• 著者: Tsao MS, Marguet S, Le Teuff G, Lantuejoul S, Shepherd FA, Seymour L, Kratzke R, Graziano SL, Popper HH, Rosell R, Douillard JY, Le-Chevalier T, Pignon JP, Soria JC, Brambilla EM
  • Corresponding author: Ming-Sound Tsao (Princess Margaret Cancer Centre, University Health Network, and University of Toronto, Toronto, Ontario, Canada)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-04-27
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25918286

背景

2011年に、IASLC (International Association for the Study of Lung Cancer)、ATS (American Thoracic Society)、および ERS (European Respiratory Society) の国際多職種パネルが発表した肺腺癌の新分類は、腫瘍内で最も優位な組織成長パターンに基づいて、伏在型である LEP (lepidic)、腺管状である ACN (acinar)、乳頭状である PAP (papillary)、微小乳頭状である MIP (micropapillary)、および充実性である SOL (solid) の5つのサブタイプに分類することを提唱した (Travis et al. JThoracOncol 2011)。この分類法は、従来の混合型腺癌という大まかなカテゴリーを細分化し、より精密な予後予測を可能にすることを目的としていた。実際に、世界各地の単施設または小規模なコホート研究において、MIPやSOL優位のサブタイプが一貫して最悪の予後と関連することが示されてきた (Tsuta et al. LungCancer 2013)。さらに、LACE (Lung Adjuvant Cisplatin Evaluation) 共同研究グループによるプール解析 (Pignon et al. JClinOncol 2008) などの先行研究によって、完全切除後の非小細胞肺癌に対する術後補助化学療法である ACT (adjuvant chemotherapy) の有用性が示されてきた。

しかしながら、この新分類が複数の医療機関からなる大規模な多施設共同コホートや、ランダム化比較試験である RCT (randomized controlled trial) のデータにおいて検証されたことはこれまでになかった。特に、完全切除後の肺腺癌患者に対する ACT の治療効果予測における本分類の有用性は「未解明」であり、臨床現場での意思決定にどのように寄与するかについてのデータは決定的に「不足」していた。術後補助療法の適応決定は、依然として病期 (TNMステージ) のみに依存しており、個々の腫瘍の生物学的特性を反映した精密医療の導入には大きな「gapが残されている」状態であった。したがって、過去の大規模臨床試験の臨床検体を用いて、この新分類の予後予測および治療効果予測における価値を検証することが強く求められていた。

目的

本研究の目的は、LACE-Bio (Lung Adjuvant Cisplatin Evaluation Biomarker) 共同研究に参加した4つの大規模な ACT ランダム化比較試験である IALT (International Adjuvant Lung Cancer Trial) (Arriagada et al. NEnglJMed 2004)、JBR.10 (Winton et al. NEnglJMed 2005)、CALGB 9633 (Strauss et al. JClinOncol 2008)、および ANITA (Adjuvant Navelbine International Trialist Association) (Douillard et al. LancetOncol 2006) から得られた、完全切除後の早期肺腺癌患者の臨床データおよび病理組織検体を用いて、新IASLC/ATS/ERS分類に基づく組織学的サブタイプの臨床的有用性を検証することである。具体的には、観察群における各組織学的サブタイプの予後予測価値を評価するとともに、ACT の施行による生存期間の上乗せ効果が組織学的サブタイプによって異なるかどうかを明らかにし、本分類が ACT の治療効果予測因子 (predictive marker) として機能するかどうかを検証することを目的とした。

結果

患者背景および組織学的サブタイプの分布状況: LACE-Bio共同研究に登録された非小細胞肺癌患者1,766例のうち、元の診断が腺癌であった725例を対象とした。このうち、病理組織スライドが利用可能であったのは645例であり、最終的に629例においてIASLC/ATS/ERS分類に基づく再分類が成功した。臨床共変数の欠損がある7例を除外した575例が最終的な生存解析の対象となった (観察群 n=293、ACT群 n=272)。中央追跡期間は5.6年 (95% CI 5.4-5.8) であった。再分類された575例における優位な組織学的サブタイプの分布は、SOL優位が46% (n=266) と最も多く、次いでACN優位が26% (n=148)、PAP優位が17% (n=99)、MIP優位が7% (n=39)、LEP優位が4% (n=23) であった。これらを3つの予後グループに集約した結果、LEP群が4% (n=23)、ACN/PAP群が43% (n=247)、MIP/SOL群が53% (n=305) となった。臨床背景との相関分析では、MIP/SOL群において WHO PS が1以上である患者の割合が43%と、LEP群の17%と比較して有意に高かった (p=0.05)。また、各臨床試験間でのサブタイプ分布にはわずかな不均一性を認めたが (p=0.02)、解析全体への影響は限定的であった。(Table 1)

観察群における組織学的サブタイプの予後価値の検証: 手術単独治療を受けた観察群 (n=293) において、組織学的サブタイプの予後予測価値を検証した。主要エンドポイントである OS の多変量解析においては、3つのサブタイプグループ間で有意な生存差は認められなかった (global test p=0.22)。しかし、副次エンドポイントである DFS および SDFS においては、MIP/SOL群はACN/PAP群と比較して有意に予後不良であることが示された (global testにおいてDFSは p=0.05、SDFSは p=0.04)。具体的には、ACN/PAP群を対照とした多変量解析において、MIP/SOL群の DFS のハザード比は HR 1.52 (95% CI 1.09-2.11, p=0.01) であり、SDFS のハザード比は HR 1.58 (95% CI 1.12-2.24, p=0.01) と、いずれも有意に再発および疾患関連死のリスクが高かった。LEP群を対照とした場合、MIP/SOL群の DFS は HR 1.32 (95% CI 0.56-3.13)、SDFS は HR 1.29 (95% CI 0.55-3.07) であった。なお、これらの予後ハザード比に関して、各臨床試験間 (IALT、JBR.10、CALGB 9633、ANITA) での異質性は認められなかった (p>0.70)。(Fig 2) (Table 2)

組織学的サブタイプによる術後補助化学療法の治療効果予測: LEP群は症例数が極めて少なかったため (n=23)、治療効果予測解析からは除外され、残る 552例 (観察群 n=280、ACT群 n=272) を対象に解析を行った。ACN/PAP群においては、ACT施行による生存期間の上乗せ効果は全く認められなかった。ACN/PAP群における ACT群 vs 観察群のハザード比は、OS で HR 1.00 (95% CI 0.68-1.47, p=0.99)、DFS で HR 1.11 (95% CI 0.78-1.57, p=0.57)、SDFS で HR 1.12 (95% CI 0.77-1.61, p=0.56) であった。これに対し、MIP/SOL群においては、ACT施行によって DFS および SDFS が有意かつ劇的に改善した。MIP/SOL群における ACT群 vs 観察群のハザード比は、DFS で HR 0.60 (95% CI 0.44-0.82, p=0.001) であり、SDFS で HR 0.59 (95% CI 0.42-0.81, p=0.001) と顕著な治療効果を示した。治療とサブタイプの交互作用検定は、DFS で p=0.009、SDFS で p=0.01 と有意であり、組織学的サブタイプが ACT の治療効果予測因子であることが証明された。OS についても、MIP/SOL群で ACT による改善傾向を認めたが (HR 0.71 [95% CI 0.51-0.99, p=0.04])、交互作用は有意水準に達しなかった (p=0.18)。(Fig 3) (Table 3)

Bootstrap法による安定性評価および感度分析: 得られた治療効果予測価値の頑健性を評価するため、1,000サンプルのBootstrap解析を実施した。その結果、MIP/SOL群における DFS および SDFS に対する ACT の有意な治療効果は、それぞれ約50%および75%のサンプルで再現され、結果の安定性が確認された。一方で、試験間における治療効果とサブタイプの交互作用の異質性検定では、DFS および SDFS において有意な異質性が示唆された (p≤0.05)。この異質性の原因を探るため、登録症例数が40例と極めて少なかったANITA試験を除外した感度分析を行ったところ、試験間の異質性は完全に消失した (p>0.10)。また、病期 (I期、II期、III期) に応じた探索的解析では、病期、組織学的サブタイプ、および治療の3者間交互作用は有意ではなかったが (p>0.82)、MIP/SOL群における ACT の相対的なベネフィットは、I期 (n=310) と比較してII期 (n=179) およびIII期 (n=86) の進行した病期において、より大きくなる傾向が確認された。(Table 3)

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、単一施設や小規模なコホートを対象とした「これまで」の報告と異なり、LACE-Bioコホートという4つの国際的ランダム化比較試験 (IALT、JBR.10、CALGB 9633、ANITA) の統合データを用いて、多施設共同の大規模な患者群においてIASLC/ATS/ERS肺腺癌分類の臨床的価値を検証した。従来の予後解析のみに焦点を当てた研究と対照的に、術後補助化学療法 (ACT) の治療効果予測因子としての有用性を詳細に評価している点が大きく異なる。

新規性: 本研究で初めて、微小乳頭状 (MIP) または充実性 (SOL) 優位の組織学的サブタイプを持つ患者が、術後補助化学療法 (ACT) から有意な無病生存期間 (DFS) および疾患特異的無病生存期間 (SDFS) の延長効果を得られることを新規に明らかにした。これは、肺腺癌の組織学的亜型が単なる予後因子にとどまらず、治療選択を決定するための予測因子になり得ることを示した「これまで報告されていない」画期的な知見である。

臨床応用: 本知見の臨床応用として、完全切除後の早期肺腺癌患者における術後補助化学療法の適応決定の精密化が挙げられる。特に、現行のガイドラインでは ACT の適応が推奨されない、あるいは判断が分かれる病期I期の患者において、MIPやSOL成分が優位な症例に対して積極的に ACT を導入するなどの個別化治療戦略が可能となる。このように、病理診断に基づくサブタイプ分類は、臨床現場における治療方針決定を強力に支援する臨床的有用性を持つ。

残された課題: 今後の課題として、全生存期間 (OS) における治療効果とサブタイプの交互作用が有意水準に達しなかった点が挙げられる。これは、イベント数の不足や非がん関連死による希釈効果が原因と考えられ、より長期の追跡データを用いた検証が必要である。また、試験間における交互作用の異質性が一部に認められたことも残された課題であり、特にANITA試験除外後に異質性が消失した理由について、今後の検討が必要である。さらに、本研究は1枚の代表的な組織スライドを用いて再分類を行っており、腫瘍全体の異質性を完全に反映できていない可能性があることも limitation として挙げられる。

方法

本研究は、LACE-Bio共同研究コホートに含まれる非小細胞肺癌患者1,766例のうち、元の診断が腺癌であった725例を対象とした。このうち、病理組織スライドが利用可能であり、かつ再分類に耐えうる品質を保っていた629例について、IASLC/ATS/ERS分類の共著者でもある2名の独立した病理医がヘマトキシリン・エオジン (HE) 染色スライドのブラインドレビューを行い、組織学的サブタイプを再分類した。不一致例については、共同でのコンセンサスレビューにより最終診断を確定した。

組織学的サブタイプは、腫瘍内で最も優位な (面積比が最大の) 成長パターンに基づいて、LEP、ACN、PAP、MIP、SOLの5つに分類された。統計学的解析の検出力を担保するため、これらの5つのサブタイプは、既報の予後傾向に基づいて3つのグループ、すなわちLEP群、ACN/PAP群、およびMIP/SOL群に統合された。

主要エンドポイントである primary endpoint は全生存期間である OS (overall survival) とし、副次エンドポイントは無病生存期間である DFS (disease-free survival) および疾患特異的無病生存期間である SDFS (specific disease-free survival) とした。SDFSでは、がん非関連死亡 (治療毒性による死亡など) は死亡日に打ち切り (censor) とした。

本解析に含まれる臨床試験は、いずれも完全切除後の非小細胞肺癌を対象とした第III相試験 (phase III RCT) であり、JBR.10試験 (NCT00002583) や CALGB 9633試験 (NCT00002852) などの登録データが含まれている。統計解析にはSASソフトウェア (version 9.2) を使用し、生存曲線の比較には Kaplan-Meier 法および log-rank test を用いた。予後価値の評価は、手術単独の観察群 (n=293) を対象に、年齢、性別、リンパ節転移状況 (N0、N1、N2)、腫瘍径 (T1、T2、T3-4)、手術術式、および WHO PS (World Health Organization performance status) を共変数とした多変量コックス比例ハザードモデルである Cox proportional hazards model を用いて実施し、臨床試験で層別化した。ACTの治療効果予測価値の評価には、治療 (ACT vs 観察) と組織学的サブタイプ (ACN/PAP vs MIP/SOL) の交互作用項をモデルに含めて検定した。プール解析における有意水準はp<0.01に設定された。なお、本研究は既存の臨床試験データのプール解析であるため、個別の新規 sample size calculation は実施せず、利用可能なすべての適格症例を解析対象とした。