• 著者: Ready N, Hellmann MD, Awad MM, Otterson GA, Gutierrez M, Gainor JF, Borghaei H, Jolivet J, Horn L, Mates M, Brahmer J, Rabinowitz I, Reddy PS, Chesney J, Orcutt J, Spigel DR, Reck M, O’Byrne KJ, Paz-Ares L, Hu W, Zerba K, Li X, Lestini B, Geese WJ, Szustakowski JD, Green G, Chang H, Ramalingam SS
  • Corresponding author: Neal Ready, MD, PhD, Duke University Medical Center
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-02-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30785829

背景

進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療において、免疫チェックポイント阻害剤の使用が近年増加している。特に、PD-1阻害剤であるニボルマブ (nivolumab) やCTLA-4阻害剤であるイピリムマブ (ipilimumab) の併用療法は、黒色腫や腎細胞癌において有効性が示されておりLarkin et al. NEnglJMed 2015、NSCLCにおいても有望な治療選択肢として期待されているHellmann et al. LancetOncol 2017。しかし、NSCLCにおける初回治療としてのニボルマブと低用量イピリムマブ併用療法の有効性および安全性に関する大規模なデータは依然として不足している。

免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を予測するためのバイオマーカーの探索は、個別化医療の実現に向けて重要な課題である。PD-L1 (programmed death ligand 1) 発現は、免疫療法の反応性を予測する主要な因子の一つとして広く認識されており、PD-L1高発現患者では単剤療法や併用療法で高い奏効率が報告されているReck et al. NEnglJMed 2016。しかし、PD-L1発現が低い患者においても免疫療法が奏効するケースが存在するため、PD-L1単独では十分な予測因子とは言えない。

近年、腫瘍変異負荷 (TMB: tumor mutational burden) が新たなバイオマーカーとして注目されている。TMBは、腫瘍ゲノム中の体細胞変異の総数を指し、TMBが高い腫瘍ではネオアンチゲンが多く産生され、免疫原性が高まることで免疫チェックポイント阻害剤への反応性が向上すると考えられているRizvi et al. Science 2015。CheckMate 026試験では、初回治療としてのニボルマブ単剤療法において、TMB高値の患者で無増悪生存期間 (PFS) の延長が示唆されたCarbone et al. NEnglJMed 2017。また、CheckMate 012試験のレトロスペクティブ解析では、ニボルマブとイピリムマブの併用療法において、TMB高値が客観的奏効率 (ORR) およびPFSの改善と関連することが報告されているHellmann et al. CancerCell 2018。さらに、TMBは多様な癌腫において免疫療法への反応性を予測する独立した因子であることが示されているGoodman et al. MolCancerTher 2017

しかし、TMBの最適なカットオフ値や、PD-L1発現とTMBの相互作用がニボルマブとイピリムマブの併用療法に与える影響については、まだ未解明な点が多く、大規模な前向き試験での検証が不足している。特に、TMBがPD-L1発現レベルにかかわらず独立した予測因子となり得るか、また、特定のTMBカットオフ値が臨床的意義を持つかどうかの確立が求められている。これらの知識ギャップを埋めることは、進行NSCLC患者に対する最適な初回免疫療法戦略を確立するために不可欠である。本研究は、この重要な課題に取り組むことを目的とした。

目的

本研究の目的は、CheckMate 568試験において、進行非小細胞肺癌に対する初回治療としてのニボルマブと低用量イピリムマブの併用療法の有効性および安全性を評価することである。さらに、PD-L1発現と腫瘍変異負荷 (TMB) がこの併用療法のバイオマーカーとしてどのように関連するかを詳細に解析し、特にTMBの臨床的に意義のあるカットオフ値を特定することを目的とした。これにより、PD-L1発現レベルにかかわらず、TMBが治療反応性および無増悪生存期間に与える影響を明らかにすることを意図している。本研究の結果は、CheckMate 227試験におけるTMBカットオフ値の事前定義および検証の根拠となることを目指した。最終的に、これらのバイオマーカーに基づく個別化された治療戦略の可能性を探ることを目的とした。

結果

患者背景と治療の概要: 288名の患者が治療を受け、PD-L1発現評価には252名 (88%) が利用可能であった。そのうち138名 (55%) がPD-L1発現1%以上、114名 (45%) が1%未満であった。TMB評価には120名の患者が利用可能であり、98名 (82%) で成功した結果が得られた。TMB評価可能患者のうち、50名 (51%) がTMB 10 mut/Mb未満、48名 (49%) がTMB 10 mut/Mb以上であった。PD-L1発現とTMBの間には有意な相関は認められなかった (Appendix Fig A3)。患者のベースライン特性は、全治療患者、PD-L1評価可能患者、TMB評価可能患者間で概ね一貫していた (Table 1)。治療期間中央値は4.0ヶ月であり、ニボルマブの投与回数中央値は8.5回、イピリムマブは3.0回であった。PD-L1発現1%以上の患者では、PD-L1発現1%未満の患者と比較して、治療期間中央値が長かった (5.7ヶ月 vs 2.8ヶ月)。

客観的奏効率 (ORR): 全体でのORRは30% (95% CI 24.6-35.5) であった (Table 2)。PD-L1発現1%以上の患者ではORRが41% (95% CI 33.0-50.0) であり、PD-L1発現1%未満の患者では15% (95% CI 8.9-22.8) であった。TMB評価可能集団において、ORRはTMBが高いほど増加し、10 mut/Mb以上でプラトーに達した (Table 3)。TMBが10 mut/Mb以上の患者ではORRが44% (95% CI 29.5-58.8) に達し、TMBが10 mut/Mb未満の患者では12% (95% CI 4.2-33.7) であった。TMB 10 mut/Mb以上の患者では、PD-L1発現レベルにかかわらず高いORRが観察された (PD-L1 1%以上で42%、PD-L1 1%未満で47%)。ROC解析では、TMBがニボルマブとイピリムマブ併用療法のORR予測において情報価値のある分類器である可能性が示された (AUC 0.73, 95% CI 0.62-0.84) (Fig 1B)。PD-L1発現によるROC曲線 (AUC 0.70, 95% CI 0.63-0.77) とTMBのROC曲線はオーバーラップしていた (Fig 1A)。

進行の自由生存期間 (PFS): 全治療患者におけるPFS中央値は4.2ヶ月 (95% CI 3.0-5.6) であった (Appendix Fig A5)。PD-L1発現1%以上の患者ではPFS中央値が6.8ヶ月 (95% CI 4.0-11.3) であり、PD-L1発現1%未満の患者では2.8ヶ月 (95% CI 2.1-4.0) であった (Fig 2A)。TMBが10 mut/Mb以上の患者では、PFS中央値が7.1ヶ月 (95% CI 3.6-11.3) と、TMBが10 mut/Mb未満の患者の2.6ヶ月 (95% CI 1.4-5.4) と比較して有意に延長した (Fig 2B)。ハザード比 (HR) はTMB 10 mut/Mb以上群 vs TMB 10 mut/Mb未満群で0.60 (95% CI 0.40-0.90, p=0.012) であった。6ヶ月時点でのPFS率は、TMB 10 mut/Mb以上群で55%、TMB 10 mut/Mb未満群で31%であった。PD-L1発現レベルにかかわらず、TMB 10 mut/Mb以上の患者ではPFSが有意に延長する傾向が認められた。

全生存期間 (OS): 本解析時点では、OSのデータは成熟していなかったため、中央値は算出されなかった。しかし、TMB 10 mut/Mb以上の患者では、TMB 10 mut/Mb未満の患者と比較して、長期的な生存ベネフィットが期待される傾向が示唆された。これは、CheckMate 227試験においてTMB高値患者でニボルマブとイピリムマブ併用療法がプラチナ製剤ベースの化学療法と比較して有意なPFS延長を示した結果Hellmann et al. NEnglJMed 2018と一致する。

安全性: 治療関連有害事象 (TRAEs) は80%の患者で報告され、グレード3-4のTRAEsは29%の患者で発生した (Table 4)。TRAEsによる治療中止は16%の患者で発生し、グレード3-4のTRAEsによる中止は9%であった。最も頻繁に報告されたTRAEs (いずれかのグレード) は疲労 (24.7%)、下痢 (22.9%)、掻痒 (15.6%) であった。最も一般的なグレード3-4のTRAEsはリパーゼ増加 (6.6%) および消化管毒性 (5%) であった。治療関連死は4件報告された。これらは心臓不整脈、肺炎、低酸素症、および免疫介在性肝炎に起因するものであった。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、進行NSCLCに対する初回治療としてのニボルマブと低用量イピリムマブ併用療法の有効性および安全性を評価し、PD-L1発現とTMBが独立したバイオマーカーとして機能することを示した。これまでの研究、例えばCheckMate 012試験では、TMB高値が有効性と関連することが示唆されていたがHellmann et al. LancetOncol 2017、本研究はTMBが10 mut/Mbのカットオフで奏効率がプラトーに達することを初めて示した点で、先行研究と異なる知見を提供している。また、PD-L1発現レベルにかかわらずTMB 10 mut/Mb以上で有効性が向上するという結果は、両バイオマーカーの独立した予測的価値を強調するものである。この知見は、CheckMate 227試験でTMB 10 mut/Mb以上の患者においてニボルマブとイピリムマブ併用療法が化学療法と比較して有意なPFS延長 (HR 0.58, 97.5% CI 0.41-0.81, p=0.0002) を示したことで検証されたHellmann et al. NEnglJMed 2018

新規性: 本研究で初めて、TMB 10 mut/Mbという特定のカットオフ値が、進行NSCLC患者におけるニボルマブとイピリムマブ併用療法の奏効率およびPFSの改善と強く関連することを示した。このTMBカットオフ値は、PD-L1発現レベルに関係なく有効性予測に有用であることが示唆され、CheckMate 227試験におけるTMBのコプライマリーエンドポイント解析の根拠として採用された。これは、TMBが臨床的に有用なバイオマーカーとして確立される上で新規かつ重要な知見である。TMBの分類性能を評価するROC解析において、AUCが0.73 (95% CI 0.62-0.84) であったことも、TMBが情報価値のある分類器であることを裏付けている。

臨床応用: 本知見は、進行NSCLC患者における初回治療としてのニボルマブとイピリムマブ併用療法の臨床応用において重要な意義を持つ。TMB 10 mut/Mb以上というカットオフ値を用いることで、治療効果が期待できる患者をより正確に選択し、個別化された治療戦略を構築できる可能性がある。これにより、効果的な治療を早期に提供し、不必要な治療による毒性を回避することが可能となる。FoundationOne CDxアッセイのようなNGSベースのTMB評価は、複数のマーカーを単一の組織検体で評価できるため、日常的な診断ワークアップへのTMB組み込みの実現可能性を高める。TMBの評価コストの低下も、その普及を後押しすると考えられる。

残された課題: 今後の研究課題として、TMBの評価方法の標準化と、異なるアッセイ間でのTMB値の比較可能性を検証する必要がある。本研究は単群の第II相試験であるため、より大規模なランダム化比較試験において、TMBとPD-L1発現の相互作用や、他の臨床的・ゲノム的因子との組み合わせによる予測モデルの構築が求められる。また、本研究ではOSデータが未成熟であったため、長期的な生存アウトカムに関するデータも引き続き収集し、TMBカットオフ値の妥当性をさらに確認する必要がある。さらに、TMBが低い患者群における治療戦略の最適化も重要な検討課題である。

方法

本研究は、オープンラベルの第II相単群試験 (NCT02659059) であり、2016年2月から2016年11月にかけて米国およびカナダの施設で実施された。対象患者は、未治療の再発Stage IIIBまたはStage IVの進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者288名であった。主要な適格基準として、RECIST version 1.1に基づく測定可能病変、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) Performance Status 0または1、および標的療法感受性遺伝子変異 (EGFR変異またはALK転座) がないことが含まれた。以前の局所進行疾患に対する化学放射線療法は、最終治療から6ヶ月以上経過していれば許容された。また、活動性自己免疫疾患や未治療のCNS転移を有する患者は除外された。

患者は、ニボルマブ3 mg/kgを2週間ごとに、イピリムマブ1 mg/kgを6週間ごとに、最長2年間、または病勢進行もしくは許容できない毒性が生じるまで静脈内投与された。主要評価項目は、盲検下独立中央判定 (BICR) によるRECIST v1.1に基づく客観的奏効率 (ORR) であり、PD-L1発現が1%以上および1%未満の患者群で評価された。副次評価項目には、ORR、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、およびTMBに基づく有効性が含まれた。探索的評価項目として、安全性および忍容性が評価された。

PD-L1発現は、研究治療前に新鮮またはアーカイブされた腫瘍生検検体を用いて、中央検査室 (Agilent Technologies/Dako PD-L1 immunohistochemistry 28-8 pharmDx test) で評価された。TMB解析は、プロトコル改訂後に副次評価項目として追加された。TMBは、FoundationOne CDxプラットフォーム (Foundation Medicine, Cambridge, MA) を用いた次世代シーケンシング (NGS) により、324遺伝子における体細胞性コーディング領域の塩基置換および短い挿入・欠失 (indel) の数をメガベースあたりの変異数 (mut/Mb) として定義された。TMBの評価には、PD-L1検査後に十分な腫瘍組織が残存する患者が対象とされた。TMBの計算は、以前に定義された方法Chalmers et al. GenomeMed 2017に従って実施された。

腫瘍評価は、初回投与後6週間ごと (±7日) に48週目まで、その後は12週間ごと (±7日) にBICRによる病勢進行が確認されるまで実施された。有害事象 (AEs) は、米国国立がん研究所のCommon Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) version 4.0を用いてグレード分類された。

統計解析では、ORRは二項応答率とその95%正確信頼区間 (CI) をClopper-Pearson法を用いて要約された。PFSの時間-イベント分布はKaplan-Meier法を用いて推定され、ハザード比 (HR) はCox比例ハザードモデルを用いて算出された。TMBのORR分類性能を評価するために、ノンパラメトリックな受信者操作特性 (ROC) 曲線解析が用いられ、曲線下面積 (AUC) が推定された。TMBのカットオフ値10 mut/Mbにおける真陽性率 (TPF: true positive fraction) と偽陽性率 (FPF: false positive fraction) は、2,000回のブートストラップ複製を用いて推定された。