- 著者: P.D. Bonomi, D. Gandara, F.R. Hirsch, K.M. Kerr, C. Obasaju, L. Paz-Ares, C. Bellomo, J.D. Bradley, P.A. Bunn Jr, M. Culligan, J.R. Jett, E.S. Kim, C.J. Langer, R.B. Natale, S. Novello, M. Perol, S.S. Ramalingam, M. Reck, C.H. Reynolds, E.F. Smit, M.A. Socinski, D.R. Spigel, J.F. Vansteenkiste, H. Wakelee, N. Thatcher
- Corresponding author: P.D. Bonomi (Rush University Medical Center, Chicago, USA)
- 雑誌: Annals of Oncology
- 発行年: 2018
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 29905778
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) の約25-30%を占める扁平上皮肺癌 (SqCLC) は、組織学的に特徴的なサブタイプであり、治療反応性や毒性において腺癌などの他のNSCLCサブタイプとは異なる挙動を示すことが知られている。SqCLC患者は高齢で進行期に診断されることが多く、併存疾患の頻度も高いため、効果的な治療選択肢が限られており、アンメットメディカルニーズが高い。例えば、ベバシズマブ、ニンテダニブ、ペメトレキセドといったNSCLC治療薬は、SqCLC患者では有効性が低く、あるいは毒性が高いため禁忌とされている。このような背景から、SqCLCに対する新規治療法の開発と、その効果を予測するバイオマーカーの同定が喫緊の課題である。
上皮成長因子受容体 (EGFR) は、肺癌において発現亢進や異常な活性化が認められることから、NSCLCの重要な治療標的として注目されてきた Hirsch et al. J Clin Oncol 2003。EGFRを標的とする治療薬には、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) とEGFR標的モノクローナル抗体 (mAb) が存在する。EGFR TKIは、EGFR遺伝子変異陽性のNSCLC患者に対して一次治療として推奨されるが、SqCLCにおけるEGFR活性化変異の頻度は4%未満と極めて稀であるため、EGFR TKIはSqCLCの大部分の患者には適さない TCGA et al. Nature 2012。一方、EGFR標的mAbであるセツキシマブ (cetuximab) やネシツムマブ (necitumumab) は、EGFRの細胞外ドメインに結合し、受容体の内在化とシグナル伝達のダウンレギュレーションを誘導する。これらの抗EGFR mAbは、SqCLC患者において化学療法との併用により、全生存期間 (OS) のわずかな延長をもたらすことが第III相臨床試験 (FLEX試験、SQUIRE試験) で示されている。しかし、その効果は限定的であり、全患者に投与するよりも、バイオマーカーを用いて治療効果の高い患者集団を選別し、治療効果を最大化し、不必要な毒性を回避することが重要である。
これまでの研究では、EGFR遺伝子コピー数、EGFR遺伝子変異、およびEGFR蛋白発現が、抗EGFR mAbに対する治療反応性を予測する潜在的なバイオマーカーとして検討されてきた Kris et al. JAMA 2014。特に、EGFR蛋白の過発現や遺伝子コピー数増加はSqCLCで高頻度に認められる現象である。しかし、これらのバイオマーカーが抗EGFR mAbと化学療法、免疫療法、または血管新生阻害薬との併用療法において、どの程度有効な予測因子となるかについては、系統的な評価が不足しており、その臨床的意義は未解明な部分が残されている。本レビューは、進行SqCLC患者に対する抗EGFR mAb併用療法の有効性予測バイオマーカーに関する既存の臨床試験データを統合し、その臨床的意義を明確にすることを目的としている。
目的
本レビューの目的は、進行NSCLC、特にSqCLCを対象としたEGFR標的モノクローナル抗体 (mAb) の第III相臨床試験の結果を系統的にレビューし、化学療法、免疫療法、および血管新生阻害薬との併用療法における有効性予測バイオマーカーを同定することである。具体的には、EGFR蛋白発現レベル (免疫組織化学 [IHC] によるH-score)、EGFR遺伝子コピー数 (蛍光in situハイブリダイゼーション [FISH] による評価)、およびEGFR/KRAS遺伝子変異が、抗EGFR mAb治療の臨床的ベネフィットを予測する上でどの程度有用であるかを評価することを目的とした。これにより、抗EGFR mAb治療から最も利益を得る患者集団を特定するための最適なバイオマーカー戦略を確立し、SqCLC患者の治療成績向上に貢献することを目指す。
結果
FLEX試験におけるEGFR H-scoreによるバイオマーカー解析: FLEX試験 (cetuximab + シスプラチン-ビノレルビン vs シスプラチン-ビノレルビン単独、未治療進行NSCLC) の後ろ向き解析では、EGFR H-score ≥ 200 (高発現群、全体の31%、n=345) の患者において、cetuximab追加によるOS改善効果が全体集団 (HR 0.87, 95% CI 0.76-1.00, p=0.04) よりも顕著であった (HR 0.73, 95% CI 0.58-0.93, p=0.011)。EGFR低発現群 (H-score < 200、n=776) ではcetuximabによるOS改善効果は認められなかった (HR 0.99)。特に、SqCLCのEGFR高発現群ではさらに大きな効果が示された (HR 0.62, 95% CI 0.43-0.88)。この結果は、EGFR蛋白高発現がcetuximabの有効性を予測するバイオマーカーとなる可能性を示唆している (Figure 1A)。
BMS099試験におけるcetuximabの有効性: BMS099試験 (cetuximab + タキサン-カルボプラチン) では、cetuximab群でORRが有意に改善した (25.7% vs 17.2%, p=0.007)。しかし、OSの有意差は得られなかった (HR 0.89, 95% CI 0.75-1.05, p < 0.1685)。PFSの改善は、事後解析でSqCLC患者集団でのみ示唆された (HR 0.70, 95% CI 0.47-1.05)。この試験ではEGFR発現や組織型による制限がなかったため、FLEX試験との結果の対比は、抗EGFR mAb治療から利益を得る患者を選択するためのバイオマーカーの必要性を強調するものであった。
SQUIRE試験におけるnecitumumabとH-scoreバイオマーカー解析: SQUIRE試験 (necitumumab + ゲムシタビン-シスプラチン vs ゲムシタビン-シスプラチン単独、未治療SqCLC) において、necitumumab群でOS中央値が有意に延長した (HR 0.84, 95% CI 0.74-0.96, p=0.01)。事前規定の探索的解析では、EGFR高発現群 (H-score ≥ 200) でnecitumumabのOS改善効果がより大きかった (HR 0.75, 95% CI 0.60-0.94)。一方、EGFR低発現群 (H-score < 200) では効果が減弱し (HR 0.90, 95% CI 0.75-1.07)、特にEGFR陰性患者 (全体の5%) ではnecitumumabによりOSが悪化する傾向が認められた (HR 1.52)。この結果に基づき、欧州医薬品庁 (EMA) はEGFR IHC陽性をnecitumumabの適応要件とした (Figure 1B)。
INSPIRE試験における組織型による効果の差異: INSPIRE試験 (necitumumab + ペメトレキセド-シスプラチン、非扁平上皮NSCLC) では、necitumumabの追加によるOSの有意な改善は認められなかった (HR 1.01, 95% CI 0.84-1.21, p=0.96)。EGFRサブグループ (H-score高/低) でも差はなく、SqCLCと非扁平上皮NSCLCの間でnecitumumabの効果に組織型による差異があることが確認された。これは、非扁平上皮NSCLCではEGFR遺伝子コピー数増加や蛋白過発現の頻度がSqCLCよりも低いことが生物学的根拠と考えられた。
EGFR FISH陽性によるバイオマーカー解析: SWOG 0819試験 (cetuximab + カルボプラチン-パクリタキセル) の探索的解析において、EGFR FISH陽性SqCLC患者 (n=55) ではcetuximab追加によりOS中央値が約5ヶ月改善した (HR 0.56, p=0.01)。特に、EGFR FISH陽性かつH-score高発現のSqCLC患者 (n=30) では、OSが7ヶ月以上改善し、さらに顕著な効果が認められた (HR 0.32, p=0.0004)。SQUIRE試験のFISH解析でも、FISH陽性群 (EGFR FISH+) でnecitumumabの有意なOS改善が認められた (12.6 vs 9.2ヶ月, HR 0.70, 95% CI 0.52-0.96)。一方、FISH陰性群では効果は認められなかった (HR 1.02)。これらの結果は、EGFR遺伝子コピー数増加が抗EGFR mAbの有効性予測バイオマーカーとして有用であることを示唆している (Figure 1C)。
EGFR遺伝子変異およびKRAS遺伝子変異の評価: BMS099試験の後ろ向き解析では、KRAS変異が17% (202例中35例)、EGFR変異が10% (166例中17例) の患者で検出された。しかし、これらの変異とcetuximabに対する治療反応性との間に有意な関連性は認められなかった。FLEX試験の後ろ向き解析でも同様の結果が報告されており、EGFR TKIとは異なり、抗EGFR mAbの有効性予測においてEGFR/KRAS遺伝子変異は主要なバイオマーカーではないことが示された。
7試験メタ解析による組織型・バイオマーカー別効果: necitumumab 2試験とcetuximab 5試験を含む7つの第III相試験のメタ解析では、抗EGFR mAbと化学療法の併用療法により、全体としてOS (HR 0.90, 95% CI 0.84-0.95)、PFS (HR 0.93, 95% CI 0.87-0.98)、ORR (OR 1.27, 95% CI 1.06-1.51) の有意な改善が確認された。サブグループ解析では、SqCLC患者 (HR 0.84, 95% CI 0.76-0.92)、EGFR高発現患者 (H-score ≥ 200, HR 0.83, 95% CI 0.70-0.98)、および喫煙者 (HR 0.87, 95% CI 0.79-0.96) で効果が大きかった。特に、SqCLCかつ高EGFR発現の複合バイオマーカー陽性集団では、最大の治療効果 (HR 0.71, 95% CI 0.59-0.86) が得られた。このメタ解析は、EGFR蛋白高発現とSqCLCという組織型が、抗EGFR mAb治療の有効性を予測する上で重要な複合バイオマーカーであることを強く支持している。
免疫療法との併用におけるバイオマーカーの現状: 免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) はNSCLC治療において急速に普及しており、抗EGFR mAbとの併用療法におけるバイオマーカーの同定が重要である。現在、PD-1/PD-L1阻害薬の有効性予測バイオマーカーとしてPD-L1発現レベルや腫瘍変異負荷 (TMB) が注目されている (Table 2)。例えば、Herbst et al. Lancet 2016 や Rittmeyer et al. Lancet 2017、Brahmer et al. NEnglJMed 2015 の各試験では、PD-L1高発現患者でICIのOS改善効果がより顕著であった。しかし、抗EGFR mAbとICIの併用療法における予測バイオマーカーに関する臨床データはまだ限られている。進行中の第Ib相試験 (NCT02451930) では、ペムブロリズマブとネシツムマブの併用療法がPD-L1選択されたステージIV NSCLC患者の二次治療として評価されており、PFS中央値は4.1ヶ月 (95% CI 2.4-6.9) であった。TMBも免疫療法の有望なバイオマーカーとして浮上しており、高TMBのNSCLC患者ではペムブロリズマブ、ニボルマブ、アテゾリズマブによるPFS延長が報告されている (例: Rizvi et al. Science 2015、Carbone et al. NEnglJMed 2017)。しかし、これらのバイオマーカーの臨床導入にはさらなる検証が必要である。
抗血管新生薬との併用におけるバイオマーカーの現状: 血管新生阻害薬もNSCLC治療において重要な役割を果たす。ベバシズマブは非扁平上皮NSCLCの一次治療として承認されているが、SqCLC患者では致死的な肺出血のリスクが高いため禁忌である (例: Sandler et al. NEnglJMed 2006、Johnson et al. JClinOncol 2004)。ラムシルマブは、ドセタキセルとの併用で転移性プラチナ抵抗性NSCLC (SqCLCを含む) の二次治療として承認されており、REVEL試験 (NCT01168973) ではOS中央値が10.5ヶ月 (95% CI 9.5-11.2) vs 9.1ヶ月 (95% CI 8.4-10.0) と有意な改善を示した。しかし、抗EGFR mAbと抗血管新生薬の併用療法における予測バイオマーカーは現在のところ確立されていない (Table 2)。この領域における堅牢なバイオマーカーデータを確立するためには、さらなる臨床試験が必要である。
考察/結論
本レビューは、進行扁平上皮肺癌 (SqCLC) 患者に対するEGFR標的モノクローナル抗体 (mAb) 治療の有効性予測バイオマーカーに関する包括的なエビデンスを整理した重要な参考文献である。複数の第III相臨床試験のサブグループ解析およびメタ解析の結果から、EGFR蛋白高発現 (H-score ≥ 200) およびEGFR遺伝子コピー数増加 (FISH陽性) が、cetuximabおよびnecitumumabと化学療法の併用療法の有効性予測バイオマーカーとして最も支持されることが示された。
先行研究との違い: これまでの研究では、抗EGFR mAbのSqCLCにおける効果は限定的であると認識されてきたが、本レビューはバイオマーカーによる患者選択が治療効果を大幅に向上させることを明確に示した点で、これまでの見解と対照的である。特に、FLEX試験におけるH-score ≥ 200のSqCLC患者ではcetuximab追加でOS HR 0.62 (95% CI 0.43-0.88)、SQUIRE試験におけるnecitumumab併用でOS HR 0.75 (95% CI 0.60-0.94) と、全体集団と比較して顕著な治療効果が認められたことは、バイオマーカーに基づく患者選択の重要性を強調する。
新規性: 本研究で初めて、EGFR蛋白高発現とEGFR遺伝子コピー数増加という2つの独立したバイオマーカーが、SqCLCにおける抗EGFR mAbの有効性を相乗的に予測する可能性が示唆された。SWOG 0819試験の解析では、FISH陽性かつH-score高発現のSqCLC患者において、cetuximab併用によるOS改善効果が最も顕著であった (HR 0.32, p=0.0004)。これは、単一のバイオマーカーよりも複合的なバイオマーカーアプローチが、治療反応性の高い患者をより正確に特定できるという新規の知見である。
臨床応用: これらの知見は、SqCLC患者に対する抗EGFR mAb治療の臨床応用において極めて重要な臨床的意義を持つ。EMAはnecitumumabの承認においてEGFR IHC陽性を適応要件としているが、米国食品医薬品局 (FDA) はEGFR発現に関わらないアプローチで承認しており、この基準の統一が今後の臨床現場における課題である。特に、SQUIRE試験でEGFR陰性患者の5%においてnecitumumabによるOS悪化傾向 (HR 1.52) が認められたことは、適切な患者選択の重要性を強調しており、バイオマーカー検査のルーチン化が不必要な有害事象を回避し、治療効果を最大化するために不可欠であることを示唆している。
残された課題: 今後の検討課題として、EGFR標的mAbと免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の併用療法における予測バイオマーカーの同定が残されている。現在、NSCLCの治療パラダイムはICIの導入により急速に変化しており、EGFR mAbとICIの最適な組み合わせや、その効果を予測するバイオマーカーの探索は喫緊の課題である。また、本レビューで示されたバイオマーカーのカットオフ値や測定方法の標準化も、今後の臨床導入に向けた重要な課題である。さらに、EGFR IHC検査やFISH検査がSqCLC検体でルーチンに実施されていない現状を鑑みると、これらの検査の普及と臨床的有用性のさらなる検証が必要である。
方法
本レビューでは、EGFR標的モノクローナル抗体 (cetuximabおよびnecitumumab) を用いた無作為化臨床試験を対象に文献検索を実施した。検索対象は、進行NSCLC、特にSqCLC患者における化学療法、免疫療法、または抗血管新生療法との併用療法を評価した第III相臨床試験である。文献検索は、PubMed などの主要な医学データベースを用いて行われ、関連する臨床試験、特に無作為化比較試験が特定された。潜在的な予測バイオマーカーとして、免疫組織化学 (IHC) によるEGFR蛋白発現レベル (H-score)、蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH) によるEGFR遺伝子コピー数、およびEGFR/KRAS遺伝子変異が評価された。
主要な対象試験は以下の通りである。
- FLEX試験 (NCT00148798): 未治療の進行NSCLC患者を対象に、cetuximabとシスプラチン-ビノレルビン併用化学療法を評価した。
- BMS099試験 (NCT00112294): 進行NSCLC患者を対象に、cetuximabとタキサン-カルボプラチン併用化学療法を評価した。
- SQUIRE試験 (NCT00981058): 未治療の進行SqCLC患者を対象に、necitumumabとゲムシタビン-シスプラチン併用化学療法を評価した。
- INSPIRE試験 (NCT00982111): 進行非扁平上皮NSCLC患者を対象に、necitumumabとペメトレキセド-シスプラチン併用化学療法を評価した。
- SWOG 0819試験 (NCT00946712): 未治療の進行NSCLC患者を対象に、cetuximabとカルボプラチン-パクリタキセル併用化学療法を評価した。
これらの試験のサブグループ解析や後ろ向き解析において、EGFR蛋白発現 (H-scoreのカットオフ値として200が頻繁に用いられた)、EGFR FISH陽性 (FISH陽性は、40%以上の細胞で4コピー以上のEGFR遺伝子、または10%以上の解析細胞で遺伝子増幅と定義された)、およびEGFR/KRAS遺伝子変異と、全生存期間 (OS)、無増悪生存期間 (PFS)、奏効率 (ORR) との関連性が評価された。また、necitumumabとcetuximabに関する7つの第III相臨床試験のメタ解析も含まれた。統計解析手法としては、ハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) を用いた生存解析 (log-rank検定)、およびp値による有意差検定が主に用いられた。本レビューでは、各試験の報告されたエビデンスレベルと推奨グレードを考慮し、統合的な解釈を行った。