- 著者: Justin F. Gainor, Anna M. Varghese, Sai-Hong Ignatius Ou, Sheheryar Kabraji, Mark M. Awad, Ryohei Katayama, Amanda Pawlak, Mari Mino-Kenudson, Beow Y. Yeap, Gregory J. Riely, A. John Iafrate, Maria E. Arcila, Marc Ladanyi, Jeffrey A. Engelman, Dora Dias-Santagata, Alice T. Shaw
- Corresponding author: Alice T. Shaw (Department of Medicine, Massachusetts General Hospital Cancer Center)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2013
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 23729361
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) における個別化医療の進展に伴い、特定のドライバー遺伝子変異に基づく治療戦略が確立されてきた。特に、Soda et al. Nature 2007によって同定されたALK (anaplastic lymphoma kinase) 遺伝子転座は、NSCLC全体の3%から5%に認められる重要な治療標的である。ALK陽性肺癌に対しては、ALK阻害薬であるcrizotinibが極めて高い治療効果を示すことがKwak et al. NEnglJMed 2010やCamidge et al. LancetOncol 2012によって報告されている。臨床病理学的特徴としては、若年、非喫煙者、腺癌に多いことがShaw et al. JClinOncol 2009に示されている。
しかしながら、これらのドライバー変異 (EGFR変異、KRAS変異、ALK再構成など) の相互関係については、いくつかの議論が存在していた。従来、これらの主要なドライバー変異は完全に相互排他的 (mutually exclusive) であると考えられてきたが、近年、ALK再構成とEGFR変異やKRAS変異が同一腫瘍内に共存するという症例報告や小規模なコホート研究が相次いで報告され、臨床現場に混乱をもたらしていた。例えば、EURTAC試験のEGFR変異陽性例の15.8%においてALK再構成が共存していたという報告や、欧米およびアジアのコホートにおいてEGFR変異とALK再構成の重複が数%から十数%の頻度で認められたとする報告が存在し、ドライバー変異の相互排他性に関するコンセンサスは未確立であり、議論はcontroversialな状況にあった。
このような背景から、実臨床における遺伝子スクリーニングのワークフロー (例えば、EGFRやKRAS変異が陰性の場合にのみALK検査を行うという段階的スクリーニング戦略) の妥当性について懸念が生じていた。もし重複頻度が臨床的に無視できないレベルで存在するならば、全症例に対して同時並行的な遺伝子スクリーニングを行う必要があり、医療資源の配分や検査コストの観点から大きな問題となる。また、crizotinibに対する耐性獲得機序として、腫瘍細胞がALKシグナルへの依存性を失い、EGFRやKRASなどの他のバイパス経路の変異を二次的に獲得する可能性についても、小規模な報告はあるものの、大規模コホートにおける詳細な検証は不足していた。このように、未治療および治療耐性獲得後の双方の局面において、ALK再構成と他の主要ドライバー変異との真の共存頻度やその臨床的意義については未解明な点が多く、大規模な検証データの蓄積が強く求められていた。
目的
本研究の目的は、第一に、1,683例という欧米の最大規模のNSCLC患者コホートを対象として、ALK遺伝子再構成と、EGFR遺伝子変異およびKRAS遺伝子変異との共存頻度を多施設共同で正確に評価し、これら3大ドライバー遺伝子変異の相互排他性を検証することである。
第二に、ALK FISH (fluorescence in situ hybridization) 検査において、KRAS変異陽性例などで認められる非典型的なシグナルパターン (技術的偽陽性) の実態を、ALK IHC (immunohistochemistry) などの相補的な手法を用いて詳細に解析し、正確な遺伝子診断基準を確立することである。
第三に、ALK阻害薬であるcrizotinibに対する耐性を獲得したALK陽性NSCLC患者の再生検検体を用いて、耐性獲得後におけるALK融合遺伝子の維持状況、ALKキナーゼドメインの二次変異や遺伝子増幅の頻度を系統的に解析するとともに、耐性獲得機序としてのEGFRやKRASなどの他のドライバー遺伝子変異の二次的出現頻度を明らかにすることである。これにより、耐性克服のための次世代ALK阻害薬やコンビネーション治療の臨床的妥当性を検証するための科学的根拠を提供することを目指す。
結果
スクリーニングコホートにおける主要ドライバー遺伝子変異の分布と相互排他性: 1,683例のNSCLC患者 (1,687検体) を対象としたスクリーニングの結果、EGFR変異は301例 (17.8%)、KRAS変異は465例 (27.6%)、ALK遺伝子再構成は75例 (4.4%) に同定された (Table 1)。臨床病理学的特徴の比較において、ALK陽性患者はEGFR変異陽性患者 (中央値 56 vs 64歳、p<0.001) およびKRAS変異陽性患者 (中央値 56 vs 66歳、p<0.001) と比較して有意に若年であった。また、ALK陽性群はKRAS変異群と比較して、非喫煙者の割合が有意に高かった (65% vs 4%、p<0.001)。解析対象となった全 1,687 検体のうち、3大ドライバー遺伝子間の重複変異は、EGFR変異とKRAS変異の共存が認められたわずか1例 (0.06%) のみであった。ALK再構成を有する75例においては、EGFR変異との共存例は0例 (0%; 95% CI 0-4%) であり、両変異は完全に相互排他的であった (Table 3)。
KRAS変異陽性例におけるALK FISH非典型シグナルの解析と偽陽性の排除: KRAS変異陽性例465例のうち、4例においてALK FISH検査で異常なシグナルパターンが観察された (Table 2)。このうち3例 (Patient 1, 2, 3) は、5’側緑色プローブの単独孤立シグナルを示す非典型的なパターンであり、残り1例 (Patient 4) は、異常にサイズが小さい3’側赤色プローブの孤立シグナルを示した。これらの症例における機能的なALK融合タンパク質の発現を検証するため、十分な組織量が残存していた3例について、抗ALKモノクローナル抗体 (クローン5A4) を用いたIHC染色を施行した。その結果、3例全例 (100%) においてALKタンパク質の発現は完全に陰性であった (Fig 1)。この結果から、これらの非典型的なFISHシグナルは機能的なALK遺伝子転座を伴わない技術的な偽陽性であると判定され、KRAS変異とALK再構成の真の機能的共存は0例 (0%) であることが確認された。
crizotinib耐性獲得後におけるALK融合遺伝子の持続と増幅頻度: crizotinib治療後に耐性を獲得したALK陽性NSCLC患者34例から得られた再生検検体において、十分な腫瘍組織が存在しFISH解析が可能であった29例全例 (100%) でALK融合遺伝子の存在が維持されていることが確認された (Table 4)。crizotinibの投与期間は平均 11.2 ± 8.4 ヶ月 (中央値9ヶ月、範囲3〜34ヶ月) であった。また、耐性獲得時におけるALK遺伝子の増幅は、評価可能であった29例中3例 (10.3%) に認められ、そのうち2例 (MGH029, MGH034) は高度増幅、1例 (MGH044) は低度増幅であった (Table 5)。この結果は、crizotinib耐性獲得後においても、腫瘍がALKシグナル伝達経路への依存性 (oncogene addiction) を維持していることを示している。
crizotinib耐性腫瘍におけるALKキナーゼドメイン二次変異のプロファイル: crizotinib耐性患者34例のALKキナーゼドメインのシーケンス解析の結果、7例 (20.6%) において計8個の二次変異が同定された (Table 5)。同定された変異の内訳は、L1196M (3例、9.3%)、G1269A (2例)、S1206Y (1例)、G1202R (1例)、および1151Tins (1例) であった。このうち1例 (MGH021) においては、G1269A変異と1151Tins挿入変異の2種類の二次変異が同一腫瘍内に共存していた。ゲートキーパー変異であるL1196Mは最多の変異であったが、その頻度は9.3%にとどまり、EGFR変異陽性肺癌におけるT790M変異 (約50%〜60%) のような単一の支配的な耐性変異はALK陽性肺癌においては存在しないことが示された。
crizotinib耐性獲得時におけるEGFRおよびKRAS変異の二次的出現の検証: crizotinib耐性腫瘍におけるバイパス経路の活性化機序を検証するため、十分な組織量が得られた25例についてSNaPshot法によるEGFRおよびKRASの変異解析を実施した。その結果、EGFR変異の新規出現は0/25例 (0%; 95% CI 0-11%)、KRAS変異の新規出現も0/25例 (0%; 95% CI 0-11%) であり、いずれの変異も全く検出されなかった (Table 5)。なお、本研究のコホートにおける知見を補完するため、EGFR変異陽性肺癌におけるEGFR-TKI (tyrosine kinase inhibitor) に対する耐性獲得時の生存データと比較した。先行研究 (Sequist et al. SciTranslMed 2011) において、EGFR変異陽性NSCLC患者におけるEGFR-TKI治療は、化学療法と比較して無増悪生存期間を有意に延長し、そのハザード比は全体で HR 0.48 (95% CI 0.36-0.64, p<0.001) であった。また、女性患者のサブグループ解析においても、同様に良好な治療効果が維持されていた (HR 0.40 (95% CI 0.25-0.64, p<0.001))。これに対し、本研究におけるcrizotinib耐性ALK陽性肺癌においては、耐性獲得後もALK融合遺伝子が100%維持されており、EGFRやKRASの二次変異によるバイパス経路の獲得は極めてまれな事象であることが示された。
考察/結論
本研究は、1,683例という欧米の極めて大規模なNSCLC患者コホートを対象に、主要なオンコジニドライバーであるEGFR変異、KRAS変異、およびALK再構成の相互関係を詳細に検証した最大規模の報告である。
先行研究との違い: 本研究の成果は、ALK再構成がEGFR変異やKRAS変異と高頻度で共存すると報告したいくつかの先行研究 (例えば、EURTAC試験の解析結果や一部のアジア人コホートの報告) と異なり、これらのドライバー変異が機能的に完全に相互排他的であることを明確に示した点にある。先行研究における重複報告は、ALK FISH検査における技術的な偽陽性 (特に5’側緑色プローブの単独孤立シグナルなど) や、複数の異なる原発腫瘍の混在、あるいは人種的背景の違い (EGFR変異頻度が極めて高いアジア人集団における偶然の共存など) に起因するものである可能性が高い。本研究では、非典型的なFISHシグナルを示した症例に対してALK IHC (クローン5A4) による検証を行い、これらが機能的なALKタンパク発現を伴わない偽陽性であることを証明した。
新規性: 本研究は、crizotinib耐性獲得後の大規模な再生検コホートにおいて、耐性後もALK融合遺伝子が100% (29/29例) 維持されていること、および耐性獲得機序としてEGFRやKRASの二次変異が全く出現しない (0/25例、0%) ことを本研究で初めて系統的に明らかにした。これは、crizotinib耐性後にALK融合遺伝子が消失し、EGFRやKRAS変異陽性腫瘍へと劇的に遺伝子型がシフトしたとする一部の報告 (Katayama et al. SciTranslMed 2012やDoebele et al. ClinCancerRes 2012) と対照的な結果であり、耐性後も腫瘍が強力なALKシグナル依存性 (oncogene addiction) を維持していることを示す極めて重要な知見である。
臨床応用: 本研究の知見は、日常の臨床現場における遺伝子スクリーニングの効率化に極めて重要な臨床的意義を持つ。EGFR、KRAS、ALKの完全な相互排他性が実証されたことで、まずEGFRおよびKRAS変異のスクリーニングを行い、これらが陰性であった症例に対してのみALK FISH検査を行うという「段階的スクリーニング戦略」の妥当性が強く支持される。これにより、高コストで技術的難易度の高いFISH検査の適応を適切に絞り込むことが可能となり、医療経済的な観点からも極めて臨床的有用性が高い。また、crizotinib耐性後もALK依存性が維持されているという事実は、耐性克服戦略として、EGFR阻害薬などの他経路阻害薬の併用よりも、より強力にALKを阻害する第2世代または第3世代のALK阻害薬への切り替えが極めて有効であるという治療開発の方向性を決定づける臨床的含意を有する。
残された課題: しかしながら、今後の検討課題として、本研究のコホートが主に欧米人中心 (85%以上) で構成されているため、EGFR変異頻度が極めて高いアジア人集団における重複頻度については、依然として人種差を考慮したさらなる検証が必要である。また、本研究におけるlimitationとして、crizotinib耐性例の約80%においてALKキナーゼドメインの二次変異や遺伝子増幅が認められず、耐性機序が依然として不明な症例が多数存在することが挙げられる。これらの中には、EGFRやKRASの遺伝子変異を伴わないリガンド依存的なバイパス経路の活性化 (例えば、EGFRやHER2のリン酸化亢進など) が関与している可能性があり、これらの詳細な分子メカニズムの解明は今後の研究における重要な課題として残された課題である。
方法
本研究では、2009年3月から2012年6月までの期間に、マサチューセッツ総合病院 (MGH、n=1,619)、メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター (MSKCC、n=33)、およびカリフォルニア大学アーバイン校 (UC Irvine、n=31) の3施設において、非連続的にEGFR、KRAS、およびALKの遺伝子型スクリーニング検査を施行されたNSCLC患者1,683例 (合計1,687腫瘍検体、うち4例は2つの異なる原発性肺癌を保有) の臨床データを後方視的に収集・解析した。
EGFR変異およびKRAS変異の検出には、マルチプレックスPCR (polymerase chain reaction) およびシングルベースプライマー伸長反応に基づくSNaPshot法を用いた。SNaPshot法が適用できない一部の検体については、アレル特異的PCR、ダイレクトシーケンス法、または質量分析法を組み合わせて変異解析を行った。ALK遺伝子再構成の検出には、FFPE (formalin-fixed paraffin-embedded) 組織切片を用い、ALK遺伝子座に特異的な2色スプリットプローブを用いたFISH法 (Vysis LSI ALK Dual Color, Break-Apart Rearrangement Probe) を施行した。ここで、LSIは LSI (Locus Specific Identifier) を指す。FISH陽性の判定基準は、100細胞以上の腫瘍細胞のうち、5’側 (緑色) と3’側 (赤色) のシグナルの分離、または孤立した3’側 (赤色) シグナルを示す細胞が15%超存在することと定義した。
ALK FISHで非典型的なシグナルパターンを示したKRAS変異陽性例については、抗ALKモノクローナル抗体 (クローン5A4) を用いたIHC染色を施行し、ALK融合タンパク質の発現を評価した。
さらに、crizotinib治療後に耐性を獲得したALK陽性NSCLC患者34例 (MGHにて2009年1月から2012年10月までに再生検を施行) を対象に、耐性腫瘍組織から全核酸を抽出し、ALKキナーゼドメイン (エキソン20〜28) のダイレクトシーケンス解析を施行した。十分な検体量が得られた症例については、耐性腫瘍におけるALK FISHおよびSNaPshot法によるEGFR/KRAS変異解析を並行して実施した。なお、crizotinibの臨床試験 (NCT00585195) に登録された患者コホートとの関連性も評価した。
統計学的解析においては、遺伝子型と臨床病理学的特徴との関連性を評価するために、Fisher’s exact検定およびWilcoxonの順位和検定を用いた。また、重複変異の頻度に関する信頼区間の算出には、二項分布に基づく正確な片側95%信頼区間 (CI) を用いた。すべての統計学的解析はSAS 9.2ソフトウェアを用いて実施され、p<0.05を統計学的有意差ありと判定した。なお、本研究のプロトコルは各参加施設の倫理委員会の承認を得て実施された。