に、セリチニブは脳転移を有する患者においても良好な頭蓋内奏効(35% vs 5%)を示し、クリゾチニブ耐性後の脳病変に対する治療選択肢としての有用性を新規に確立した。

臨床応用: これらの知見は、クリゾチニブ治療後に疾患が進行したALK陽性NSCLC患者に対するセリチニブの臨床的有用性を強く支持するものである。セリチニブは、この治療困難な患者集団において、PFSの延長、ORRの改善、および患者報告アウトカム(PROs)で示された肺癌関連症状の緩和をもたらし、全体的な健康状態の改善にも寄与することが示された。本結果は、欧州医薬品庁(EMA)におけるセリチニブのクリゾチニブ後適応拡大の根拠の一部となった。

残された課題: OSに有意差が認められなかったことは、化学療法群の70%という高いクロスオーバー率が主要な交絡因子であり、セリチニブのOSへの潜在的なベネフィットを評価することが困難であったことがlimitationとして挙げられる。また、セリチニブ750 mg空腹時投与における消化器毒性(下痢68%、悪心58%、嘔吐44%)は実臨床での課題であり、後のASCEND-8試験で450 mg食事とともに投与することで同様の曝露量と有意な消化器毒性減少が示されたことが、今後の臨床的な改善に繋がると考えられる。現在では、アレクチニブやブリガチニブ、ロルラチニブといった次世代ALK-TKIが一次治療として使用される時代となり、クリゾチニブが一次治療に用いられる機会は大幅に減少している。そのため、本研究が示した「クリゾチニブ後三次治療としてのセリチニブ」というシナリオの実臨床における重要性は相対的に低下している。今後の検討課題として、異なるALK-TKI間の最適な治療シーケンスを確立するためのさらなる研究が求められる。

方法

本研究は、国際多施設共同無作為化非盲検第III相試験(ASCEND-5、ClinicalTrials.gov登録番号: NCT01828112)として、2013年6月28日から2015年11月2日の期間に、20ヶ国99施設で実施された。

対象患者: 18歳以上のALK遺伝子再配列陽性(FDA承認のVysis ALK Break Apart Fluorescent In-Situ Hybridisation Probeテストで確認)のStage IIIBまたはIVのNSCLC患者が登録された。主要な適格基準は、進行期疾患に対して1〜2ラインのプラチナベース化学療法およびクリゾチニブ(最低21日間)による前治療歴があり、その後疾患が進行した患者であった。WHOパフォーマンスステータスは0〜2、十分な臓器機能を有し、過去の抗がん治療による毒性から回復していることが求められた。脳転移を有する患者も、症状が安定しており、スクリーニング前2週間以内にステロイド治療を必要としない場合は登録可能であった。クリゾチニブ以外のALK阻害薬による前治療歴がある患者は除外された。

無作為化と治療: 患者は1:1の比率でブロック無作為化(ブロックサイズ4)され、セリチニブ群または化学療法群に割り付けられた。層別化因子は、WHOパフォーマンスステータス(0 vs 1-2)およびスクリーニング時の脳転移の有無であった。セリチニブ群(n=115)の患者には、セリチニブ750 mgを空腹時に1日1回経口投与(21日サイクル)した。化学療法群(n=116)の患者には、担当医の選択によりペメトレキセド500 mg/m²またはドセタキセル75 mg/m²を3週ごとに静脈内投与した。疾患進行により化学療法を中止した患者は、セリチニブ群へのクロスオーバーが許容された。

評価項目: 主要評価項目は、独立評価委員会(IRC)がRECIST 1.1に基づいて評価したPFSであった。PFSは、無作為化から放射線学的に確認された疾患進行またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。副次評価項目には、OS、ORR、奏効持続期間、疾患制御率(DCR)、奏効までの期間、頭蓋内奏効、安全性、および患者報告アウトカム(PROs)が含まれた。PROsは、Lung Cancer Symptom Scale (LCSS)、European Organisation for Research and Treatment of Cancer (EORTC) Quality of Life C30 (QLQ-C30) およびQuality of Life Lung Cancer 13 (QLQ-LC13) 質問票、EuroQoL 5 Dimensions (EQ-5D-5L) 質問票を用いて評価された。腫瘍評価は、ベースライン時、その後は18ヶ月目までは6週ごと、それ以降は9週ごとに実施された。脳転移の評価は、ベースライン時に全患者で実施され、その後はベースライン時に脳病変が確認された患者または脳転移の既往がある患者で定期的に実施された。

統計解析: 統計解析は、intention-to-treat集団で実施された。PFSおよびOSの解析には、カプラン・マイヤー法を用いて中央値を推定し、層別ログランク検定を用いて治療群間の比較を行った。ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)は、層別コックス回帰モデルを用いて推定された。セリチニブのPFSにおける優越性は、片側p値が0.025以下で統計学的に有意と判断された。OSの解析は、PFSが有意であった場合に、Lan-Demets法とO’Brien-Fleming型停止境界を用いたグループ逐次デザインで実施された。データカットオフは2016年1月26日であり、追跡期間中央値は16.5ヶ月(IQR 11.5-21.4)であった。