- 著者: Makoto Nishio, Enriqueta Felip, Sergey Orlov, Keunchil Park, Chong-Jen Yu, Chun-Ming Tsai, Manuel Cobo, Mark McKeage, Wu-Chou Su, Tony Mok, Giorgio V. Scagliotti, David R. Spigel, Kalyanee Viraswami-Appanna, Zhe Chen, Vanessa Q. Passos, Alice T. Shaw
- Corresponding author: Makoto Nishio (Thoracic Medical Oncology Department, Cancer Institute Hospital of Japanese Foundation for Cancer Research, Tokyo, Japan)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2020
- Epub日: 2019-11-25
- Article種別: Original Article
- PMID: 31778798
背景
ALK (anaplastic lymphoma kinase) 遺伝子再配列は、非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者の約3〜7%に認められる重要な発癌性ドライバー遺伝子変異であると、Rikova et al. Cell 2007やSoda et al. Nature 2007によって報告されている。この変異を有する患者は、ALK阻害薬 (ALKi) による治療に感受性を示すことが知られている。選択的次世代ALK阻害薬であるセリチニブ (Zykadia, Novartis) は、既にALK再配列陽性転移性NSCLCの治療薬として承認されている。
セリチニブの有効性と安全性は、複数の臨床試験で評価されてきた。Phase IのASCEND-1試験では、ALKi未治療患者 (n=83) において、セリチニブ750 mg/日 (空腹時) が奏効率 (ORR) 72.3%、無増悪生存期間 (PFS) 中央値18.4か月という臨床的に意義のある結果を示したことが、Kim et al. LancetOncol 2016により報告されている。また、Phase IIIのASCEND-4試験では、未治療のALK再配列NSCLC患者において、セリチニブがプラチナ製剤ベースの化学療法と比較して、PFS中央値で16.6か月 vs 8.1か月 (HR 0.55, 95% CI 0.42-0.72, p<0.001) と優越性を示したことが、Soria et al. Lancet 2017によって示されている。これらの結果は、セリチニブがALK再配列NSCLCの治療において重要な選択肢であることを確立した。
しかし、重度の前治療歴を持つALKi未治療のALK再配列NSCLC患者におけるセリチニブの長期的な有効性、特に全生存期間 (OS) や安全性プロファイル、および患者報告アウトカム (PROs) に関する詳細なデータは、これまで十分に確立されていなかった。特に、脳転移を有する患者におけるセリチニブの頭蓋内活性に関する知見は、他のALKi試験がベースライン脳転移を安定化または前治療済みとしているのに対し、本試験では未治療の脳転移患者も対象としている点で、重要なギャップが残されていた。この集団におけるセリチニブの持続的なベネフィットと安全性プロファイルを包括的に評価する必要があり、そのデータが不足していた。
ASCEND-3試験は、脳転移を含む重度に前治療を受けたALKi未治療のALK再配列NSCLC患者を対象とした単群Phase II試験として、セリチニブ750 mg/日 (空腹時) の有効性と安全性を前向きに評価したものである。本報告は、追跡期間中央値52.1か月にわたる最終解析の結果であり、OS、長期有効性、QOL、および安全性に関する詳細な情報を提供することで、上記の知識ギャップを埋めることを目的としている。
目的
本研究の目的は、過去に少なくとも3ラインの化学療法を受け、かつALKi未治療のALK再配列陽性NSCLC患者に対し、セリチニブ750 mg/日 (空腹時) 投与の最終的な有効性、安全性プロファイル、および患者報告アウトカム (PROs) を評価することである。具体的には、主要評価項目として治験責任医師評価による奏効率 (ORR) を設定し、副次評価項目として盲検下独立中央判定委員会 (BIRC) 評価によるORR、奏効期間 (DOR)、初回奏効までの期間 (TTR)、病勢コントロール率 (DCR)、無増悪生存期間 (PFS)、頭蓋内奏効率 (OIRR)、全生存期間 (OS)、および安全性プロファイルを評価した。さらに、探索的評価項目として、肺癌症状スケール (LCSS) および欧州癌研究治療機構QOL質問票 (EORTC QLQ-C30/LC13) を用いたPROsの評価を行った。本最終解析は、長期的な追跡データに基づき、セリチニブの持続的な臨床的有用性を包括的に明らかにする。
結果
患者背景: 2013年1月から2014年1月にかけて、16か国41施設から合計124名の患者が登録され、全員がセリチニブの投与を受けた。患者の追跡期間中央値は52.1か月 (範囲: 48.4-60.1) であった。患者の年齢中央値は56.0歳 (範囲: 27.0-82.0) であり、アジア系が59.7%、白人が38.7%を占めた。WHO PS 0-1の患者が92.7%であった。ベースライン時に脳転移を有する患者は49名 (39.5%) であった。全患者の98.4%が前治療として抗悪性腫瘍薬を受けており、31名 (25.0%) が3ライン以上の前治療歴を有していた (Table 1)。
全身効果: 治験責任医師評価によるORRは67.7% (95% CI: 58.8-75.9) であり、完全奏効 (CR) が2名 (1.6%)、部分奏効 (PR) が82名 (66.1%) であった (Table 2)。BIRC評価によるORRは63.7% (95% CI: 54.6-72.2) であった。病勢コントロール率 (DCR) は、治験責任医師評価で90.3% (95% CI: 83.7-94.9)、BIRC評価で86.3% (95% CI: 79.0-91.8) であった。初回奏効までの期間 (TTR) 中央値は1.8か月 (範囲: 1.6-18.4) であった。ベースライン時に測定可能病変を有し、かつベースライン後の評価が少なくとも1回あった114名中108名 (94.7%) で、ベースラインからの腫瘍量減少が観察された (Figure 1)。PFS中央値は、治験責任医師評価で16.6か月 (95% CI: 11.0-23.2)、BIRC評価で19.4か月 (95% CI: 10.9-29.3) であった (Figure 2)。
全生存期間 (OS): OS中央値は51.3か月 (95% CI: 42.7-55.3) と、化学療法既治療のALKi未治療集団としては極めて長期の生存が示された。54か月時点でのOS率は48.1% (95% CI: 36.2-58.9) と推定された (Figure 3)。
ベースライン脳転移患者の有効性: ベースライン時に脳転移を有する患者 (n=49) における治験責任医師評価によるORRは57.1% (95% CI: 42.2-71.2)、DCRは87.8% (95% CI: 75.2-95.4) であった。PFS中央値は10.8か月 (95% CI: 7.3-16.6)、OS中央値は36.2か月 (95% CI: 17.7-評価不能) であった。一方、ベースライン時に脳転移のない患者 (n=75) では、治験責任医師評価によるORRは74.7% (95% CI: 63.3-84.0)、DCRは92.0% (95% CI: 83.4-97.0) であった。PFS中央値は19.6か月 (95% CI: 14.5-36.7)、OS中央値は55.3か月 (95% CI: 50.1-55.3) であった。BIRC評価による結果も治験責任医師評価と一貫しており、脳転移の有無にかかわらずセリチニブの有効性が示された。
頭蓋内奏効: 治験責任医師評価で測定可能な脳病変を有する患者10名において、OIRRは20.0% (2/10、95% CI: 2.5-55.6)、頭蓋内病勢コントロール率 (IDCR) は80.0% (8/10、95% CI: 44.4-97.5) であった。BIRC評価では、測定可能な脳病変を有する患者13名において、OIRRは61.5% (8/13、95% CI: 31.6-86.1)、IDCRは76.9% (10/13、95% CI: 46.2-95.0) であった。患者の78.2%が登録前に脳放射線治療を受けていなかったにもかかわらず、セリチニブは明確な頭蓋内活性を示した。
安全性プロファイル: セリチニブの治療曝露期間中央値は23.2か月 (範囲: 0.1-55.2) であり、相対用量強度中央値は77.5% (範囲: 32.6-100.0%) であった。全ての患者が1回以上の有害事象 (AE) を経験した。用量調整または中断を要するAEは105名 (84.7%) に報告され、少なくとも1回の用量減量を要したのは90名 (72.6%) であった。初回用量減量までの期間中央値は1.9か月 (範囲: 0.2-46.0) であった。AEによる治療中止は18名 (14.5%) に認められたが、特定のAEが優勢ではなかった。治療期間中の死亡は19名 (15.3%) に報告され、そのうち16名 (12.9%) はNSCLCの進行によるものであった。最も一般的なAE (全グレード、全原因、50%以上の患者) は、下痢 (85.5%)、悪心 (78.2%)、嘔吐 (71.8%)、食欲減退 (55.6%)、ALT上昇 (52.4%) であった (Table 3)。グレード3または4のAE (全原因) は87.9%の患者に認められ、そのうち65.3%は治験薬関連が疑われた。最も一般的な (10%以上の患者) 治験薬関連グレード3または4のAEは、ALT上昇 (20.2%) およびγ-GTP上昇 (16.1%) であった。消化器系AEは最も頻繁に報告されたAEであったが、ほとんどがグレード1または2であり、グレード3または4の下痢、悪心、嘔吐、食欲減退はそれぞれ3.2%、8.1%、6.5%、3.2%と限定的であった。間質性肺疾患は1名 (0.8%、グレード2) に報告された。心膜炎は4名に報告され、薬剤関連が疑われた。
患者報告アウトカム (PROs): QLQ-C30、QLQ-LC13、およびLCSS質問票の完了率は98.0%以上と高かった。LCSS質問票による評価では、咳、疼痛、息切れなどの肺癌関連症状の改善が示され、治療サイクル2から53にかけて、LCSS総スコアのベースラインからの平均変化は-14.83から-3.39の範囲であった (スコアが低いほど症状改善を示す)。QLQ-LC13で測定された肺癌症状スコアも治療中に概ね維持され、LCSSの結果を裏付けた。EORTC QLQ-C30のグローバルヘルスステータスも、治療サイクル3から53にかけて、ベースラインからの平均変化が0.53から12.84の範囲で維持またはわずかに改善した。全体として、セリチニブ治療中の患者のPROsおよび健康状態は概ね維持またはわずかに改善された。
考察/結論
ASCEND-3試験の最終解析は、脳転移を有する患者 (39.5%) を含む、重度に前治療された (98.4%が前化学療法歴あり) ALKi未治療のALK再配列陽性NSCLC患者において、セリチニブ750 mg/日 (空腹時) が持続的かつ臨床的に意義のある効果を発揮することを明確に示した。
先行研究との違い: 本研究で示されたORR 67.7%とPFS中央値16.6か月は、Phase IのASCEND-1試験 (Kim et al. LancetOncol 2016) およびPhase IIIのASCEND-4試験 (Soria et al. Lancet 2017) の結果と一貫しており、セリチニブの有効性がこの集団においても維持されることを示唆する。特に、OS中央値51.3か月 (95% CI: 42.7-55.3) という長期生存は、この重度前治療集団におけるセリチニブの持続的なベネフィットを強力に裏付けるものであり、これまでの報告と比較しても非常に良好な結果である。また、本試験では、他の第2世代ALKi試験 (Shaw et al. NEnglJMed 2013、Solomon et al. NEnglJMed 2014、Gettinger et al. LancetOncol 2016) がベースライン脳転移を安定化または前治療済みと要求していたのに対し、本試験では78.2%の患者が登録前に脳放射線治療を受けていなかったにもかかわらず、脳転移の有無にかかわらず抗腫瘍活性が認められ、明確な頭蓋内活性を示した点が対照的である。
新規性: 本研究は、重度に前治療されたALKi未治療のALK再配列陽性NSCLC患者におけるセリチニブの長期的なOSデータを提供した点で新規性がある。特に、54か月OS率が48.1% (95% CI: 36.2-58.9) であったことは、この集団におけるセリチニブの長期的な生存ベネフィットを本研究で初めて明確に示したものである。
臨床応用: セリチニブの安全性プロファイルは既報と一貫しており、消化器系AEsとトランスアミナーゼ上昇が中心であったが、用量中断や減量によって管理可能であり、AEによる治療中止は14.5%に留まった。この良好な安全性プロファイルは、患者の長期治療継続を可能にする上で重要である。また、Cho et al. JThoracOncol 2017およびCho et al. JThoracOncol 2019で示された、食事併用450 mg/日レジメンが同等の曝露量で消化器毒性を有意に低減するという知見は、本集団における実臨床での最適投与法として期待され、臨床応用において患者の忍容性をさらに向上させる可能性がある。さらに、患者報告アウトカムにおいて、QOLが維持され、咳、疼痛、息切れなどの肺癌症状が改善されたことは、セリチニブが単に腫瘍を縮小させるだけでなく、患者の生活の質にも貢献する臨床的意義を持つことを示している。
残された課題: 今後の検討課題として、セリチニブ治療後に病勢進行した患者における最適な後続治療戦略の確立が挙げられる。また、本試験は単群試験であるため、他のALKiとの直接比較データは得られていない。さらに、脳転移患者における頭蓋内奏効の評価において、治験責任医師評価とBIRC評価で差が認められた点は、評価基準の標準化や画像診断の解釈に関するlimitationを示唆しており、今後の研究でより詳細な検討が必要である。
方法
本試験は、多国籍・多施設共同・単群・非盲検のPhase II試験 (ClinicalTrials.gov識別子: NCT01685138) であり、Simonの2段階デザインを採用した。対象患者は、18歳以上で、局所進行または転移性のALK再配列陽性NSCLCと診断され、過去にALKi治療歴がなく、少なくとも3ラインの化学療法歴を有する患者であった。ALK陽性ステータスは、Novartis指定の検査機関でFISH法により中央判定された。その他の主要な選択基準として、WHOパフォーマンスステータス (PS) が2以下であること、RECIST v1.1で評価可能な病変を有すること、および無症候性または神経学的に安定した脳転移を有する患者も許容された。脳への放射線治療歴がある患者は、セリチニブ投与開始の少なくとも2週間前に治療が完了している必要があった。
セリチニブは750 mg/日を空腹時に経口投与し、28日を1サイクルとして、病勢進行、忍容不能な毒性、治験終了、またはその他の理由による中止まで継続された。治験責任医師がRECIST v1.1に基づき病勢進行と判断した場合でも、臨床的ベネフィットが継続していると判断されれば、治療継続が許容された。
主要評価項目は、治験責任医師評価によるORRであった。副次評価項目には、BIRC評価によるORR、治験責任医師およびBIRC評価によるDOR (duration of response)、TTR (time to response)、DCR (disease control rate)、PFS、OIRR (overall intracranial response rate)、OS、および安全性プロファイルが含まれた。探索的評価項目として、LCSS (Lung Cancer Symptom Scale) およびEORTC QLQ-C30/LC13 (European Organization for Research and Treatment of Cancer Quality of Life Questionnaire-Core 30/Lung Cancer 13) を用いたPROs (patient-reported outcomes) が評価された。
有効性評価のため、ベースライン時およびその後8週間ごと (±1週間) に、造影CTまたはMRIによる腫瘍評価が実施された。胸部、上腹部、および脳の画像診断は、ベースライン時に全患者で実施され、その後はベースライン時に脳病変を有していた患者、または治療中に脳病変が疑われた患者に対して実施された。頭蓋内病変の評価は、ベースライン時に測定可能な脳転移を有する患者を対象とし、治験責任医師およびBIRCによってRECIST v1.1に従って評価された。
安全性評価は、ベースライン時およびその後の全ての来院時に実施され、有害事象 (AEs) はCommon Terminology Criteria for Adverse Events v4.03に従って記録・評価された。PROsは、LCSSおよびEORTC QLQ-C30/LC13を用いて評価され、各評価時点でのスコアおよびベースラインからの変化が記述統計学的に解析された。
統計解析には、Kaplan-Meier法によるPFSおよびOSの解析、および記述統計が用いられた。Simonの2段階デザインに基づき、ORRが35%以下であるという帰無仮説に対し、ORRが50%を超えるという対立仮説を片側α=0.05で検定するために、105名の患者が必要とされた。データカットオフは2018年1月22日であった。