- 著者: Renaud Descourt, Maurice Perol, Gaëlle Rousseau-Bussac, David Planchard, Bertrand Mennecier, Marie Wislez, Alexis Cortot, Florian Guisier, Loïck Galland, Pascal Dô, Roland Schott, Eric Dansin, Jennifer Arrondeau, Jean-Bernard Auliac, Christos Chouaid
- Corresponding author: Renaud Descourt (Centre Hospitalier Universitaire, Oncology Department, Brest, France)
- 雑誌: Lung Cancer
- 発行年: 2019
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 31491676
背景
ALK (anaplastic lymphoma kinase) 遺伝子再構成は、非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者の3-5%に認められる主要なドライバー遺伝子変異である Shaw et al. JClinOncol 2009。ALK陽性NSCLC患者は、一般的に若年で非喫煙者または軽度喫煙者であり、腺癌の組織型を示すことが多い。また、診断時および進行時に中枢神経系 (CNS) 転移のリスクが高いことが知られている。
クリゾチニブ (crizotinib) は、ALK陽性NSCLCに対して最初に承認されたALKチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) である。一次治療としてクリゾチニブを投与された患者では、客観的奏効率 (ORR) が61-74%、無増悪生存期間 (PFS) 中央値が8-11ヶ月と報告されている Camidge et al. LancetOncol 2012 Solomon et al. NEnglJMed 2014。しかし、クリゾチニブに対する獲得耐性メカニズム(ALK遺伝子の変異やALKをバイパスするシグナル経路の活性化)により、ほとんどの患者で病勢進行が認められる。特に、クリゾチニブのCNS浸透性が限定的であるため、頭蓋内病変の進行が最も頻繁な再発部位となる。
クリゾチニブ耐性後に使用される第2世代ALK阻害剤として、セリチニブ (ceritinib) やアレクチニブ (alectinib) が開発された。クリゾチニブ前治療歴のある患者において、セリチニブはPFS中央値5.7-6.9ヶ月、アレクチニブはPFS中央値8.1-8.9ヶ月を達成した Shaw et al. NEnglJMed 2014 Shaw et al. LancetOncol 2016 Ou et al. JClinOncol 2016。しかし、これらの第2世代ALK阻害剤投与後にも、G1202R変異などの二次的なALKキナーゼドメイン耐性変異が生じ、さらなる新規ALK阻害剤が必要となる。
ブリガチニブ (brigatinib) は、G1202R変異を含む広範なALK耐性変異に対して強力な活性を示す新規ALK阻害剤である。クリゾチニブ耐性ALK陽性NSCLC患者を対象とした第II相ALTA試験では、90mg/日(7日間リードイン後180mg/日)投与群で、独立評価委員会 (IRC) 判定によるORR 55%、PFS中央値16.7ヶ月という良好な結果が示された。この結果に基づき、ブリガチニブは2017年4月に米国FDAから迅速承認された。フランスでは、2016年8月からクリゾチニブおよびセリチニブに難治性のALK陽性NSCLC患者を対象とした早期アクセスプログラム (EAP) が開始された。しかし、2剤以上のALK阻害剤で前治療を受けた重度既治療患者におけるブリガチニブの有効性に関する実臨床データはこれまで限定的であり、その実態は未解明であった。特に、複数のALK-TKI失敗後の患者集団におけるブリガチニブの有効性、安全性、およびCNS活性に関する詳細なデータが不足していた。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的としている。
目的
本研究の目的は、フランスの早期アクセスプログラム (EAP) においてブリガチニブを投与された、クリゾチニブを含む少なくとも2剤のALK阻害剤による前治療歴を持つ進行ALK陽性NSCLC患者におけるブリガチニブの有効性を実臨床条件下で評価することである。具体的には、主要評価項目として治験担当医評価による無増悪生存期間 (PFS) を、副次評価項目として客観的奏効率 (ORR)、全生存期間 (OS)(ブリガチニブ開始時およびNSCLC診断時からの期間)、治療期間、および治療中止理由を評価する。さらに、中枢神経系 (CNS) 転移を有する患者におけるブリガチニブのCNS活性についても検討する。本研究は、重度既治療ALK陽性NSCLC患者に対するブリガチニブの有効性に関する実臨床データを提供し、今後の治療戦略の確立に貢献することを目指す。
結果
患者背景: 合計104名の患者がフランス国内42施設から登録された。患者の平均年齢は56.6歳 (標準偏差 11.5歳) であり、女性が60.6% (n=63)、非喫煙者が61.5% (n=64) を占めた (Table 1)。組織型は98.1% (n=102) が腺癌であり、診断時にStage IVであった患者は88.5% (n=92) であった。診断時の平均転移部位数は3.3箇所 (標準偏差 1.3箇所) であり、CNS転移は28.9% (n=26) の患者に認められた。全体として、患者の全身状態は良好であり、PS (Performance Status) 0-1の患者が91.6% (n=76) であった。ALK転座の診断は、FISHが84% (n=87) で行われ、そのうち78% (n=68) はIHCスコア2+/3+も陽性であった。IHCスコア3+のみで診断されたのは16% (n=17) であった。
ブリガチニブ前治療歴とシーケンス: 患者はブリガチニブ開始前に中央値3ラインの治療を受けていた。最も頻繁な治療シーケンスは、2ラインの前治療 (n=29) と3ラインの前治療 (n=43) であった (Table 2)。2ラインの前治療を受けた患者では、クリゾチニブ→セリチニブのシーケンスが最も多く (n=24, 82.7%)、3ラインの前治療を受けた患者では、化学療法→クリゾチニブ→セリチニブのシーケンスが最も多かった (n=32, 74.4%)。全体で93.3% (n=97) の患者が、ブリガチニブ前に少なくとも2剤のALK-TKIによる治療を受けていた。一次治療は化学療法が62.5% (n=65)、クリゾチニブが36.5% (n=38) であった (Table 3)。ブリガチニブ開始前に放射線療法を受けた患者は56.7% (n=59) であり、そのうち64% (n=38) で脳が主な照射標的であった。
ブリガチニブ開始時の臨床像と耐性変異: ブリガチニブ開始時、PS 0-1の患者は59.1% (n=52) であったが、40.9% (n=36) の患者はPS≥2と比較的全身状態が悪化していた (Table 4)。全身症状 (倦怠感や体重減少) を有する患者は72% (n=74) であり、3つ以上の転移部位を有する患者は51.9% (n=54) であった。CNS転移は74.5% (n=76) の患者に認められ、髄膜癌腫症は8.8% (n=9) であった。CNS転移の大部分 (51.8%) は活動性であった。ブリガチニブ開始前に組織再生検が33.7% (n=35) の患者で実施され、18例で耐性変異が検索された。G1202R変異は4例で同定され、その他にL861Q、C1156Y、F1174L、KRAS exon2、TP53、MET増幅がそれぞれ1例ずつ報告された。ほとんどの患者 (95.2%, n=99) は、90mg/日を7日間投与後、180mg/日に増量する標準用量でブリガチニブを投与された。
ブリガチニブの有効性: 全患者集団におけるブリガチニブ開始からのPFS中央値は6.6ヶ月 (95% CI 4.8-9.9) であった。OS中央値は17.2ヶ月 (95% CI 11.0-NR) であった (Figure 1)。評価可能であった91例において、ORRは50.0% (部分奏効 [PR] 45.7% + 完全奏効 [CR] 4.3%)、病勢安定 (SD) は28.2%であり、疾患制御率 (DCR) は78.2%であった。ブリガチニブの治療期間中央値は6.7ヶ月 (範囲 0.06-20.7ヶ月) であった。 前治療ライン数別のPFSは以下の通りであった (Figure 2A):
- 2ラインの前治療群 (n=29): PFS中央値 4.3ヶ月 (95% CI 2.5-8.9)
- 3-4ラインの前治療群 (n=57): PFS中央値 10.4ヶ月 (95% CI 5.9-13.9)
- 4ライン超の前治療群 (n=18): PFS中央値 3.8ヶ月 (95% CI 0.8-7.4)
ブリガチニブ進行後の状況: ブリガチニブ投与後に病勢進行を認めた68例のうち、29.4% (n=20) でCNSが関与していた(新規病変5例、髄膜癌腫症5例を含む)。25% (n=17/68) の患者は、病勢進行後もブリガチニブ治療を継続し、そのうち53% (n=9/17) は局所療法を併用した。進行後に再生検を実施した患者は15% (n=12/68) であり、G1202R変異とD1203N変異がそれぞれ1例ずつ報告された。ブリガチニブ後の全身治療を受けた患者は52% (n=35/68) であり、その内訳はロルラチニブ (lorlatinib) 25例、クリゾチニブ1例、化学療法7例であった。さらに、9例 (13%) がブリガチニブ後の2次治療を受け(ロルラチニブ5例、化学療法4例)、8例が定位脳放射線療法を受けた。
NSCLC診断からのOS: NSCLC診断からのOS中央値は75.3ヶ月 (95% CI 38.2-174.6) であった (Figure 2B)。これは、ALK-TKIの逐次治療戦略による累積的な生存延長効果を示唆する。
考察/結論
先行研究との違い: BRIGALK試験は、少なくとも2剤のALK阻害剤(大半がクリゾチニブ後にセリチニブ)で前治療を受けた重度既治療ALK陽性進行NSCLC患者104例におけるブリガチニブの実臨床での有効性を確認した最初の大規模コホート研究である。全集団におけるPFS中央値6.6ヶ月 (95% CI 4.8-9.9)、OS中央値17.2ヶ月 (95% CI 11.0-NR)、ORR 50%、DCR 78.2%という結果は、クリゾチニブ耐性ALK陽性NSCLC患者を対象とした第II相ALTA試験の180mg投与群で報告された結果(ORR 54%、DCR 84%、PFS 12.9ヶ月)と概ね一貫している。しかし、本研究のPFSがALTA試験と比較してやや短い点は、本コホートの患者がより重度な既治療歴を有し、PS≥2の患者が多かったこと(40.9% vs ALTA試験の6%)に起因すると考察される。本研究の患者集団は、ALTA試験の厳格な選択基準を満たさない、より実臨床に近い患者背景を反映しており、従来の臨床試験とは異なる重度既治療患者に対する有効性を示した点が重要である。
新規性: 本研究で初めて、ブリガチニブ開始時に74.5%の患者がCNS転移を有し、8.8%が髄膜癌腫症であったにもかかわらず、ブリガチニブ進行後のCNS関与が29.4%にとどまったことは、ブリガチニブの高いCNS活性が実臨床でも確認されたことを新規に示した。これは、Camidge et alによるALTA試験の探索的解析で報告された頭蓋内ORR 67%、頭蓋内PFS 18.4ヶ月という結果とも一致する。また、NSCLC診断からのOS中央値が75.3ヶ月 (95% CI 38.2-174.6) であったことは、逐次的なALK-TKI治療戦略の累積的な効果が長期生存に寄与していることを示唆する。特に、3-4ラインの前治療を受けたサブグループでPFS中央値が10.4ヶ月 (95% CI 5.9-13.9) と良好な結果を示したことは、重度既治療患者においてもブリガチニブが依然として臨床的ベネフィットをもたらす可能性を示唆する。
臨床応用: 本研究の結果は、少なくとも2剤のALK-TKI治療に失敗したALK陽性NSCLC患者に対しても、ブリガチニブが臨床的に意義のあるベネフィット(PFS中央値6.6ヶ月 (95% CI 4.8-9.9)、ORR 50%)をもたらすことを示しており、臨床現場における治療選択肢として重要である。特に、ロルラチニブの第II相試験EXP4-5コホート(2-3剤ALK-TKI前治療111例)で報告されたORR 38.7%、PFS 6.9ヶ月 (95% CI 5.4-9.5) と一貫する結果であり Solomon et al、ブリガチニブが多剤耐性患者においても有効な選択肢であることを裏付けている。
残された課題: 本研究の限界としては、後ろ向きデザインであること、効果判定が治験担当医評価であり独立評価委員会による盲検評価ではないこと、再生検実施例が少ないこと(33.7%)、およびG1202R変異の検出が4例にとどまったことが挙げられる。これらの要因により、選択バイアスや評価バイアスが完全に排除できない可能性がある。今後の検討課題として、ALEX試験やALTA-1L試験でアレクチニブやブリガチニブが一次治療としてクリゾチニブに対して優位性を示した現在 Peters et al. NEnglJMed 2017 Camidge et al. NEnglJMed 2018、一次治療後の最適なALK-TKIシーケンス(例:アレクチニブ→ブリガチニブ→ロルラチニブ vs ブリガチニブ→アレクチニブ→ロルラチニブ)の確立が残されている。また、リキッドバイオプシーによるALK耐性変異評価の実臨床への実装と、それに基づく個別化治療戦略の確立も今後の重要な研究方向性である。
方法
BRIGALK試験 (GFPC 07-2017) は、フランス国内42施設で実施された多施設共同後ろ向き非介入研究である。本研究は、フランスの早期アクセスプログラム (EAP) を通じてブリガチニブの投与を受けたALK陽性進行NSCLC患者を対象とした。
患者適格基準: 本研究の対象患者は、以下の適格基準を満たす者であった。
- 18歳以上の患者。
- 進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の診断。
- 免疫組織化学 (IHC) および/または蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH) によりALK陽性が確認されていること。
- クリゾチニブを含む少なくとも1剤のALK阻害剤による前治療歴があること。
- 2016年9月1日から2018年1月1日の期間に、フランスの早期アクセスプログラム (EAP) でブリガチニブの投与を開始した患者。
評価項目: 主要評価項目は、治験担当医評価による無増悪生存期間 (PFS) であり、ブリガチニブ初回投与日から客観的病勢進行またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。 副次評価項目は以下の通りである。
- ブリガチニブに対する客観的奏効率 (ORR)。
- ブリガチニブ開始時からの全生存期間 (OS)。
- NSCLC診断時からの全生存期間 (OS)。
- ブリガチニブの治療期間。
- ブリガチニブ治療中止理由。
- CNS転移を有する患者におけるCNS活性。
データ収集: 患者データは、診療録から後ろ向きに収集された。収集された情報には、人口統計学的特性、NSCLCの特性、転移部位の数と局在、前治療歴、ブリガチニブに対する腫瘍反応、ブリガチニブ開始前または進行後の耐性変異、および進行後の治療が含まれる。各施設では、適格基準を満たす患者が選択されることなく、連続的に登録された。
統計解析: PFSおよびOSの推定には、カプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法が用いられた。全コホートおよび前治療ライン数に応じたサブグループにおけるPFSおよびOSが推定された。治療に対する最良の反応は、RECIST 1.1基準 Eisenhauer et al. EurJCancer 2009 に基づいて評価された。統計解析はSAS 9.4ソフトウェア (SAS Institute, Cary, NC, USA) を用いて実施された。データカットオフ日は2018年6月30日であった。本研究は、NCT番号は付与されていないが、フランス保健研究情報処理諮問委員会 (CCTIRS) の承認を得て実施された。
倫理的側面: 本研究はヘルシンキ宣言に準拠し、フランス保健研究情報処理諮問委員会 (CCTIRS) の承認を得て実施された。生存患者には研究に関する書面による情報が提供され、同意が得られた。死亡患者については、CCTIRSから情報提供の免除が認められた。