- 著者: Hamada C, Tsuboi M, Ohta M, Fujimura S, Kodama K, Imaizumi M, Wada H, Nagahiro I, Goya T, Kato H
- Corresponding author: Chikuma Hamada, PhD (Faculty of Engineering, Tokyo University of Science, Tokyo, Japan)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2009
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 19875974
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) における術後補助化学療法としてのtegafur-uracil (UFT) は、日本人集団を対象とした複数のランダム化比較試験において、術後Stage I NSCLC(主にStage IB)患者の生存期間を改善することが示されてきた。2005年に実施されたUFT補助療法に関するメタアナリシスでは、Stage I患者における全生存期間 (OS) のハザード比 (HR) が0.74 (95% CI 0.61-0.88, p=0.011) と有意な改善が報告されている Hamada et al. JClinOncol 2005。しかし、AJCC第7版TNM分類の改訂により、Stage IAはT1a (腫瘍径 ≤ 2 cm) とT1b (腫瘍径 > 2 cm かつ ≤ 3 cm) に細分化された。腫瘍径が極めて小さいT1a症例では、外科的切除のみで良好な長期生存が得られるため、補助療法のベネフィットとリスクのバランスが問題となっていた。特に、T1aとT1bのサブグループ別にUFT補助療法がOSに与える影響を明確に示したデータは不足しており、「腫瘍径が極めて小さいT1a症例にまで術後UFTを投与する必要があるか」という臨床的に重要な問いに対するエビデンスが未解明であった。欧米のプラチナ製剤ベースの補助化学療法に関するメタアナリシスでは、Stage IA患者においてOS改善が認められず、むしろ死亡リスクが増加する傾向が示唆された報告もある Pignon et al. JClinOncol 2008。また、日本の大規模臨床試験であるJapan Lung Cancer Research Group on Postsurgical Adjuvant Chemotherapy (JLCRG) 試験のサブグループ解析においても、T1病変患者におけるUFTの有効性は明確に示されておらず、T1b病変患者で改善傾向が示唆されたものの、T1a病変患者ではその傾向は認められなかった Kato et al. NEnglJMed 2004。このため、日本人集団におけるUFT補助療法のStage IAサブグループ、特にT1aとT1bにおける有効性を詳細に評価する必要があった。
目的
本研究の目的は、UFT (tegafur-uracil) 術後補助療法を検討した日本人集団のランダム化比較試験6件の個人データを集積し、Stage IA NSCLC患者をT1a (腫瘍径 ≤ 2 cm) とT1b (腫瘍径 > 2 cm かつ ≤ 3 cm) に細分化して、補助UFT療法の有無が全生存期間 (OS) に与える影響を探索的に評価することである。これにより、UFT補助療法の最適な適応患者群を特定し、臨床ガイドラインの策定に資するエビデンスを提供することを目指した。
結果
T1b (腫瘍径 > 2 cm かつ ≤ 3 cm) 患者におけるOS解析: T1b腫瘍を有する患者群 (n=599) において、UFT術後補助療法は全生存期間を有意に改善した。UFT群の5年OS率は88%であったのに対し、観察群では82%であり、6%ポイントの絶対的な改善が認められた。ハザード比 (HR) は0.62 (95% CI 0.42-0.90, p=0.011) であり、UFT群で死亡リスクが統計学的に有意に38%減少することが示された (Figure 1B, Figure 2B)。この結果は、T1b NSCLC患者に対するUFT補助療法の明確な生存利益を示唆する。サブグループ解析では、年齢 (<70歳 vs ≥70歳)、性別 (男性 vs 女性)、組織型 (腺癌 vs 扁平上皮癌) のいずれにおいても、T1b患者ではUFT群で一貫して生存率が良好な傾向が認められた (Table 3)。例えば、T1bの腺癌患者では、UFT群の死亡イベント数が33/266であったのに対し、観察群では58/266であり、HR 0.54 (95% CI 0.35-0.83) と有意な改善が認められた。
T1a (腫瘍径 ≤ 2 cm) 患者におけるOS解析: T1a腫瘍を有する患者群 (n=670) では、UFT術後補助療法による全生存期間の有意な改善は認められなかった。UFT群の5年OS率は87%であったのに対し、観察群では85%であり、2%ポイントの差に留まった。ハザード比 (HR) は0.84 (95% CI 0.58-1.23, p=0.37) であり、HRは1を下回るものの、統計学的な有意差は確認されなかった (Figure 1A, Figure 2A)。この結果は、T1a NSCLC患者においてはUFT補助療法による明確なOS利益が認められないことを示唆する。T1a患者のサブグループ解析においても、年齢、性別、組織型にかかわらず、UFT群と観察群の間で統計学的に有意な生存率の差は認められなかった (Table 3)。例えば、T1aの腺癌患者では、UFT群の死亡イベント数が40/307であったのに対し、観察群では50/311であり、HR 0.83 (95% CI 0.55-1.26) であった。
治療効果とT1サブグループ間の交互作用検定: T1aとT1bサブグループ間における治療効果の交互作用検定の結果、P値は0.30であり、統計学的に有意な交互作用は検出されなかった。しかし、T1b群のHR 0.62とT1a群のHR 0.84という点推定値の乖離は、方向性として臨床的に意義深い差異を示唆している。
安全性プロファイル: 本メタアナリシスに含まれる6件の試験において、UFT治療に関連するGrade 3以上の重篤な有害事象の発生率は極めて低く、治療関連死は0%であった。これは、UFTが低用量経口剤であり、プラチナ製剤ベースの化学療法と比較して毒性プロファイルが有利であることを示している。JLCRG試験では、UFT群におけるGrade 3以上の有害事象の発生率はわずか2%であったことが報告されている。
考察/結論
本探索的メタアナリシスは、Stage IA NSCLC患者において、術後補助UFT (tegafur-uracil) 療法がT1b (腫瘍径 > 2 cm かつ ≤ 3 cm) 腫瘍を有する患者の全生存期間を有意に改善することを本研究で初めて示した。具体的には、T1b群では5年OS率が82%から88%へ改善し、死亡リスクが約40%減少した (HR 0.62, 95% CI 0.42-0.90, p=0.011)。一方、T1a (腫瘍径 ≤ 2 cm) 腫瘍を有する患者では、UFTによる有意なOS利益は認められなかった (HR 0.84, 95% CI 0.58-1.23, p=0.37)。
先行研究との違い: 欧米のプラチナ製剤ベースの補助化学療法に関するメタアナリシス Pignon et al. JClinOncol 2008 では、Stage IA患者においてOS改善が認められず、むしろ死亡リスクが増加する傾向が示唆されたのと異なり、本研究のUFTはT1b患者において明確な生存利益を示した。この違いは、UFTの低毒性プロファイルに起因すると考えられる。UFTは治療関連死が0%であり、Grade 3以上の有害事象も極めて稀であったのに対し、プラチナ製剤ベースの化学療法では0.5%から3.1%の治療関連死亡率が報告されている Douillard et al. LancetOncol 2006、Arriagada et al. NEnglJMed 2004、Winton et al. NEnglJMed 2005。
新規性: 本研究は、AJCC第7版TNM分類のT1aとT1bという新しいサブ分類を用いて、UFT補助療法の有効性を詳細に評価した新規な知見を提供する。特に、腫瘍径2cmを境に補助療法のベネフィットが異なる可能性を示唆した点は、これまで報告されていない重要な発見である。この知見は、腫瘍径が抗癌剤への反応性に影響を与える可能性を示唆する。
臨床応用: 本知見は、Stage IA NSCLC患者に対する術後補助UFT療法の臨床応用において重要な臨床的意義を持つ。T1b腫瘍 (>2cm〜3cm) を有する患者にはUFT補助療法が推奨されるべきである一方、T1a腫瘍 (≤2cm) を有する患者では、外科的完全切除のみで5年OS率が85〜87%と良好な予後が得られるため、UFT投与に伴う費用、副作用、患者負担を考慮すると、一律の補助療法は推奨されないという臨床現場での判断を支持する。この「腫瘍径2cm」という境界は、術後補助療法の適応を検討する際の重要なカットポイントとして位置づけられる。本試験の知見は、その後の日本臨床腫瘍学会 (JSCO) やJCOGガイドラインにおいて、術後UFT補助療法の適応をT1b以上 (腫瘍径 > 2 cm) のStage IAに限定する根拠として参照された。
残された課題: 本研究のlimitationとして、探索的解析であること、および疾患特異的生存期間 (DFS) のデータが利用できなかった点が挙げられる。DFSデータがあれば、OS改善が再発抑制によるものかをより明確に示せた可能性がある。また、T1a群における統計的検出力の限界から、HR 0.84という結果が「利益がない」ことを完全に証明するものではない。今後の検討課題として、T1a患者におけるUFTの長期的な影響や、特定のバイオマーカーに基づく層別化解析が必要である。さらに、腺癌患者の割合が90.6%と高かったため、扁平上皮癌患者におけるUFTの有効性については今後の研究が求められる。
方法
本研究は、日本人Stage IA NSCLC患者を対象としたUFT (tegafur-uracil) 術後補助療法のランダム化比較試験 (RCT) 6件の個人データを用いた探索的メタアナリシスとして実施された。対象となった試験は、West Japan Study Group for Lung Cancer Surgery (WJSG) 第2相試験、WJSG第4相試験 Nakagawa et al. AnnOncol 2005、Northeast Japan Study Group for Lung Cancer Surgery試験、Osaka Lung Cancer Study Group (OLCSG) 試験、Adjuvant Chemotherapy for Lung Cancer Study Group (ACTLC) 試験、およびJapan Lung Cancer Research Group on Postsurgical Adjuvant Chemotherapy (JLCRG) 試験 Kato et al. NEnglJMed 2004である。これらの試験は1985年から1997年の期間に実施され、合計2003名の患者が登録された。本解析では、病理学的T1N0M0 (Stage IA) の患者1269名が対象とされた。これらの患者は、AJCC第7版TNM分類に基づき、T1a (腫瘍径 ≤ 2 cm) 群 (n=670) とT1b (腫瘍径 > 2 cm かつ ≤ 3 cm) 群 (n=599) に分類された。
主要評価項目は全生存期間 (OS) と定義された。各サブグループにおいて、UFT群と観察群のOSを比較するため、Cox比例ハザードモデルを用いてハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI)、およびP値を算出した。生存曲線はKaplan-Meier法により推定され、群間比較にはログランク検定を用いた。また、治療効果とT1サブグループ間の交互作用検定も実施した。主要な予後因子 (年齢、性別、組織型) のベースライン特性は、UFT群と観察群間でt検定およびχ²検定を用いて比較された。治療関連死を含むGrade 3以上の有害事象の発生率も評価された。統計解析は、両側P値が0.05未満を有意と判断する基準で実施された。