• 著者: Nakaoku T, Tsuta K, Ichikawa H, Shiraishi K, Sakamoto H, Enari M, et al.
  • Corresponding author: Kohno T (National Cancer Center Research Institute, Tokyo)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2014
  • Epub日: 2014-04-14
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 24727320

背景

浸潤性粘液性腺癌 (IMA: invasive mucinous adenocarcinoma) は、全肺腺癌の2%〜10%を占める悪性度の高いサブタイプであり、ゴブレット細胞様の背の高い柱状細胞、基底核、粘液含有淡色細胞質が組織学的特徴である Travis et al. JThoracOncol 2011。IMAの50%〜80%にKRAS変異が検出されるものの、残りのKRAS陰性IMAではドライバー遺伝子異常が未解明であり、有効な治療標的が不明であった。近年、EML4-ALK、KIF5B-RET、CD74/EZR/SLC34A2-ROS1等の融合遺伝子がEGFR/KRAS野生型肺腺癌のドライバーとして同定され、治療標的となりうることが示されている Pao et al. NatMed 2012Takeuchi et al. NatMed 2012Lipson et al. NatMed 2012Kohno et al. NatMed 2012Oxnard et al. JClinOncol 2013。しかし、これらの融合遺伝子がKRAS陰性IMAに適用可能であるか、あるいはIMA特有のドライバー異常が存在するかについては検討が手薄であった。

目的

KRAS変異陰性IMAにおいて、全トランスクリプトームシーケンシングを用いてキナーゼを含む新規融合遺伝子を同定し、その機能解析および既承認チロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) による治療標的としての可能性を検証すること。

結果

新規融合遺伝子の同定: IMA 90例中、KRAS変異陰性34例を対象とした解析により、KRAS変異と相互排他的に存在する5種類の新規融合遺伝子転写産物を同定した (Table 1)。これらはCD74-NRG1 (5/34例, 14.7%)、SLC3A2-NRG1 (1例)、EZR-ERBB4 (1例)、TRIM24-BRAF (1例)、KIAA1468-RET (1例) であった。NRG1融合 (CD74-NRG1またはSLC3A2-NRG1) はKRAS陰性IMAの17.6% (6/34例) に認められた。これらの5種類の融合遺伝子は互いに相互排他的であり、KRAS変異陽性56例には1例も検出されなかった (Table 2)。日本人非IMA肺腺癌315例および米国非IMA肺腺癌144例では、NRG1、ERBB4、BRAF融合および新規RET融合はすべて陰性であり、これらの融合はIMA特有のドライバー異常である可能性が示唆された。NRG1融合陽性例は女性非喫煙者に偏在する傾向が認められた (6例中5例が女性、6例中4例が非喫煙者)。KIAA1468-RET融合は、既報のRET融合とは異なる新規の融合であった。

融合タンパク質の構造と機能解析: CD74-NRG1およびSLC3A2-NRG1融合タンパク質は、CD74またはSLC3A2の膜貫通ドメインとNRG1のEGF様ドメイン (NRG1 IIIβ3型) を保持していた (Fig. 1A)。CD74-NRG1を発現するH1299細胞由来のコンディションドメディアをEFM-19細胞に添加すると、内因性HER2/HER3のリン酸化が確認され、HER2:HER3のオートクリン/パラクリンシグナル活性化が実証された (Fig. 2A)。下流のERKおよびAKTのリン酸化も亢進した。この活性化は、HERキナーゼを標的とするFDA承認TKIであるラパチニブおよびアファチニブにより用量依存的に抑制され、ERKリン酸化のfold changeはDMSOと比較してラパチニブ 10 μmol/Lで0.1x未満に、アファチニブ 0.5 μmol/Lで0.2x未満に抑制された (p<0.001)。EZR-ERBB4融合は、タンパク質二量体化に機能するEZRのコイルドコイルドメインとERBB4の完全なキナーゼドメインを保持していた (Fig. 1A)。NIH3T3細胞でのEZR-ERBB4発現により、ERBB4キナーゼ活性化ループのチロシン1258のリン酸化が血清飢餓条件下で確認され、EZR二量体化による恒常的なERBB4活性化が実証された (Fig. 2B)。この活性化はラパチニブおよびアファチニブにより抑制された。TRIM24-BRAF融合はBRAFキナーゼドメインを保持するが、BRAFを負に制御するN末端RAS結合ドメインが欠如していた (Fig. 1A)。NIH3T3細胞でのTRIM24-BRAF発現により、下流のERKリン酸化が血清飢餓条件下で亢進し、BRAFキナーゼの異常な活性化が示された (Fig. 2C)。このERKリン酸化は、RAFキナーゼ阻害剤であるソラフェニブおよびMEK阻害剤U0126により抑制された。ERKリン酸化のfold changeはDMSOと比較してソラフェニブ 1 μmol/Lで0.1x未満に、U0126 10 μmol/Lで0.05x未満に抑制された (p<0.001)。

発癌性およびTKIによる阻害効果: CD74-NRG1、EZR-ERBB4、TRIM24-BRAFをそれぞれ発現するNIH3T3細胞は、軟寒天培地においてアンカー非依存性増殖を示した (14日後に直径100μm超のコロニーが対照群と比較して有意に増加) (Fig. 2D-F)。CD74-NRG1発現NIH3T3細胞では、DMSO群で平均コロニー数 1400個超であったのに対し、ラパチニブ 5 μmol/Lで約100個に抑制された (p<0.001)。EZR-ERBB4およびTRIM24-BRAFを発現するNIH3T3細胞 (n=5 mice per group) は、ヌードマウスにおいて腫瘍形成能を示し (注射後5週間で腫瘍形成率100%)、その腫瘍増殖は対応するTKI (ラパチニブ/アファチニブ/ソラフェニブ) により有意に抑制された (Fig. 3A)。EZR-ERBB4発現群では腫瘍体積が約3000 mm³に達したのに対し、ラパチニブ投与群では約500 mm³に抑制された (p<0.001)。全90例のIMAのうち、既承認TKIで標的可能な異常 (NRG1/ERBB4/BRAF/RET融合、またはBRAF変異) は合計11例 (12.2%) に認められた。

考察/結論

本研究は、KRAS変異陰性IMAの少なくとも17.6% (NRG1融合) に、既承認TKIで標的可能なドライバー異常が存在することを示した画期的な研究である。特にCD74-NRG1融合の発見は、NRG1/HER2-HER3軸をIMA治療の主要標的として確立する端緒となった。

先行研究との違い: これまでの研究では、IMAにおけるドライバー遺伝子異常はKRAS変異が主であり、KRAS陰性例の治療標的は不明であった。本研究は、IMA (非典型的形態の肺腺癌) において、Takeuchi et al. NatMed 2012Lipson et al. NatMed 2012で報告されたALKやRET融合とは異なる、全く新しいカテゴリーのドライバー融合群を同定した点で、これまでの知見と対照的である。

新規性: 本研究で初めて、NRG1、ERBB4、BRAF、RETの新規融合遺伝子をIMAのドライバー変異として同定した。特にNRG1融合は、NRG1がゴブレット細胞形成にも関与するという知見 (Kettle 2010) と合わせ、IMA細胞の形質転換とゴブレット細胞形態獲得の両方を促進する可能性を示唆する新規性の高い発見である。その後の研究でNRG1融合は他の肺、膵臓、胆道等の腫瘍でも報告されており、本研究はその先駆的発見として位置づけられる。

臨床応用: 本知見は、KRAS/EGFR/ALK/RET/ROS1陰性のIMA患者に対して、NRG1、ERBB4、BRAF融合遺伝子の検索と、HER2-HER3阻害薬 (アファチニブ、ペルツズマブ等) やBRAF阻害薬 (ソラフェニブ等) の投与が有望な治療戦略となる可能性を示唆する臨床的意義を持つ。診断には、break-apart FISH法や融合ターゲットRNAシーケンスパネルの実装が必要となる。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) NRG1融合陽性IMAにおけるHER2/HER3阻害薬の前向き臨床試験の実施、(2) 200例の肺癌細胞株での検索が陰性であったことから、in vitro発癌性のヒト癌細胞株での再現性の検証、(3) NRG1融合検出感度・特異度の最適化方法の確立が残されている。また、本研究では日本人患者が主体であったため、他の人種におけるこれらの融合遺伝子の頻度や臨床的意義についても今後の研究が必要である。

方法

国立がんセンター病院で外科切除されたIMA 90例 (KRAS変異陽性56例、KRAS変異陰性34例) のコホートを設定した。KRAS陰性27例を含む32例のIMAから全RNAを抽出し、mRNA-Seq Sample Prep KitまたはTruSeq RNA Sample Prep Kit (Illumina) を用いてRNAシーケンシングライブラリを調製後、Genome Analyzer IIx (GAIIx) またはHiSeq 2000 (Illumina) を用いて50bpまたは75bpのペアエンドシーケンシングを実施した。融合転写産物の検出にはTopHat-Fusionアルゴリズムを使用し、RT-PCRおよびサンガーシーケンシングにより検証した。残りの58例に対してはRT-PCRスクリーニングを実施した。同定された融合遺伝子の発癌性機序は、NIH3T3細胞を用いた軟寒天コロニー形成アッセイ、ヌードマウスでの腫瘍形成アッセイ、およびリン酸化ウエスタンブロット解析により評価した。HER2:HER3シグナル活性化の確認にはEFM-19細胞コンディションドメディアシステムを使用した。既承認TKI (ラパチニブ、アファチニブ、ソラフェニブ) による阻害効果を検討した。統計解析にはStudent t-testを用いた。