• 著者: Makimoto G, Ohashi K, Tomida S, Nishii K, Matsubara T, Kayatani H, Higo H, Ninomiya K, Sato A, Watanabe H, Kano H, Ninomiya T, Kubo T, Rai K, Ichihara E, Hotta K, Tabata M, Toyooka S, Takata M, Maeda Y, Kiura K
  • Corresponding author: Kadoaki Ohashi (Okayama University Hospital, Okayama, Japan)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-07-30
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31374369

背景

ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺癌 (NSCLC) に対する標準治療である第二世代ALK阻害薬アレクチニブは、高い奏効率 (ORR 93.5%) と長期の無増悪生存期間 (3年PFS率 62%) を示すことが報告されている (例えば、Peters et al. NEnglJMed 2017Hida et al. Lancet 2017Tamura et al. JClinOncol 2017)。しかし、一部の患者ではアレクチニブ投与開始後3か月以内という極めて短期間で耐性を獲得することが知られている。アレクチニブ耐性機序としては、ALK G1202R変異がアレクチニブ治療例の29%に検出されることが報告されているが、クリゾチニブ治療例では2%と低頻度である (Gainor et al. CancerDiscov 2016)。しかし、このような急速な耐性獲得の分子機序は依然として未解明な点が多い。高腫瘍変異負荷 (TMB) は、腫瘍が多数の変異を抱えることで、薬剤選択圧下で多様な耐性クローンを生成しやすい状況をもたらす可能性が考えられる (例えば、Chalmers et al. GenomeMed 2017Zehir et al. NatMed 2017)。特に、高TMBがアレクチニブへの急速な耐性獲得にどのように寄与するのか、その詳細なメカニズムについては未解明な点が残されている。

目的

本研究の目的は、アレクチニブに対して3か月という極めて短期間で耐性を獲得したALK陽性肺癌患者の剖検検体および複数転移巣由来の臨床試料を用いて、急速な耐性獲得の分子機序を包括的に解析することである。特に、高TMBが腫瘍進化と耐性獲得に与える影響を詳細に検討することを目的とした。

結果

超急速なアレクチニブ耐性獲得と高TMB: 51歳男性のEML4-ALK陽性肺癌患者は、アレクチニブ600 mg/日投与後、RECIST PRを達成したが、わずか3か月後に肝転移が急速増悪した (Figure 1A, C)。その後、CDDP/PEM、セリチニブ、クリゾチニブによる治療を受けたが効果は限定的であり、最終的に剖検に至った。本症例は元喫煙者 (32 pack-years) であり、NGS解析により高TMB (≥ 25 mutations/Mb) を示した (Figure 5A)。この高TMBは、アレクチニブ耐性の急速な獲得に寄与した可能性が考えられた。

不均一な腫瘍進化と多様な耐性機序の併存: NGS解析により、本症例の複数の転移病巣が独立した腫瘍進化を経ていることが確認された。剖検で採取された肺、肝、腎の各腫瘍は異なる耐性機序を保有しており、同一患者内での腫瘍内不均一性 (intratumor heterogeneity) が顕著であった。この多様な耐性機序の共存は、高TMBが変異負荷を高めることで、多様な耐性クローンを並行して生成・選択する機序を反映していると考えられる。例えば、肺腫瘍と右腎転移ではALK G1202R変異が検出されたが、肝転移由来のABC-14細胞株ではMET増幅とamphiregulin (AREG) 過剰発現が認められた (Figure 2C, E)。

ABC-14細胞株におけるバイパス経路の活性化と併用療法の有効性: 胸水由来のアレクチニブ耐性細胞株ABC-14は、ALK変異を保有せず、クリゾチニブに対して感受性を維持していた (Figure 2A)。しかし、MET遺伝子増幅 (MET/CEP7比 5.6) とamphiregulin (AREG) 過剰発現を示しており、これらがバイパス耐性機序として機能していた (Figure 2C, E)。クリゾチニブ (MET阻害活性あり) とエルロチニブ (EGFR阻害薬;AREGはEGFRリガンド) の併用により、ABC-14細胞の増殖が有意に抑制された (p < 0.01) ことから、ALK以外の複数のバイパス経路が同時に活性化されていることが示された (Figure 2F)。さらに、in vivoの異種移植モデルにおいても、クリゾチニブとエルロチニブの併用療法は腫瘍増殖を有意に抑制し (p < 0.05)、単剤療法よりも強力な効果を示した (Figure 2H)。

ABC-17細胞株とPDXモデルにおけるALK G1202R変異とロルラチニブの有効性: 肝腫瘍由来のアレクチニブ耐性・クリゾチニブ耐性細胞株ABC-17は、ALK G1202R変異を保有していた (Figure 3C)。このABC-17から樹立したPDXモデルはin vivoで多臓器転移を示した (Figure 4A, B)。第三世代ALK阻害薬ロルラチニブは、in vitroでABC-17細胞の増殖を強く抑制し (IC50 = 65 nM)、in vivoでもPDX腫瘍の増殖を有意に抑制した (p < 0.05) (Figure 3D, F)。ロルラチニブ治療群では、腫瘍体積が対照群と比較して約90%減少した (p < 0.05)。これは、G1202R変異を標的とした後治療としてのロルラチニブの有効性を示唆する。

ALK G1202R変異の収斂進化: 特筆すべき発見として、剖検肺腫瘍と右腎転移の両方でALK G1202R変異が検出されたが、それぞれ異なるコドン変化 (肺腫瘍: GGAからAGA、右腎転移: GGAからCGA) を伴っていた (Figure 5B)。同一アミノ酸 (G1202R) への変異が2か所の転移病巣で独立して収斂進化 (convergent evolution) した事実は、G1202Rへの耐性変異がアレクチニブへの応答における選択的優位性を持ち、高TMB環境下では複数の独立したクローンで同時に生じ得ることを示している。

考察/結論

本研究の最重要な発見は、1例の患者において複数の転移病巣から異なる耐性機序 (ALK G1202R変異、MET増幅、amphiregulin (AREG) 過剰発現) が同時に検出されたことであり、高TMBに起因する不均一な腫瘍進化が急速な多重耐性クローンの形成を可能にしたと考えられる。先行研究との違いとして、アレクチニブ耐性のALK変異としてG1202Rが最も多く報告されているが (Gainor et al. CancerDiscov 2016)、本症例のような複数の独立した耐性機序の併存と3か月以内という超急速な耐性獲得は、これまで報告された症例と比較して稀な経過であり、高TMBがその背景にあることを示した点で対照的である。

新規性: 本研究で初めて、高TMBがアレクチニブに対する急速な多重耐性獲得と腫瘍内不均一性の一因となることを、患者由来の多部位検体とPDXモデルを用いた包括的な解析で実証した。特に、ALK G1202R変異が異なるコドン変化 (GGAからAGA、またはGGAからCGA) を伴い、複数の転移部位で独立して発生した「収斂進化」の現象は、アレクチニブ耐性におけるG1202R変異の機能的重要性を示す新規の知見である。

臨床応用: ALK G1202R変異を有する腫瘍には第三世代ALK阻害薬ロルラチニブが有効であることをin vitroおよびin vivo PDXモデルで示した点は臨床的に意義がある (Zou et al. CancerCell 2015)。また、MET増幅を持つABC-14細胞株ではクリゾチニブとエルロチニブの併用が有効であり、バイパス経路活性化に対するALK阻害薬と他の受容体チロシンキナーゼ (RTK) 阻害薬の組み合わせという治療戦略の可能性も示唆される。臨床現場では、アレクチニブへの急速な耐性を示した症例に対しては、組織生検やリキッドバイオプシーによる耐性機序の迅速な解析を行い、ロルラチニブや対応するRTK阻害薬への早期移行、あるいは併用療法を考慮することが有益と考えられる。

残された課題: 今後の検討課題として、高TMBがALK陽性NSCLC患者のアレクチニブ治療成績に与える影響を、より大規模なコホートで系統的に評価する必要がある。また、高TMBがどのようにして多様な耐性クローンの同時選択を促進するのか、その詳細な分子メカニズムの解明も今後の研究課題である。本研究は単一症例の解析であるため、結果の一般化にはさらなる検証が必要であるというlimitationも存在する。

方法

本研究は、51歳男性 (元喫煙者、32 pack-years) のEML4-ALK陽性進行肺癌患者を対象としたレトロスペクティブコホート研究である。この患者はアレクチニブ600 mg/日投与後に急速に耐性を獲得した。剖検検体として肺、肝、腎腫瘍を採取した。胸水からアレクチニブ耐性細胞株 (ABC-14) を、肝腫瘍からアレクチニブ/クリゾチニブ耐性細胞株 (ABC-17) および患者由来異種移植 (PDX) モデルを樹立した。これらの細胞株および組織検体を用いて、次世代シーケンシング (NGS) (TruSeq RNA Access library + HiSeq)、直接DNAシーケンシング、およびRT-qPCRによる解析を実施した。TMBは、MSK-IMPACT version 1.0の341遺伝子パネルを用いて算出した。TMBの閾値は13.8 mutations/Mb以上を高TMBと定義した。PDXモデルでは、第三世代ALK阻害薬ロルラチニブのin vivoでの薬剤感受性評価を行った。統計解析には、薬剤感受性試験における細胞増殖抑制効果の比較にFisher exact testを用いた。