- 著者: Wakelee HA, Dahlberg SE, Keller SM, Tester WJ, Gandara DR, Graziano SL, Adjei AA, Leighl NB, Aisner SC, Rothman JM, Patel JD, Sborov MD, McDermott SR, Perez-Soler R, Traynor AM, Butts C, Evans T, Shafqat A, Chapman AE, Kasbari SS, Horn L, Ramalingam SS, Schiller JH
- Corresponding author: Heather A. Wakelee, MD (Stanford Cancer Institute, Stanford University, Stanford, CA, USA)
- 雑誌: Lancet Oncology
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-11-09
- Article種別: Original Article
- PMID: 29129443
背景
完全切除後の早期非小細胞肺癌(NSCLC)に対するシスプラチンをベースとした術後補助化学療法は、標準治療としての地位を確立している。大規模な臨床試験である Arriagada et al. NEnglJMed 2004 や Winton et al. NEnglJMed 2005、さらに Douillard et al. LancetOncol 2006 などの結果から、術後補助化学療法は生存期間の有意な改善をもたらすことが示されてきた。メタアナリシスである Pignon et al. JClinOncol 2008 においても、シスプラチン併用療法による5年生存率の絶対改善効果は4~5%程度(HR 0.86)と報告されている。しかしながら、術後補助化学療法を施行したとしても依然として多くの患者が再発を経験しており、さらなる治療成績の向上が求められている。
一方、進行期NSCLCにおいては、抗VEGF(vascular endothelial growth factor:血管内皮増殖因子)抗体であるベバシズマブをカルボプラチンおよびパクリタキセルに上乗せすることで、全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)が有意に改善することが Sandler et al. NEnglJMed 2006 により実証された。この進行期における成功に基づき、完全切除後の早期NSCLC患者に対しても、術後補助化学療法にベバシズマブを追加することで同様の生存ベネフィットが得られるのではないかという仮説が立てられた。しかし、早期肺癌の術後補助療法における血管新生阻害薬の追加効果や安全性については、これまで十分に検証されておらず、その有用性は未解明であった。特に、術後補助療法という治癒を目指す設定において、長期にわたるベバシズマブ投与がもたらす毒性と生存ベネフィットのバランスに関するデータは極めて不足している。この臨床的課題を解決するため、ECOG-ACRIN (Eastern Cooperative Oncology Group-American College of Radiology Imaging Network) は、完全切除後早期NSCLC患者を対象に、シスプラチン系術後補助化学療法へのベバシズマブ追加効果を検証する第3相ランダム化比較試験(E1505、NCT00324805)を計画した。進行期での有効性と異なり、早期がん設定での抗血管新生療法の有効性は確立されていないため、本試験の実施は臨床的に重要であった。
目的
本研究(E1505試験)の主な目的は、完全に切除されたStage IB(腫瘍径4cm以上)からIIIAの非小細胞肺癌(NSCLC)患者において、標準的なシスプラチン系術後補助化学療法(医師の選択による4つのレジメン:ビノレルビン、ドセタキセル、ゲムシタビン、ペメトレキセドのいずれか)にベバシズマブ(15mg/kg、3週ごと、最長1年間)を追加投与することにより、全生存期間(OS)が有意に改善するかどうかを検証することである。副次的な目的としては、無病生存期間(DFS:disease-free survival)の評価、治療に関連する有害事象のプロファイルおよび安全性の検証、さらに治療完遂率や再発パターンの解析を行うことである。また、探索的な目的として、腫瘍組織や血液サンプルを用いたバイオマーカーであるICAM(intercellular adhesion molecule:細胞間接着分子)やVEGFなどの解析を行い、ベバシズマブの治療効果を予測する因子の同定を試みることも含まれていた。本試験は、進行期NSCLCでの有効性が確立されたベバシズマブが、早期がん設定でも同様の効果をもたらすかを検証する初の大規模試験として位置づけられた。
結果
患者背景および治療完遂状況: 2007年6月1日から2013年9月20日までに、計1501例の患者が登録され、化学療法単独群(Group A、n=749)と化学療法+ベバシズマブ併用群(Group B、n=752)にランダム化された(Figure 1)。登録患者の主な背景因子は両群間で均等に分布していた。病期分類では、Stage IBが26%(n=383)、Stage IIが44%(n=636)、Stage IIIAが30%(n=439)であった。組織型としては、扁平上皮癌が422例(28%)に含まれていた。使用されたシスプラチン併用化学療法レジメンの内訳は、ビノレルビンが25%(n=377)、ドセタキセルが23%(n=343)、ゲムシタビンが19%(n=283)、ペメトレキセドが33%(n=497)であった。治療の完遂率に関しては、化学療法単独群(Group A)では81%(599/737例)が予定された4サイクルの治療を完遂したのに対し、ベバシズマブ併用群(Group B)で1年間のプロトコル治療を完遂できた割合は37%(269/735例)にとどまった。治療中断の主な理由は有害事象であり、Group Aの8%(62/737例)に対し、Group Bでは28%(203/735例)に達した。
全生存期間におけるベバシズマブ追加効果の欠如: 主要エンドポイントである全生存期間(OS)の解析は、ITT集団を対象に実施された。中央値50.3ヶ月(IQR 32.9-68.0)の追跡期間において、死亡イベントは両群合わせて475件(Group Aで241件、Group Bで234件)発生した(Figure 2)。解析の結果、生存期間中央値は化学療法単独群(Group A)で未到達(not reached)であったのに対し、ベバシズマブ併用群(Group B)では85.8 monthsであった。両群間におけるOSのハザード比は、HR 0.99 (95% CI 0.82-1.19, p=0.90) であり、シスプラチン系術後補助化学療法へのベバシズマブ追加による生存期間の改善効果は認められなかった。適格患者のみを対象とした感度分析においても、OSのハザード比は HR 1.00 (95% CI 0.82-1.22, p=0.99) と同様の結果であった。
無病生存期間および再発パターンの解析: 副次エンドポイントである無病生存期間(DFS)についても、両群間で有意な差は認められなかった(Figure 4)。DFSイベントはGroup Aで360件、Group Bで364件発生した。無病生存期間中央値は、化学療法単独群(Group A)で42.9 monthsであったのに対し、ベバシズマブ併用群(Group B)では40.6 monthsであった。DFSにおけるハザード比は、HR 0.99 (95% CI 0.86-1.15, p=0.95) であり、ベバシズマブの追加は再発リスクの低減に寄与しなかった。再発が確認された607例のうち、342例(57%)で生検が実施された。主な再発部位は、肺が37%(n=299)、中枢神経系(CNS)が15%(n=122)、リンパ節または皮下が16%(n=126)、骨が14%(n=113)であり、複数部位への再発も認められた。
サブグループ解析における治療効果の均一性: 病期、組織型、性別、年齢、PSなどの各種サブグループにおける解析結果は、全体解析と一貫してベバシズマブの追加効果を示さなかった(Figure 3, Figure 5)。しかし、化学療法レジメン別の探索的解析においては、シスプラチン+ペメトレキセドの投与を受けた非扁平上皮癌患者のサブグループにおいて、DFSのハザード比が HR 0.72 (95% CI 0.55-0.94, p=0.016) となり、ベバシズマブ追加群で良好な傾向が示された。一方で、シスプラチン+ビノレルビン群におけるDFSのハザード比は HR 1.37 (95% CI 1.02-1.86, p=0.037) であり、むしろベバシズマブ追加群で不良な傾向がみられた。ただし、ペメトレキセドレジメンは試験開始2年後にプロトコル改訂により追加されたため、追跡期間中央値が40.6ヶ月と他のレジメン(ビノレルビン群:54.3ヶ月、ドセタキセル群:60.3ヶ月)に比べて短く、これらの結果は未成熟なデータに基づくものであり、解釈には慎重を要する。
ベバシズマブ追加に伴う毒性の有意な増加: 安全性評価対象となった1473例(Group A、n=738;Group B、n=735)において、Grade 3~5の有害事象(すべての因果関係を含む)の発生率は、化学療法単独群(Group A)の67%(n=496)に対し、ベバシズマブ併用群(Group B)では83%(n=610)と有意に高率であった。特に、ベバシズマブ関連の毒性である高血圧(Grade 3~5)は、Group Aの8%(n=60)に対し、Group Bでは30%(n=219)と著明に増加していた(p<0.001)。また、Grade 3~5の好中球減少症もGroup Aの33%(n=241)に対し、Group Bでは37%(n=275)とやや高頻度であった。治療期間中の死亡はGroup Aで15例、Group Bで19例報告され、このうち治療との因果関係が否定できないと判断された治療関連死は、Group Aで3例(血栓塞栓症、脳卒中、敗血症)であったのに対し、Group Bでは10例(多臓器不全、発熱性好中球減少症、心筋梗塞、肺出血など)とベバシズマブ併用群で多く認められた。
考察/結論
本研究(E1505試験)は、完全切除後の早期非小細胞肺癌(NSCLC)患者に対するシスプラチン系術後補助化学療法へのベバシズマブ追加が、全生存期間(OS)および無病生存期間(DFS)のいずれも改善しないことを大規模な第3相試験によって実証した。
先行研究との違い: 進行期NSCLCにおいてベバシズマブの追加が生存ベネフィットをもたらした Sandler et al. NEnglJMed 2006 の結果と異なり、術後補助療法という早期がんの設定においては、抗血管新生療法の追加が再発抑制や生存期間延長に寄与しないことが明らかとなった。この結果は、大腸がんや乳がん、悪性黒色腫などの他のがん種における術後補助療法でのベバシズマブの検証試験がことごとく陰性であったことと整合しており、微小転移病変に対する抗血管新生療法の限界を示唆している。進行期での有効性が必ずしも早期がん設定に外挿できないことが、本試験により明確に示された。
新規性: 本研究は、完全切除後の早期NSCLCにおいて、シスプラチンをベースとする4つの代表的な第3世代併用化学療法レジメンへのベバシズマブ追加効果を、1500例を超える大規模コホートにおいて本研究で初めて検証した。これにより、早期NSCLCの術後補助療法におけるベバシズマブの併用は、生存ベネフィットをもたらさない一方で、Grade 3以上の高血圧(30% vs 8%)や治療関連死(10例 vs 3例)などの重篤な毒性を有意に増加させ、治療完遂率を著しく低下させる(37% vs 81%)という不利益のみをもたらすことが明確に示された。この知見は、進行期での成功が必ずしも早期がん設定での有効性を保証しないことを示す重要な教訓である。
臨床応用: 本試験の結果が持つ臨床的意義は極めて大きい。これにより、完全切除後早期NSCLC患者に対する術後補助療法としてのベバシズマブの使用は推奨されないことが確定し、臨床現場における不要な毒性の回避と医療資源の適正化に直結した。シスプラチンをベースとした4サイクルの術後補助化学療法が依然として標準治療であり、安易に進行期の治療開発を早期がん設定に外挿すべきではないという重要な教訓を与えた。本試験の中央値生存期間85.8ヶ月は、過去の ANITA 試験(65.7ヶ月)を上回っており、これは患者選択の改善、より多くの治療選択肢の利用可能性、および支持療法の進歩を反映している。
残された課題: 本研究における残された課題および limitation としては、ベバシズマブの治療効果を予測するための有効なバイオマーカーが同定されていない点が挙げられる。腫瘍組織や血液サンプルを用いたバイオマーカー解析(ICAM、VEGF など)は現在も進行中であり、特定のベネフィットを享受できる患者サブグループが存在するかどうかについては、今後の検討が必要である。また、ペメトレキセド併用群で見られたDFS改善傾向(HR 0.72)の真偽についても、さらなる検証が求められる。現在、早期NSCLCの完全切除後における術後補助療法においては、免疫チェックポイント阻害薬(nivolumab、pembrolizumab、atezolizumab)やEGFR阻害薬などの分子標的薬の有用性が確立されつつあり、これらの新規治療薬と従来の化学療法との最適な組み合わせや個別化医療の確立が、今後の研究における重要な方向性となる。本試験の長期追跡データは継続中であり、10年間の生存追跡により、さらなる知見が得られる可能性がある。
方法
本試験(E1505、NCT00324805)は、米国、カナダ、アイルランドの多施設が参加した、オープンラベル、共同グループ主導の第3相ランダム化比較試験である。対象患者は、AJCC (American Joint Committee on Cancer) 第6版に基づき完全に切除されたStage IB(4cm以上)、II、またはIIIAのNSCLC患者であり、術後6~12週以内で、ECOGパフォーマンスステータス(PS:performance status)が0または1の18歳以上の成人とした。また、適切な縦隔リンパ節サンプリングが実施されていることを必須要件とした。扁平上皮癌の患者も、完全切除後であれば出血リスクが許容されると判断され、登録可能とされた。
登録された患者は、ランダム化の前にあらかじめ予定されるシスプラチン併用化学療法レジメンを選択された。化学療法レジメンは、シスプラチン(75mg/m²、day 1)に加えて、以下の第3世代抗がん剤のいずれかを組み合わせた3週ごとの4サイクル投与とした:ビノレルビン(30mg/m²、day 1および8)、ドセタキセル(75mg/m²、day 1)、ゲムシタビン(1200mg/m²、day 1および8)、またはペメトレキセド(500mg/m²、day 1、非扁平上皮癌のみ、2009年のプロトコル改訂により追加)。
患者は、化学療法単独群(Group A)または化学療法+ベバシズマブ併用群(Group B)に1:1の割合で中央ランダム化された。ランダム化は、予定された化学療法レジメン、病期、組織型、および性別によって層別化された。Group Bの患者は、化学療法の第1サイクルからベバシズマブ(15mg/kg)を3週ごとに静脈内投与され、化学療法終了後も単剤で最長1年間(計17サイクル)継続投与された。
主要エンドポイントは意図した治療(ITT:intention-to-treat)集団における全生存期間(OS)であり、副次エンドポイントは無病生存期間(DFS)および安全性とした。生存期間の推定にはKaplan-Meier法を用い、治療群間の比較には層別log-rank検定およびCox regression(コックス比例ハザードモデル)を用いてハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出した。本試験は、OSにおけるハザード比0.79(片側有意水準2.5%、検出力85%)を検出するように設計され、最終解析には676件の死亡イベントが必要とされた。中央値50.3ヶ月(IQR 32.9-68.0)の追跡期間において、475件の死亡イベント(全体の70%)が発生し、独立データ安全性監視委員会の推奨により最終解析が実施された。