• 著者: Cho BC, Obermannova R, Bearz A, McKeage M, Kim DW, Batra U, Borra G, Orlov S, Kim SW, Geater SL, Postmus PE, Laurie SA, Park K, Yang CT, Ardizzoni A, Bettini AC, de Castro G Jr, Kiertsman F, Chen Z, Lau YY, Viraswami-Appanna, Passos VQ, Dziadziuszko R
  • Corresponding author: Byoung Chul Cho (Division of Medical Oncology, Yonsei Cancer Center, Department of Internal Medicine, Yonsei University College of Medicine, Seoul, Republic of Korea)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-03-06
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30851442

背景

非小細胞肺がん (NSCLC) において、ALK遺伝子転座の同定は治療戦略を劇的に変化させた(Soda et al. Nature 2007)。第二世代のチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI: tyrosine kinase inhibitor) であるセリチニブは、治療未施行のALK陽性NSCLC患者を対象とした第III相試験 (ASCEND-4) において、プラチナ製剤併用化学療法と比較して無増悪生存期間 (PFS: progression-free survival) を有意に延長し、優れた有効性を示した(Soria et al. Lancet 2017)。この試験において、セリチニブは PFS のハザード比 (HR) 0.55 (95% CI 0.42-0.73, p<0.001) を達成した。しかし、当初承認された標準用量である 750 mg/日絶食下投与では、下痢、悪心、嘔吐などの消化器毒性が高頻度に発現し、多くの症例で休薬や用量減量を余儀なくされるという臨床上の課題が存在していた。同様の課題は、クリゾチニブ(Solomon et al. NEnglJMed 2014)やアレクチニブ(Peters et al. NEnglJMed 2017)といった他のALK阻害薬の臨床開発においても、有効性と安全性のバランスを最適化する観点から議論されてきた。

セリチニブの薬物動態学的特徴として、食事摂取により経口バイオアベイラビリティが著しく上昇することが知られていた。この食事効果を利用し、食事摂取下で投与量を減量することにより、標的治療濃度を維持しつつ消化器粘膜への局所刺激を和らげ、忍容性を改善できる可能性が示唆された。ASCEND-8試験のパート1(薬物動態解析)では、セリチニブ 450 mg食事摂取下投与が 750 mg絶食下投与と同等の定常状態における薬物曝露量を示し、かつ消化器毒性が軽減されることが報告された(Cho et al. JThoracOncol 2017)。しかし、この薬物動態データに基づく用量変更が、実際の臨床において長期的な治療効果を損なわないかについては未解明であり、詳細な有効性データが不足しているという gap が残されていた。特に、治療未施行の患者集団における長期的な有効性と安全性の包括的な比較検証データは手薄であり、臨床応用を確実なものにするためのエビデンスが不足していた。本研究は、この臨床的課題を解決するために計画された。

目的

本研究の目的は、多施設共同ランダム化第I相試験であるASCEND-8試験の主要有効性解析(データカットオフ日: 2018年3月27日)の結果を報告することである。具体的には、治療未施行のALK陽性(中央判定の免疫組織化学 [IHC: immunohistochemistry] 陽性)進行非小細胞肺がん (NSCLC) 患者を対象として、セリチニブ 450 mg食事摂取下投与、600 mg食事摂取下投与、および 750 mg絶食下投与の 3 群間における有効性と安全性を比較評価することを目的とした。主要な評価項目として、盲検下独立中央判定委員会 (BIRC: blinded independent review committee) 評価による全奏効率 (ORR: overall response rate) および奏効持続期間 (DOR: duration of response) を設定し、副次評価項目として無増悪生存期間 (PFS) や全生存期間 (OS: overall survival) を評価した。さらに、食事摂取下での低用量投与が、従来の絶食下高用量投与と同等の腫瘍縮小効果を維持しつつ、消化器毒性を有意に軽減できるという仮説を検証し、セリチニブの最適な臨床投与レジメンを確立することを目指した。

結果

治療未施行患者における優れた腫瘍縮小効果と奏効率の同等性: 中央判定で ALK IHC 陽性が確認された治療未施行患者 198 例において、追跡期間中央値 14.3 か月時点での有効性が評価された。主要評価項目である BIRC 評価による ORR は、450 mg食事摂取下群で 78.1% (95% CI 66.9-86.9, n=57/73)、600 mg食事摂取下群で 72.5% (95% CI 58.3-84.1, n=37/51)、750 mg絶食下群で 75.7% (95% CI 64.3-84.9, n=56/74) であった (Table 2)。450 mg食事摂取下群の ORR は、従来の標準治療である 750 mg絶食下群と同等であり、食事摂取下での減量が有効性を損なわないことが示された。この ORR は、先行研究である第III相試験 (ASCEND-4) のセリチニブ 750 mg絶食下群の ORR 72.5% と比較しても遜色ないものであった。参考までに、ASCEND-4試験におけるセリチニブ群の化学療法群に対するPFSのハザード比は HR 0.55 (95% CI 0.42-0.73, p<0.001) であった。病勢コントロール率 (DCR) も BIRC 評価で 450 mg食事摂取下群 90.4% (95% CI 81.2-96.1) vs 750 mg絶食下群 90.5% (95% CI 81.5-96.1) と極めて類似していた。また、奏効までの期間 (TTR) の中央値は 3 群ともに 6.3 週間 (95% CI 6.1-6.9 vs 6.3 週間 (95% CI 6.1-9.3) vs 6.3 週間 (95% CI 6.1-7.1)) であり、迅速な腫瘍縮小効果が維持されていることが確認された (Table 2)。

奏効持続期間および無増悪生存期間における良好な維持傾向: BIRC 評価による奏効持続期間 (DOR) の中央値は、450 mg食事摂取下群で未到達 (NE) (95% CI 11.2-NE)、600 mg食事摂取下群で 20.7 か月 (95% CI 15.8-NE)、750 mg絶食下群で 15.4 か月 (95% CI 8.3-NE) であった (Table 2) (Figure 1A)。18 か月時点における推定奏効維持率は、450 mg食事摂取下群で 52.9% (95% CI 30.9-70.8) vs 750 mg絶食下群で 36.7% (95% CI 14.5-59.4) であり、450 mg食事摂取下群で良好な傾向が示された。同様に、BIRC 評価による無増悪生存期間 (PFS) の中央値は、450 mg食事摂取下群で未到達 (NE) (95% CI 11.8-NE) であったのに対し、600 mg食事摂取下群で 17.0 か月 (95% CI 10.1-NE)、750 mg絶食下群で 12.2 か月 (95% CI 8.2-NE) であった (Table 2) (Figure 1B)。12 か月時点における PFS イベントフリー率は、450 mg食事摂取下群で 62.1% (95% CI 46.6-74.3) vs 750 mg絶食下群で 51.1% (95% CI 35.8-64.5) であった。既報の第III相試験 (ASCEND-5) において、セリチニブ 750 mg絶食下群は化学療法群に対してPFSの有意な延長を示している(HR 0.49 (95% CI 0.36-0.67, p<0.001))。本試験の 450 mg食事摂取下群における良好な PFS 推移は、食事摂取下での減量投与が、これらの先行試験で示された強力な治療効果を損なうことなく維持できていることを示唆している。

用量強度の維持と用量減量・中断頻度の劇的な低下: 安全性解析対象集団 304 例(450 mg食事摂取下群 n=108、600 mg食事摂取下群 n=86、750 mg絶食下群 n=110)において、治療期間中央値はそれぞれ 42.9 週間、45.6 週間、42.2 週間であった (Table 3)。相対用量強度 (RDI: relative dose intensity: 相対用量強度) の中央値は、450 mg食事摂取下群で 100.0% (範囲 35.3-100.0%) に達したのに対し、600 mg食事摂取下群で 78.5% (範囲 29.4-100.0%)、750 mg絶食下群で 83.7% (範囲 40.9-100.0%) にとどまった。少なくとも 1 回の用量減量を必要とした患者の割合は、450 mg食事摂取下群で 24.1% (n=26/108) であり、600 mg食事摂取下群の 65.1% (n=56/86) および 750 mg絶食下群の 60.9% (n=67/110) と比較して大幅に低かった (Table 3)。さらに、2 回以上の用量減量を余儀なくされた患者は、450 mg食事摂取下群でわずか 4.6% (n=5/108) であったのに対し、750 mg絶食下群では 34.5% (n=38/110) に達しており、450 mg食事摂取下投与が極めて優れた忍容性を持つことが示された。

消化器毒性の発現頻度および重症度の著明な軽減: 全原因による有害事象のうち、最も頻度の高かった下痢、悪心、嘔吐の消化器毒性において、450 mg食事摂取下群での顕著な軽減効果が実証された (Table 4)。全グレードの下痢の発現率は、450 mg食事摂取下群で 57.4% (n=62/108) であり、750 mg絶食下群の 79.1% (n=87/110) と比較して有意に低かった。悪心(41.7% vs 57.3%)および嘔吐(38.9% vs 63.6%)の発現率も同様に 450 mg食事摂取下群で低値を示した。さらに、重症度においても顕著な差が認められ、Grade 3 以上の消化器毒性の発現率は 450 mg食事摂取下群でわずか 2.8% (n=3/108) であったのに対し、750 mg絶食下群では 13.6% (n=15/110) であった (Table 5)。消化器毒性を理由とする治療中止例は 450 mg食事摂取下群で 0 例であり、食事摂取下での投与が患者の 生活の質 (QOL: quality of life) 維持と治療継続に大きく寄与することが示された。一方、肝毒性(ALT上昇: 40.7% vs 40.9%、AST上昇: 35.2% vs 37.3%)などの非消化器毒性の発現率は群間で同等であった。

考察/結論

本研究は、ALK陽性NSCLC患者におけるセリチニブ 450 mg食事摂取下投与が、従来の 750 mg絶食下投与と同等の有効性を維持しつつ、消化器毒性を劇的に軽減することを大規模ランダム化試験において実証した極めて重要な報告である。

先行研究との違い: 従来の標準治療であったセリチニブ 750 mg絶食下投与は、第III相試験において優れた PFS 延長効果(HR 0.55 (95% CI 0.42-0.73, p<0.001))を示した一方で、下痢や悪心などの消化器毒性が極めて高頻度であり、多くの患者で用量減量や休薬が必要となる点が大きな課題であった(Soria et al. Lancet 2017Shaw et al. LancetOncol 2017)。これら従来の報告と異なり、本研究では食事摂取に伴うバイオアベイラビリティの上昇を応用することで、投与量を 450 mgに減量しても定常状態の薬物曝露量を維持し、かつ消化器粘膜への局所刺激を緩和できることを示した。これは、有効性を維持しながら安全性を向上させるという、これまでの治療開発アプローチとは対照的なアプローチの成功例である。

新規性: 本研究の新規性は、セリチニブ 450 mg食事摂取下投与が、用量減量率を従来の約 3 分の 1(24.1% vs 60.9%)に抑え、相対用量強度 (RDI) の中央値 100.0% を達成したことを本研究で初めて明らかにした点にある。これはこれまで報告されていない新規の知見であり、低用量食事摂取下投与が薬物動態学的に妥当であるだけでなく、臨床的にも極めて高い治療継続性をもたらすことを証明した。さらに、探索的解析として実施された曝露量-反応関係解析において、血中薬物濃度と最良総合効果との間に明確な相関が認められなかったことは、450 mg食事摂取下での曝露量が腫瘍縮小効果を最大化するのに十分であることを裏付けている。

臨床応用: 本知見の臨床応用における意義は極めて大きい。セリチニブの標準投与レジメンが 450 mg食事摂取下に変更されたことにより、実際の臨床現場における患者の治療アドヒアランスと生活の質 (QOL) が劇的に改善された。消化器毒性による苦痛が軽減されることで、患者はより長期にわたって最適な治療を継続することが可能となり、結果としてALK陽性NSCLCの長期予後改善に寄与するという臨床的意義を有する。

残された課題: 今後の検討課題として、アレクチニブやブリガチニブ、ロルラチニブといった他の第二・第三世代ALK阻害薬との間における、有効性および安全性の直接比較データが不足している点が挙げられる。また、本試験における長期的な PFS および OS データは依然として未成熟であり、より長期の追跡による検証が必要であることも limitation として残されている。さらに、脳転移を有する患者における頭蓋内病変への移行性と治療効果について、より詳細なサブグループ解析を行うことが今後の研究方向性として求められる。

方法

本研究は、世界 24 カ国 87 施設で実施された多施設共同、オープンラベル、ランダム化第I相試験であるASCEND-8試験 (NCT02299505) の主要有効性解析である。対象患者は、18 歳以上で、組織学的または細胞学的にステージ IIIB または IV の ALK 陽性 NSCLC と診断された患者とした。治療未施行の患者集団においては、中央判定による IHC 検査で ALK 陽性が確認されていることを必須条件とした。適格患者は、セリチニブ 450 mg食事摂取下群 (n=108)、600 mg食事摂取下群 (n=87)、または 750 mg絶食下群 (n=111) に 1:1:1 の比率でランダムに割り付けられた。ランダム化の層別因子は、スクリーニング時の脳転移の有無、および前治療歴(有効性解析対象集団では治療未施行のみのため非適用)とした。セリチニブの食事摂取下投与は、低脂肪食(約 100-500 kcal、脂質 1.5-15 g)の摂取開始から 30 分以内に経口投与することと定義された。なお、600 mg食事摂取下群は、中間解析において過剰な薬物曝露と不良な安全性プロファイルが示されたため、2017年7月14日に新規登録が中止された。

主要な有効性解析対象集団は、中央判定で ALK IHC 陽性が確認された治療未施行患者 198 例(450 mg食事摂取下群 73 例、600 mg食事摂取下群 51 例、750 mg絶食下群 74 例)で構成された。腫瘍評価は、RECIST 1.1 (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors 1.1: 固形がんの治療効果判定基準 1.1) に基づき、サイクル 3(1 サイクルは 21 日間)から開始し、サイクル 9 までは 2 サイクルごと(6 週間ごと)、その後は臨床的判断に基づき少なくとも 4 サイクルごとに実施された。主要評価項目は BIRC 評価による ORR および DOR とし、副次評価項目として治験責任医師評価による ORR および DOR、病勢コントロール率 (DCR: disease control rate)、奏効までの期間 (TTR: time to response)、PFS、および OS を設定した。安全性評価は、治験薬を少なくとも 1 回投与された全患者 304 例を対象とし、有害事象 (AE: adverse event) は CTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events: 有害事象共通用語基準) version 4.03 を用いてグレード分類された。

統計解析には SAS version 9.4 が使用された。本試験は薬物動態を主要目的として設計されたため、有効性エンドポイントに関する厳密な統計学的検出力計算は行われていない。ORR および DCR は、点推定値および 95% 信頼区間 (CI) を算出した。DOR、PFS、TTR、および OS の生存時間解析には Kaplan-Meier 法が用いられ、生存時間中央値および 95% CI の算出には Brookmeyer-Crowley 法が適用された。また、探索的解析として、セリチニブの平均トラフ濃度(幾何平均値)と最良総合効果との関連性を評価する曝露量-反応関係解析が実施された。