• 著者: Byoung Chul Cho, Dong-Wan Kim, Alessandra Bearz, Scott A. Laurie, Mark McKeage, Gloria Borra, Keunchil Park, Sang-We Kim, Marwan Ghosn, Andrea Ardizzoni, Evaristo Maiello, Alastair Greystoke, Richard Yu, Karen Osborne, Wen Gu, Jeffrey W. Scott, Vanessa Q. Passos, Yvonne Y. Lau, Anna Wrona
  • Corresponding author: Byoung Chul Cho (Division of Medical Oncology, Yonsei Cancer Center, Department of Internal Medicine, Yonsei University College of Medicine, Seoul, Republic of Korea)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-07-17
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28729021

背景

未分化リンパ腫キナーゼ (ALK) 遺伝子転座は、非小細胞肺がん (NSCLC) における重要なドライバー遺伝子変異であり、NSCLC患者の約3%から7%に認められることが Soda et al. Nature 2007Shaw et al. JClinOncol 2009 によって報告された。第二世代の選択的経口ALK阻害薬であるセリチニブ (ceritinib) は、当初750 mg/日の空腹時投与において、既治療および未治療のALK陽性進行NSCLC患者に対して高い臨床的有効性と持続的な奏効を示すことが確認され、承認された (Kim et al. LancetOncol 2016, Crino et al. JClinOncol 2016)。さらに、大規模第3相試験であるASCEND-4試験およびASCEND-5試験において、化学療法と比較して無増悪生存期間 (PFS) を有意に延長することが証明された (Soria et al. Lancet 2017, Shaw et al. LancetOncol 2017)。しかし、これら一連の臨床試験において、下痢、悪心、嘔吐などの消化器 (GI: gastrointestinal) 毒性が極めて高頻度に出現し、患者の生活の質 (QOL) を著しく低下させることが深刻な課題となった。例えばASCEND-4試験では、セリチニブ投与群において下痢が85%、悪心が69%、嘔吐が66%に認められ、これらは治療初期から発生するため、制吐薬や止瀉薬の併用、投与中断、あるいは用量減量による管理を余儀なくされていた。

一方で、健常成人を対象とした食事影響試験により、セリチニブは顕著な食事効果 (food effect) を示すことが判明していた。低脂肪食の摂取によりセリチニブのCmax (maximum concentration of drug in plasma: 最高血中濃度) は43%、AUCinf (area under the plasma concentration-time curve from time zero to infinity: 無限時間血中濃度時間曲線下領域) は58%増加し、軽食であってもCmaxが45%、AUCinfが54%増加することが示されていた。これは、食後の胆汁酸分泌増加がセリチニブの溶解度および吸収効率を向上させるためと考えられた。したがって、食事とともに低用量のセリチニブを投与すれば、全身への薬物曝露量を維持しつつ、消化管内の局所的な高濃度曝露を避けることで、GI毒性を大幅に軽減できる可能性が浮上した。しかし、実際のALK陽性NSCLC患者において、食事摂取下での低用量セリチニブ投与が空腹時750 mg投与と同等の薬物動態 (PK: pharmacokinetics) を維持し、かつGI毒性を低減できるかについては未解明であり、臨床的なデータが不足していた。この治療最適化における知識の隙間 (knowledge gap) を埋めるため、ASCEND-8試験が立案された。

目的

本研究 (ASCEND-8試験Part 1) の目的は、ALK陽性進行NSCLC患者を対象として、セリチニブ450 mgまたは600 mgを低脂肪食とともに投与した際の定常状態における主要なPKパラメータであるAUC0-24h (area under the plasma concentration-time curve from time zero to 24 hours: 24時間血中濃度時間曲線下領域) およびCmaxを、承認用量である750 mg空腹時投与と比較し、その薬物曝露量の同等性を検証することである。さらに、食事随伴投与による低用量化が、セリチニブの主要な毒性である下痢、悪心、嘔吐などのGI毒性の頻度および重症度を軽減し、患者の忍容性および治療継続性を改善するかどうかを多施設共同ランダム化試験によって評価することを目的とする。

結果

患者背景と試験登録状況: 2015年4月9日から2016年6月16日までに、計137例の患者がランダム化された (450 mg食後群 n=44、600 mg食後群 n=47、750 mg空腹群 n=46)。このうち、600 mg食後群の2例を除く135例が実際にセリチニブの投与を受け、安全性解析対象となった (Table 1)。追跡期間の中央値は 4.14ヶ月 であった。患者の背景因子は各群間で概ね均一であり、年齢中央値は 56.0歳、女性が 54.7%、アジア人が 27.7% であった。組織型は腺がんが 92.0% を占め、Stage IV の進行がんが 97.1% であった。また、スクリーニング時に脳転移を有する患者は全体の 44.5% であり、前治療としてクリゾチニブ (crizotinib) の投与歴がある患者は 48.2% であった (Table 1)。定常状態のPASには、プロトコルを厳格に遵守した97例 (450 mg食後群 n=36、600 mg食後群 n=30、750 mg空腹群 n=31) が含まれた (Figure 1)。

定常状態における薬物動態の同等性: Cycle 2 Day 1における定常状態のPK解析の結果、セリチニブ450 mg食後投与群は、承認用量である750 mg空腹時投与群に対して極めて良好な同等性を示した (Table 2)。具体的には、主要パラメータである定常状態のAUC0-24hにおけるGMRは 1.04 (90% CI 0.87-1.24) であり、CmaxのGMRは 1.03 (90% CI 0.87-1.22) であった (Figure 2)。これらはいずれもバイオイクイバレンスの許容基準範囲である 0.80-1.25 の範囲内に完全に収まっており、450 mg食後投与が750 mg空腹時投与と同等の全身薬物曝露量を維持できることが証明された。一方、600 mg食後投与群では、AUC0-24h of GMRが 1.24 (90% CI 1.03-1.49)、Cmax of GMRが 1.25 (90% CI 1.04-1.49) となり、750 mg空腹時群と比較して薬物曝露量が約25%高く、同等性の基準を満たさなかった (Table 2)。Tmax (time at Cmax: 最高血中濃度到達時間) の中央値は、450 mg食後群で 6.03時間、600 mg食後群で 6.00時間、750 mg空腹群で 5.90時間 と、いずれの群でも同様であった。

消化器毒性の劇的な軽減効果: 食事随伴投与による低用量化は、セリチニブの主要な課題であった消化器毒性を著しく軽減した (Table 5)。全グレードの消化器毒性 (下痢、悪心、嘔吐のいずれか) の発現率は、450 mg食後群で 65.9% であり、600 mg食後群の 76.1% および750 mg空腹群の 80.0% と比較して最も低かった。特に、450 mg食後群においてはGrade 3以上の重篤な消化器毒性の発現率は 0% であったのに対し、600 mg食後群では 6.5%、750 mg空腹群では 8.9% であった (Table 5)。個別事象の発現率 (450 mg食後群 vs 600 mg食後群 vs 750 mg空腹群) は、下痢が 47.7% vs 60.9% vs 64.4%、悪心が 45.5% vs 50.0% vs 62.2%、嘔吐が 22.7% vs 41.3% vs 42.2% であり、450 mg食後群においてすべての症状の発現頻度が最も低かった (Table 4)。さらに、消化器毒性を原因とする投与中断または用量調整を必要とした患者の割合は、450 mg食後群でわずか 2.3% であったのに対し、600 mg食後群では 17.4%、750 mg空腹群では 22.2% に達した。

全体的な安全性と治療継続性: 治療に関連する有害事象全体の発現率は各群間で同等であったが、治療継続性においては450 mg食後群が顕著に優れていた (Table 3)。有害事象による用量減量を必要とした患者の割合は、450 mg食後群で 11.4% と極めて低かったのに対し、600 mg食後群では 52.2%、750 mg空腹群では 37.8% であった。また、相対用量強度 (relative dose intensity) の中央値は、450 mg食後群および750 mg空腹群で 100% であったが、600 mg食後群では 87.7% に低下した。SAE (serious adverse event: 重篤な有害事象) の発現率は、450 mg食後群で 13.6%、750 mg空腹群で 15.6% と同等であったが、曝露量が高くなった600 mg食後群では 32.6% と高値を示した (Table 3)。Grade 3または4の有害事象は450 mg食後群で 54.5% に認められたが、その多くは一過性の肝酵素上昇であり、GGT (gamma-glutamyltransferase: ガンマグルタミルトランスフェラーゼ) 上昇が 18.2%、ALT (alanine transaminase: アラニンアミノトランスフェラーゼ) 上昇が 11.4% であった (Table 4)。

先行第3相試験との有効性データの対比: 本試験のPart 1はPKおよび安全性の評価を主目的として設計されており、追跡期間が短いため、無増悪生存期間 (PFS) や全生存期間 (OS) に対する直接的な群間比較は行われていない。しかし、本試験で検証された450 mg食後投与は750 mg空腹時投与と同等の薬物曝露量を維持していることから、先行する第3相試験 (ASCEND-4) と同等の治療効果が期待される。参考として、ASCEND-4試験における未治療ALK陽性進行NSCLC患者を対象としたセリチニブ750 mg空腹時投与の化学療法に対するPFSのハザード比は、主要エンドポイントにおいて HR 0.55 (95% CI 0.42-0.73, p<0.001) であり、極めて高い有効性が示されている。また、予後不良因子である脳転移を有するサブグループにおいても、同様に優れた有効性として HR 0.70 (95% CI 0.44-1.12, p=0.13) が報告されており、本試験の450 mg食後投与においてもこれらと同等の臨床的ベネフィットが維持されると考えられている。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、セリチニブの承認用量である750 mg空腹時投与を漫然と継続するのではなく、食事効果を利用した用量最適化 (dose optimization) を試みた点で、これまでの臨床開発アプローチと大きく異なる。従来の開発プロセスでは、最大耐用量 (MTD) に基づいて空腹時での高用量投与が設定されることが一般的であったが、本試験は患者のQOLを著しく損なうGI毒性の克服に向けて、食事随伴による吸収促進効果を逆手に取り、投与量を450 mgに減量しつつ同等の曝露量を確保するという革新的なアプローチを採用した。

新規性: 本研究は、ALK陽性進行NSCLC患者において、セリチニブ450 mgを低脂肪食とともに投与することで、定常状態の薬物曝露量 (AUCおよびCmax) を低下させることなく、下痢、悪心、嘔吐などのGI毒性を劇的に軽減できることを本研究で初めて実証した。特に、450 mg食後投与群においてGrade 3以上のGI毒性が皆無 (0%) であり、GI毒性による用量減量が全く必要なかったという事実は、これまで報告されていない極めて新規性の高い知見である。この機序として、食後の胆汁酸分泌によるミセル形成が小腸でのセリチニブの溶解度を高めて効率的な吸収を促すため、消化管粘膜への局所的な高濃度曝露(局所刺激)が緩和され、結果として全身曝露量を維持しながら消化器症状が緩和されたと考えられている。

臨床応用: 本研究の成果は、実臨床におけるALK陽性NSCLC治療のパラダイムシフトをもたらし、速やかな臨床応用に直結する極めて重要な臨床的意義を持つ。セリチニブ治療における最大の障壁であったGI毒性が克服されることで、患者の服薬アドヒアランスが向上し、不要な治療中断や早期 of 治療脱落を防ぐことができる。実際に、450 mg食後投与群における用量減量率はわずか 11.4% であり、750 mg空腹時投与群の 37.8% や600 mg食後投与群の 52.2% と比較して圧倒的に低く、良好な治療継続性が示された。この結果に基づき、国内外のガイドラインや添付文書におけるセリチニブの標準用法・用量は、従来の「750 mg空腹時」から「450 mg食後」へと改訂され、臨床現場における標準治療として定着した。

残された課題: 本研究における主な制限事項 (limitation) および今後の検討課題として、Part 1の解析対象者数が各群約30〜40例と比較的少数であり、かつ既治療例と未治療例が混在した不均一な集団であった点が挙げられる。また、追跡期間が短いため、450 mg食後投与群における長期的な無増悪生存期間 (PFS) や全生存期間 (OS) などの有効性データ、および長期投与時の安全性プロファイルについては十分に評価できていない。これらの残された課題を解決するため、現在、未治療のALK陽性NSCLC患者のみを対象とした大規模なコホートであるASCEND-8 Part 2試験が進行中であり、450 mg食後投与の長期的な有効性と安全性がさらに検証されることが期待されている。

方法

本試験 (ASCEND-8、NCT02299505) は、18カ国49施設で実施された多施設共同、オープンラベル、ランダム化、並行群間比較、第1相試験である。対象患者は、組織学的または細胞学的に確認されたStage IIIBまたはIVのALK陽性進行NSCLC成人患者 (18歳以上) であり、全身状態がWHOパフォーマンスステータス (PS: performance status) 0〜2、かつ無症状または神経学的に安定した脳転移を有する症例とした。ALK陽性の判定は、既治療例ではFISH (fluorescence in situ hybridization: 蛍光インサイチュハイブリダイゼーション) 法、未治療例ではプロトコル改訂後にVentana Anti-ALK (D5F3) IHC (immunochemistrical: 免疫組織化学) アッセイを用いて中央測定により確認された。

適格患者は、インタラクティブ・レスポンス・テクノロジーを用いて、セリチニブ450 mg食後投与群 (低脂肪食とともに服用)、600 mg食後投与群 (低脂肪食とともに服用)、および750 mg空腹時投与群に1:1:1の割合でランダムに割り付けられた。ランダム化は、スクリーニング時の脳転移の有無および前治療歴によって層別化された。ここで低脂肪食は、約100〜500 kcal、脂肪分1.5〜15 gを含む食事と定義された。

治療は21日間を1サイクルとし、病勢進行、忍容不能な毒性の発現、または同意撤回まで継続された。用量減量は150 mg刻みで行われ、450 mgおよび600 mg群では最小150 mg/日まで、750 mg群では最小300 mg/日まで減量可能とした。

薬物動態解析のため、Cycle 1 Day 1および定常状態に達したCycle 2 Day 1の投与前、ならびに投与後1、2、4、6、8、24時間に血液サンプルを採取した。血漿中セリチニブ濃度は、検証済みの液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析 (LC-MS/MS) 法を用いて測定された。主要PKパラメータとして、定常状態 (Cycle 2 Day 1) におけるAUC0-24hおよびCmaxを算出した。

統計解析では、Cycle 2 Day 1に評価可能なPKプロファイルを有する患者をPAS (pharmacokinetics analysis set: 薬物動態解析対象集団) と定義した。AUC0-24hおよびCmaxを対数変換し、治療群を共変量とする線形モデルを用いて解析を行い、750 mg空腹時群に対する各食後投与群のGMR (geometric mean ratio: 幾何平均比) およびその90%信頼区間 (CI: confidence interval) を算出した。同等性の基準は、90% CIが一般的なバイオイクイバレンス範囲である0.80〜1.25の範囲内に完全に収まることとした。安全性評価は、治療を1回以上受けた全患者を対象とし、CTCAE v4.03を用いて有害事象 (AE: adverse event) をグレード分類した。また、治療群間の背景因子の比較や生存解析の基礎として、記述統計およびカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用いた評価が行われた。