• 著者: Tetsuhiko Asao, Yutaka Fujiwara, Kota Itahashi, Shinsuke Kitahara, Yasushi Goto, Hidehito Horinouchi, Shintaro Kanda, Hiroshi Nokihara, Noboru Yamamoto, Kazuhisa Takahashi, Yuichiro Ohe
  • Corresponding author: Yutaka Fujiwara (Department of Thoracic Oncology, National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan)
  • 雑誌: Clinical Lung Cancer
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2016-12-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28065466

背景

ALK (anaplastic lymphoma kinase) 再構成非小細胞肺癌 (NSCLC) は肺腺癌の2–5%に認められる Soda et al. Nature 2007Cancer et al. Nature 2014。第一世代ALK阻害薬であるクリゾチニブは、治療歴の有無にかかわらず高い奏効率 (ORR) と無増悪生存期間 (PFS) を示すが、ほぼ全例で耐性が獲得されることが知られている Shaw et al. NEnglJMed 2013Solomon et al. NEnglJMed 2014。第二世代ALK阻害薬であるアレクチニブやセリチニブは、クリゾチニブ耐性例および未治療例の双方で臨床活性を示すことが報告されている Gadgeel et al. LancetOncol 2014Shaw et al. NEnglJMed 2014Shaw et al. LancetOncol 2016。日本ではアレクチニブが2014年に、セリチニブが2016年に承認されたが、複数のALK阻害薬を逐次的に使用する最適な治療戦略は未解明であった。特に、日本の実臨床におけるクリゾチニブからアレクチニブへの逐次投与の有効性に関するデータは不足しており、その臨床的意義を評価する必要があった。

目的

本研究の目的は、日本の実臨床におけるALK再構成NSCLC患者を対象に、クリゾチニブからアレクチニブへの逐次投与の効果を後方視的に評価することである。具体的には、逐次投与を受けた患者群におけるORR、各薬剤のPFS、複合PFS (combined PFS)、および全生存期間 (OS) を解析し、その治療成績を明らかにすることを目的とした。

結果

患者背景: 解析対象となった37例の患者背景は、年齢中央値51歳 (範囲 33–79歳)、組織型は全例が腺癌であった。初診時に脳転移を認めた患者は8例 (21.6%) であった。37例中34例がALK阻害薬 (ALKi) の投与を受け、13例 (35.1%) がクリゾチニブからアレクチニブへの逐次投与を受けた。逐次投与群13例中4例 (30.8%) が初診時に脳転移を有しており、7例 (53.8%) がクリゾチニブを初回治療として受けた。6例はクリゾチニブとアレクチニブの間に化学療法などの介在治療を受けていた。介在治療のレジメン数中央値は0 (範囲 0–3)、介在期間中央値は29日 (範囲 0–555日) であった (Table 1)。

クリゾチニブの臨床成績: クリゾチニブを投与された26例におけるORRは61.5% (95% CI 27.1–60.5) であり、PFS中央値は11.9ヶ月 (95% CI 6.7–15.2) であった。頻度の高い再発部位は脳 (9例)、肺 (6例)、縦隔リンパ節 (3例) であった。初診時に脳転移を認めた患者群のPFSは10.7ヶ月 (95% CI 3.4–NC) であった。アレクチニブへ移行しなかった13例のORRは69.2%、PFSは17.5ヶ月と良好であり、逐次投与群におけるクリゾチニブのPFSがやや短い (10.7ヶ月) 傾向は、治療選択バイアスを反映している可能性が示唆された。

逐次投与群における各ALK阻害薬の成績: 逐次投与を受けた13例におけるクリゾチニブのORRは53.8% (95% CI 26.7–80.9)、PFS中央値は10.7ヶ月 (95% CI 5.3–14.7) であった (Figure 1A)。クリゾチニブ治療失敗後のアレクチニブのORRは38.4% (95% CI 12.0–64.9) であり、PFS中央値は16.6ヶ月 (95% CI 2.9–NC) であった (Figure 1B, Table 2)。アレクチニブの1年PFS率は60.0%であった。アレクチニブ投与後に病勢進行 (PD) を認めたのは2例であった。1例では縦隔リンパ節、膵臓、皮膚転移の増悪が、もう1例では腹水の一時的減少後に肝転移の増悪が認められた。

複合PFSと長期生存: 逐次投与群におけるクリゾチニブに続くアレクチニブの複合PFS中央値は35.2ヶ月 (95% CI 12.7–NC) であった。診断からの5年生存率は、逐次投与群で77.8% (95% CI 36.5–94.0) と非常に良好な成績が示された (Figure 1C)。全37例における5年生存率は57.6% (95% CI 31.2–NC) であった (Figure 1D)。データカットオフ時において、34例中24例 (70.6%) が治療継続中であった。1例は診断から7年以上生存していた。この逐次療法におけるOS中央値は未到達であり、長期的な生存ベネフィットが示唆される。

ALK阻害薬の病勢進行後継続 (ALKi beyond progression): クリゾチニブ投与患者25例中6例がRECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) 進行後もクリゾチニブを継続した。初回PD部位は6例中4例が脳転移であり、定位放射線治療 (SRS) または全脳照射 (WBRT) を併用することでクリゾチニブの継続が可能であった。この群のクリゾチニブによるPFS中央値は10.0ヶ月 (95% CI 2.0–NC) であり、総治療期間中央値は22.8ヶ月 (95% CI 2.8–NC) であった。アレクチニブも2例でPD後も継続された (Supplemental Table 2)。これらの結果は、局所治療との併用によりALKiの継続が可能であることを示唆している。

考察/結論

本研究は、日本の実臨床におけるALK再構成NSCLC患者に対するクリゾチニブからアレクチニブへの逐次療法が、非常に良好な治療成績をもたらすことを示した。

先行研究との違い: 本研究で示された逐次投与群の複合PFS中央値35.2ヶ月は、これまでの報告である渡辺ら (18.2ヶ月) やGainorらによるクリゾチニブからセリチニブへの逐次療法 (17.4ヶ月) と比較して、数値的に大幅に長い結果であった。また、5年OS率77.8%という結果も、これまでの報告と比較して極めて良好な長期生存を示唆する。アレクチニブのORR 38.4%は、欧米で行われた第II相NP28673試験の50%より低いが、本研究では評価不能病変の患者が2例含まれていたことが影響している可能性がある。一方、アレクチニブのPFS中央値16.6ヶ月は、NP28673試験の8.9ヶ月を上回る結果であった。このPFSの延長は、アジア人における薬物動態の生物学的差異、後方視的解析による選択バイアス、および小規模なサンプルサイズが影響している可能性が考えられる。

新規性: 本研究は、日本の実臨床においてクリゾチニブからアレクチニブへの逐次療法を受けたALK再構成NSCLC患者の長期的な治療成績を詳細に評価した点で新規性がある。特に、複合PFS中央値35.2ヶ月、5年OS率77.8%という極めて良好な結果は、これまで報告されていないものであり、複数のALK阻害薬を最大限に活用する戦略の重要性を本研究で初めて示した。

臨床応用: 本研究の結果は、ALK再構成NSCLC患者の治療戦略において、複数のALK阻害薬を順次使用する「使い切り」戦略が、EGFR変異NSCLCにおける多剤TKI戦略と同様に、長期生存に寄与する可能性を強く示唆する。この知見は、臨床現場において、ALK阻害薬の耐性獲得後も次世代ALK阻害薬への切り替えを積極的に検討することの臨床的意義を裏付けるものである。現在開発中のブリガチニブ、ロルラチニブなどの次世代ALK阻害薬の登場を考慮すると、多剤逐次戦略は今後さらに自然な治療の流れとなるだろう。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、単一施設での後方視的解析であり、かつ対象患者数が少ない (n=13) ため、結果の一般化には注意が必要である。第二に、観察期間が十分でなく、全患者の長期的なアウトカムを追跡できていない可能性がある。第三に、選択バイアスや介在化学療法の影響などの交絡因子を完全に排除できていない。特に、本研究で良好な成績が得られたのは、予後良好な患者が選択されたバイアスによる可能性も残されている。最後に、企業主導型臨床試験に参加した22例が除外されたため、本研究の対象患者がALK再構成NSCLC患者全体を代表しているとは限らない。ファーストライン治療としてアレクチニブを使用する戦略と、クリゾチニブからアレクチニブへ逐次投与する戦略のどちらが最適であるかについては、進行中の第III相試験 (NCT02075840, J-ALEX) の結果によって明らかにされるべきである。

方法

国立がん研究センター中央病院で2010年5月から2016年1月までにALK再構成NSCLCと診断され治療を受けた59例の患者を対象とした。このうち、企業主導型臨床試験に参加した22例を除外した37例を本研究の解析対象とした。ALK再構成の検出は、FISH (fluorescence in situ hybridization)、RT-PCR (reverse transcription polymerase chain reaction)、または免疫組織化学 (IHC) のいずれかの方法により確認された。対象患者37例中、26例がクリゾチニブ、21例がアレクチニブの投与を受け、13例 (35.1%) がクリゾチニブに続いてアレクチニブの逐次投与を受けた。複合PFSは、2種類のALK阻害薬それぞれのPFSを合計したものと定義し、その間の介在治療期間は除外した。OSは、進行NSCLCの診断時または手術後の再発時からの期間と定義した。PFSおよびOSの算出にはKaplan-Meier法を用いた。本後方視的解析は、国立がん研究センター倫理委員会の承認を得て実施された。