• 著者: Sai-Hong I. Ou, Pasi A. Jänne, Charles H. Bartlett, Yi Tang, Dong-Wan Kim, Gregory A. Otterson, Lucio Crinò, Patrice Selaru, Daniel P. Cohen, Jeffrey W. Clark, Gregory J. Riely
  • Corresponding author: Sai-Hong I. Ou (Chao Family Comprehensive Cancer Center, University of California at Irvine)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2014
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 24478318

背景

Crizotinibは進行期ALK陽性NSCLCの治療薬として承認されているが、大半の患者は最終的に病勢進行 (PD) を来す。EGFR変異陽性NSCLCにおけるEGFR TKI継続と同様に、ALK陽性NSCLCでもcrizotinib継続が病勢進行後治療 (CBPD) として臨床上実施されていたが、その有用性を系統的に示したデータは乏しかった。特に脳転移が多いALK陽性NSCLCでは、脳への局所療法と組み合わせた上でのTKI継続が実臨床で行われており、EGFR変異陽性NSCLCで報告された”disease flare”のリスクも考慮する必要があった。PROFILE 1001・PROFILE 1005の2試験では、臨床的有益性が継続する場合にはPD後のcrizotinib継続が許容されていたが、その臨床的有用性に関する詳細なデータは未解明であった。これまでの研究では、ALK融合遺伝子の多様な変異が報告されており (Soda et al. Nature 2007Rikova et al. Cell 2007)、crizotinibに対する耐性メカニズムも複数報告されているが (Choi et al. NEnglJMed 2010Katayama et al. SciTranslMed 2012Doebele et al. ClinCancerRes 2012Sasaki et al. CancerRes 2011)、PD後の治療戦略に関するエビデンスは不足していた。例えば、Kwak et al. NEnglJMed 2010Shaw et al. NEnglJMed 2013はcrizotinibの有効性を示したが、PD後の継続治療の意義については言及がなかった。また、Camidge et al. LancetOncol 2012ではCBPDの実現可能性と忍容性が示されたものの、生存期間への影響に関する大規模な解析は行われていなかった。

目的

RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) 定義のPD後もcrizotinibを継続すること (CBPD) の臨床的有用性を評価し、CBPDの恩恵を受ける患者の臨床病理学的特徴を特定すること。

結果

患者背景と群間バランス: 194例のうち120例 (62%) が3週間超のCBPDを実施した (CBPD群)、74例 (38%) が実施しなかった (非CBPD群)。ベースライン年齢、喫煙歴、組織型、前治療歴などに両群間の有意差はなかったが、PD時のECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status) 0/1の割合がCBPD群で有意に高かった (96% vs 82%; p=0.02) (Table 1)。初期crizotinib治療に対する客観的奏効率 (ORR) はCBPD群74% (95% CI 65-82) vs 非CBPD群55% (95% CI 43-67) と数値的に高かったが統計的有意差はなく、TTP (Time to Progression) の中央値はCBPD群7.3ヶ月 (95% CI 6.8-8.9)、非CBPD群5.7ヶ月 (95% CI 5.4-6.8) であった (Table 2)。両群間で治療開始からの最大腫瘍縮小率に大きな差は認められず、両群の97%の患者で何らかの腫瘍縮小が認められた (Supplementary Figure S2)。

PD後OSの比較 (主要エンドポイント): PD後OS中央値はCBPD群16.4ヶ月 (95% CI 14.5-NR) vs 非CBPD群3.9ヶ月 (95% CI 2.7-5.1) と、CBPD群で著明に延長した (HR 0.27, 95% CI 0.17-0.42, p<0.0001)。12ヶ月PD後OS確率はCBPD群64.7% (95% CI 53.0-74.3) に対し非CBPD群23.9% (95% CI 13.3-36.1) と大差が認められた。CBPD患者のPD後crizotinib継続期間中央値は19.4週 (95% CI 16.7-28.9) であった (Figure 1A)。この結果は、PD後もcrizotinibを継続することが、患者の生存期間に大きな影響を与えることを明確に示している。

後治療の影響を分離した解析: 非CBPD群のうち後治療を受けた37例のPD後OS中央値は5.4ヶ月 (95% CI 3.8-12.3) で、後治療なし群 (n=37) の2.2ヶ月 (95% CI 1.1-3.8) よりは延長していたが、CBPD群 (16.4ヶ月) と比較して依然として有意に短かった (HR 0.38, 95% CI 0.22-0.66, p=0.0005)。この結果から、後治療の有無だけではCBPDと非CBPDの差を説明できないことが示された (Figure 1B)。CBPDの継続が、後治療とは独立した生存利益をもたらす可能性が示唆された。

初回crizotinib投与からのOS: 初回crizotinib投与からのOS中央値はCBPD群29.6ヶ月 (95% CI 23.1-NR) vs 非CBPD群10.8ヶ月 (95% CI 8.9-14.7) で、CBPDにより全生存期間も大幅に延長した (HR 0.30, 95% CI 0.19-0.46, p<0.0001) (Figure 1C)。6ヶ月OS確率はCBPD群97.5% (95% CI 92.5-99.2) vs 非CBPD群87.8% (95% CI 77.9-93.5) であった。この結果は、PD後もcrizotinibを継続することで、初期治療からの長期的な生存が大きく改善されることを示唆する。

多変量Cox回帰解析による独立性の確認: 多変量Cox回帰解析 (後方変数選択法、交絡因子を調整) でも、CBPDはPD後OS改善と独立した関連を示した (HR 0.27, 95% CI 0.17-0.45, p<0.0001)。初期crizotinib治療への反応 (CR/PR vs SD: HR 0.48, 95% CI 0.28-0.85, p=0.01) および長いTTP (1ヶ月増加ごとのHR 0.78, 95% CI 0.66-0.93, p=0.01) もPD後OS改善因子として同定された (Table 3)。PD時のECOG PSも重要な因子であり、PS 1 vs 0でHR 1.75 (95% CI 1.00-3.04, p=0.05)、PS ≥2 vs 0でHR 10.94 (95% CI 4.92-24.3, p<0.0001) であった。これらの因子は、CBPDの恩恵を受ける患者を特定するための重要な指標となる。

進行部位のパターン: CBPD患者では脳が51%のPD部位を占めた (非CBPD群では脳28%、肝臓37%)。脳への局所療法と組み合わせてCBPDが実施された例が多く、全身病変が少ない状況でのCBPD選択傾向が反映されていた。新規病変のみでのPDの場合、OSは有意に短くなる傾向が示された (HR 1.87, 95% CI 1.06-3.30, p=0.03)。このことは、PD部位の特性がCBPDの選択と効果に影響を与える可能性を示唆する。

考察/結論

本研究は、ALK陽性NSCLCにおけるPD後crizotinib継続 (CBPD) の臨床的有用性を示した最大規模の後ろ向き解析であり、PD後OS中央値16.4ヶ月 vs 3.9ヶ月という顕著な差異を示した。

先行研究との違い: 本研究は、HER2陽性乳癌におけるtrastuzumab継続やEGFR変異陽性NSCLCにおけるEGFR TKI継続と同様に、腫瘍のonco-addictionを活用した戦略として整合性があることを示唆する。これまでの研究では、CBPDの実現可能性や忍容性が報告されていたが、本研究はPD後OSの延長という明確な臨床的ベネフィットを大規模なデータで示した点で、これまでの報告と異なる。非CBPD群で後治療を受けた群でもOS中央値が5.4ヶ月にとどまることから、単純な後治療の有無ではなくCBPD自体が独立した寄与をしている可能性が高い。

新規性: 本研究で初めて、PD時の良好なECOG PS、初期crizotinib治療への良好な反応、および長いTTPがCBPDの恩恵を受ける患者の選択因子となる可能性を新規に同定した。特に、脳転移部位に対する局所療法を組み合わせた上でのCBPD実施が多かった点は、脳以外への全身病変が少ない場合にCBPDが選択される傾向を反映しており、この戦略の有効性を支持する。

臨床応用: 本知見は、ALK陽性NSCLC患者のPD後の治療戦略において、crizotinib継続が重要な選択肢となり得ることを示唆し、臨床現場での意思決定に影響を与える可能性がある。特に、全身状態が良好で、局所療法で制御可能な病変に限定されたPDの場合には、CBPDの臨床的有用性が高いと考えられる。

残された課題: 本研究は後ろ向き研究であり、交絡因子調整の限界があること、CBPD群は良好なPSや反応性など予後良好因子を有する患者が選択されやすいこと (confounding by indication)、耐性機序データが乏しいことがlimitationとして挙げられる。本研究当時は第2世代ALK阻害剤 (alectinib, ceritinib等) が未承認であり、現在は第2・第3世代ALK阻害剤への速やかな切り替えが標準治療であるため、本研究の直接的臨床応用は限定的だが、ALK依存性腫瘍のbeyond PD戦略の原理的妥当性を示す歴史的意義を持つ。今後の検討課題として、第2世代以降のALK阻害剤が利用可能な状況下でのCBPDの役割や、耐性メカニズムに基づいた最適な治療シーケンスを前向きに評価する必要がある。

方法

本研究は、PROFILE 1001 (フェーズI拡大コホート、NCT00585195) およびPROFILE 1005 (フェーズII、NCT00932451) に登録した進行期ALK陽性NSCLC患者のうち、RECIST定義のPDに達した194例を対象とした後ろ向きコホート解析 (retrospective cohort analysis) である。CBPDはPD記録後3週間超のcrizotinib継続と定義した。初期crizotinib治療のBest ResponseがPDであった患者は除外した。PROFILE 1001のfirst-line群も除外して両試験で比較可能な集団を確保した。データカットオフは2012年1月2日とした。主要評価項目はPD後OSおよび初回crizotinib投与からのOSとした。生存解析にはKaplan-Meier法を用い、95%信頼区間 (CI) はBrookmeyer-Crowley法で算出した。ハザード比 (HR) はCox比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) を用いて推定した。多変量Cox回帰分析 (後方変数選択法) で交絡因子を調整した。統計解析はSAS統計ソフトウェアバージョン9.2を用いて実施した。