- 著者: Tomohide Tamura, Katsuyuki Kiura, Takashi Seto, Kazuhiko Nakagawa, Makoto Maemondo, Akira Inoue, Toyoaki Hida, Hiroshige Yoshioka, Masao Harada, Yuichiro Ohe, Naoyuki Nogami, Haruyasu Murakami, Hiroshi Kuriki, Tadashi Shimada, Tomohiro Tanaka, Kengo Takeuchi, Makoto Nishio
- Corresponding author: Tomohide Tamura (Thoracic Center, St. Luke’s International Hospital, Tokyo, Japan)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-03-15
- Article種別: Original Article
- PMID: 28296581
背景
非小細胞肺がん (NSCLC; non-small-cell lung cancer) において、EML4 (echinoderm microtubule-associated protein-like 4) 遺伝子とALK (anaplastic lymphoma kinase) 遺伝子の融合は、強力な腫瘍惹起性ドライバー変異として同定された (Soda et al. Nature 2007)。ALK陽性NSCLCは進行非小細胞肺がん全体の約5%を占める。第一世代のALKチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI; tyrosine kinase inhibitor) であるクリゾチニブは、化学療法と比較して優れた無増悪生存期間 (PFS; progression-free survival) 延長効果を示し、一次治療および二次治療の標準治療として承認された (Shaw et al. NEnglJMed 2013、Solomon et al. NEnglJMed 2014)。しかし、クリゾチニブ治療を受けた患者の多くは、獲得耐性変異の出現や、中枢神経系 (CNS; central nervous system) への転移・進行により、治療開始から1年以内に病勢進行に至ることが臨床上の大きな課題であった。クリゾチニブは血液脳関門 (BBB; blood-brain barrier) の透過性が低く、P糖蛋白 (P-glycoprotein) の基質であるため、脳内への移行が不十分であることが知られている。
新規の高度選択的ALK阻害薬であるアレクチニブ (CH5424802) は、P糖蛋白の基質ではなく、高い脳・血漿中濃度比を示す。アレクチニブの第I/II相試験 (AF-001JP試験) の第II相パートの初期解析では、ALK阻害薬未治療の患者において客観的奏効率 (ORR; objective response rate) 93.5%という極めて高い有効性が報告された (Seto et al. LancetOncol 2013)。しかし、アレクチニブの長期投与における有効性の持続期間、全生存期間 (OS; overall survival) への影響、および長期安全性プロファイルについては、依然としてデータが不足しており、長期的な臨床的ベネフィットの全容は未解明のままであった。特に、3年以上の長期追跡におけるCNS転移の予防効果や、腫瘍縮小の程度と長期予後との相関関係については詳細な解析が不足しており、臨床現場における長期治療戦略を確立する上でのgapが残されていた。
目的
本研究の目的は、ALK阻害薬未治療のALK陽性進行・再発NSCLC日本人患者を対象としたアレクチニブの第I/II相試験 (AF-001JP [Alectinib Phase I/II Study in Japan] 試験) の第II相パートにおける、約3年間の長期追跡データを評価することである。具体的には、アレクチニブ300 mgの1日2回 (BID; twice per day) 経口投与における長期的な有効性エンドポイントであるPFSおよびOSを検証する。さらに、副次・探索的エンドポイントとして、ベースラインにおけるCNS転移の有無に応じた治療効果、腫瘍縮小率 (RECIST [Response Evaluation Criteria in Solid Tumors] v1.1に基づく最大腫瘍縮小割合) とPFSとの相関関係、長期投与における安全性および忍容性プロファイル、ならびにがん関連症状 (疼痛、咳嗽、喀痰など) の緩和効果と支持療法の薬剤使用量の推移を包括的に評価することを目的とする。
結果
患者背景および治療継続状況: 第II相ITT集団 (n=46) の患者背景は、年齢中央値48.0歳 (範囲 26-75)、女性52.2% (n=24)、男性47.8% (n=22) であった。ECOG PSは0が43.5% (n=20)、1が56.5% (n=26) であった。病期分類はStage IVが67.4% (n=31)、術後再発が28.3% (n=13)、Stage IIIBが4.3% (n=2) であった。喫煙状況は、非喫煙者が58.7% (n=27) を占めた。前治療としての転移性病変に対する化学療法の治療歴は、1レジメンが45.7% (n=21)、2レジメンが19.6% (n=9)、3レジメン以上が32.6% (n=15) であった。ベースラインにおける脳転移を有する患者は30.4% (n=14) であった (Table 1)。データカットオフ時点において、第II相パートの46例中25例 (54.3%) がアレクチニブによる治療を継続中であった。治療中止に至った21例のうち、17例が後続の全身化学療法 (治療ライン数 1-5) を受け、そのうち12例がクリゾチニブなどの他のALK阻害薬による治療に移行した。
長期的な生存効果とサブグループ解析: データカットオフ時点で、病勢進行 (PD) は18例 (39.1%) で確認された。第II相ITT集団における無増悪生存期間 (PFS) の中央値は未達 (95% CI, 33.1ヶ月-未達) であり、3年PFS率は62% (95% CI, 45-75%) という極めて良好な結果を示した (Fig 1)。サブグループ解析において、ベースライン脳転移陽性群 (n=14) のPFS中央値は38.0ヶ月 (95% CI, 9.0-未達) であったのに対し、脳転移陰性群 (n=32) のPFS中央値は未達 (95% CI, 33.1-未達) であった (Fig 1)。また、性別による解析では、男性 (n=22) のPFS中央値が35.3ヶ月 (95% CI, 18.0-未達) であったのに対し、女性 (n=24) では未達 (95% CI, 33.1-未達) であった (Fig 1)。全生存期間 (OS) のデータは、死亡イベントが13例 (28.3%) と未成熟であったためOS中央値は推定不能 (未達) であったが、3年OS率は78% (95% CI, 63-88%) であった (Appendix Fig A1)。ここで、第一世代ALK阻害薬クリゾチニブの第III相試験 (PROFILE 1014試験) における化学療法に対するPFS延長効果は HR 0.45 (95% CI, 0.35-0.58, p<0.001) であり、PFS中央値は 10.9 vs 7.0 months であった。また、本試験の有望な結果を検証するために実施された第III相試験 (J-ALEX試験) において、アレクチニブはクリゾチニブと比較して極めて優れたPFS延長効果を示し、ハザード比は HR 0.34 (95% CI, 0.17-0.70, p<0.0001) であった。
腫瘍縮小効果と無増悪生存期間の相関解析: 探索的エンドポイントとして、RECIST基準に基づく最大腫瘍縮小率 (%) とPFS (ヶ月) との相関関係を散布図を用いて評価した。その結果、腫瘍縮小の度合いとPFSの長さとの間には明確な相関関係は認められなかった (Fig 2)。最大腫瘍縮小率が30%未満の軽度な縮小にとどまった患者や、安定 (SD; stable disease) の判定であった患者においても、長期にわたり病勢進行が抑制され、アレクチニブ治療が継続可能であった。この結果は、アレクチニブが単に腫瘍を急速に縮小させるだけでなく、腫瘍の再増殖を長期にわたって抑制する「growth suppression (増殖抑制) モード」の作用機序を有し、これが持続的なPFS延長に寄与していることを示唆している。
中枢神経系における優れた制御効果: ベースラインで脳転移を有していた14例のうち、6例 (42.9%) がデータカットオフ時点でCNSおよび全身の病勢進行を認めず、アレクチニブ治療を継続していた。追跡期間中、脳転移陽性群14例のうちCNS進行をきたしたのはわずか1例 (7.1%) のみであった (Appendix Table A1)。一方、ベースラインで脳転移を有していなかった32例のうち、治療中に新規のCNS転移による病勢進行を認めたのは2例 (6.3%) にとどまった。ベースラインの脳転移の有無にかかわらず、CNS進行を原因とする治療中止は極めて低頻度 (10%未満) であり、アレクチニブが中枢神経病変に対して強力な治療効果および新規発症予防効果を有することが実証された。
長期投与における安全性と忍容性: 安全性評価対象集団 (n=58) において、56例 (96.6%) に薬剤関連有害事象 (AE) が認められた (Table 2)。最も頻度の高かった薬剤関連AE (全Grade) は、血中ビリルビン上昇 (36.2%)、味覚異常 (34.5%)、AST (aspartate aminotransferase) 上昇 (32.8%)、血中クレアチニン上昇 (32.8%)、便秘 (31.0%)、発疹 (29.3%)、ALT (alanine aminotransferase) 上昇 (25.9%)、好中球減少 (25.9%)、および血中CPK (creatine phosphokinase) 上昇 (20.7%) であった。Grade 3 of 薬剤関連AEは16例 (27.6%) に認められたが、Grade 4およびGrade 5の薬剤関連AEは認められなかった。AEによる治療中止は第II相パートで6例 (13.0%) に認められ、その内訳はGrade 3の脳浮腫、Grade 3の食道がん、Grade 3の腫瘍出血、Grade 2の硬化性胆管炎、Grade 3のALT上昇、およびGrade 1の間質性肺疾患 (ILD; interstitial lung disease) であった。用量減量を必要としたのは発疹による1例 (1.7%) のみであり、長期追跡期間において新規の用量減量を要した症例は存在しなかった。AEの発症時期の解析では、大半のAEが治療開始後6ヶ月以内に発現していたが、下痢 (全Grade) については治療期間全体を通じて持続的に新規発現が認められた (Appendix Fig A2)。
がん関連症状の緩和と支持療法薬の減量効果: ベースラインにおいて、がん関連症状 (がん性疼痛、咳嗽、喀痰など) に対する薬物治療 (医療用麻薬、鎮痛薬、鎮咳薬、去痰薬など) を受けていた患者は15例 (32.6%) であった。これらの患者の多くにおいて、アレクチニブ治療開始後の極めて早期 (最初の数サイクル以内) にがん関連症状の劇的な改善が認められた。さらに、症状緩和に伴い、これらの支持療法目的の薬剤使用量は治療期間を通じて大幅に減少、あるいは投与中止が可能となった (Appendix Fig A3)。この結果は、アレクチニブが優れた腫瘍縮小効果および長期病勢制御効果をもたらすだけでなく、患者の自覚症状を早期かつ持続的に緩和し、QOL (quality of life) の維持・向上に寄与していることを客観的に示すものである。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究におけるアレクチニブの長期追跡データは、第一世代ALK阻害薬であるクリゾチニブの先行研究 (PROFILE-1014試験におけるPFS中央値10.9ヶ月) と異なり、3年以上の長期にわたり極めて優れた病勢制御効果が維持されることを示した (Solomon et al. NEnglJMed 2014)。クリゾチニブ治療では1年以内に高頻度でCNS進行が認められるのに対し、アレクチニブはP糖蛋白の基質ではないため高いBBB透過性を有し、脳転移陽性例においても43%が3年間無進行で治療を継続できた。また、第二世代ALK阻害薬セリチニブのALKi-naïve患者におけるPFS中央値11.1ヶ月と比較しても、本試験のアレクチニブの治療成績は極めて優れている (Gridelli et al. CancerTreatRev 2014)。さらに、腫瘍縮小率とPFSに相関が認められなかった事実は、アレクチニブが腫瘍の急速な縮小 (cytotoxic様効果) だけでなく、持続的な腫瘍再増殖抑制 (cytostatic効果) をもたらすという、これまでのALK阻害薬の治療モデルとは異なる臨床的挙動を浮き彫りにした。
新規性: 本研究は、ALK陽性進行NSCLCに対するALK阻害薬の一次治療において、3年以上の長期有効性および安全性を本研究で初めて実証したものである。アレクチニブ300 mgの1日2回投与が、長期にわたり新規の用量減量を必要とせず、Grade 4/5の重篤な薬剤関連有害事象ゼロという極めて優れた忍容性を維持しつつ、3年PFS率62% (95% CI, 45-75%) および3年OS率78% (95% CI, 63-88%) を達成可能であることを新規に報告した。これは、ALK阻害薬の長期投与における安全性と有効性の両立を証明した初の臨床データである。
臨床応用: 本試験の極めて良好な長期成績は、ALK陽性NSCLCの一次治療戦略におけるアレクチニブの臨床応用を決定づける強力なエビデンスとなった。本試験 (AF-001JP試験) の有望な結果に基づき、日本国内ではアレクチニブ300 mg BIDとクリゾチニブを直接比較する第III相試験 (J-ALEX試験) が実施され、アレクチニブ群がクリゾチニブ群に対してハザード比 HR 0.34 (95% CI, 0.17-0.70, p<0.0001) という圧倒的なPFS延長効果を示した。さらに、グローバル第III相試験 (ALEX試験) においても、アレクチニブ600 mg BIDがクリゾチニブに対してハザード比 HR 0.47 (95% CI, 0.34-0.65, p<0.0001) と有意なPFS改善およびCNS進行リスクの半減を示した。これらの臨床的意義に基づき、国内外のガイドラインにおいてアレクチニブはALK陽性NSCLCの一次治療における最優先の標準治療として推奨されるに至り、臨床現場における治療パラダイムを大きく変革した。
残された課題: 今後の検討課題および本研究のlimitationとして、第一に、本試験が単アームの非ランダム化試験であり、登録患者数が46例と小規模かつ日本人集団に限定されているため、選択バイアスを完全に排除できない点が挙げられる。第二に、全生存期間 (OS) のデータが依然として未成熟 (死亡イベント28.3%) であり、生存曲線のさらなる成熟を待つ必要がある。第三に、詳細なQOL評価や患者報告アウトカム (PRO [patient-reported outcome]) のフォーマルなデータ収集が行われていない。第四に、日本で承認された300 mg BID (薬事上の制限に基づく) と、グローバル用量である600 mg BIDの有効性および安全性の直接的な比較データが不足している。最後に、アレクチニブ耐性後に生じる二次変異 (G1202RやI1171Tなど) に対する、ロルラチニブなどの次世代ALK阻害薬を用いた最適なシーケンシング (治療順序) の確立が、今後の研究における重要な方向性として残されている。
方法
本研究は、日本国内の複数施設で実施された、単群、オープンラベル、第I/II相臨床試験 (AF-001JP試験、試験登録番号: JapicCTI-101264) の長期追跡解析である。対象患者は、ALK融合遺伝子陽性のStage IIIB/IV期または術後再発のNSCLCであり、ALK阻害薬未治療 (ALKi-naïve [anaplastic lymphoma kinase inhibitor-naïve]) かつ1レジメン以上の化学療法既治療、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) パフォーマンスステータス (PS; performance status) が0または1の患者であった。
第I相パート (用量漸増試験、20〜300 mg) を経て、第II相パートではアレクチニブ300 mgを1日2回、病勢進行 (PD; progressive disease)、許容できない毒性の発現、同意撤回、または死亡に至るまで連日経口投与した。定位放射線治療 (SRT [stereotactic radiotherapy]) を受けた患者は、放射線治療当日を除きアレクチニブの投与継続を可とした。第II相パートの主要評価項目 (primary endpoint) は独立中央判定による客観的奏効率 (ORR) であり、副次評価項目はPFS、OS、安全性などであった。
腫瘍評価は、治療開始後は各サイクル (21日間、サイクル26以降は42日間) ごとに、固形がんの治療効果判定基準 (RECIST v1.1) を用いて実施した。有害事象 (AE; adverse event) の評価には、米国がん研究所の有害事象共通用語基準 (NCI CTCAE [National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events] v4.0) を用いた。がん関連症状およびその緩和薬剤 (医療用麻薬、鎮痛薬、鎮咳薬など) の使用状況は、毎サイクルごとに確認された。
データカットオフ日は2015年9月10日 (最初の登録患者は2011年8月30日、最後の登録患者は2012年4月18日) とした。有効性解析 (PFS、OS、腫瘍縮小とPFSの相関、症状緩和) は、第II相パートの全登録患者 (n=46) を対象とした意図した治療 (ITT; intent-to-treat) 集団で実施した。安全性解析は、第I相パートの300 mg投与コホートおよび第II相パートでアレクチニブを1回以上投与された全患者を統合した安全性評価対象集団 (n=58) で実施した。生存時間 (PFSおよびOS) の推定にはカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用い、生存率およびその95%信頼区間 (CI; confidence interval) を算出した。また、生存期間の比較やハザード比 (HR; hazard ratio) の算出にはコックス比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) を用いた。腫瘍縮小率とPFSの相関は散布図を用いて探索的に解析した。本試験の登録目標症例数は、アレクチニブの期待奏効率を85%、閾値奏効率を45%と設定した統計学的根拠 (sample size calculation) に基づき、第II相パートで40例以上と設定された。