- 著者: Ricciuti B, Wang X, Alessi JV, Rizvi H, Mahadevan NR, Li YY, Polio A, Lindsay J, Umeton R, Sinha R, Vokes NI, Recondo G, Lamberti G, Lawrence M, Vaz VR, Leonardi GC, Plodkowski AJ, Gupta H, Cherniack AD, Tolstorukov MY, Sharma B, Felt KD, Gainor JF, Ravi A, Getz G, Schalper KA, Henick B, Forde P, Anagnostou V, Jänne PA, Van Allen EM, Nishino M, Sholl LM, Christiani DC, Lin X, Rodig SJ, Hellmann MD, Awad MM
- Corresponding author: Mark M. Awad, MD, PhD (Lowe Center for Thoracic Oncology, Dana-Farber Cancer Institute, Harvard Medical School, Boston, MA, USA)
- 雑誌: JAMA Oncology
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-06-16
- Article種別: Original Article
- PMID: 35708671
背景
進行非小細胞肺がん (NSCLC) において、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は標準治療の柱となっている。しかし、その治療効果には大きな個人差があり、効果を予測する高精度なバイオマーカーの同定が求められてきた。腫瘍細胞におけるPD-L1 (programmed death ligand-1) 発現レベルは、ICIの治療効果と関連する代表的なバイオマーカーとして臨床応用されているが、PD-L1発現レベルが低い、あるいは陰性の腫瘍であってもICIが奏効する症例が存在するなど、PD-L1単独での予測能には限界があった。さらに、PD-L1発現は時間的および空間的に不均一であり、単一検体のPD-L1発現レベルが全体の腫瘍の免疫原性を反映しない可能性も指摘されている。
これに対し、腫瘍遺伝子変異負荷 (TMB: tumor mutation burden) は、腫瘍の免疫原性を反映する新たなバイオマーカーとして期待されてきた。先行研究において、TMBが高い腫瘍では新生抗原が多く産生され、T細胞による認識と攻撃を受けやすくなるため、ICIの治療効果が高まることが示唆されている (Rizvi et al. Science 2015)。さらに、TMBとICIの治療効果との関連については、複数の固形がんを対象とした統合解析 (Samstein et al. NatGenet 2019) や、併用療法を検証した臨床試験 (Hellmann et al. NEnglJMed 2018) においても検証が進められてきた。
しかしながら、NSCLCにおけるICI単独療法の効果を予測するための最適なTMB閾値 (カットオフ値) については依然としてコンセンサスが得られておらず、臨床的に重要なPD-L1発現レベル (PD-L1 <1%、1-49%、≥50%) の各サブグループにおけるTMBの予測的価値や生物学的背景は十分に解明されていなかった。特に、異なる次世代シーケンシング (NGS) プラットフォーム間でTMBの測定値をどのように標準化し、臨床現場で実用的な閾値を設定するかという点において、統計学的に頑健な検証が不足していた。先行研究では10 mutations/Mb というカットオフ値が用いられることが多かったが、全生存期間 (OS) の有意な延長を十分に識別できないなど、その予測能には限界があった。このように、TMBとPD-L1発現レベルを統合した治療効果予測モデルの構築や、高TMB腫瘍における腫瘍微小環境の免疫学的特徴の解明には、未だ重要な gap が残されている。具体的には、実臨床で用いるべき具体的なカットオフ値や、PD-L1発現レベルごとの詳細な治療効果予測能に関するエビデンスが不足しており、これが臨床応用における大きな課題が残されている領域であった。
目的
本研究の目的は、大規模な進行NSCLC患者コホートを対象として、TMBレベルとPD-1 (programmed cell death-1)/PD-L1阻害薬単独療法の治療効果との関連を、臨床的に重要なPD-L1発現レベル (PD-L1 <1%、1-49%、≥50%) の各サブグループにおいて包括的に評価することである。具体的には、複数の異なるNGSプラットフォームから得られたTMBデータを統計学的に標準化し、ICIの治療効果を最もよく識別できる最適なTMBカットオフ値を同定・検証する。さらに、同定された高TMB腫瘍における腫瘍浸潤リンパ球 (TIL: tumor-infiltrating lymphocyte) の密度やPD-L1発現などの免疫組織化学的特徴を明らかにし、遺伝子発現プロファイルや変異パターンとの関連を解析することで、高TMBがICI感受性を高める生物学的な機序を解明することを目指す。本研究では、客観的奏効率 (ORR: objective response rate)、無増悪生存期間 (PFS: progression-free survival)、および全生存期間 (OS: overall survival) を主要評価項目として、TMBの予測的価値を多角的に検証する。
結果
回帰木モデルによる最適なTMBカットオフ値の同定と検証: MSKCC発見コホート (n=672) において、回帰木モデルを用いてICIの治療効果を最もよく識別するTMBの閾値を探索したところ、標準化zスコアで 1.16 超が最適なカットオフ値として同定された。これは各コホートにおける上位約10% (90パーセンタイル) に相当し、絶対値としてはMSKCCコホートで 19.0 mut/Mb 超、DFCIコホートで 19.3 mut/Mb 超、SU2Cコホートで 16.0 mut/Mb 超に対応する。MSKCC発見コホートにおいて、高TMB群 (TMB >19.0 mut/Mb) は低TMB群 (TMB ≤19.0 mut/Mb) と比較して、ORRが有意に高かった (42.5% vs 18.0%, p<0.001)。さらに、高TMB群は生存期間の有意な延長と関連しており、PFSのハザード比は HR 0.38 (95% CI 0.28-0.52, p<0.001)、OSのハザード比は HR 0.46 (95% CI 0.32-0.65, p<0.001) であった。このzスコア 1.16 というカットオフ値の予測能は、DFCI検証コホート (n=714) においても検証され、高TMB群 (TMB >19.3 mut/Mb) でORR (44.9% vs 21.1%, p<0.001)、PFS (HR 0.50, 95% CI 0.37-0.67, p<0.001)、OS (HR 0.55, 95% CI 0.39-0.77, p<0.001) のいずれも有意な改善が確認された (Figure 1)。SU2C/Mark Foundation検証コホート (n=166) においても、高TMB群 (TMB >16.0 mut/Mb) はORR (89.5% vs 37.4%, p<0.001)、PFS (HR 0.18, 95% CI 0.08-0.41, p<0.001)、OS (HR 0.18, 95% CI 0.06-0.57, p=0.003) の全てで優れた治療効果を示した。
統合コホートにおけるTMBとICI治療効果の関連: 3つのコホートを統合した解析 (n=1552) において、高TMB群 (n=161) は低TMB群 (n=1391) と比較して、ICI単独療法の治療成績が極めて良好であった。具体的には、高TMB群のORRは 49.1% であり、低TMB群の 21.5% に対して有意に高かった (差 27.6%, 95% CI 19.6-35.6%, p<0.001)。生存分析においても、高TMB群は低TMB群と比較して、無増悪生存期間中央値 (mPFS) が 11.4 vs 2.8 months であり、PFSのハザード比は HR 0.40 (95% CI 0.33-0.50, p<0.001) と大幅に延長し、全生存期間中央値 (mOS) も 36.1 vs 12.4 months と、OSのハザード比は HR 0.46 (95% CI 0.37-0.59, p<0.001) と有意な延長を示した。多変量解析においても、高TMBはPD-L1発現レベルや喫煙歴などの臨床病理学的因子とは独立して、良好なORR、PFS、OSと関連する独立した予測因子であることが確認された。なお、ICI治療を受けていない進行NSCLC患者コホート (n=1617) においては、高TMBと予後との間に関連は見られず (p>0.05)、高TMBがICI治療に特異的な予測バイオマーカーであることが示された。
PD-L1発現レベル別のサブグループ解析: 臨床的に重要なPD-L1発現レベル別のサブグループ解析において、高TMBはPD-L1発現の有無や高低に関わらず、一貫して良好な治療効果と関連していた (Table 2)。PD-L1陰性 (PD-L1 <1%) の集団において、高TMB群は低TMB群と比較して、ORRが 46.7% vs 8.7% (p<0.001) と著しく高く、mPFSも 10.7 vs 2.1 months であり、PFSのハザード比は HR 0.37 (95% CI 0.22-0.62, p<0.001) と有意に延長した。PD-L1低発現 (PD-L1 1-49%) の集団においても、高TMB群はORRが 50.0% vs 18.7% (p<0.001)、mPFSが 13.6 vs 2.9 months (p<0.001)、mOSが未到達 (NR) vs 11.3 months であり、OSのハザード比は HR 0.36 (95% CI 0.18-0.72, p<0.001) と優れた治療効果を示した。さらに、PD-L1高発現 (PD-L1 ≥50%) の集団では、高TMBかつPD-L1高発現の患者においてORRが 56.5% (vs 38.1%, p=0.02)、mPFSが 18.1 vs 5.2 months (p<0.001)、mOSが 47.7 vs 21.4 months であり、OSのハザード比は HR 0.49 (95% CI 0.26-0.92, p=0.02) と、最も良好な治療成績が得られた。
高TMB腫瘍における免疫細胞浸潤と微小環境の特徴: DFCIコホートの428検体を用いた多重免疫蛍光染色解析により、高TMB腫瘍における免疫学的な特徴が明らかになった (Figure 2)。高TMB腫瘍では、低TMB腫瘍と比較して、腫瘍内、腫瘍間質、および全体のいずれの領域においても、CD8陽性T細胞の浸潤密度が有意に高かった (p<0.05)。さらに、PD-1陽性細胞や、活性化および疲弊を反映するCD8陽性PD-1陽性二重陽性T細胞の浸潤密度も、高TMB腫瘍において有意に増加していた (p<0.05)。一方で、免疫抑制的に働くFoxp3陽性制御性T細胞の浸潤密度には、両群間で有意な差は見られなかった。また、高TMB腫瘍では、腫瘍細胞および免疫細胞におけるPD-L1の発現割合も有意に上昇していた。TCGAデータセットを用いた解析においても、高TMBの肺腺がんにおいて、MHC (major histocompatibility complex) class II抗原提示経路、IL-7 (interleukin-7) シグナル経路、活性化CD8陽性エフェクターT細胞シグネチャー、およびDNA修復経路に関与する遺伝子群の有意な発現上昇が確認された。
高TMB腫瘍における遺伝子変異パターンと塩基置換の特徴: ゲノム変異パターンの解析において、非扁平上皮NSCLCでは、高TMB群は低TMB群と比較して、TP53、KEAP1、BRAF、およびDNA損傷修復遺伝子 (ATM, BRCA1, BRCA2, ATR, MSH2) の変異が有意に濃縮されていた (q<0.05)。一方で、EGFR変異は低TMB群において有意に濃縮されていた。また、高TMB群では、タバコ曝露との関連が知られているトランスバージョン変異 (transversion) の割合が有意に高く、トランジション変異 (transition) の割合が低かった。高TMB群の内部において、トランスバージョン/トランジション比が 1.0 以上の患者は、1.0 未満の患者と比較して、ICI治療後のPFSが有意に良好であり、ハザード比は HR 0.41 (95% CI 0.18-0.91, p=0.03) であった。また、OSのハザード比は HR 0.44 (95% CI 0.20-0.97, p=0.04) と有意に良好であり、変異の質的な特徴がさらなる予後予測に寄与することが示された。扁平上皮NSCLCにおいても、高TMB群はDNA損傷修復遺伝子 (ATM, BRCA1) の変異が有意に濃縮されており、同様の傾向が認められた。
考察/結論
本研究は、1552例という大規模な進行NSCLC患者のマルチプラットフォームゲノムデータと臨床データを統合し、ICI単独療法の効果予測におけるTMBの臨床的価値を包括的に明らかにした。
先行研究との違い: 従来の臨床試験 (Hellmann et al. NEnglJMed 2018) では、TMBのカットオフ値として主に 10 mut/Mb が用いられてきたが、OSの有意な延長を十分に識別できないなど、その予測能には限界があった。これらの一貫しない結果を示した先行研究と異なり、本研究では統計学的に頑健な回帰木モデルを用いることで、ICIの治療効果を最もよく識別できる最適な閾値が上位約10% (zスコア >1.16、絶対値で約 19.0 mut/Mb 以上) という極めて高いレベルにあることを示した。この知見は、TMBを連続変数として捉えた際、最上層の極めて高い変異負荷を持つ集団においてのみ、ICIに対する劇的な感度向上が得られるという事実を裏付けている。本研究では、TMB十分位数ごとの解析を実施し、最上位十分位数のみが有意な治療効果の改善を示すことを確認した。
新規性: 本研究で初めて、PD-L1発現レベル全域 (PD-L1 <1%、1-49%、≥50%) において、高TMBがICI単独療法の治療効果向上と独立して関連していることを包括的に実証した。特に、PD-L1陰性 (<1%) かつ高TMBの患者において、ORRが 46.7%、mPFSが 10.7 months という極めて良好な治療効果が得られることを示した点は、これまで報告されていない極めて新規性の高い知見である。さらに、多重免疫蛍光染色およびTCGAデータのトランスクリプトーム解析を組み合わせることで、高TMB腫瘍においてCD8陽性PD-1陽性T細胞の浸潤が有意に増加し、MHC class II抗原提示経路やケモカインシグナルなどの免疫活性化シグネチャーが亢進しているという生物学的裏付けを新規に提示した。本研究で初めて、トランスバージョン/トランジション比という変異の質的特徴が、高TMB群内での予後予測をさらに精緻化できることを示した。
臨床応用: 本研究の知見は、進行NSCLCにおける治療戦略の個別化および臨床応用に直結する。臨床的意義として、PD-L1発現レベルが 1-49% または ≥50% の患者において、高TMBを併せ持つ場合には、化学療法を併用せずともICI単独療法で極めて高い効果 (mPFS 13.6-18.1 months、mOS 47.7 months) が期待できるため、化学療法に伴う毒性を回避できる可能性が示唆される。また、PD-L1陰性であっても高TMBであればICI単独療法が有力な選択肢となり得るため、TMBとPD-L1を統合したバイオマーカー評価モデルは、臨床現場における意思決定を大きく変える可能性を秘めている。本研究の結果は、今後の臨床試験設計において、TMBを層別化因子として組み込むべきことを強く示唆している。さらに、NGSプラットフォーム間でのTMB標準化手法を確立したことで、臨床検査室での実装可能性が高まった。
残された課題: 一方で、今後の課題として、本研究がレトロスペクティブなコホート研究であるため、前向き臨床試験による検証が必要であるという limitation が残されている。また、一部の患者においてPD-L1発現データが欠損していた点や、異なるNGSプラットフォーム間での標準化手法のさらなる最適化も残された課題である。さらに、高TMB群の内部において、トランスバージョン/トランジション比などの変異の質的評価をどのように実臨床に組み込んでいくかについても、今後の研究による解明が待たれる。本研究では、複数の施設から集約されたデータを用いたため、治療レジメンや画像評価法の不均一性が存在する可能性がある。また、血液由来のTMB (bTMB) と腫瘍組織由来のTMB (tTMB) の相関性や、液体生検による TMB 測定の臨床的有用性についても、今後の検証が必要である。
方法
本研究は、ダナ・ファーバーがん研究所 (DFCI)、メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター (MSKCC)、およびStand Up To Cancer (SU2C) / Mark Foundation (以下、SU2C/Mark Foundation) のデータベースから収集された、PD-1またはPD-L1阻害薬単独療法を受けた進行NSCLC患者 (合計 n=1552) を対象とした多施設共同の retrospective cohort 試験である。臨床データおよびゲノムデータの収集は2013年9月から2020年9月にかけて実施された。本研究は retrospective cohort 研究であるため、事前に設定された sample size calculation は行われていないが、検出力を確保するために可能な限り大規模な患者数が収集された。
腫瘍組織のゲノムプロファイリングは、MSKCCコホートでは MSK-IMPACT (Memorial Sloan Kettering-Integrated Mutation Profiling of Actionable Cancer Targets) プラットフォーム、DFCIコホートでは DFCI-OncoPanel (Dana-Farber Cancer Institute OncoPanel) プラットフォーム、SU2C/Mark Foundationコホートでは WES (whole-exome sequencing) を用いて実施された。各プラットフォーム間でのTMB測定値の差異を補正するため、TMB分布を正規変換した後にzスコアへと標準化するハーモナイゼーション手法を適用した。
最適なTMBカットオフ値の同定には、MSKCC発見コホート (n=672) において、客観的奏効率を目的変数とした回帰木モデル (regression tree modeling) を用いた。同定されたカットオフ値の検証は、DFCI検証コホート (n=714) およびSU2C/Mark Foundation検証コホート (n=166) において独立して実施された。
主要評価項目は、ORR、PFS、およびOSとした。生存分析には Kaplan-Meier 法を用い、群間比較には log-rank test を適用した。また、臨床病理学的因子 (年齢、性別、喫煙歴、組織型、治療ライン、PD-L1発現レベルなど) を補正した多変量解析には Cox proportional hazards モデルを用いた。PD-L1の欠損値による選択バイアスを制御するため、逆確率重み付け (IPW: inverse probability weighting) および多重代入法 (multiple imputation) を用いた感度分析も実施した。カテゴリ変数の比較には Fisher exact 検定または chi-square 検定を用いた。
腫瘍微小環境の免疫学的評価として、DFCIコホートの428検体を対象に、CD8 (cluster of differentiation 8)、Foxp3 (forkhead box P3) 陽性制御性T細胞、PD-1、PD-L1に対する多重免疫蛍光染色 (multiplexed immunofluorescence) を行い、腫瘍内および腫瘍間質における各免疫細胞の浸潤密度を定量評価した。さらに、The Cancer Genome Atlas (TCGA) のNSCLCデータセット (Cancer et al. Nature 2014; TCGA et al. Nature 2012) を用いて、xCellソフトウェアによる免疫細胞サブセットのデコンボリューション解析および遺伝子発現プロファイル (RNA-seq: RNA sequencing) の解析を行い、高TMB腫瘍と低TMB腫瘍の間で発現が異なる免疫関連経路や遺伝子シグネチャーを同定した。