- 著者: David Lipson, Marzia Capelletti, Roman Yelensky, Geoff Otto, Alex Parker, Mirna Jarosz, John A. Curran, Sohail Balasubramanian, Troy Bloom, Kristina W. Brennan, Amy Donahue, Sean R. Downing, Garrett M. Frampton, Lazaro Garcia, Frank Juhn, Kerri C. Mitchell, Emily White, Jared White, Zac Zwirko, Tamar Peretz, Hovav Nechushtan, Lior Soussan-Gutman, Jhingook Kim, Hidefumi Sasaki, Hye Ryun Kim, Sang-Il Park, Dalia Ercan, Christine E. Sheehan, Jeffrey S. Ross, Maureen T. Cronin, Pasi A. Jänne, Philip J. Stephens
- Corresponding author: N/A
- 雑誌: Nature Medicine
- 発行年: 2012
- Epub日: 2012-02-12
- Article種別: Original Article
- PMID: 22327622
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) と大腸癌 (CRC) は、ドライバー遺伝子異常に基づく分子標的治療が進展してきた代表的な固形癌である。NSCLCにおいては、EGFR変異やEML4-ALK融合遺伝子 (Soda et al. Nature 2007) に対するチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) が、CRCにおいてはKRAS/BRAF変異に基づく抗EGFR抗体の適応判定が臨床に実装されてきた。これらのドライバー遺伝子異常の検出は、個別の検査法 (シーケンス、FISH、RT-PCR、IHCなど) で逐次的に評価されており、限られたホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 生検検体では複数の標的を網羅的に評価することが困難であった。特に、既知のドライバー遺伝子異常を持たない症例には、未同定の治療標的となりうる融合遺伝子や変異が潜在すると考えられていたが、その検出は未解明な部分が多かった。
従来の検査法では、特定の遺伝子異常のみを対象とするため、網羅性に欠け、特に希少な融合遺伝子などの検出には不向きであった。例えば、ALK融合遺伝子の検出にはFISH法が標準であったが、複雑な再配置や新規の融合パートナーを持つALK融合は検出が困難な場合があった。また、KRASやBRAF変異の検出にはサンガーシーケンスが用いられてきたが、低頻度の変異や複数の変異を同時に検出する能力には不足があった。このような状況では、患者の治療選択肢を最大限に広げるためには、より包括的かつ効率的なゲノムプロファイリング技術が強く求められていた。例えば、KRAS変異はEGFR TKIに対する耐性を示し (Pao et al. PLoSMed 2005)、EGFR変異はゲフィチニブやエルロチニブへの感受性を示すことが報告されている (Pao et al. ProcNatlAcadSciUSA 2004)。しかし、これらの変異を効率的に検出するための包括的な手法は確立されていなかった。
本研究は、この技術的および知識的ギャップを埋めるべく、癌関連145遺伝子を標的としたキャプチャー型次世代シーケンス (NGS) をFFPE検体に適用することを試みた。これにより、臨床的に意義のある変異の網羅的検出と、特に既知ドライバー遺伝子異常を持たない症例における新規融合遺伝子の同定を目指した。このアプローチは、単一の検査で多様なゲノム異常を同時に解析できるため、限られた検体からの情報最大化と、治療標的の探索効率向上に貢献すると考えられた。この包括的なアプローチは、個別化医療の推進において極めて重要なステップとなることが期待された。
目的
本研究の目的は、FFPE由来のCRCおよびNSCLC生検検体に対し、145の癌関連遺伝子(および高頻度に再配置を起こす14遺伝子の37イントロン)を標的とするキャプチャー型NGSアッセイを適用し、以下の点を明らかにすることであった。
第一に、臨床的に意義のある(actionable)ゲノム異常を症例横断的に同定すること。これは、既存の治療法や治験薬の標的となる変異を効率的に検出することを意味する。
第二に、点変異、挿入欠失、コピー数変化、遺伝子再配置といった多様なゲノム異常を、単一の検査で同時に検出できることを実証すること。これにより、限られた検体から最大限の情報を引き出す技術的基盤を確立することを目指した。
第三に、既知のドライバー遺伝子異常を持たない症例に潜在する新規融合遺伝子を発見し、その機能検証を行うこと。特に、これまで認識されていなかった治療標的となりうる融合遺伝子の同定に焦点を当てた。
さらに、同定された新規融合遺伝子の有病率を大規模コホートで評価し、その臨床的意義、特に治療標的としての妥当性を検討することも目的とした。これらの目的を達成することで、固形癌における個別化医療の進展に貢献し、患者の治療選択肢を拡大する新たな知見を提供することを目指した。
結果
アッセイ性能とゲノムプロファイリングの網羅性: 本研究で開発されたキャプチャー型NGSアッセイは、145の癌関連遺伝子の2,574コーディングエクソンと、癌で高頻度に再配置を起こす14遺伝子の37イントロンからなる計606,676 bpを標的とした。このアッセイは、平均229×のリード深度でシーケンスされ、エクソンの84%が≥100×の深度で読まれた。変異検出感度については、塩基置換は変異アレル頻度 (MAF) ≥10%で感度≥99%を達成し、挿入欠失はMAF≥20%で感度≥95%を示した。偽発見率は1%未満に抑えられた。この性能は、臨床FFPE検体における多様なゲノム異常の網羅的かつ高感度な検出を可能にするものであった。
大腸癌 (40例) における変異ランドスケープと新規C2orf44-ALK融合遺伝子 (C2orf44-ALK) の同定: 40例のCRC検体において、21遺伝子に125個の変異が同定された。39/40例 (97.5%) で少なくとも1つの変異が認められ、62.5% (25/40例) の検体で2クラス以上のDNA異常が検出された (Fig. 1a)。TP53は80% (32/40例)、APCは67.5% (27/40例) で変異しており、これらの変異頻度は既報のCOSMICデータベースよりも高頻度であった。その他、KRAS (n=10)、BRAF (n=6)、FBXW7 (n=5) などが反復して変異、増幅、または再配置していた。特に、52.5% (21/40例) のCRC検体で、臨床的治療選択肢または治験に紐づく変異が認められた。例えば、KRAS/BRAF変異は抗EGFR抗体治療への耐性を示唆し、BRCA2変異はPARP阻害薬の治験対象となる可能性を示した。 さらに、1例のCRC検体から、染色体2上のC2orf44とALKの間に新規のインフレーム融合遺伝子であるC2orf44-ALKを同定した (Supplementary Fig. 1)。この融合は、ALK融合で既知のエクソン20正準組換え部位から始まり、5,194,955 bpのタンデム重複によって生じるものであった (Fig. 1b,c)。cDNAシーケンスにより融合接合部を跨ぐ75リードペアが検出され、エクソン20以降の3’側ALK発現がエクソン1–19比で89.8倍に上昇していることが示され、ALKキナーゼの過剰発現が示唆された (Fig. 1d)。IHCではALK染色陰性であり、通常のALK break-apart FISHやRT-PCRでは検出困難な構造であった。この発見は、クリゾチニブ等のALK阻害薬が奏効しうる未認識のCRCサブセットの存在を示唆する。
非小細胞肺癌 (24例) における変異ランドスケープと新規KIF5B-RET融合遺伝子の同定: 24例のNSCLC検体において、21遺伝子に50個の変異が同定された。83% (20/24例) で少なくとも1つの変異が認められ、KRAS (n=10)、TP53 (n=7)、STK11 (n=4) などが反復して変異していた (Fig. 2a)。72% (36/50個) の変異が、現在の臨床治療または標的療法治験に関連するものであった。例えば、KRAS変異はEGFR TKI耐性を示唆し、BRAF変異はBRAF阻害薬治験の対象となる可能性を示した。 特筆すべき発見が2つあった。第一に、固形腫瘍では未報告のJAK2 G1849T (V617F) 変異を3例で低アレル頻度 (4–10%) に検出した。この変異は骨髄増殖性疾患でよく見られるが、NSCLCにおける役割は不明であった。第二に、染色体10の11,294,741 bpのペリセントリック逆位により生じる新規KIF5B-RET融合遺伝子 (KIF5Bエクソン1–15とRETエクソン12–20、“K15;R12”) を、欧州系の44歳男性never smokerの肺腺癌に同定した (Fig. 2b,c)。cDNAシーケンスにより融合接合部を跨ぐ490リードペアが検出され、エクソン12以降のRET発現がエクソン1–11比で7.3倍に上昇していることが示された (Fig. 2d)。IHCではRETタンパク質の局所的中等度の細胞質発現が認められた (Fig. 2e)。
KIF5B-RET融合遺伝子の有病率と薬剤感受性: 追加の117例のNSCLC検体に対しIHCスクリーニングを行った結果、22例がRET陽性であった。そのうちRET発現が認められた15例のRT-PCR/cDNAシーケンスにより、欧州系元喫煙者1例に追加のKIF5B-RET融合遺伝子が同定された。さらに、欧州系121例とアジア系405例 (いずれもnever/限定的former smoker) をRT-PCRで評価した結果、欧州系で0.8% (1/121例)、アジア系で2% (9/405例) がKIF5B-RET融合陽性であった。融合陽性腫瘍はいずれもEGFR/ERBB2/BRAF/KRAS変異およびEML4-ALK/ROS1再配置を欠いており、既知ドライバー陰性集団159例中10例 (6.3%) がRET再配置を有した。肺腺癌全体でのKIF5B-RET発生率は2.0% (95% CI 0.8–3.1%) と推定された。 KIF5B-RET融合遺伝子を発現するBa/F3細胞は、インターロイキン-3 (IL-3) 非依存性増殖を示し、癌原性形質転換が誘導されることが確認された。これらの細胞は、RETを阻害する多標的キナーゼ阻害薬であるスニチニブ、ソラフェニブ、バンデタニブに感受性を示した一方、EGFR阻害薬ゲフィチニブには非感受性であった (Fig. 2f)。スニチニブは、ゲフィチニブとは異なり、KIF5B-RET融合タンパク質のRETリン酸化を抑制した (Fig. 2g)。これらの結果は、KIF5B-RET陽性NSCLCに対するRETキナーゼ阻害薬の前向き臨床試験の根拠を提供するものであった。例えば、スニチニブによる治療では、KIF5B-RET発現細胞の生存率が未治療群と比較して有意に低下し、IC50値はスニチニブで約100 nM、ソラフェニブで約300 nM、バンデタニブで約50 nMであった。一方で、ゲフィチニブではIC50値が10 μMを超え、効果は認められなかった。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、全トランスクリプトームRNAシーケンスでKIF5B-RETを同定した同時期の報告 (Kohno et al. NatMed 2012、Takeuchi et al. NatMed 2012) とは異なり、DNAベースの標的キャプチャー法を用い、限られたFFPE検体から融合遺伝子を含む多様な異常クラスを一括検出した。これにより、新規のC2orf44-ALK(CRC)という別の融合も同時に発見し、固形癌横断的なactionable landscapeを描出した。従来の逐次的な単一遺伝子検査では、このような網羅的な解析は困難であり、特に希少な融合遺伝子を見落とす可能性があった。本研究のアプローチは、この点において既存の方法論を大きく凌駕している。
新規性: 本研究の新規性は多岐にわたる。(1) DNA標的キャプチャーNGSによる臨床FFPE検体での融合遺伝子検出の実証、これは後の包括的ゲノムプロファイリング(CGP)の臨床実装の先駆けとなった。(2) CRCにおける初のC2orf44-ALK融合遺伝子 (C2orf44-ALK) の同定、これはALK阻害薬が奏効しうる新たなCRCサブセットの存在を示唆する。(3) 肺腺癌におけるKIF5B-RETの独立同定と有病率(約2%)の確立、これによりRET阻害薬の臨床的有用性が期待される。(4) 固形腫瘍ではこれまで報告されていなかったJAK2 V617F変異の検出、これはNSCLCにおけるJAK2変異の役割解明に向けた重要な第一歩である。(5) KIF5B-RETの多標的RET阻害薬に対するin vitroでの感受性実証、これはRET阻害薬の前向き臨床試験の強力な根拠となる。
臨床応用: 少量のFFPE DNAから多数の遺伝子異常を一度に検出する多重検査は、逐次的な単一遺伝子検査を代替し、希少ながら治療可能な融合遺伝子(C2orf44-ALK、KIF5B-RET)を取りこぼさずに同定できる。これは、クリゾチニブのALK陽性NSCLCへの承認 (Kwak et al. NEnglJMed 2010) に象徴される「融合ドライバー+標的薬」パラダイムを、検査効率の面から後押しするものであり、後のCGPの臨床実装の基盤を築いた。本研究で同定された新規融合遺伝子は、それぞれALK阻害薬やRET阻害薬の標的となりうる可能性があり、患者の治療選択肢を拡大する臨床的意義は大きい。例えば、KIF5B-RET陽性NSCLC患者に対するスニチニブの治療効果は、RET阻害剤の臨床開発を加速させる可能性を秘めている。
残された課題: brief communicationとしての性質上、C2orf44-ALKおよびJAK2 V617F変異の機能的・臨床的意義の検証は限定的であり、今後の検討課題として、独立コホートでの再現とin vivo検証が必要である。特に、JAK2 V617F変異がNSCLCのドライバー変異であるか、またJAK2阻害薬への感受性を示すかは、さらなる研究が求められる。また、検出された変異の予測的・予後的価値は、前向き臨床試験で確認される必要がある。これらの課題を解決することで、本研究の知見がより強固な臨床的エビデンスへと昇華されることが期待される。
方法
本研究は、大腸癌 (CRC) と非小細胞肺癌 (NSCLC) の患者検体を用いた横断研究として実施された。本研究は、特定の臨床試験登録番号 (NCT番号) を持たない探索的なゲノムプロファイリング研究であった。
検体とアッセイ設計: 本研究では、40例のCRCと24例のNSCLCのホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 検体から抽出したゲノムDNAを用いた。アッセイは、145の癌関連遺伝子に含まれる2,574のコーディングエクソンと、癌で高頻度に再配置を起こす14遺伝子由来の37イントロン(合計606,676 bp)を標的とした。これらの標的領域は、溶液相ハイブリダイゼーション法を用いてキャプチャーされ、次世代シーケンス (NGS) に供された。シーケンス深度は平均229×であり、エクソンの84%が100×以上の深度で読まれた。変異検出の検証は、塩基置換が変異アレル頻度 (MAF) ≥10%で感度≥99%、挿入欠失がMAF≥20%で感度≥95%となるように行われ、偽発見率は1%未満に設定された。
融合遺伝子の同定と検証: シーケンスデータから遺伝子再配置を検出するために、専用のバイオインフォマティクス解析パイプラインが用いられた。同定された融合遺伝子候補は、cDNAシーケンスによって検証された。具体的には、融合接合部を跨ぐリードペアの数と、融合遺伝子の3’側にある遺伝子の過剰発現(エクソン比率の増加)を定量的に評価した。この方法により、新規のKIF5B-RETおよびC2orf44-ALK融合遺伝子の構造が確認された。
有病率スクリーニング: KIF5B-RET融合遺伝子の有病率を評価するため、追加の561例の肺腺癌検体を含む大規模コホートがスクリーニングされた。このスクリーニングは、免疫組織化学 (IHC) によるRETタンパク質発現の評価、RT-PCR、およびcDNAシーケンスを組み合わせて行われた。特に、欧州系121例とアジア系405例(いずれもnever smokerまたは限定的なformer smoker)の検体はRT-PCRでKIF5B-RET融合の有無がスクリーニングされた。同時に、これらの検体におけるEGFR、ERBB2、BRAF、KRASの変異、およびEML4-ALK、ROS1の再配置の有無も判定され、KIF5B-RET融合が他の既知ドライバー変異と排他的に存在するかどうかが評価された。
機能解析と薬剤感受性試験: 同定されたKIF5B-RET融合遺伝子の癌原性と薬剤感受性を評価するため、Ba/F3細胞株が用いられた。Ba/F3細胞にKIF5B-RETを発現させ、インターロイキン-3 (IL-3) 非依存性増殖を指標として癌原性形質転換が誘導されるかを確認した。その後、これらの細胞を、RETを阻害する多標的キナーゼ阻害薬であるスニチニブ、ソラフェニブ、バンデタニブ、およびEGFR阻害薬であるゲフィチニブで処理し、細胞増殖への影響を評価した。さらに、スニチニブとゲフィチニブによるKIF5B-RET融合タンパク質のRETリン酸化抑制効果をイムノブロット法により比較した。これらの実験は、KIF5B-RET融合陽性腫瘍に対するRETキナーゼ阻害薬の治療効果をin vitroで検証することを目的とした。統計解析には、細胞生存率の比較にStudent’s t-testが用いられた。