• 著者: Makoto Nishio, Kazuhiko Nakagawa, Tetsuya Mitsudomi, Nobuyuki Yamamoto, Tomohiro Tanaka, Hiroshi Kuriki, Ali Zeaiter, Tomohide Tamura
  • Corresponding author: Makoto Nishio (Department of Thoracic Medical Oncology, The Cancer Institute Hospital of Japanese Foundation for Cancer Research, Tokyo, Japan)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-04-19
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29858024

背景

ALK陽性非小細胞肺がん (NSCLC) 患者において、ALK阻害剤であるcrizotinibは治療開始後約1年以内に耐性が生じることが一般的である。特に、中枢神経系 (CNS) への進行は高頻度に発生し、これはcrizotinibがP-glycoproteinによって血液脳関門 (BBB) から排出されるため、CNSへの薬剤透過性が不十分であることに起因すると考えられている Costa et al. JClinOncol 2015。このCNSにおける薬剤濃度の不足は、脳転移の発生や既存病変の増悪を招き、患者の予後とQOLに大きな影響を与える。

一方、alectinibは強力かつ高選択的なALK阻害剤であり、in vitro試験においてP-glycoproteinの基質ではないことが示されている Tang et al. IntJCancer 2014。この特性により、alectinibは良好なBBB透過性を示し、脳脊髄液 (CSF) 中のCtroughが血漿中濃度とほぼ同等であることが報告されている (CSF 2.69 nmol/L vs 血漿 3.12 nmol/L) Gadgeel et al. LancetOncol 2014。alectinibは2014年に日本でALK陽性NSCLCの治療薬として初めて承認され、2017年にはNCCNガイドラインにおいて、進行性または転移性ALK陽性NSCLCの第一選択治療として推奨される薬剤となった。

これまでの臨床試験では、alectinibのCNS活性が示唆されている。日本の第I/II相試験 (AF-001JP) では、crizotinib未治療のALK陽性NSCLC患者においてalectinibが高い抗腫瘍活性を示し Tamura et al. JClinOncol 2017、crizotinib耐性患者を対象とした2つの第II相試験 (NP28761およびNP28673) でも、CNS転移を有する患者を含め、alectinibの有効性が確認されている Ou et al. JClinOncol 2016 Shaw et al. LancetOncol 2016

第III相J-ALEX試験は、ALK阻害剤未治療の日本人ALK陽性NSCLC患者を対象に、alectinib 300mg 1日2回投与とcrizotinib 250mg 1日2回投与を直接比較した無作為化非盲検試験である。この試験では、alectinibがcrizotinibと比較して有意な無増悪生存期間 (PFS) の改善と良好な忍容性を示すことが報告された Hida et al. Lancet 2017。しかし、J-ALEX試験におけるalectinibのCNS有効性に関する詳細な解析はこれまで報告されておらず、その定量的な評価が不足していた。特に、ベースラインでCNS転移を有する患者と有さない患者におけるalectinibのCNS保護効果を明確にすることは、臨床現場での治療選択において重要な情報となるが、この点において知識ギャップが残されている。本研究は、J-ALEX試験のデータを用いて、alectinibのCNS有効性を詳細に解析し、この知識ギャップを埋めることを目的とする。

目的

本研究の目的は、J-ALEX試験 (JapicCTI-132316) の探索的解析として、alectinibのCNS有効性を定量的に評価することである。具体的には、2016年9月30日のデータカットオフ時点において、ITT (intent-to-treat) 集団およびベースラインCNS転移の有無別に、以下の項目をalectinib群とcrizotinib群で比較する。

  1. Time to CNS progression: CNS病変の進行までの期間をKaplan-Meier法を用いて評価する。
  2. CNS進行、非CNS進行、および死亡の累積発生率 (CIR): 競合リスク法を用いて、これらのイベントの累積発生率を算出する。

これらの解析を通じて、alectinibがALK陽性NSCLC患者のCNS病変の進行を抑制し、新規CNS病変の発生を予防する効果を明確にし、その臨床的意義を考察することを目指す。特に、ベースラインでCNS転移を有する患者と有さない患者のサブグループ解析により、alectinibのCNS保護効果の包括的な理解を深める。

結果

患者背景: 2016年9月30日のデータカットオフ時点での解析結果である。ベースライン時の患者背景は、alectinib群とcrizotinib群の間で、ベースラインCNS転移の有無別に概ねバランスが取れていた (Table 1)。しかし、無作為化時の層別化因子にCNS転移の有無が含まれていなかったため、ベースラインCNS転移を有する患者数はcrizotinib群で多く (n=29)、alectinib群では少なかった (n=14)。また、crizotinib群ではalectinib群と比較して、脳への放射線治療歴を有する患者の割合が高かった (51.6% vs 37.5%)。その他の因子、例えば年齢、性別、ECOG PS、前化学療法歴、病期、組織型、喫煙歴などは、CNS転移の有無にかかわらず両群間で概ね同等であった。

Time to CNS progression (IRF評価): ITT集団において、IRF評価によるtime to CNS progressionは、alectinib群がcrizotinib群と比較して有意に延長された (HR 0.22, 95% CI 0.10-0.48, P < 0.0001)。CNS進行イベントの発生は、alectinib群で9例 (8.7%) であったのに対し、crizotinib群では26例 (25.0%) であった。ベースラインCNS転移の有無別の解析では、ベースラインCNS転移を有する集団ではHR 0.51 (95% CI 0.16-1.64, P = 0.2502) であり、統計的に有意な差は認められなかった。これは、このサブグループの症例数が少ないことに起因する可能性が考えられる。一方、ベースラインCNS転移を有さない集団では、HR 0.19 (95% CI 0.07-0.53, P = 0.0004) と、alectinib群で有意なCNS進行リスクの低減が示された (Supplementary Fig. 1)。ベースラインCNS転移を有さない患者のほとんどは、CNS外で病勢進行した (Supplementary Table 1)。

CNS進行および非CNS進行の累積発生率 (CIR): IRF評価によるCNS進行および非CNS進行の累積発生率 (CIR) は、全ての測定時点においてalectinib群がcrizotinib群を下回った (Fig. 1)。1年時点でのCNS進行のCIRは、crizotinib群で16.8%であったのに対し、alectinib群では5.9%であった。同様に、1年時点での非CNS進行のCIRは、crizotinib群で38.4%であったのに対し、alectinib群では17.5%であった。これらの傾向は、ベースラインCNS転移の有無にかかわらず、各サブグループでも同様に確認された (Fig. 1)。alectinibによるCNSおよび非CNS進行イベントのリスク低減効果は、無作為化後30ヶ月時点まで継続的に観察された。

他のalectinib CNS解析との一致: 本研究の知見は、これまでのalectinibのCNS活性に関する報告と一貫している。日本のAF-001JP第I/II相試験の3年追跡データでは、ベースラインCNS転移を有する14例中6例 (43%) が、データカットオフ時点でCNSまたは全身性の病勢進行を認めなかった Tamura et al. JClinOncol 2017。crizotinib耐性患者を対象としたalectinibの第II相試験 (NP28761およびNP28673) の統合解析では、24ヶ月時点でのCNS進行のCIRは、ベースラインCNS転移なしの患者で8.0%、ベースラインCNS転移ありの患者で43.9%と報告されている Gadgeel et al. BrJCancer 2018。さらに、第III相global ALEX試験の1年追跡データでは、time to CNS progressionのHRは0.16 (95% CI 0.10-0.28, P < 0.001) であり、CNS進行はalectinib群で12% (n=18)、crizotinib群で45% (n=68) であった Peters et al. NEnglJMed 2017。これらの結果は、alectinibがcrizotinibと比較してCNS病変の進行を効果的に抑制することを示唆している。

考察/結論

本解析は、J-ALEX試験におけるalectinibのCNS有効性を初めて定量的に評価したものである。ITT集団において、alectinibはcrizotinibと比較してCNS進行のリスクを78%低減することを示した (HR 0.22, 95% CI 0.10-0.48, P < 0.0001)。特に、ベースラインCNS転移を有さない集団では、CNS進行リスクが81%低減された (HR 0.19, 95% CI 0.07-0.53, P = 0.0004)。これらの結果は、alectinibの優れたBBB透過性とP-glycoproteinの基質ではないという特性を裏付けるものであり、これまでのAF-001JP、NP28761、NP28673、およびglobal ALEX試験で報告されたalectinibのCNS活性と一貫している。

新規性: 本研究で初めて、J-ALEX試験のデータを用いて、alectinibがALK陽性NSCLC患者において、新規CNS病変の発生予防と既存CNS病変の制御の両面でcrizotinibを上回ることを定量的に示した。特に、競合リスク法を用いた累積発生率 (CIR) の解析により、CNS進行だけでなく非CNS進行や死亡といった競合イベントも考慮した上で、alectinibのCNS保護効果が明確に示された点は新規である。

臨床応用: 本研究の知見は、ALK陽性NSCLC患者の治療戦略に重要な臨床的含意をもたらす。alectinibは、ベースラインでCNS転移を有さない患者においては新規CNS病変の発生を効果的に予防し、ベースラインでCNS転移を有する患者においては既存病変の進行を抑制する。これは、患者の予後改善だけでなく、神経学的症状の予防やQOL維持にも寄与すると考えられる。また、J-ALEX試験 (日本承認用量300mg BID) とglobal ALEX試験 (グローバル承認用量600mg BID) の結果がCNS有効性に関して一致したことは、Hsu et al. (2017) の集団薬物動態/曝露-反応解析によって示された用量架橋の可能性を支持するものである。これにより、本解析で得られた知見が非日本人集団にも一般化可能であることが示唆される。

残された課題: 本解析にはいくつかの限界が残されている。第一に、探索的かつ後ろ向き解析であるため、結果の解釈には注意が必要である。第二に、J-ALEX試験ではベースラインCNS転移の有無が層別化因子として設定されていなかったため、crizotinib群でベースラインCNS転移を有する患者がalectinib群よりも多かった (29例 vs 14例)。この不均衡が、特にベースラインCNS転移ありのサブグループにおけるHRの95% CIが広くなった一因である可能性があり、統計的検出力に影響を与えた可能性がある。今後の検討課題として、より大規模な前向き試験や、ベースラインCNS転移の有無で層別化された試験デザインでの検証が望まれる。

先行研究との違い: これまでの研究ではalectinibのCNS活性が示唆されてきたが、J-ALEX試験という日本人集団における第一選択治療としての詳細なCNS解析は本研究が初めてである。特に、競合リスクを考慮した累積発生率の解析は、従来のtime to event解析では捉えきれなかったCNS進行の全体像を明らかにした点で、これまでの報告とは異なるアプローチである。

総合的に、alectinibはCNS進行の予防および制御の両面でcrizotinibを上回ることが示された。このCNS保護効果は、J-ALEX試験で報告されたalectinibによるPFS改善の主要なメカニズムの一つであると考えられる。これらの結果は、ALEX試験の結果と合わせて、alectinibがALK陽性NSCLCの第一選択標準治療としての地位をさらに強化する根拠となる。

方法

J-ALEX試験 (JapicCTI-132316) は、日本人20歳以上のALK陽性進行NSCLC患者を対象とした第III相無作為化非盲検試験である。対象患者は、ALK阻害剤未治療であり、かつ化学療法未治療または1レジメンまでの前化学療法歴を有する者とした。ECOG PSは0-2であり、RECIST v1.1に基づき少なくとも1つの測定可能病変を有することが条件であった。ALK陽性は、免疫組織化学 (IHC) および蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH)、または逆転写ポリメラーゼ連鎖反応 (RT-PCR) を用いた中央判定により確認された。症候性CNS転移を有する患者は除外されたが、放射線治療済みまたは未治療の無症候性CNS転移を有する患者は試験への参加が許容された。

患者は、alectinib 300mg 1日2回投与群またはcrizotinib 250mg 1日2回投与群に1:1で無作為に割り付けられた。治療は、病勢進行、許容できない毒性、死亡、または患者の同意撤回まで継続された。主要エンドポイントは独立評価施設 (IRF) 評価による無増悪生存期間 (PFS) であり、効果判定はRECIST v1.1に従って実施された。画像検査は、ベースライン時および試験期間中定期的に実施された。具体的には、胸部/腹部、頭部、頸部、骨盤のCTおよび/またはMRIスキャンが、Week 12までは4週ごと、その後Week 76までは8週ごと、それ以降は病勢進行または死亡まで12週ごとに実施された。必要に応じて骨CTおよびMRIスキャンも実施された。

本探索的解析におけるCNS進行イベントは、競合リスクの性質を考慮し、累積発生関数を用いて解析された。CNS進行は、独立評価施設 (IRF) によって、新規CNS病変の出現、またはベースラインと比較した既存CNS病変の増大と定義された。非CNS進行は、IRFによって、CNS以外の領域における新規病変の出現、または既存病変の増大と定義された。Time to CNS progressionはKaplan-Meier法を用いて推定され、ハザード比 (HR) はCox比例ハザードモデルを用いて推定された。CNS進行、非CNS進行、および死亡の累積発生率 (CIR) は、ベースラインCNS転移の有無別に、競合リスク法を用いて算出された。