- 著者: C. G. Woo, S. Seo, S. W. Kim, S. J. Jang, K. S. Park, J. Y. Song, B. Lee, M. W. Richards, R. Bayliss, D. H. Lee, J. Choi
- Corresponding author: Jene Choi (Department of Pathology, Asan Medical Center, University of Ulsan College of Medicine, Seoul, Korea)
- 雑誌: Annals of Oncology
- 発行年: 2017
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 28039177
背景
非小細胞肺がん(NSCLC)の約2〜9%において、未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)遺伝子の再構成が認められる。ALK再構成陽性NSCLCに対する標準治療として、第一世代ALK阻害剤であるクリゾチニブが確立されており、客観的奏効率(ORR)は61-74%、2年全生存率(OSR)は54%、無増悪生存期間(PFS)中央値は11ヶ月と、従来の化学療法(PFS中央値7ヶ月)と比較して優れた成績を示している Kwak et al. NEnglJMed 2010、Camidge et al. LancetOncol 2012、Solomon et al. NEnglJMed 2014。しかし、クリゾチニブによる治療効果や奏効期間は患者間で大きく異なり、治療開始後1〜2年で耐性が発現することが知られている。この耐性メカニズムは多様であるが、多くの場合、腫瘍は依然としてALKシグナルに依存しており、セリチニブやアレクチニブといった第二世代ALK阻害剤が有効であると報告されている Shaw et al. NEnglJMed 2014、Seto et al. LancetOncol 2013。
EML4-ALK融合遺伝子は、ALK再構成陽性NSCLCにおいて最も頻繁に検出される融合パートナーであり、EML4遺伝子内の異なる融合点に起因する複数のバリアントが存在する。主要なバリアントとして、バリアント1(V1、約33%)、バリアント2(V2、約10%)、バリアント3a/b(V3a/b、約29%)が挙げられる Soda et al. Nature 2007、Choi et al. NEnglJMed 2010。これらのバリアントは、ALKキナーゼドメイン全体をコードするALKエクソン20-29を共通して保持しているが、EML4遺伝子由来のN末端コイルドコイル領域、塩基性領域、疎水性棘皮動物微小管関連タンパク質様タンパク質(HELP)モチーフ、およびWD(トリプトファン-アスパラギン酸)リピートからなるTAPE(tandem atypical β-propeller)ドメインの切断程度がそれぞれ異なる。先行研究の結晶構造解析に基づくと、V1、V2、V7などのバリアントはTAPEドメインが部分的に欠損しており、その結果、融合タンパク質が構造的に不安定であると推測されている。一方、V3a/bやV5a/bなどのバリアントはTAPEコア全体が欠損しているため、むしろ構造的に安定であるという仮説が提唱されている。
これまでのin vitro研究では、EML4-ALKバリアント間でクリゾチニブに対する感受性が異なることが示されているが、特定のEML4-ALKバリアントと様々なALK阻害剤に対する患者の臨床的奏効との相関に関するデータは限られており、この点は未解明である。特に、タンパク質安定性の違いが臨床転帰に与える影響については、まだ十分に解明されていない点が課題として残されている。この知識のギャップを埋めることは、ALK陽性NSCLC患者に対する個別化医療の進展に不可欠であり、既存のデータでは情報が不足している。
目的
本研究の目的は、進行ALK陽性NSCLC患者54例を対象に、EML4-ALKバリアントの遺伝子型を同定し、そのタンパク質安定性に関する仮説に基づき患者を2群(V1/2/その他群 vs V3a/b群)に層別化することである。さらに、これらの群間におけるALK阻害剤(クリゾチニブ、アレクチニブ、セリチニブ)に対する臨床的奏効の相関を評価する。加えて、in vitroのバリアント発現系を用いて、各EML4-ALKバリアントが様々なALK阻害剤に対して示す感受性を詳細に検証し、臨床データとの整合性を確認する。最終的には、EML4-ALKバリアントの遺伝子型がALK阻害剤治療の個別化に役立つかを明らかにすることを目指す。本研究は、EML4-ALKバリアントのタンパク質安定性の違いが臨床反応に与える影響を包括的に評価し、個別化医療への貢献を目指す。
結果
EML4-ALKバリアントの分布: 解析対象の54例中、51例がEML4-ALK融合遺伝子を有していた。最も頻繁に検出されたのはEML4-ALKバリアント3a/bで24例(44.4%)であり、次いでバリアント1が18例(33.3%)、バリアント2が6例(11.1%)であった。その他の稀なALK転座を有する6例のうち、1例はEML4-ALKバリアント7、2例は新規バリアント(EML4-ALK E14del2;del22A20およびE17;del70A20)であり、残りの3例はEML4以外の融合パートナーを有していた(Table 1)。タンパク質安定性の仮説に基づき、患者はV1/2/その他群(n=27)とV3a/b群(n=24)に層別化された。両群間のベースライン特性に有意な差は認められなかった。
クリゾチニブ治療患者における無増悪生存期間 (PFS): 全54例のPFS中央値は19ヶ月(95% CI 12ヶ月-NE)、2年PFSRは45.1%(95% CI 27.8-73.1)であった。クリゾチニブ単独で治療された患者群(n=44)において、2年PFSRはV1/2/その他群で76.0%(95% CI 56.8-100)であったのに対し、V3a/b群では26.4%(95% CI 10.5-66.6)と有意に低かった(p=0.034)(Figure 2A)。この結果は、V3a/bバリアントがクリゾチニブに対する耐性に関連することを示唆する。
全ALK阻害剤治療患者における無増悪生存期間 (PFS): クリゾチニブ、アレクチニブ、セリチニブを含む全てのALK阻害剤で治療された患者群(n=51)では、2年PFSRはV1/2/その他群で69.0%(95% CI 49.9-95.4)であったのに対し、V3a/b群では32.7%(95% CI 15.6-68.4)と同様の傾向を示したが、統計的有意性には達しなかった(p=0.108)(Figure 2B)。全生存期間(OS)については、両群間で有意差は認められなかった。これは、データカットオフ時点での死亡率が比較的低かったこと(33.3%)、およびV3a/b群で初回治療としてALK阻害剤が投与された患者の割合がV1/2/その他群よりも高かったこと(54.2% vs 29.6%, p=0.094)が影響している可能性がある。
客観的奏効率 (ORR) および病勢コントロール率 (DCR): クリゾチニブ治療におけるORRは、V1/2/その他群で83.3%(20/24)、V3a/b群で75.0%(15/20)であり、有意差はなかった(p=0.709)。DCRは、V1/2/その他群で100%(24/24)、V3a/b群で90.0%(18/20)であった(p=0.201)。全てのALK阻害剤で治療された患者群では、DCRはV1/2/その他群で100%(27/27)、V3a/b群で87.5%(21/24)であり、V1/2/その他群で有利な傾向が認められたが、統計的有意性には達しなかった(p=0.097)(Table 2)。進行後に再生検を受けた23例中7例(V1/2/その他群4例、V3a/b群3例)では、ALK遺伝子変異は検出されず、バリアント固有の一次耐性の可能性が示唆された。
In vitroにおけるEML4-ALKバリアント発現細胞のALK阻害剤感受性: EML4-ALK V1、V2、V3a、V5aを安定発現させたBa/F3細胞株を用いたウェスタンブロッティング解析では、V3aおよびV5a発現細胞でTyr-1604リン酸化ALKが豊富に検出された(Figure 3A)。キナーゼアッセイでも、V3aおよびV5a発現細胞はV1およびV2発現細胞よりも高いキナーゼ活性を示した(Figure 3B)。細胞生存率アッセイにより、各ALK阻害剤に対するIC50値が測定された(Figure 3C, D)。Ba/F3 V1発現細胞では、クリゾチニブのIC50は471.2 nM、セリチニブは48.16 nM、アレクチニブは42.55 nMであった。Ba/F3 V2発現細胞では、クリゾチニブのIC50は268.8 nM、セリチニブは28.34 nM、アレクチニブは14.99 nMであった。これに対し、V3aおよびV5a発現細胞は、全ての3種類のALK阻害剤に対してIC50が500 nMを超え、V1/V2発現細胞と比較して10倍以上高いIC50値を示し、強い耐性を示すことが確認された。セリチニブとアレクチニブはクリゾチニブよりもV1/V2発現細胞の増殖を強力に抑制したが、V3a/V5a発現細胞に対してはいずれも効果が低かった。
NSCLC細胞株およびBEAS-2B細胞における検証: NSCLC細胞株H3122(V1発現)は、検討した細胞株の中で最も高いALK阻害剤感受性を示し、クリゾチニブのIC50は296.6 nM、セリチニブは15.14 nM、アレクチニブは26.58 nMであった。対照的に、H2228細胞(V3b発現)は全てのALK阻害剤に対してIC50が100 nMを超え、耐性を示した。また、正常気管支上皮細胞BEAS-2BにV3aまたはV5aを一時的に発現させた場合も、IC50が500 nMを超え、V3a/V5aバリアントがALK阻害剤に不応性を示すことが確認された(Figure 3E, F)。BEAS-2B V1発現細胞のIC50はクリゾチニブ24.5 nM、セリチニブ22.82 nM、アレクチニブ17.12 nMであり、BEAS-2B V2発現細胞のIC50はクリゾチニブ57.62 nM、セリチニブ16.48 nM、アレクチニブ12.94 nMであった。
考察/結論
本研究は、EML4-ALKバリアントのタンパク質安定性とALK阻害剤に対する臨床的奏効との相関を、臨床および前臨床の両面から統合的に解析した初めての研究である。
新規性: 本研究で初めて、EML4-ALKバリアントのタンパク質安定性に基づく層別化が、ALK阻害剤治療の臨床転帰予測に極めて有用であることを示した。特に、V3a/bバリアントがALK阻害剤耐性の主要な原因である可能性をin vitroおよびin vivoデータで裏付けた点は新規性が高い。
先行研究との違い: Lei et al. (2016) はEML4-ALKバリアントとクリゾチニブの臨床奏効との相関を認めなかったと報告しているが、彼らはV1とV3a/bを「common variants」として一括りに分類しており、タンパク質安定性の違いを考慮していなかった。本研究では、タンパク質安定性に基づくV1/2/その他群とV3a/b群の層別化により、クリゾチニブ治療後の2年PFSRにおいてV3a/b群が有意に低い(26.4% vs 76.0%, p=0.034)という明確な差を検出できた点で、先行研究と異なり、より精緻な患者層別化の重要性を強調する。また、Yoshida et al. (2016) はV1群と非V1群で層別化したが、本研究のV1/2/その他群 vs V3a/b群の層別化の方がPFSの差がより顕著であった。
臨床応用: 本研究の知見は、ALK陽性NSCLC患者に対する精密医療の臨床応用に直結する。特に、V3a/bバリアントを有する患者は、クリゾチニブだけでなく、アレクチニブやセリチニブといった第二世代ALK阻害剤に対しても強い耐性を示すことがin vitroで確認された。このことは、V3a/b陽性患者に対しては、より強力なALK阻害剤(例: ロルラチニブなどの第三世代阻害剤)や、ALKとMEK阻害剤の併用療法など、代替の治療戦略を早期に検討すべきであるという臨床的意義を持つ。コンパニオン診断としてバリアント同定が可能になれば、治療開始前に患者を層別化し、最適な治療選択を導くことができる。
残された課題: 今後の検討課題として、V3a/bバリアントが示すALK阻害剤耐性の具体的な分子メカニズム(例: Hsp90依存性、安定化構造が薬剤結合ポケットに与える影響など)を詳細に解明する必要がある。また、本研究は単一施設でのレトロスペクティブな解析であるため、より大規模な多施設共同研究による検証が不可欠である。さらに、全てのALK阻害剤(特に第三世代阻害剤を含む)に対する各バリアントの奏効プロファイルを系統的に解析し、臨床的エビデンスを蓄積することも今後の研究方向性として挙げられる。
方法
本研究は、Asan Medical Centerにおいて2011年6月から2015年8月までにVysis FISH法によりALK陽性と診断された1721例のALK未治療進行NSCLC患者から、ALK阻害剤治療を受け、ECOG PSが0-3であった113例を抽出し、最終的に54例を解析対象としたレトロスペクティブな研究である。患者の選択は、組織検体の入手可能性と機関倫理委員会の承認に基づき、ゲノムDNAの品質不良や組織検体不足により24例が除外され、3例が追跡不能であった(Figure 1)。
EML4-ALKバリアントの同定には、既知の12種類のEML4-ALK再構成バリアントを検出可能なマルチプレックス逆転写PCR(PNA-mediated qPCR)アッセイを用いた。患者は、EML4-ALKバリアントのタンパク質安定性に関する仮説に基づき、V1/V2/その他群(n=27)とV3a/b群(n=24)の2群に層別化された。治療は、クリゾチニブ250 mg 1日2回、アレクチニブ600 mg 1日2回、またはセリチニブ750 mg 1日1回を4週間サイクルで投与し、RECIST v1.1基準 Eisenhauer et al. EurJCancer 2009 に基づき2サイクルごとに治療効果を評価した。安全性プロファイルは、Common Terminology Criteria for Adverse Events version 4を用いて評価された。
統計解析には、EML4-ALKバリアントと臨床病理学的特徴の関連性を評価するためにWilcoxon rank-sum検定およびFisher’s exact検定を用いた。ORRおよびDCRの関連性もFisher’s exact検定で解析された。生存率の推定と生存分布の比較には、Kaplan-Meier法とログランク検定をそれぞれ適用した。全ての統計解析はRソフトウェア(バージョン3.1.3)を用いて実施され、p値が0.05未満を有意差ありと判断した。
In vitro実験では、IL-3依存性Ba/F3細胞株にEML4-ALK V1、V2、V3a、V5aを安定発現させ、IL-3非依存性かつALK依存性の増殖系を確立した。これらの細胞株およびNSCLC細胞株H3122(V1発現)とH2228(V3b発現)、ならびに正常気管支上皮細胞BEAS-2BにEML4-ALKバリアントを一時的に発現させた系を用いて、CellTiter-Glo viability assayおよびUniversal Tyrosine Kinase Assay KitによるALKキナーゼアッセイを実施し、各ALK阻害剤(クリゾチニブ、アレクチニブ、セリチニブ)に対するIC50値を測定した。