• 著者: Roy S. Herbst, Giuseppe Giaccone, Filippo de Marinis, Niels Reinmuth, Alain Vergnenegre, Carlos H. Barrios, Masahiro Morise, Enriqueta Felip, Zoran Andric, Sarayut Geater, Mustafa Özgüroğlu, Wei Zou, Alan Sandler, Ida Enquist, Kimberly Komatsubara, Yu Deng, Hiroshi Kuriki, Xiaohui Wen, Mark McCleland, Simonetta Mocci, Jacek Jassem, David R. Spigel
  • Corresponding author: Roy S. Herbst (Yale Cancer Center, New Haven, CT, USA)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-09-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32997907

背景

進行非小細胞肺がん (NSCLC) の初回治療において、PD-1/PD-L1阻害薬は急速に標準治療としての地位を確立してきた。これには、PD-L1腫瘍細胞比率 (TPS) ≥50%の患者に対するpembrolizumab単剤療法 (KEYNOTE-024試験; Reck et al. NEnglJMed 2016)、pembrolizumabと化学療法の併用療法 (KEYNOTE-189/407試験; Gandhi et al. NEnglJMed 2018, Paz-Ares et al. NEnglJMed 2018)、およびatezolizumabとbevacizumabおよび化学療法の併用療法 (IMpower150試験; Socinski et al. NEnglJMed 2018)などが含まれる。しかし、抗PD-L1抗体であるatezolizumab単剤が、PD-L1発現量の高い患者群において、プラチナベース化学療法と比較して初回治療としての有効性と安全性を検証する大規模なランダム化第III相試験は、これまで存在せず、その地位を確立するためのデータが不足していた。

先行研究であるOAK試験 (Rittmeyer et al. Lancet 2017)では、二次治療以降のNSCLC患者において、atezolizumab単剤がdocetaxelと比較して全生存期間 (OS) の改善を示しており、特にSP142アッセイで高いPD-L1発現を示す患者でその効果が顕著であったことが報告されている。この結果は、初回治療においてもPD-L1高発現患者に対するatezolizumab単剤療法の可能性を示唆するものであった。

また、免疫チェックポイント阻害薬の治療効果を予測するためのバイオマーカーとして、PD-L1発現の測定は重要であるが、複数のPD-L1免疫組織化学 (IHC) アッセイ (SP142、22C3、SP263) が存在し、それぞれ異なる抗体とスコアリングアルゴリズムを使用しているため、その間の比較検討や臨床的意義の明確化が課題として残されていた。さらに、血液腫瘍変異量 (bTMB) も非侵襲的な予測バイオマーカーとして注目されており、その予測的意義についてもさらなる検証が必要であった。本研究は、これらの未解明な点を明らかにし、PD-L1発現に基づいたatezolizumab単剤療法の有効性と安全性を評価することを目的とした。

目的

本研究の主要な目的は、SP142アッセイによりPD-L1陽性 (腫瘍細胞 (TC) ≥1%または免疫細胞 (IC) ≥1%) と判定されたEGFR/ALK野生型転移性NSCLC患者を対象として、atezolizumab単剤療法がプラチナベース化学療法と比較して全生存期間 (OS) において優越性を示すかを検証することである。この優越性は、PD-L1発現量に応じた階層的検定戦略を用いて評価された。具体的には、まず高PD-L1発現群 (TC≥50%またはIC≥10%) でのOSを検証し、次に高PD-L1発現群と中PD-L1発現群 (TC≥5%またはIC≥5%) を合わせた集団でのOS、最後にPD-L1発現が1%以上の全集団でのOSを順次検証する計画であった。

副次的な目的としては、無増悪生存期間 (PFS)、奏効率 (ORR)、奏効期間 (DoR) などの有効性エンドポイントを評価すること、および安全性プロファイルを比較することであった。さらに、探索的エンドポイントとして、他のPD-L1 IHCアッセイ (22C3、SP263) によるPD-L1発現とbTMBが、atezolizumabの治療効果を予測するバイオマーカーとしての役割を果たすかを評価することも目的とした。これらの解析を通じて、NSCLC初回治療におけるatezolizumab単剤療法の最適な患者選択基準を確立し、個別化医療の進展に貢献することを目指した。

結果

高PD-L1発現群におけるOSの優越性: EGFR/ALK野生型で高PD-L1発現 (SP142アッセイでTC≥50%またはIC≥10%) を有する患者205例において、atezolizumab群のOS中央値は20.2ヶ月 vs 化学療法群の13.1ヶ月であり、7.1ヶ月のOS延長が認められた (HR 0.59, 95% CI 0.40〜0.89, p=0.01) (Figure 1A)。atezolizumab群の奏効率は38.3%であり、化学療法群の28.6%と比較して高かった。また、奏効継続率はatezolizumab群で68.3%であったのに対し、化学療法群では35.7%と大幅に優れていた。高PD-L1発現群におけるPFS中央値は、atezolizumab群で8.1ヶ月 vs 化学療法群の5.0ヶ月であり、3.1ヶ月の延長が認められた (HR 0.63, 95% CI 0.45〜0.88)。

段階的検定の結果と中発現群のOS: 階層的検定の次のステップである高PD-L1発現群と中PD-L1発現群 (SP142アッセイでTC≥5%またはIC≥5%) を合わせた328例の集団では、atezolizumab群のOS中央値は18.2ヶ月 vs 化学療法群の14.9ヶ月であった (HR 0.72, 95% CI 0.52〜0.99, p=0.04) (Figure 1B)。このp値は、事前に規定されたαバウンダリー (p<0.0209) を超えたため、統計的有意差は達成されなかった。この結果により、統計解析計画に従い、PD-L1発現が1%以上の全集団 (n=554) におけるOSは形式的に検定されなかった。全集団における観察されたOS中央値は、atezolizumab群で17.5ヶ月 vs 化学療法群の14.1ヶ月であった (HR 0.83, 95% CI 0.65〜1.07) (Figure 1C)。SP142アッセイによる中低発現群 (TC<50%かつIC<10%) では、atezolizumab群のOS中央値は12.9ヶ月 vs 化学療法群の14.9ヶ月であり、HRは1.04 (95% CI 0.76〜1.44) と化学療法群で良好な傾向が示され、高PD-L1発現患者の選択の重要性が示唆された。

PD-L1測定アッセイ間の比較とbTMBの予測的意義: 22C3アッセイでTPS≥50%の患者群では、OS中央値はatezolizumab群で20.2ヶ月 vs 化学療法群の11.0ヶ月であった (HR 0.60, 95% CI 0.42〜0.86)。SP263アッセイでTC≥50%の患者群では、OS中央値はatezolizumab群で19.5ヶ月 vs 化学療法群の16.1ヶ月であった (HR 0.71, 95% CI 0.50〜1.00)。これらの結果はSP142高発現群と同様にatezolizumabの優位性を示したが、3つのアッセイ間のPD-L1発現の感度には違いがあり、SP142高発現患者の約30%のみが22C3またはSP263アッセイでTPS≥50%と重複した (Figure 2A)。bTMB評価可能な389例のうち、22.4%がbTMB≥16であった。このサブグループでは、PFS中央値はatezolizumab群で6.8ヶ月 vs 化学療法群の4.4ヶ月であり (HR 0.55, 95% CI 0.33〜0.92)、atezolizumabの顕著な恩恵が示された (Figure 3B)。bTMB≥16とSP142高発現は独立した患者集団を同定する可能性があり、相補的なバイオマーカーとして機能しうることが示唆された (Figure 3A)。

安全性プロファイル: 安全性解析は、atezolizumab群286例、化学療法群263例で実施された。atezolizumab群の治療期間中央値は5.3ヶ月であった。有害事象の発生率は、atezolizumab群で90.2%、化学療法群で94.7%であった。Grade 3または4の有害事象は、atezolizumab群で30.1%であったのに対し、化学療法群では52.5%と大幅に高頻度であった (Table 2)。化学療法群で最も頻度の高かったGrade 3または4の有害事象は、貧血 (18.3%)、好中球減少症 (17.5%)、血小板減少症 (7.2%) であった。atezolizumab群における免疫関連有害事象は40.2% (Grade 3または4は6.6%) であり、主なものは肝機能障害、皮疹、甲状腺機能低下症であった。Grade 5の有害事象は、atezolizumab群で11例 (3.8%)、化学療法群で11例 (4.2%) と両群で差はなかった。治療中止に至った患者の割合はatezolizumab群で少なく、治療継続期間中央値はatezolizumab群で5.3ヶ月、化学療法群では2.1〜3.5ヶ月であった。

考察/結論

IMpower110試験は、PD-L1高発現のEGFR/ALK野生型転移性NSCLC患者の初回治療において、抗PD-L1抗体であるatezolizumab単剤がプラチナベース化学療法と比較してOSの優越性を達成した初の第III相試験である。本研究の結果は、pembrolizumab単剤療法を評価したKEYNOTE-024試験 (Reck et al. NEnglJMed 2016)の結論と一致するが、SP142アッセイが腫瘍細胞と免疫細胞の両方のPD-L1発現を評価する点で、22C3アッセイ (腫瘍細胞のみ) とは異なる患者集団を定義する可能性があるため、アッセイ間の直接的な比較には慎重な解釈が必要である。SP142高発現患者の約30%しか22C3/SP263アッセイでTPS≥50%と重複しなかったことは、この違いを裏付けている。

先行研究と異なり、本研究はPD-L1高発現群でOS中央値が20.2ヶ月 vs 13.1ヶ月 (HR 0.59, 95% CI 0.40〜0.89, p=0.01) と有意な延長を示した。高+中発現群で統計的有意性のためのαバウンダリー (p<0.0209) を超えられなかったことは、atezolizumab単剤療法のOSにおける恩恵が高PD-L1発現群に集中することを示唆しており、PD-L1低発現患者への単剤投与の限界を明確に示した。特に、SP142アッセイによる中低発現群 (TC<50%/IC<10%) ではHR 1.04と化学療法が優位な傾向を示しており、バイオマーカー選択なしの単剤免疫療法が有害である可能性さえある。この知見は、PD-L1高発現患者でのみ明確な効果を示したKEYNOTE-042試験 (Mok et al. Lancet 2019)の結果とも整合的であり、PD-L1高発現の定義をいかに設定するかが、免疫療法の予測において決定的となることを示唆する。

本研究で初めて、atezolizumab群の奏効継続率が68.3%と化学療法群の35.7%と比較して大幅に優れていたことは、免疫療法の持続的な効果という新規性を示す重要な特徴である。また、bTMB≥16のサブグループ (22.4%) ではPFSのHRが0.55と顕著な恩恵を示し、PD-L1とは独立した予測情報を提供しうる可能性が示唆された。これは、今後の検討課題として、BFAST試験などの前向き検証を通じてOSにおける優越性を立証する必要がある。

臨床応用として、atezolizumab群のGrade 3または4の有害事象が化学療法群の52.5%に対し30.1%と大幅に少なく、骨髄抑制を伴わない毒性プロファイルは、高齢者やパフォーマンスステータスが境界域の患者においても選択しやすい利点となる。このことは、臨床現場における治療選択肢を広げる上で重要な臨床的意義を持つ。

残された課題として、異なるPD-L1 IHCアッセイ間のコンコーダンスと、それぞれの臨床的予測価値のさらなる解明が挙げられる。また、bTMBとPD-L1発現を組み合わせたバイオマーカー戦略の最適化も今後の研究方向性である。本試験は、正確なバイオマーカー選択 (SP142 PD-L1高発現) があれば、単剤免疫療法が化学療法を凌駕できることを示し、NSCLC初回治療における免疫療法の患者選択の精緻化に重要な貢献をした。

方法

本研究は、無作為化、非盲検、多施設共同、国際第III相試験 (IMpower110、NCT02409342) として、19カ国144施設で実施された。対象患者は、18歳以上、ステージIVの非扁平上皮または扁平上皮NSCLCで、RECIST v1.1で測定可能な病変を有し、ECOGパフォーマンスステータスが0または1、かつ未治療の化学療法歴がない患者であった。PD-L1発現はSP142 IHCアッセイにより、腫瘍細胞の1%以上または腫瘍浸潤免疫細胞の1%以上で陽性と定義された。当初、EGFR変異またはALK転座を有する患者も対象であったが、その後のプロトコル改訂により、これらの患者は主要解析集団から除外された (n=18)。

合計572例の患者が、atezolizumab群 (1200 mgを3週間ごとに静脈内投与、n=285) またはプラチナベース化学療法群 (4〜6サイクル、n=287) に1:1で無作為に割り付けられた。化学療法群では、非扁平上皮NSCLC患者にはシスプラチンまたはカルボプラチンとペメトレキセドが、扁平上皮NSCLC患者にはシスプラチンまたはカルボプラチンとゲムシタビンが投与された。無作為化は、性別、ECOGパフォーマンスステータス、組織型、PD-L1ステータス (SP142アッセイによるTC≥1%かつIC問わず、またはTC<1%かつIC≥1%) で層別化された。

主要エンドポイントは、EGFR/ALK野生型腫瘍患者におけるOSであった。統計解析は、全体的なタイプIエラー率を0.05に制御するため、PD-L1発現ステータスに応じた階層的検定戦略を採用した。具体的には、まず高PD-L1発現群 (SP142アッセイでTC≥50%またはIC≥10%) でOSを検定し、統計的有意性が認められた場合に、高PD-L1発現群と中PD-L1発現群 (TC≥5%またはIC≥5%) を合わせた集団でOSを検定し、さらに有意性が認められた場合に、PD-L1発現が1%以上の全集団でOSを検定する計画であった。副次エンドポイントには、治験責任医師評価によるPFS、奏効率、奏効期間が含まれた。安全性は、治験薬を投与された全ての患者で評価された。探索的エンドポイントとして、22C3アッセイおよびSP263アッセイによるPD-L1発現、および血液腫瘍変異量 (bTMB) に基づくサブグループにおけるOSおよびPFSも評価された。

腫瘍評価は、ベースライン時、その後48週間は6週間ごと、それ以降は9週間ごとに、放射線学的病勢進行または死亡まで実施された。有害事象は、NCI-CTCAE v4.0に基づき報告された。OSおよびPFSの解析には層別ログランク検定が用いられ、ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) は層別Cox回帰モデルにより推定された。OS中央値はカプラン・マイヤー法により推定された。データカットオフは2018年9月10日であり、中央値フォローアップ期間は約13〜16ヶ月であった。