• 著者: Kazuhiko Nakagawa, Toyoaki Hida, Hiroshi Nokihara, Masahiro Morise, Koichi Azuma, Young Hak Kim, Takashi Seto, Yuichi Takiguchi, Makoto Nishio, Hiroshige Yoshioka, Toru Kumagai, Katsuyuki Hotta, Satoshi Watanabe, Koichi Goto, Miyako Satouchi, Toshiyuki Kozuki, Ryo Koyama, Tetsuya Mitsudomi, Nobuyuki Yamamoto, Takashi Asakawa, Morihiko Hayashi, Wakako Hasegawa, Tomohide Tamura
  • Corresponding author: Kazuhiko Nakagawa (Department of Medical Oncology, Kindai University Faculty of Medicine, Osaka-sayama, Japan)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2019-11-25
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31812890

背景

Alectinibは、ALK陽性非小細胞肺がん(NSCLC)に対する高選択性ALK阻害剤として、その有効性が確立されている。日本においては、第I/II相AF-001JP試験 (Seto et al. LancetOncol 2013)の結果に基づき、2014年に進行ALK陽性NSCLCの治療薬として承認された。その後、第II相NP28673試験およびNP28761試験の結果を受けて、2015年には米国食品医薬品局(FDA)から迅速承認を受けている (Shaw et al. LancetOncol 2016, Ou et al. JClinOncol 2016)。

J-ALEX試験(JapicCTI-132316)は、日本人ALK阻害剤未治療のALK陽性NSCLC患者を対象として、alectinibとcrizotinibの有効性および安全性を直接比較する第III相無作為化非盲検試験として設計された。2013年から2015年にかけて207例の患者が登録され、その第2回中間解析(データカットオフ:2015年12月3日)では、独立評価委員会(IRF: independent review facility)評価による無増悪生存期間(PFS)において、alectinib群がcrizotinib群に対し統計学的に有意な優越性を示した(ハザード比 [HR] 0.34, 99.7%信頼区間 [CI] 0.17-0.71, p<0.0001; PFS中央値はalectinib群で未到達、crizotinib群で10.2ヶ月)(Hida et al. Lancet 2017)。この結果は、alectinibがcrizotinibと比較して、より良好な忍容性プロファイルを示し、中枢神経系(CNS)転移に対する進行遅延効果も優れていることを示唆していた(Nishio et al. LungCancer 2018)。

同時期に実施されたグローバル第III相ALEX試験(alectinib 600mg BID投与)においても、alectinibのcrizotinibに対する優越性が確認されたが(Peters et al. NEnglJMed 2017)、J-ALEX試験の中間解析時点では全生存期間(OS)データが未成熟であり、長期的な有効性および安全性プロファイルを確定するためには、さらなる追跡調査が必要であるという課題が残されていた。特に、日本人患者におけるalectinib 300mg BIDの長期的な効果と、crizotinibからの後続治療の影響を考慮したOSの評価は未解明な点が多く、重要な検討課題であった。また、crizotinib群の患者が病勢進行後に高頻度でalectinibにクロスオーバーする可能性があり、これがOS評価に与える影響についても、より詳細な解析が不足していた。

目的

本研究の目的は、J-ALEX試験の最終PFS解析および第2回中間OS解析を実施し、日本人ALK阻害剤未治療のALK陽性NSCLC患者におけるalectinib 300mg BIDとcrizotinib 250mg BIDの長期的な有効性(PFSおよびOS)および安全性プロファイルを確定することである。具体的には、IRF評価PFSの最終結果を報告し、OSの統計的優越性を評価するとともに、両治療群における有害事象の発生率と種類を詳細に比較し、alectinibの長期的なベネフィットとリスクを明確にすることを目的とした。また、crizotinib群からのalectinibへの高頻度なクロスオーバーがOSに与える影響についても考察する。本研究は、alectinibがALK陽性NSCLCの一次治療として確立された地位を、長期的なデータでさらに強固にすることを目指す。

結果

患者背景: 2013年11月から2015年8月にかけて、合計207例の患者が無作為化され、alectinib群にn=103例、crizotinib群にn=104例が割り付けられた。ベースラインの患者背景は概ね均衡していたが、ベースライン脳転移を有する患者の割合はcrizotinib群で有意に高かった(29/104例 [27.9%] vs alectinib群14/103例 [13.6%])。しかし、この不均衡が主要評価項目であるPFSの結果に影響を与えないことは、以前の解析で報告されている。

最終PFS解析における優越性の持続: 追跡期間中央値はalectinib群で42.4ヶ月、crizotinib群で42.2ヶ月であった。IRF評価PFSイベント(病勢進行または死亡)の発生は、alectinib群で56例(54.4%)、crizotinib群で89例(85.6%)であった。最終解析においても、alectinibのcrizotinibに対するIRF評価PFSの優越性は持続的に示された(HR 0.37, 95% CI 0.26-0.52)。PFS中央値はalectinib群で34.1ヶ月、crizotinib群で10.2ヶ月であり、alectinib群で約3倍の延長が認められた(図1A)。IRF評価によるCNS進行および非CNS進行の累積発生率は、ベースラインのCNS転移の有無にかかわらず、全ての時点においてalectinib群でcrizotinib群よりも低値であった(Supplemental Data 3)。

第2回中間OS解析結果: 死亡イベントはalectinib群で31例(30.1%)、crizotinib群で33例(31.7%)と報告された。本解析時点では、alectinibのcrizotinibに対するOSの統計的優越性は結論付けられなかった(層別HR 0.80, 99.8799% CI 0.35-1.82, 層別ログランク検定 p=0.3860)。OS中央値はalectinib群で未到達、crizotinib群で43.7ヶ月であった(図1B)。OSデータは依然として未成熟であるため、プロトコルに従い追跡調査が継続される。

後続治療とクロスオーバーの状況: 病勢進行後に少なくとも1つの後続治療を受けた患者は、alectinib群で42例(40.8%)、crizotinib群で92例(88.5%)であった。crizotinib群では、87例(83.7%)の患者が病勢進行後の治療としてalectinibを投与されており、高いクロスオーバー率が認められた。両治療群で最も頻繁に投与された後続治療はALK阻害剤(alectinib群41例 [39.8%] vs crizotinib群90例 [86.5%])または化学療法(alectinib群26例 [25.2%] vs crizotinib群37例 [35.6%])であった。この高いクロスオーバー率が、OS解析における両群間の差を不明瞭にした可能性が示唆される。

安全性プロファイルの比較: 全207例が安全性解析の対象となった。Grade ≥3の有害事象(AE)の発生率は、alectinib群で36.9%に対しcrizotinib群で60.6%と、alectinib群で有意に低かった(表1)。関連する重篤なAEの発生率もalectinib群で13.6%に対しcrizotinib群で25.0%と、alectinib群で低かった。AEによる治療中止率はalectinib群で11.7%に対しcrizotinib群で23.1%、用量中断を誘発したAEの発生率はalectinib群で34.0%に対しcrizotinib群で67.3%であり、いずれの指標においてもalectinibの良好な安全性が示された。両治療群間で最も大きな発生率の差が見られたAEは、悪心(alectinib群14.6% vs crizotinib群77.9%)、下痢(alectinib群11.7% vs crizotinib群74.0%)、および視覚障害(alectinib群1.0% vs crizotinib群54.8%)であった。crizotinib群で最も頻繁に報告されたGrade ≥3のAEは好中球減少(20例 [19.2%])およびアラニンアミノトランスフェラーゼ増加(14例 [13.5%])であった。一方、alectinib群で最も頻繁に報告されたGrade ≥3のAEはクレアチンホスホキナーゼ増加と間質性肺疾患(いずれも5例 [4.9%])であった(Supplemental Data 6)。

用量架橋と他試験との比較: J-ALEX試験では日本で承認されているalectinib 300mg BIDが使用されたが、母集団薬物動態および曝露-反応解析により、この用量がグローバル推奨用量である600mg BIDと架橋可能であることが示されている(Hsu et al. 2017)。グローバル第III相ALEX試験の最新解析(データカットオフ:2017年12月1日)においても、alectinib群の治験責任医師評価PFS中央値は34.8ヶ月に対しcrizotinib群は10.9ヶ月(HR 0.43, 95% CI 0.32-0.58)であり、本試験の結果と一致する。また、アジア人患者を対象とした第III相ALESIA (Alectinib versus Crizotinib in Untreated Asian Patients with ALK-Positive Non-Small-Cell Lung Cancer) 試験(alectinib 600mg BID)でも、治験責任医師評価PFSにおいてalectinibの優越性が示された(HR 0.22, 95% CI 0.13-0.38, p<0.0001)(Zhou et al. LancetRespirMed 2019)。これらの結果は、alectinibがALK陽性NSCLCの一次治療において、人種や用量設定に関わらず一貫した有効性を示すことを裏付けている。

考察/結論

J-ALEX試験の最終PFS解析は、日本人ALK阻害剤未治療のALK陽性NSCLC患者において、alectinib 300mg BIDがcrizotinib 250mg BIDと比較して、IRF評価PFSの優越性を長期追跡期間(中央値42.4ヶ月)にわたって維持することを確認した。alectinib群のPFS中央値34.1ヶ月は、これまでのALK-TKI治療成績を大幅に上回るものであり、alectinibがALK陽性NSCLCの一次標準治療としての地位をさらに確立する強力なエビデンスを提供する。

先行研究との違い: 第2回中間OS解析では、OSの統計的優越性は未達であった(HR 0.80, 99.8799% CI 0.35-1.82)。この結果は、これまでのALEX試験やALESIA試験と同様にOSデータが未成熟であることに加え、crizotinib群の患者の83.7%が病勢進行後にalectinibへのクロスオーバーを受けており、これがcrizotinib群のOSを延長させ、両群間のOS差を希薄化させた可能性が高い。この高いクロスオーバー率は、先行研究と比較しても顕著な特徴であり、OS評価に大きな影響を与えたと考えられる。

新規性: 本研究で初めて、日本人患者におけるalectinib 300mg BIDの長期的なPFS優越性と良好な安全性プロファイルが、42ヶ月を超える追跡期間で明確に示された。これは、グローバルALEX試験の600mg BIDの結果と一貫しており、日本人患者におけるalectinibの有効性と安全性を裏付ける新規な知見である。

臨床応用: 本知見は、ALK陽性NSCLCの一次治療におけるalectinibの臨床的有用性をさらに強化するものである。特に、crizotinibと比較して消化器系有害事象や視覚障害の発生率が大幅に低いことは、患者のQOL向上に大きく貢献し、臨床現場での治療選択において重要な考慮事項となる。alectinibは、日本人患者においても忍容性が高く、長期的な治療継続を可能にする薬剤であると結論付けられる。

残された課題: 今後の検討課題として、OSデータのさらなる追跡調査が必要である。また、耐性機構の解析(バイオマーカー研究)は本解析では実施されておらず、EML4-ALK融合バリアントがPFSに与える影響についても、今後の別報告で詳細が示される予定である。brigatinib、lorlatinib、ensartinibといった新規ALK阻害剤が登場している現状において、alectinib後の二次治療を含む、ALKチロシンキナーゼ阻害剤の最適なシーケンスを検討することが、今後の重要な研究方向性となる。

方法

J-ALEX試験(JapicCTI-132316; JO28928)は、日本人20歳以上のALK陽性進行NSCLC患者を対象とした第III相無作為化非盲検試験である。本試験は、ALK阻害剤未治療であり、かつ化学療法未治療または1レジメンの化学療法既治療の患者を対象とした。主要な適格基準として、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status) 0-2、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v1.1に基づく測定可能病変の存在が挙げられた。無症候性のCNS転移を有する患者も組み入れられた。ALK陽性は、免疫組織化学(IHC)と蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、または逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を用いて中央判定された組織または細胞サンプルにより確認された。

本試験は、ヘルシンキ宣言および日本のGCP(Good Clinical Practice)に準拠して実施された。プロトコルは、倫理的、科学的、医学的妥当性の観点から治験審査委員会によって審査され、全ての患者は、試験関連の手順を開始する前に書面によるインフォームドコンセントを提出した。

患者は、alectinib 300mgを1日2回(BID)投与する群(n=103)またはcrizotinib 250mgを1日2回(BID)投与する群(n=104)に無作為に割り付けられた。無作為化は、ECOG PS(0/1 vs 2)、治療ライン(1次 vs 2次)、および臨床病期(IIIB/IV vs 再発)で層別化された置換ブロック法を用いて、対話型ウェブ応答システムを介して実施された。治療は、病勢進行(PD)、許容できない毒性、死亡、または中止まで継続された。治験責任医師の判断により臨床的有用性が認められる場合、PD後も無作為化された治療を継続することが可能であった。

腫瘍反応の評価は、RECIST v1.1に基づき、Week 12までは4週ごと、Week 12からWeek 76までは8週ごと、その後はPDまたは死亡まで12週ごとに実施された。主要評価項目はIRF評価PFSであった。副次評価項目には、治験責任医師評価PFS、OS、客観的奏効率(ORR)、健康関連QOL、安全性、および薬物動態(PK)が含まれた。IRF評価PFSは、無作為化からPDの確認または死亡までの期間として定義された。解析時点でPFSイベントが発生していない患者は、最終腫瘍評価日に打ち切られた。IRF評価PFSイベント前に後続治療を開始した患者は、可能な限りIRF評価PFSイベントが発生するまで追跡された。競合するCNS進行、非CNS進行、および死亡の累積発生率が算出された。CNS進行は、IRFによって決定された新規CNS病変または既存CNS病変の進行と定義され、非CNS進行は、CNS外の新規病変または既存病変の進行と定義された。OSは、無作為化からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。

有害事象(AE)は、NCI-CTCAE (National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events) v4.0に基づきグレード分類され、MedDRA(Medical Dictionary for Regulatory Activities)に従って分類された。

統計解析では、主要PFS評価項目に対する優越性仮説を両側5%の有意水準で検定するために、合計164件のPFSイベントを観察することを目標とし、各治療群100例、合計200例の目標症例数が設定された。有効性解析は、無作為化された全患者からなるITT(intent-to-treat)集団で実施された。安全性解析は、少なくとも1回の治療を受けた全患者からなる安全性集団で実施された。PFSおよびOSは、Kaplan-Meier法を用いて推定された。治療群間のPFSおよびOSのハザード比(HR)および95%信頼区間(PFS)と99.8799%信頼区間(OS)は、無作為化の層別因子を用いた層別Cox回帰モデルにより推定された。IRF評価PFSについては、alectinibの優越性が既に示されていたため、仮説検定は実施されなかった。OSの優越性仮説は、IRF評価PFSの優越性仮説が確認された後に、階層的に検定された。OS評価に必要なイベント数が最終IRF評価PFS解析時までに到達しないと予想されたため、OS評価は第1回中間解析と同様に第2回中間解析として実施された。有意水準は、中間解析に伴う多重性を考慮してO’Brien-Fleming型α消費関数に基づいて決定された。本最終PFS解析および第2回OS中間解析の臨床データカットオフ日は2018年6月30日であった。