• 著者: Luis Paz-Ares, Tudor-Eliade Ciuleanu, Manuel Cobo, Michael Schenker, Bogdan Zurawski, Juliana Menezes, Eduardo Richardet, Jaafar Bennouna, Enriqueta Felip, Oscar Juan-Vidal, Aurelia Alexandru, Hiroshi Sakai, Alejo Lingua, Pamela Salman, Pierre-Jean Souquet, Pedro De Marchi, Claudio Martin, Maurice Pérol, Arnaud Scherpereel, Shun Lu, Thomas John, David P Carbone, Stephanie Meadows-Shropshire, Shruti Agrawal, Abderrahim Oukessou, Jinchun Yan, Martin Reck
  • Corresponding author: Luis Paz-Ares (Hospital Universitario 12 de Octubre, CNIO-H12o Lung Cancer Unit, Universidad Complutense & CiberOnc, Madrid, Spain)
  • 雑誌: Lancet Oncology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-01-18
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33476593

背景

ドライバー遺伝子変異を持たない進行非小細胞肺がん (NSCLC) の一次治療において、近年、免疫チェックポイント阻害薬を基盤とした複数の治療選択肢が確立されてきた。具体的には、抗PD-1/PD-L1抗体単剤療法(例: Reck et al. NEnglJMed 2016Mok et al. Lancet 2019)、PD-1/PD-L1阻害薬と化学療法の併用療法(例: Gandhi et al. NEnglJMed 2018Paz-Ares et al. NEnglJMed 2018Socinski et al. NEnglJMed 2018West et al. LancetOncol 2019)、あるいはニボルマブ(抗PD-1抗体)とイピリムマブ(抗CTLA-4抗体)の二重免疫療法(Hellmann et al. NEnglJMed 2019)などが標準治療として利用可能である。

しかしながら、これらの治療法の中でも、特に免疫チェックポイント阻害薬単独療法や、化学療法を併用しない免疫療法のみのレジメンでは、治療開始後数週間の疾患コントロールが不十分な患者が存在し、腫瘍負荷が大きい症例では急速な疾患進行のリスクが未解明な課題として残されている。ニボルマブとイピリムマブは、それぞれ異なるが相補的な作用機序を持つ免疫チェックポイント阻害薬である。イピリムマブはT細胞の増殖を誘導し、新たな抗腫瘍T細胞応答を活性化する一方、ニボルマブは既存の抗腫瘍T細胞の機能を回復させる。CheckMate 227試験では、ニボルマブとイピリムマブの併用療法が、進行NSCLC患者において長期的な奏効と全生存期間(OS)の改善を示すことが報告された(Hellmann et al. NEnglJMed 2019)。

本研究は、短期間(2サイクル)の化学療法を併用することで、治療初期の迅速な疾患制御を達成しつつ、ニボルマブとイピリムマブによる二重免疫療法の長期持続的な効果を最大限に引き出すという仮説に基づいている。この戦略は、化学療法による毒性を最小限に抑えながら、免疫療法の効果を増強する可能性を秘めている。これまでの研究では、化学療法が免疫システムを介して抗腫瘍効果を発揮し、免疫療法の活性を高める可能性が示唆されているが、その効果が相加的であるか相乗的であるか、あるいは患者間のばらつきによるものかは不明な点も多い。本試験は、この3剤併用療法(ニボルマブ+イピリムマブ+2サイクル化学療法)と、標準的な4サイクル化学療法単独を比較した初の第3相無作為化オープンラベル試験であり、この領域における重要な知識ギャップを埋めることを目指した。

目的

本研究の主要な目的は、治療歴のない進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者(PD-L1発現レベルや組織型を問わない)に対し、ニボルマブとイピリムマブに短期間(2サイクル)の化学療法を併用する治療法が、標準的な4サイクル化学療法単独と比較して、全生存期間(OS)を有意に延長するかどうかを検証することである。

副次的な目的としては、盲検下独立中央判定(BICR)による無増悪生存期間(PFS)の改善、客観的奏効率(ORR)の向上、および各治療群における安全性プロファイルの評価が含まれる。さらに、PD-L1発現レベルや組織型、特定の患者サブグループ(例:脳転移患者)における治療効果の一貫性を評価することも目的とした。本研究は、この新規3剤併用レジメンの有効性と安全性を包括的に評価し、進行NSCLCの一次治療における新たな選択肢としての位置付けを確立することを目指した。

結果

患者背景: 2017年8月24日から2019年1月30日までに1150例が登録され、719例が無作為化された(実験群361例、対照群358例)。患者背景は両群間でバランスが取れていた(Table 1)。年齢中央値は65歳、男性が約70%、ECOG PS 1が約68%を占めた。扁平上皮がんが31%、非扁平上皮がんが69%であった。PD-L1発現は、<1%が39-40%、≥1%が60-61%、≥50%が22-29%であった。肝転移は19-24%、骨転移は27-31%、CNS転移は16-18%の患者に認められた。実験群の99%および対照群の97%が治療を開始した。

主要評価項目(全生存期間): 事前規定された中間解析(追跡期間中央値9.7ヶ月)において、実験群は対照群と比較して全生存期間(OS)を有意に延長した。OS中央値は実験群で14.1ヶ月(95% CI 13.2-16.2)に対し、対照群では10.7ヶ月(9.5-12.4)であった。層別化ハザード比(HR)は0.69(96.71% CI 0.55-0.87, p=0.00065)であり、事前規定された優越性の境界(p<0.033)を満たし、主要評価項目を達成した(Figure 2A)。

延長追跡期間における主要評価項目: 中央値13.2ヶ月(IQR 6.4-17.0)の延長追跡期間において、OSの改善はさらに顕著であった。OS中央値は実験群で15.6ヶ月(95% CI 13.9-20.0)に対し、対照群では10.9ヶ月(9.5-12.6)であった。層別化HRは0.66(95% CI 0.55-0.80)であり、12ヶ月時点のOS率は実験群で63%(95% CI 57.7-67.6)に対し、対照群では47%(41.6-51.9)であった(Figure 2B)。

副次評価項目(無増悪生存期間および客観的奏効率): 中間解析において、無増悪生存期間(PFS)も実験群で有意に延長された。PFS中央値は実験群で6.8ヶ月(95% CI 5.6-7.7)に対し、対照群では5.0ヶ月(4.3-5.6)であった(HR 0.70, 97.48% CI 0.57-0.86, p=0.00012)。客観的奏効率(ORR)は実験群で37.7%(95% CI 32.7-42.9)に対し、対照群では25.1%(20.7-30.0)であり、有意な差が認められた(p=0.00030)。延長追跡期間においても、PFS中央値は実験群で6.7ヶ月(95% CI 5.6-7.8) vs 対照群で5.0ヶ月(4.3-5.6)であり(HR 0.68, 95% CI 0.57-0.82)、ORRも実験群で38.2%(95% CI 33.2-43.5) vs 対照群で24.9%(20.5-29.7)と、同様の傾向が維持された(Table 2)。奏効期間中央値は実験群で11.3ヶ月(95% CI 8.5-未到達)に対し、対照群では5.6ヶ月(4.4-7.5)であった。

サブグループ解析: OSの改善効果は、ほとんどの事前規定されたサブグループで実験群に有利な傾向を示した(HR<1)(Figure 3)。組織型別では、扁平上皮がんでHR 0.62(95% CI 0.45-0.86)、非扁平上皮がんでHR 0.69(95% CI 0.55-0.87)と、組織型を問わず効果が認められた(Figure 4C, D)。PD-L1発現レベル別では、<1%でHR 0.62(95% CI 0.45-0.85)、≥1%でHR 0.64(95% CI 0.50-0.82)、≥50%でHR 0.66(95% CI 0.44-0.99)と、発現レベルによらず一貫した効果が示された(Figure 4A, B)。特に、CNS転移を有する患者においてもHR 0.38(95% CI 0.24-0.60)と効果が維持される傾向が示された。一方で、非喫煙者ではHR 1.14(95% CI 0.66-1.97)、75歳以上の高齢者ではHR 1.21(95% CI 0.69-2.12)、肝転移を有する患者ではHR 0.83(95% CI 0.57-1.20)と、効果が相対的に限定的である可能性が示唆された。

安全性プロファイル: グレード3-4の治療関連有害事象(TRAE)は、実験群で168例(47%)に対し、対照群で132例(38%)に発生した(Table 3)。最も一般的なグレード3-4 TRAEは、好中球減少症(実験群7% vs 対照群9%)、貧血(6% vs 14%)、下痢(4% vs 1%)、リパーゼ上昇(6% vs 1%)、無力症(1% vs 2%)であった。重篤なTRAEは実験群で106例(30%)に対し、対照群で62例(18%)と、実験群で多く認められた。治療関連死は、実験群で7例(2%)、対照群で6例(2%)であった。実験群の治療関連死の内訳は、急性腎不全、下痢、肝毒性、肝炎、肺臓炎、敗血症合併急性腎不全、血小板減少症(各1例)であった。対照群の治療関連死の内訳は、貧血、発熱性好中球減少症、汎血球減少症、肺敗血症、呼吸不全、敗血症(各1例)であった。新たな安全性シグナルは報告されなかった。治療中止に至ったTRAEは、実験群で69例(19%)に対し、対照群で26例(7%)であった。化学療法に典型的に関連する有害事象(貧血、好中球減少症、血小板減少症など)は、実験群で対照群よりも低頻度で発生した。これは、実験群における化学療法期間が短いことに起因すると考えられる。

考察/結論

CheckMate 9LA試験は、短期化学療法(2サイクル)とニボルマブ+イピリムマブの二重免疫療法を組み合わせたレジメンが、長期化学療法単独と比較して、進行NSCLC患者の全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)、および客観的奏効率(ORR)をいずれも有意に改善することを示した画期的な第3相試験である。

新規性: 本研究で初めて、PD-L1発現レベルや組織型を問わず、この3剤併用短期化学療法レジメンがOSを改善することが示された。特に、化学療法の暴露を最小限に抑えつつ、免疫療法の長期持続効果を最大限に活用するという戦略の有効性が検証された点は新規性が高い。また、これまで治療が困難であったCNS転移を有する患者においても効果が維持されることが示された点も重要である。

先行研究との違い: 本研究のレジメンは、Gandhi et al. NEnglJMed 2018Paz-Ares et al. NEnglJMed 2018試験で採用されたペムブロリズマブと4-6サイクルの化学療法、および維持療法を組み合わせるアプローチとは異なり、「短期化学療法」というコンセプトを採用している。これにより、化学療法による血液毒性(貧血など)は対照群と比較して減少しており、重篤な有害事象の発生率は実験群で高い(30% vs 18%)ものの、リスク-ベネフィットのバランスは有利であると判断された。

臨床応用: 本結果は、ニボルマブ+イピリムマブ+2サイクル化学療法という3剤併用短期化学療法レジメンが、進行NSCLCの一次治療における新たな選択肢となることを強く支持する。特に、化学療法の毒性を最小限に抑えたい患者、迅速な疾患制御が必要な患者、扁平上皮NSCLC患者、およびPD-L1低発現例において、このレジメンは魅力的な選択肢となる。本レジメンは、米国、欧州、日本を含む複数の国で既に承認されている。

残された課題: 本研究にはいくつかの限界も存在する。第一に、非喫煙者や75歳以上の高齢者において、治療効果が相対的に限定的である傾向が示された点である。これらのサブグループは患者数が少なく、層別化因子ではなかったため、結果の解釈には注意が必要である。第二に、QOLや患者報告アウトカムに関するデータは本報告には含まれておらず、別途報告される予定である。第三に、ペムブロリズマブ+化学療法のような他の確立された免疫化学療法レジメンとの直接比較試験は実施されていない。第四に、肝転移を有する症例での効果が相対的に弱い傾向が認められた。今後の検討課題として、腫瘍変異負荷(TMB)などのバイオマーカー解析による治療効果予測、PD-L1陰性例や肉腫様成分などの特殊な病型に対する治療の最適化、および長期的な免疫関連有害事象(irAE)を含む毒性プロファイルのさらなる把握が重要である。

方法

本研究は、19ヶ国103施設で実施された国際共同、無作為化、オープンラベルの第3相臨床試験である(NCT03215706)。

患者選択: 登録対象は18歳以上、治療歴のない病期IVまたは再発性の扁平上皮がんまたは非扁平上皮がんのNSCLC患者(Goldstraw et al. JThoracOncol 2007に基づく)、ECOGパフォーマンスステータス0-1であった。EGFR遺伝子変異およびALK転座陽性例は除外された。既治療の脳転移患者は、治療後2週間以上安定しており、神経学的所見がベースラインに戻っていれば(CNS治療に関連する残存症状を除く)登録可能であった。

無作為化と層別化: 患者は、インタラクティブウェブ応答システムを介して1:1の比率で無作為に割り付けられた。層別化因子は、腫瘍組織型(扁平上皮がん vs 非扁平上皮がん)、性別、およびPD-L1発現レベル(<1% vs ≥1%)であった。PD-L1発現が評価不能な患者(全無作為化患者の最大10%)は、PD-L1発現<1%群に層別化された。

治療レジメン:

  • 実験群: ニボルマブ 360 mg(3週ごと静脈内投与)とイピリムマブ 1 mg/kg(6週ごと静脈内投与)に、組織型に応じたプラチナ併用化学療法を2サイクル併用した。扁平上皮がん患者にはカルボプラチン(AUC 6)+パクリタキセル(200 mg/m²)が、非扁平上皮がん患者にはカルボプラチン(AUC 5または6)+ペメトレキセド(500 mg/m²)またはシスプラチン(75 mg/m²)+ペメトレキセド(500 mg/m²)が投与された。ニボルマブとイピリムマブは、疾患進行、許容できない毒性、またはプロトコル完了(2年間)まで継続された。
  • 対照群: 組織型に応じたプラチナ併用化学療法を4サイクル投与した。非扁平上皮がん患者では、疾患進行または許容できない毒性までペメトレキセド維持療法が許容された(実験群では維持療法は許可されなかった)。

評価項目: 主要評価項目は、全無作為化患者における全生存期間(OS)であった。階層的副次評価項目は、盲検下独立中央判定(BICR)による無増悪生存期間(PFS)および客観的奏効率(ORR)であった。その他の副次評価項目には、PD-L1発現レベル別のOS、PFS、ORRが含まれた。腫瘍変異負荷(TMB)による有効性データおよび患者報告アウトカム(PRO)は、本報告の解析時点では完全には利用できなかったため、別途報告される予定である。

安全性評価: 有害事象は、NCI Common Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)バージョン4.0に基づき、ベースラインから治療中、および治療中止後100日以内まで継続的に評価された。

統計解析: OSの主要評価項目について、約700例の無作為化患者と402例の死亡イベントを想定し、ハザード比(HR)0.75を検出する80%以上の検出力を確保するように設計された。中間解析(2019年10月3日)では351例の死亡が確認され、優越性を宣言するためのp値の境界は0.033未満と設定された。OSで優越性が示された場合、PFSおよびORRは階層的に統計的検定が行われた。OSのハザード比と信頼区間は、治療群を単一の共変量とする層別Cox比例ハザードモデルを用いて推定された。Kaplan-Meier法により生存曲線と生存率が推定された。ORRは層別Cochran-Mantel-Haenszel検定を用いて比較された。