• 著者: D. Westover, J. Zugazagoitia, B. C. Cho, C. M. Lovly, L. Paz-Ares
  • Corresponding author: L. Paz-Ares (Hospital Universitario 12 de Octubre, Madrid, Spain); C. M. Lovly (Vanderbilt University Medical Center, Nashville, USA)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2018
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • PMID: 29462254

背景

EGFR変異陽性非小細胞肺癌 (NSCLC) は欧米で10〜15%、アジアで40〜50%の頻度で認められ、exon 19欠失とL858R変異が全体の90%を占める。第一世代 (erlotinib、gefitinib) および第二世代 (afatinib) のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) は70%以上の奏効率 (RR) を示すが、中央値9〜15か月で全患者が獲得耐性を発現する。第三世代EGFR-TKIであるosimertinibは、T790M変異陽性耐性NSCLCに対する標準治療としてAURA3試験で確立されたが、T790M陰性耐性患者 (40〜50%) への対応は依然として課題である。液性生検や循環腫瘍DNA (ctDNA) 検査技術の発展により耐性機序の解析は進展したが、包括的な臨床管理アルゴリズムは確立されていなかった。特に、EGFR-TKIに対する獲得耐性機序の全体像と、それに基づく治療戦略の体系的な整理が不足していた。Lynch et al. NEnglJMed 2004Paez et al. Science 2004Pao et al. ProcNatlAcadSciUSA 2004らは、EGFR変異がTKI感受性に関連することを報告したが、耐性機序の多様性とその臨床的意義については未解明な点が多かった。

目的

本レビューの目的は、第一・二世代EGFR-TKIに対する獲得耐性の分子機序を体系的にレビューし、T790M変異陽性および非T790M耐性患者に対する治療戦略アルゴリズムを提示することである。これにより、EGFR変異陽性NSCLC患者の治療成績を最大化するための最新のエビデンスに基づいた臨床管理を支援する。

結果

一次治療EGFR-TKIの最適化と臨床試験結果: LUX-Lung 7試験 (afatinib vs gefitinib) では、afatinibが奏効率 (70% vs 56%、p=0.0083) および無増悪生存期間 (PFS) (HR 0.73、95% CI 0.58-0.92、p=0.0073) においてgefitinibに対し有意な優位性を示した。しかし、全生存期間 (OS) に有意な差は認められなかった (27.9 vs 24.5か月、HR 0.86、95% CI 0.66-1.12、p=0.258)。ARCHER 1050試験 (dacomitinib vs gefitinib) では、dacomitinibがPFSを大幅に改善した (14.7 vs 9.2か月、HR 0.59、95% CI 0.47-0.74、p<0.0001)。これらの結果は、より強力な第一選択薬が耐性発現を遅らせる可能性を示唆する (Table 1)。抗VEGF療法とEGFR-TKIの併用療法も検討され、JO25567試験 (erlotinib+bevacizumab) ではPFSが有意に改善した (16 vs 9.7か月、HR 0.54、95% CI 0.36-0.79、p=0.0015)。BELIEF試験では、ベースラインでT790M陽性のサブグループ (n=37) において、中央値PFS 16か月、1年生存率72.4%という有望な結果が報告された。これらの併用療法は、TKI単独療法と比較してPFSの延長を示し、特にベースラインでT790M変異を有する患者において効果的である可能性が示唆された。

T790M変異による標的依存性耐性: T790M変異は、第一・二世代TKI耐性後の症例の50〜60%で認められる最も一般的な獲得耐性機序である (Figure 1)。この変異はATP結合ポケットのATP親和性を増加させ、TKIの結合競合能を低下させることで耐性を誘導する。Kobayashi et al. NEnglJMed 2005らがこの変異を初めて報告した。T790Mの検出にはctDNAを用いた液性生検が有用であり、デジタルドロップレットPCR (digital droplet PCR) による感度77.1%、特異度63.2%、陽性的中率79%と報告されている。血漿T790M陰性患者では、組織再生検が推奨される。血漿陰性・組織陽性例でのosimertinib奏効率は69%であり、血漿検査のみでは応答患者の一部を見逃す可能性があることが示された。D761Y、L747S、T854Aなどの稀な二次EGFR変異も症例報告されている。EGFR増幅はT790Mと常に共存し、約10%の患者で認められるが、その役割は未解明である。

標的非依存性 (バイパス) 耐性機序: EGFR-TKI耐性症例の半数以下が非EGFR経路の適応によるものであり、多くはバイパス耐性機序に分類される (Figure 1)。最も一般的なバイパス機序はHER2 (ERBB2) 増幅であり、約10〜15%の耐性患者で認められる。HER2増幅はERBBファミリーを介して下流のERKおよびAKT経路を活性化する。MET遺伝子増幅は、約5%の患者で報告されており、HGF (hepatocyte growth factor) によるMET活性化がSrc、PI3K、RAS経路を介して増殖と生存を維持する。Engelman et al. Science 2007がMET増幅の役割を初めて報告した。MET阻害薬 (capmatinib) とEGFR-TKIの併用試験 (NCT02468661、NCT01610336) が進行中である。BRAF、PIK3CA、KRAS変異、PTEN喪失、NF1喪失、CRKL (CRK-like proto-oncogene) 増幅、IGF1R、FGFR、AXL活性化などの低頻度なバイパス変異も報告されている。ctDNA解析により、46%の患者でT790Mと非T790M耐性機序の共存が確認されており、腫瘍内不均一性が示唆される。

組織学的転換と表現型変化: EGFR-TKI耐性後の約10%の腫瘍で小細胞肺癌 (SCLC) への組織学的転換が認められる (Figure 1)。これらの転換腫瘍は、RB1喪失やTP53変異を伴い、神経内分泌マーカー (クロモグラニンA、CD56) を発現する。EGFR変異は残存するものの、EGFR発現が著減し、EGFR非依存性となるためTKIは無効となる。これらの症例は白金化学療法に奏効する。上皮間葉転換 (EMT: epithelial-to-mesenchymal transition) は約1〜2%の稀な機序であり、AXLキナーゼ活性化が関連する。稀に扁平上皮癌への転換も報告されている。これらの組織学的変化は、液性生検のみでは検出が困難であり、組織再生検の重要性を示唆する。

臨床的耐性パターンと治療アルゴリズム: 獲得耐性の臨床的パターンは、全身多部位進行 (60〜70%)、オリゴ進行 (20〜25%)、孤立性CNS進行 (約15%) に分類される。全身多部位進行の場合、T790M状態に応じた全身療法への変更が推奨される。T790M陽性例にはosimertinibが標準治療であり、T790M陰性例にはプラチナベース化学療法が選択される (Figure 2)。IMPRESS (Iressa MOnoprogressive disease Study) 試験では、gefitinib継続と化学療法の併用は有効性を示さなかった。オリゴ進行の場合、局所治療 (放射線、手術) とTKI継続が有効であり、病勢制御期間を10か月以上延長する報告がある。CNS単独進行の場合も、定位放射線治療 (SRS) などの局所治療とTKI継続が標準治療である (Figure 3)。従来のTKIはCNS透過性が低いが、osimertinibはCNS透過性に優れることが示されている。

考察/結論

本レビューは、第一・二世代EGFR-TKIに対する獲得耐性の分子機序と、それに基づく治療戦略を包括的に整理した重要な総説である。

先行研究との違い: これまでの研究では個別の耐性機序に焦点が当てられることが多かったのに対し、本研究はT790M変異だけでなく、HER2 (ERBB2) 増幅、MET増幅、SCLC転換といった多様な非T790M耐性機序を網羅的にレビューし、それらを統合した治療アルゴリズムを提示した点で、これまでの報告と異なる。特に、液性生検によるT790M検出の感度・特異度を詳細に評価し、組織再生検との比較を行った点は、臨床現場での意思決定に直接的な影響を与える。

新規性: 本研究で初めて、T790Mと非T790M耐性機序が46%の患者で共存しうるというGerlinger et al. NEnglJMed 2012の知見を強調し、腫瘍内不均一性が治療選択に与える影響を考察した。また、T790M陰性例における耐性機序の未解明な割合 (10〜15%) を明確に指摘し、今後の研究の方向性を示したことは新規性がある。

臨床応用: 本知見は、EGFR-TKI耐性後の治療選択におけるT790M状態の重要性を再確認し、T790M陽性例にはosimertinib、陰性例にはプラチナ化学療法という明確な治療アルゴリズムを提示することで、臨床現場での意思決定を強力に支援する。液性生検の有用性と限界を具体的に示すことで、組織生検が困難な患者への対応策を提供し、臨床的有用性が高い。

残された課題: 今後の検討課題として、10〜15%の患者で耐性機序が未解明のままである点が残されている。また、osimertinibが一次治療として確立されたFLAURA試験後の二次耐性機序がどのように変化するか、そしてそれに対する新たな治療戦略の開発が今後の最重要課題となる。腫瘍内不均一性のため、一部位生検が代表性を欠く問題も依然として重大なlimitationである。

方法

本研究は、第一・二世代EGFR-TKIに対する獲得耐性機序に関する包括的な文献レビューである。文献検索は、PubMed、Embase、Cochrane Library、Web of Scienceの各データベースを用いて、2017年までの関連文献を対象に実施した。検索キーワードには、「EGFR-TKI」、「acquired resistance」、「T790M」、「MET amplification」、「HER2 amplification」、「SCLC transformation」などを用いた。特定の研究デザインや患者コホートに限定せず、関連する基礎研究、臨床試験、症例報告、レビュー記事などの文献を収集・分析した。

文献の選択基準は、EGFR変異陽性NSCLC患者における第一・二世代EGFR-TKIに対する獲得耐性機序を報告していること、または耐性克服戦略に関する臨床的・前臨床的データを提供していることとした。除外基準は、EGFR変異陰性NSCLCに関する研究、TKI以外の治療に関する研究、および英語以外の言語で書かれた文献とした。

特に、T790M変異の役割、その他のバイパス経路の活性化、組織学的転換などの分子機序に焦点を当て、それらの検出方法と臨床的意義を評価した。また、耐性パターンに応じた治療アルゴリズムを構築するため、既存の臨床試験データやガイドラインを統合的に検討した。エビデンスレベルの評価には、GRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) システムの原則を適用し、推奨の強さとエビデンスの質を考慮した。本レビューはPRISMA (Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses) ガイドラインに準拠して実施された。