- 著者: Amrein MA, Bührer ED, Amrein ML, Li Q, Rothschild S, Riether C, Jaggi R, Savic-Prince S, Bubendorf L, Gautschi O, Ochsenbein AF
- Corresponding author: Adrian F. Ochsenbein (Department of Medical Oncology, Inselspital, Bern University Hospital, University of Bern, Switzerland; adrian.ochsenbein@insel.ch)
- 雑誌: Cancer Immunology, Immunotherapy
- 発行年: 2021
- Epub日: 2020-08-07
- Article種別: Original Article
- PMID: 32767058
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療において、免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) は治療パラダイムを大きく変化させてきた。抗PD-1抗体であるニボルマブやペムブロリズマブは、2015年に進行性扁平上皮および非扁平上皮NSCLCの治療薬としてFDAに承認され、その後の研究でアテゾリズマブやデュルバルマブといった抗PD-L1抗体も承認された。しかし、これらの免疫調節薬に対する客観的奏効を示すNSCLC患者は少数であり、奏効が得られた場合でもその効果は長期にわたる傾向がある。ニボルマブの奏効割合は扁平上皮NSCLCで15〜33%、非扁平上皮NSCLCで12〜19%と報告されており、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブでも同様の奏効割合が報告されている (Borghaei et al. NEnglJMed 2015、Garon et al. NEnglJMed 2015、Brahmer et al. NEnglJMed 2015、Rittmeyer et al. Lancet 2017、Antonia et al. NEnglJMed 2017)。
ICBへの反応性は、腫瘍内に既存の抗腫瘍免疫応答 (immune-hot tumor) が存在することと強く相関することが明らかになっている。初期の臨床試験から、腫瘍浸潤T細胞の存在がICBへの反応予測因子であることが示され、その後の研究では、免疫関連遺伝子発現パターン、IFN-γシグネチャー、Th1サイトカインがPD-1/PD-L1阻害薬治療の予測因子として同定されてきた (Herbst et al. Nature 2014、Topalian et al. NEnglJMed 2012)。これらの知見は、免疫微小環境の評価がICB治療の成功に不可欠であることを強く示唆している。
これまで、ほとんどのNSCLC患者は標準的なプラチナ系化学療法後に腫瘍が進行した場合にICBによる二次治療を受けてきた。しかし、KEYNOTE-24試験では、PD-L1発現が50%以上の腫瘍細胞を持つ患者群において、一次治療としてのペムブロリズマブが標準化学療法よりも優れていることが示された (Reck et al. NEnglJMed 2016)。この生存利益は、病勢進行後に化学療法からペムブロリズマブへのクロスオーバーが43.7%と高かったにもかかわらず観察された。一方で、ニボルマブやデュルバルマブを一次治療単剤として用いた同様の試験では、無増悪生存期間 (PFS) の改善は認められなかった。対照的に、ニボルマブと抗CTLA-4抗体イピリムマブの併用は、高い腫瘍変異負荷を持つ患者において標準化学療法と比較してPFSを改善した (Hellmann et al. NEnglJMed 2018)。
標準一次治療であるプラチナ系化学療法が腫瘍免疫微小環境 (TIME) に与える影響は十分に解明されていなかった。化学療法は、免疫原性細胞死を誘導することで免疫活性化を促進する可能性もあるが、免疫細胞への直接的な毒性や免疫関連遺伝子発現の抑制を通じて免疫を抑制する可能性も指摘されている。多くの患者が化学療法後にICBを受ける臨床の流れの中で、化学療法がICBの標的や予測バイオマーカーに与える影響を前向きに評価した研究はほとんど存在せず、この点に大きな知識のギャップが残されていた。特に、化学療法が免疫関連遺伝子の発現プロファイルにどのような影響を与えるかについては、詳細な解析が不足していた。
SAKK19/09試験は、スイス多施設共同の非ランダム化第II相試験であり、EGFR変異状態に基づく治療層別化と、シスプラチン+ペメトレキセド (CIS+PEM) とCIS+PEM+ベバシズマブ (BEV) の比較を目的として設計された。本研究はこの試験のバイオマーカーサブ解析として実施され、化学療法前後の生検ペアを用いてTIMEの変化を定量的に評価し、この未解明な領域に光を当てることを目指した。
目的
SAKK19/09試験に登録されたEGFR野生型非扁平上皮NSCLC患者において、プラチナ系化学療法前 (ベースライン) と化学療法後の腫瘍進行時の生検ペアを用いて、NanoString 201遺伝子パネルによる癌および免疫関連遺伝子発現解析を実施すること。これにより、化学療法が腫瘍免疫微小環境 (TIME) に与える影響を包括的に解明し、特に免疫関連遺伝子共発現ネットワークの変化、個別の免疫チェックポイント関連遺伝子の発現変動、およびIFN-γ発現の変化を明らかにすることを目的とした。最終的に、これらの知見がその後の免疫チェックポイント阻害薬治療の有効性予測に与える臨床的含意を考察する。本研究は、化学療法が免疫チェックポイント阻害薬の標的分子の発現に与える影響を前向きに評価することで、ICB治療の最適なタイミングやバイオマーカー評価の戦略に関する重要な情報を提供することを目指した。
結果
免疫遺伝子共発現モジュールの同定: WGCNAを用いて201遺伝子から4つの共発現モジュール (青、黄、茶、青緑) が同定された (Fig. 3a)。GO濃縮解析の結果、青色モジュール (Blue module) の上位15項目は全て免疫関連の生物学的プロセスであり、特にTリンパ球の活性化、分化、増殖の制御などに関与していることが示された (Fig. 3b)。この「免疫モジュール」には47遺伝子が含まれ、PDCD1 (PD-1)、CD274 (PD-L1)、CTLA4、LAG3、TNFRSF18 (tumor necrosis factor receptor superfamily member 18、GITR)、CD80、FOXP3といった免疫チェックポイントや免疫調節に重要な遺伝子が含まれていた。黄色モジュールは細胞周期調節遺伝子に濃縮されていた (Figure S3)。
化学療法後の免疫モジュール全体の有意な低下: マッチドペア29例におけるモジュール固有遺伝子値の比較では、化学療法後に有意に低下したのは免疫モジュール (青色) のみであった (p=0.0167、Holm-Sidak補正対応t検定) (Fig. 4a)。他の3つのモジュール (黄、茶、青緑) では有意な変化は認められなかった。この免疫モジュールの低下は、CIS+PEM+BEV群 (p=0.0345) とCIS+PEM群 (p=0.0345) の両コホートで独立して確認された (Fig. 4b)。さらに、免疫モジュールの発現プロファイルに基づく教師なし階層的クラスタリングでは、133全サンプルが「immune-cold」 (低発現) と「immune-active」 (中・高発現) の2群に分類され、再生検サンプルはimmune-coldクラスターに有意に多く含まれた (p=0.0175、カイ二乗検定) (Fig. 3c)。マッチドペア29例に限定した解析でも、再生検サンプルがimmune-coldクラスターに有意に多く含まれることが示された (p=0.0215、マクネマー検定)。全体として、化学療法は腫瘍免疫微小環境の免疫活性を低下させる方向に作用することが示唆された。
5遺伝子の個別有意な発現低下: 47遺伝子免疫モジュール内の個別遺伝子解析では、FDR制御 (q=0.05) 下で5遺伝子が化学療法後に有意に発現低下した。これらの遺伝子には、CTLA4 (p=0.00141、q=0.02132)、FOXP3 (p=0.00147、q=0.02132)、LAG3 (p=0.00177、q=0.02132)、TNFRSF18 (GITR) (p=0.00181、q=0.02132)、およびCD80 (p=0.05038、q=0.04736) が含まれる (Fig. 5a-e)。これらの5遺伝子を除外してモジュール固有値を再計算しても、免疫モジュールは依然として有意に低下しており (Figure S4)、5遺伝子のみが免疫モジュール全体の低下を駆動しているわけではないことが示された。これらの遺伝子の低下は、免疫チェックポイント阻害薬の標的分子や免疫抑制性細胞のマーカーの減少を示しており、化学療法が免疫応答を広範に抑制する可能性を裏付けている。
IFN-γ発現の著しい消失: IFN-γ mRNA発現は、全サンプルにおいてベースライン100例中58例 (58%) で検出されたのに対し、進行時再生検33例では4例 (12.1%) のみで検出され、有意な減少が認められた (p<0.0001、カイ二乗検定) (Fig. 5g)。マッチドペア29例に限定すると、ベースラインでIFN-γ陽性だった11例のうち、再生検でも陽性を維持したのは1例 (9%) のみであり、10例 (91%) が化学療法後にIFN-γ陰性に転じた (p=0.0923、マクネマー検定) (Fig. 5h)。この傾向は統計的有意性には達しなかったものの、IFN-γ発現の著しい消失を示唆するものであった。逆に、ベースラインでIFN-γ陰性だった18例のうち4例が再生検で陽性になった。この結果は、化学療法がIFN-γシグナルを大きく阻害し、その後の免疫応答の誘導を困難にする可能性を示唆する。
ベバシズマブ (BEV) 追加による影響: BEVは免疫調節効果を持つことが報告されていたが、本解析ではCIS+PEM群とCIS+PEM+BEV群の間で化学療法誘発の免疫微小環境変化に大きな差は認められなかった。しかし、CIS+PEM+BEV治療後の生検は、CIS+PEM群と比較して、同一患者のベースライン生検と異なるクラスターに分類される傾向が強かった (36.4% vs. 5.6%、p=0.0331) (Fig. 2b)。これは、BEVの追加が化学療法による遺伝子発現変化を増強する可能性を示唆する。この知見は、BEVが免疫チェックポイント阻害薬と相乗的に作用する機序が、腫瘍内の免疫浸潤の維持以外のメカニズムによる可能性を示唆しており、IMpower150試験の結果とも関連する。
考察/結論
本研究は、転移性EGFR野生型非扁平上皮NSCLCにおけるプラチナ系化学療法前後の腫瘍免疫微小環境の変化を前向きに評価した最初の解析の一つである。主要な知見は、標準プラチナ系化学療法が腫瘍免疫微小環境全体にわたって負の影響を与えることであり、47遺伝子からなる免疫モジュールの平均遺伝子発現の有意な低下 (p=0.0167)、CTLA4、FOXP3、LAG3、TNFRSF18、CD80の5遺伝子の個別有意な低下、およびIFN-γ発現の著しい消失 (ベースライン陽性11例中10例が陰性化) として示された。
先行研究との違い: これまでの研究では、免疫チェックポイント阻害薬への反応性と既存の抗腫瘍免疫応答の関連が示されてきたが、標準化学療法がその後の免疫療法に影響を与える可能性については十分に検討されていなかった。本研究は、化学療法が免疫微小環境に与える具体的な負の影響を、治療前後の生検ペアを用いた遺伝子発現解析により定量的に示した点で、これまでの報告と異なり、新規性が高い。特に、単一遺伝子レベルでは検出が困難であった変化を、WGCNAを用いたモジュール解析により捉えたことは、本研究の重要な貢献である。
新規性: 本研究で初めて、プラチナ系化学療法がNSCLCの腫瘍免疫微小環境における広範な免疫関連遺伝子の発現を抑制することを示した。特に、PD-1、PD-L1、CTLA4、LAG3といった免疫チェックポイント分子を含む47遺伝子からなる免疫モジュールの平均発現が化学療法後に有意に低下すること、およびIFN-γ発現が劇的に消失する傾向が確認されたことは、これまで報告されていない重要な知見である。この結果は、化学療法が免疫チェックポイント阻害薬の標的分子の発現を低下させ、その後の免疫療法の有効性を損なう可能性を示唆する。
臨床応用: 化学療法がPD-1、PD-L1、CTLA4、LAG3などICBの標的分子の発現を抑制することは、化学療法後にICBを追加する際に、有効性の基盤となる免疫応答が損なわれている可能性を示唆する。特にIFN-γの消失は深刻であり、IFN-γシグナルはICBによる抗腫瘍免疫応答の増幅に不可欠であるため、化学療法後のサンプルでICBの予測バイオマーカーを再評価することの重要性が示された。この臨床的含意として、ICBの予測バイオマーカー、例えばIFN-γ mRNA発現は、「診断時の保存組織」ではなく「ICB開始直前のサンプル」で評価すべきであるという提言がなされる。また、FOXP3の低下は制御性T細胞 (Treg) の減少を示唆し、免疫抑制解除の側面を持つ可能性もあるが、全体的な免疫モジュールの低下はTreg減少の有利な効果を上回る免疫抑制を示していると考えられる。
残された課題: 本研究はサンプルサイズが29例と限られており、プラチナ系化学療法全般のクラス効果を示すものであり、個別の薬剤やレジメンの差を区別することは困難であるというlimitationがある。また、再生検が「無作為選択された時点」ではなく「腫瘍進行時」に行われているため、観察された変化が化学療法の効果なのか、進行に伴う自然な免疫変化なのかを厳密に区別することが難しいという課題が残されている。今後の検討課題として、より大規模なコホートでの検証、異なる化学療法レジメンの影響の評価、および免疫療法先行戦略 (ICBを化学療法に先行させる) の臨床的有用性を評価する研究が挙げられる。IMpower150試験ではアテゾリズマブ+BEV+カルボプラチン+パクリタキセルが有意なOS改善を示したが、アテゾリズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル (BEVなし) ではOS改善が見られなかった。この知見は、BEVがICBと相乗的に作用する機序が免疫浸潤の維持以外にある可能性を示唆しており、さらなる研究が必要である。
方法
試験設計と患者選択: 本研究は、SAKK19/09臨床試験のバイオマーカーサブ解析として実施された。SAKK19/09試験 (NCT01247676) は、非ランダム化多施設共同第II相試験であり、合計152名の患者が登録された。本解析の対象は、EGFR野生型非扁平上皮NSCLC患者129例 (Stratum B) であった。患者は、シスプラチン (CIS) 70 mg/m² とペメトレキセド (PEM) 500 mg/m² の4サイクル誘導療法を3週間ごとに受け、ベバシズマブ (BEV) 7.5 mg/m² の併用有無で層別化された (CIS+PEM+BEV群: n=77、CIS+PEM群: n=52)。治療歴のない患者が87%を占めた。主要な患者特性として、女性43.4%、男性56.6%、喫煙歴あり86.8%、M1b病期82.9%であった (Table 1)。
生検サンプルの収集とRNA抽出: 患者からは、ベースライン時と腫瘍進行時の両方でホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 腫瘍生検組織が縦断的に収集された。ベースライン生検は123例 (95.3%) で採取され、進行時の再生検は62例 (48.1%) で実施された。生検組織は病理医によってレーザーキャプチャーマイクロダイセクションの適格性が評価され、その後、マイクロダイセクションされた腫瘍組織からFFPE Tissue RNA Extraction Kitを用いて全RNAが抽出された。RNAの量と質はそれぞれNanodropおよびBioanalyzerで評価された。
遺伝子発現解析: RNAはNanoString nCounterプラットフォーム (NanoString Technologies) を用いて遺伝子発現解析に供された。カスタムプローブコードセットには、癌および免疫関連遺伝子201個が含まれた。これらの遺伝子は、免疫抑制・活性化リガンド/受容体、NFκBおよびWNTシグナル関連遺伝子、ヌクレオチド除去修復経路、血管新生に関わる遺伝子を評価するために文献から選択された。データは内部陽性・陰性コントロールを用いて正規化され、log2変換された。プローブの50%以上が検出限界以下であったサンプルは解析から除外された。最終的に、100例のベースライン生検と33例の再生検が解析対象となり、このうち29例はマッチドペアであった (Fig. 1)。遺伝子発現データはNCBI Gene Expression Omnibus (GEO) にGSE154286として登録されている。
バイオインフォマティクス解析:
- 重み付き遺伝子共発現ネットワーク解析 (WGCNA): 全データセット (n=133) を用いて、WGCNA Rパッケージにより共発現遺伝子クラスター (モジュール) が同定された。ソフトスレッショルドβ=8、minModuleSize=10のパラメータが適用され、スケールフリーネットワークが構築された。モジュール固有遺伝子 (ME) 値は、各モジュールの遺伝子発現行列の第一主成分として算出され、モジュール全体の代表値として用いられた。
- 機能的モジュールアノテーション: 同定されたモジュールの生物学的機能は、Rの’clusterProfiler’を用いたGene Ontology (GO) 濃縮解析により評価された。201遺伝子全体をバックグラウンドリストとして、GO生物学的プロセス (bp) 用語の過剰濃縮が検索され、p値が0.01未満のGO用語が有意に濃縮されていると判断された。
- 統計解析: マッチドペア29例におけるモジュール固有遺伝子発現値の前後比較には、Holm-Sidak補正付き対応t検定が用いられた。47遺伝子免疫モジュール内の個別遺伝子の発現変化は、偽発見率 (FDR) をq=0.05で制御した対応t検定で評価された。IFN-γ発現のバイナリ変化 (陽性/陰性) はマクネマー検定で評価された。階層的クラスタリングにおけるクラスター間の関連性にはカイ二乗検定が用いられた。