- 著者: Boyer M, Sendur MAN, Rodriguez-Abreu D, Park K, Lee DH, Cicin I, Yumuk PF, Orlandi FJ, Leal TA, Molinier O, Soparattanapaisarn N, Langleben A, Califano R, Medgyasszay B, Hsia TC, Otterson GA, Xu L, Piperdi B, Samkari A, Reck M
- Corresponding author: Michael Boyer, MBBS, PhD (Chris O’Brien Lifehouse and University of Sydney, Australia)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-01-29
- Article種別: Original Article
- PMID: 33513313
背景
転移性非小細胞肺がん (NSCLC) において、PD-L1腫瘍細胞比率 (TPS) が50%以上の患者に対する一次治療として、抗PD-1抗体であるペムブロリズマブ単剤療法は標準治療として確立されている。これは、KEYNOTE-024試験において、ペムブロリズマブがプラチナ製剤併用化学療法と比較して全生存期間 (OS) を有意に改善したこと (HR 0.63) に基づくものである Reck et al. NEnglJMed 2016。また、KEYNOTE-042試験でも同様の有効性が確認されている Mok et al. Lancet 2019。しかし、この集団においても約半数の患者が2年以内に死亡しており、さらなる治療効果の向上が求められていた。
一方、抗CTLA-4抗体であるイピリムマブは、ペムブロリズマブとは異なる作用機序を持つ免疫チェックポイント阻害薬である。抗PD-1抗体と抗CTLA-4抗体の併用療法は、進行悪性黒色腫や腎細胞がんにおいて、単剤療法と比較してOSを改善することが示されている Larkin et al. NEnglJMed 2015 Wolchok et al. NEnglJMed 2017。NSCLCにおいても、ニボルマブとイピリムマブの併用療法は、PD-L1発現レベルが1%以上の患者においてプラチナ製剤併用化学療法と比較してOSを改善することが報告されている (CheckMate 227試験) Hellmann et al. NEnglJMed 2019。これらの結果から、ペムブロリズマブにイピリムマブを上乗せすることで、PD-L1高発現NSCLC患者における有効性がさらに向上する可能性が理論的に期待された。
しかし、PD-L1高発現という、既に抗PD-1単剤療法に対して高い応答性を示す集団において、イピリムマブの追加がさらなる上乗せ効果をもたらすか否かは未解明であった。抗PD-1療法が既に十分な免疫活性化を誘導している場合、CTLA-4阻害薬の追加による免疫活性化の余地が少ない可能性も考えられた。この重要な臨床的ギャップを埋めるため、ペムブロリズマブ単剤療法に対するイピリムマブ併用療法の優越性を検証する無作為化二重盲検第III相試験であるKEYNOTE-598が計画された。本試験は、PD-L1高発現NSCLCの一次治療における最適な免疫療法戦略を確立する上で、重要な知見を提供するものと期待されたが、この領域におけるデュアル免疫チェックポイント阻害の有効性に関するデータは不足していた。
目的
本KEYNOTE-598試験の目的は、PD-L1 TPSが50%以上であり、かつEGFRまたはALK遺伝子変異陰性の未治療転移性NSCLC患者を対象として、ペムブロリズマブ単剤療法に対するペムブロリズマブとイピリムマブの併用療法の優越性を検証することであった。主要評価項目として、全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) の改善が設定された。本研究は、この特定の患者集団において、イピリムマブの追加が有効性プロファイルにどのような影響を与えるかを評価することを目的とした。具体的には、ペムブロリズマブ単剤療法と比較して、併用療法がOSおよびPFSを統計学的に有意に延長するかどうかを明らかにすることを目指した。また、副次評価項目として、客観的奏効率 (ORR) および奏効期間 (DOR) の評価、ならびに両治療群における安全性プロファイルの比較も含まれた。
結果
患者背景と治療曝露: 2018年1月12日から2019年8月22日の間に、24カ国137施設から合計568名の患者が無作為に割り付けられた (ペムブロリズマブ+イピリムマブ群 n=284、ペムブロリズマブ+プラセボ群 n=284)。両群間でベースラインの患者背景および疾患特性は概ね均衡がとれていた (Table 1)。追跡期間中央値は20.6ヶ月であった。ペムブロリズマブの治療期間中央値は、併用群で6.3ヶ月 (範囲 0.03-25.1ヶ月) であったのに対し、プラセボ群では9.7ヶ月 (範囲 0.03-25.8ヶ月) であった (Appendix Table A2)。イピリムマブまたはプラセボの治療期間中央値は、それぞれ5.6ヶ月 (範囲 0.03-25.1ヶ月) と8.8ヶ月 (範囲 0.03-25.8ヶ月) であった。併用群では、30.9%の患者が有害事象により両薬剤の投与を中止したのに対し、プラセボ群では17.1%であった。
全生存期間 (OS) の評価: 主要評価項目であるOSにおいて、ペムブロリズマブ+イピリムマブ群のOS中央値は21.4ヶ月 (95% CI 16.6-NR) であったのに対し、ペムブロリズマブ+プラセボ群では21.9ヶ月 (95% CI 18.0-NR) であった。ハザード比 (HR) は1.08 (95% CI 0.85-1.37, P=0.74) であり、統計学的に有意な差は認められなかった (Figure 2A)。12ヶ月OS率は、併用群で63.6%、プラセボ群で67.9%であった。eDSMCは、この結果に基づき、無益性のため試験中止を勧告した。サブグループ解析においても、年齢、性別、組織型など、いずれのサブグループにおいてもイピリムマブ上乗せによるOSの改善は認められなかった (Figure 2B)。
無増悪生存期間 (PFS) の評価: もう一つの主要評価項目であるPFSにおいても、ペムブロリズマブ+イピリムマブ群のPFS中央値は8.2ヶ月 (95% CI 6.0-10.5ヶ月) であったのに対し、ペムブロリズマブ+プラセボ群では8.4ヶ月 (95% CI 6.3-10.5ヶ月) であった。ハザード比 (HR) は1.06 (95% CI 0.86-1.30, P=0.72) であり、OSと同様に有意な差は認められなかった (Figure 2C)。12ヶ月PFS率は、併用群で41.3%、プラセボ群で42.1%であった。サブグループ解析でもPFSの改善は認められなかった (Figure 2D)。
客観的奏効率 (ORR) および奏効期間 (DOR) の評価: 確認されたORRは、両治療群ともに45.4% (95% CI 39.5-51.4) であった (Table 2)。完全奏効 (CR) は、併用群で4.6%、プラセボ群で2.8%の患者に認められた。部分奏効 (PR) は、それぞれ40.8%と42.6%であった。奏効までの期間中央値は両群ともに2.1ヶ月であった。奏効期間中央値は、ペムブロリズマブ+イピリムマブ群で16.1ヶ月 (範囲 1.1+〜26.0ヶ月) であったのに対し、ペムブロリズマブ+プラセボ群では17.3ヶ月 (範囲 2.0+〜29.4+ヶ月) であり、有効性指標においてイピリムマブ上乗せによる優位性は認められなかった (Appendix Figure A1)。
安全性プロファイルの比較: 有害事象 (AE) の発生率は、ペムブロリズマブ+イピリムマブ群で96.5% (n=282)、ペムブロリズマブ+プラセボ群で93.6% (n=281) であった。重篤なAEは、併用群で51.4%、プラセボ群で38.4%の患者に発生した。Grade 3-5のAEは、併用群で62.4%であったのに対し、プラセボ群では50.2%と有意に高かった。AEによる治療中止は、併用群で30.9%、プラセボ群で17.1%であった。Grade 5のAE (死亡) は、併用群で13.1%、プラセボ群で7.5%の患者に発生した。治療関連死は、ペムブロリズマブ+イピリムマブ群で7例 (2.5%) 報告された (心筋炎2例、副腎不全1例、胆汁うっ滞性黄疸1例、疾患進行1例、リンパ球性下垂体炎1例、肺炎1例) のに対し、ペムブロリズマブ+プラセボ群では0例であった。
免疫関連AE (irAE) は、併用群で44.7% (Grade ≥3 irAEは20.2%)、プラセボ群で32.4% (Grade ≥3 irAEは7.8%) の患者に発生した。6名の患者 (2.1%) が併用群でirAEにより死亡したが、プラセボ群では認められなかった。最も頻繁に報告されたirAEは、甲状腺機能低下症、肺炎、甲状腺機能亢進症、大腸炎であった。特に、肺炎 (任意グレードおよびGrade ≥3) および大腸炎 (任意グレードおよびGrade ≥3) の発生率は、併用群で有意に高かった (Figure 3)。その他の高頻度AEとして、下痢、掻痒症、食欲減退が併用群で多く、咳がプラセボ群で多かった (Table 3)。
考察/結論
KEYNOTE-598第III相試験は、PD-L1 TPSが50%以上の未治療転移性NSCLC患者において、ペムブロリズマブ単剤療法に対するイピリムマブ併用療法の優越性を検証することを目的とした。本研究の結果、ペムブロリズマブ+イピリムマブ併用療法は、OS中央値が21.4ヶ月 vs 21.9ヶ月 (HR 1.08; 95% CI 0.85-1.37, P=0.74) およびPFS中央値が8.2ヶ月 vs 8.4ヶ月 (HR 1.06; 95% CI 0.86-1.30, P=0.72) のいずれにおいても、ペムブロリズマブ単剤療法と比較して統計学的に有意な改善を示さなかった。この結果に基づき、外部データ安全性モニタリング委員会 (eDSMC) の勧告により、無益性のため試験は中止された。
先行研究との違い: 本試験の結果は、ニボルマブとイピリムマブの併用療法がPD-L1発現レベル1%以上のNSCLC患者においてOSを改善したCheckMate 227試験の結果とは対照的である Hellmann et al. NEnglJMed 2019。本試験のペムブロリズマブ+プラセボ群で観察された有効性は、KEYNOTE-024試験およびKEYNOTE-042試験におけるペムブロリズマブ単剤療法の結果と一貫しており、ペムブロリズマブ単剤療法がPD-L1高発現集団において既に高い有効性を示していることを再確認した。このことから、PD-L1高発現NSCLCでは、抗PD-1療法単剤が既に十分な免疫応答を活性化しており、CTLA-4阻害薬の追加による免疫活性化の「余地」が少ない可能性が考えられる。
新規性: 本研究は、PD-L1高発現の未治療転移性NSCLC患者において、ペムブロリズマブ単剤療法にイピリムマブを追加しても有効性が改善せず、むしろ毒性が増大することを明確に示した点で新規性がある。特に、Grade 3-5の有害事象が併用群で62.4%に対し単剤群で50.2%と有意に増加し、治療関連死が併用群で7例報告されたことは、イピリムマブ上乗せが無益であるだけでなく、患者に不必要なリスクを負わせることを示唆している。これは、PD-L1高発現集団におけるデュアル免疫チェックポイント阻害の有効性に関する、これまで報告されていない重要な知見である。
臨床応用: 本知見は、PD-L1高発現NSCLCの一次治療における臨床応用において重要な含意を持つ。現在の標準治療であるペムブロリズマブ単剤療法にイピリムマブを追加する意義がないことが示されたため、この患者集団においてデュアル免疫チェックポイント阻害療法を推奨する根拠は存在しない。臨床現場では、PD-L1 TPSが50%以上の患者に対しては、引き続きペムブロリズマブ単剤療法が最適な一次治療選択肢であると考えられる。
残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。本試験はPD-L1 TPSが50%以上の患者に限定されており、PD-L1低発現または陰性の患者における併用療法の役割は評価されていない。また、本試験の設計時には、ペムブロリズマブと化学療法の併用療法 (例えば Gandhi et al. NEnglJMed 2018 や Paz-Ares et al. NEnglJMed 2018 で報告されたもの) がPD-L1高発現患者においても有効であるというデータは限られていた。今後の検討課題として、PD-L1発現レベルが低い患者集団や、他の免疫療法との併用戦略、あるいはバイオマーカーに基づくさらなる層別化の可能性を評価する研究が必要である。
方法
本研究は、国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験 (KEYNOTE-598、ClinicalTrials.gov識別子: NCT03302234) として実施された。対象患者は、18歳以上の組織学的または細胞学的に確認されたステージIVのNSCLC患者で、PD-L1 TPSが50%以上 (PD-L1 IHC 22C3 pharmDxアッセイにより中央検査室で評価)、EGFRまたはALK遺伝子変異陰性、ECOGパフォーマンスステータス0または1、およびRECIST version 1.1に基づく測定可能病変を1つ以上有する患者であった。既治療の転移性NSCLC患者、未治療のCNS転移、過去2年以内に全身治療を要する活動性自己免疫疾患、全身性ステロイドを要する非感染性肺炎の既往、試験治療前2週間以内の放射線治療、または試験治療前6ヶ月以内に肺に30Gyを超える放射線治療を受けた患者は除外された。
合計568名の患者が1:1の比率で無作為に2群に割り付けられた。一方の群 (n=284) はペムブロリズマブ200mgを3週間に1回静脈内投与し、イピリムマブ1mg/kgを6週間に1回静脈内投与する併用療法を受けた。もう一方の群 (n=284) はペムブロリズマブ200mgを3週間に1回静脈内投与し、イピリムマブの代わりにプラセボを6週間に1回静脈内投与する単剤療法を受けた。治療は最大35サイクル (約2年間) 継続された。無作為化は、ECOGパフォーマンスステータス (0 vs 1)、地理的地域 (東アジア vs 東アジア以外)、および主要な組織型 (扁平上皮 vs 非扁平上皮) によって層別化された。
主要評価項目はOSおよびPFSであり、副次評価項目はORR、奏効期間 (DOR)、および安全性であった。PFS、ORR、およびDORは、盲検下独立中央画像判定委員会 (BICR) によりRECIST version 1.1に基づいて評価された Eisenhauer et al. EurJCancer 2009。有害事象はNCI-CTCAE version 4.0に従って評価された。OS、PFS、およびDORの推定にはカプラン・マイヤー法が用いられ、群間差は層別ログランク検定により評価された。ハザード比 (HR) は層別Cox比例ハザードモデルを用いて推定された。本試験は、PFSのHR 0.69 (片側p=0.006) およびOSのHR 0.70 (片側p=0.019) を検出するために十分な検出力を持つように設計された。最初の主要な中間解析は、約255件の死亡イベントが発生した時点で実施された。この中間解析において、外部データ安全性モニタリング委員会 (eDSMC) は、非拘束的な無益性基準に基づき、試験中止を勧告した。