- 著者: James Chih-Hsin Yang, Myung-Ju Ahn, Dong-Wan Kim, Suresh S. Ramalingam, Lecia V. Sequist, Wu-Chou Su, Sang-We Kim, Joo-Hang Kim, David Planchard, Enriqueta Felip, Fiona Blackhall, Daniel Haggstrom, Kiyotaka Yoh, Silvia Novello, Kathryn Gold, Tomonori Hirashima, Chia-Chi Lin, Helen Mann, Mireille Cantarini, Serban Ghiorghiu, and Pasi A. J¨ anne
- Corresponding author: James Chih-Hsin Yang (National Taiwan University Hospital, Taipei)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-02-21
- Article種別: Original Article
- PMID: 28221867
背景
非小細胞肺がん (NSCLC) において、上皮成長因子受容体 (EGFR) 遺伝子変異は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR-TKI) による治療効果を予測する重要なバイオマーカーである。第一世代および第二世代のEGFR-TKIは、EGFR変異陽性NSCLC患者に対する一次治療として推奨されており、複数の第III相臨床試験でその有効性が示されている。例えば、Mok et al. NEnglJMed 2009 や Maemondo et al. NEnglJMed 2010 は、ゲフィチニブが化学療法と比較して優位な無増悪生存期間 (PFS) を示すことを報告した。また、Rosell et al. LancetOncol 2012 や Zhou et al. LancetOncol 2011 は、エルロチニブの有効性を示し、Sequist et al. JClinOncol 2013 や Wu et al. LancetOncol 2014 は、アファチニブの有効性を確立した。しかし、これらのEGFR-TKIによる治療後、ほとんどの患者で最終的に獲得耐性が生じ、病勢が進行する。
EGFR-TKIに対する最も一般的な獲得耐性メカニズムは、EGFR遺伝子のT790M点変異であり、これは獲得耐性後の組織生検検体の約50%〜60%で検出されることが、Yu et al. ClinCancerRes 2013 らの研究で報告されている。このT790M変異は、EGFR-TKIが結合するATP結合ポケットの立体構造を変化させ、薬剤の結合親和性を低下させることで耐性を引き起こす。T790M変異陽性NSCLCに対する有効な治療法の開発は、当時の臨床現場における喫緊の課題であった。既存の治療法では、T790M変異陽性患者に対する奏効率やPFSが不十分であり、新たな治療選択肢が強く求められていた。
オシメルチニブは、第三世代の不可逆的EGFR-TKIであり、EGFR感受性変異 (del19/L858R) とT790M耐性変異の両方に対して選択的な阻害活性を持つように設計されている。さらに、野生型EGFRに対する活性を抑制することで、従来のEGFR-TKIで問題となっていた皮膚毒性や下痢などの副作用の軽減も期待された。オシメルチニブの第I相AURA試験 (用量漸増パート) では、T790M変異陽性患者において客観的奏効率 (ORR) が61%と顕著な抗腫瘍活性が示された一方、T790M変異陰性患者ではORRが21%であったことが、Janne et al. NEnglJMed 2015 によって報告されている。この有望な結果を受けて、T790M変異陽性患者におけるオシメルチニブの有効性と安全性をさらに検証するため、AURA試験の第II相拡大コホートが実施された。本論文は、この第II相拡大コホートの結果を詳細に報告するものである。当時の標準治療である化学療法と比較して、T790M変異陽性患者に対するオシメルチニブの有効性データは不足しており、その臨床的意義を確立することが求められていた。特に、T790M変異陽性患者におけるオシメルチニブの長期的な安全性と有効性プロファイルに関するデータは未解明な点が多かった。
目的
本研究の目的は、EGFR-TKIによる前治療後に病勢が進行したEGFR変異T790M陽性進行NSCLC患者を対象に、オシメルチニブ80 mg/日を投与した場合の有効性(主要評価項目である客観的奏効率 (ORR) を含む、疾患コントロール率 (DCR)、奏効持続期間 (DoR)、無増悪生存期間 (PFS))および安全性を評価する第II相拡大コホート試験の結果を報告することである。また、患者報告アウトカム (PRO) および中枢神経系 (CNS) 転移を有する患者におけるオシメルチニブの活性も探索的に評価する。本研究は、T790M変異陽性NSCLCに対するオシメルチニブの臨床的有用性を確立するための重要なステップとなる。特に、第I相試験で示された有望な結果を、より大規模なコホートで検証し、長期的な安全性プロファイルと、CNS転移に対する効果を詳細に評価することを目指した。
結果
患者背景: 2014年5月14日から2015年11月1日までの期間に、401名の患者がスクリーニングされ、327名の検体がT790M検査の対象となった。そのうちn=324 (99%) で有効な検査結果が得られ、n=207 (64%) がT790M陽性であった。最終的にn=201名の患者がオシメルチニブ治療を受け、データカットオフ時点での治療期間中央値は13.2ヶ月 (範囲 0.1〜17.6ヶ月) であった。ベースライン特性は、年齢中央値62歳、女性が66%、アジア人が57%を占めた (Table 1)。前治療ライン数は中央値2ライン (範囲 1〜11ライン) であった。
主要エンドポイント (ORR): 評価可能患者n=198名におけるBICR判定によるORRは62% (95% CI 54〜68%) であった。内訳は、完全奏効 (CR) が2例 (1%)、部分奏効 (PR) が120例 (61%) であった。ORRは、治療ライン数 (二次治療62%、三次治療以降61%) やEGFR変異サブタイプ (Exon 19欠失64%、L858R変異57%) によらず一貫して高い値を示した。また、アジア人患者ではORR 67% (95% CI 58〜76%)、非アジア人患者では54% (95% CI 43〜66%) と、アジア人患者で数値的に高い傾向が認められた (Figure 2)。
疾患コントロール率 (DCR) および腫瘍縮小の深さ: DCR (CR+PR+安定病変 (SD)) は90% (95% CI 85〜94%) であり、SDはn=66 (33%) であった。一次評価時点での病勢進行 (PD) はn=14 (7%) に認められた。標的病変の最大縮小率を示す「ベストパーセンテージ変化」では、94%の患者で腫瘍縮小が観察され、平均縮小率は-42.7%であった (Figure 3A)。多くの患者で30%以上の深い腫瘍縮小が認められ、早期からの奏効が確認された。
奏効持続期間 (DoR): 奏効が確認されたn=122名の患者におけるDoR中央値は15.2ヶ月 (95% CI 11.3〜計算不能) であり、非常に持続的な奏効が示された。6ヶ月時点での奏効継続率は84%、12ヶ月時点では58%の患者が奏効を維持していた。このDoR 15.2ヶ月という値は、当時の標準治療である化学療法 (通常4〜6ヶ月) を大幅に上回るものであった。
無増悪生存期間 (PFS): BICR判定によるPFS中央値は12.3ヶ月 (95% CI 9.5〜13.8) であった。二次治療コホートでは11.0ヶ月 (95% CI 6.7〜計算不能)、三次治療以降コホートでは12.4ヶ月 (95% CI 9.5〜15.5) と、治療ライン数による大きな差は認められなかった (Figure 4A)。6ヶ月PFS率は70%、12ヶ月PFS率は52%であった。EGFR変異サブタイプ別では、Exon 19欠失患者のPFS中央値が12.5ヶ月 (95% CI 9.7〜計算不能) であったのに対し、L858R変異患者では9.6ヶ月 (95% CI 6.9〜13.8) と、Exon 19欠失患者で数値的に長い傾向が示された (Figure 4B)。アジア人患者のPFS中央値は12.6ヶ月 (95% CI 9.7〜16.6) であったのに対し、非アジア人患者では9.7ヶ月 (95% CI 7.0〜13.8) と、アジア人患者で数値的に長い傾向が観察された (Figure 4C)。
全生存期間 (OS): データカットオフ時点で、n=54 (27%) の患者が死亡していたが、OS中央値には到達しなかった (95% CI 16.4〜計算不能)。OSの追跡期間中央値は13.8ヶ月であり、1年生存率は79% (95% CI 72〜84%) であった (Appendix Fig A1)。
中枢神経系 (CNS) 転移患者における活性: ベースライン時にCNS転移を有していた患者はn=74 (37%) であった。CNS転移を有する患者のPFS中央値は7.1ヶ月 (95% CI 4.2〜12.3) であり、CNS転移のない患者の13.7ヶ月 (95% CI 11.0〜計算不能) と比較して短かった (Appendix Fig A3)。しかし、測定可能なCNS病変を有するn=25名の患者を対象としたCNS奏効解析セットでは、ORRは64% (16/25名; 95% CI 43〜82%) と高く、4名がCR、12名がPRを達成した。CNS病変においても、多くの患者で腫瘍縮小が認められた (Figure 3B)。
患者報告アウトカム (PRO): EORTC QLQ-LC13およびQLQ-C30質問票を用いたデータでは、患者は呼吸困難、咳、胸痛、腕や肩の痛みといった主要な肺がん症状において、一貫した持続的な改善を示した (Appendix Fig A2)。グローバルヘルスステータスおよび身体機能ドメインにおいても持続的な改善が記録された。これはオシメルチニブが症状緩和とQOL向上に寄与することを示唆する。
安全性: ほぼ全ての患者 (n=199/201名、99%) で少なくとも1つの有害事象 (AE) が報告され、n=185名 (92%) でオシメルチニブとの関連が否定できないAEが報告された。最も一般的な関連可能性のあるAE (全グレード) は、下痢43% (Grade ≥3は1%未満)、発疹 (grouped terms) 40% (Grade ≥3は1%未満)、爪囲炎 (grouped terms) 31%、皮膚乾燥 (grouped terms) 31%であった (Table 2)。これらのAEの大部分は軽度 (Grade 1) であった。
間質性肺疾患 (ILD): ILD (grouped terms) はn=8 (4%) に報告され、全てオシメルチニブとの関連が否定できないと判断された。内訳はGrade 1が2例、Grade 3が3例、Grade 5 (死亡) が3例であった。ILDによる死亡例は3例 (1.5%) であり、これはオシメルチニブのILDリスクとして初めて系統的に記録された重要な安全性所見である。ILDの発生までの期間中央値は5.1ヶ月であった。
その他の安全性所見: Grade 3以上のAEはn=77 (38%) に報告され、オシメルチニブとの関連が否定できないGrade 3以上のAEはn=30 (15%) であった。主なGrade 3以上のAEは、疲労 (3%)、感染症 (3%)、QTc延長 (2%)、ALT上昇 (1%) であった。AEによる投与中断はn=43 (21%)、用量減量はn=10 (5%) で発生した。関連可能性のあるAEによる投与中止はn=9 (4%) であり、そのうち7例はILDによるものであった。
考察/結論
本AURA第II相拡大コホート試験は、EGFR-TKIによる前治療後に病勢が進行したT790M変異陽性NSCLC患者において、オシメルチニブ80 mg/日が高い有効性と良好な忍容性を示すことを実証した。ORRは62% (95% CI 54〜68%)、DCRは90% (95% CI 85〜94%) であり、奏効持続期間中央値は15.2ヶ月、PFS中央値は12.3ヶ月 (95% CI 9.5〜13.8) であった。これらの結果は、T790M変異陽性NSCLCに対する当時の標準治療であった化学療法 (PFS中央値4〜6ヶ月) と比較して、顕著な改善を示している。
先行研究との違い: 本研究で示されたオシメルチニブの有効性は、従来のEGFR-TKI耐性後の治療戦略とは対照的である。例えば、アファチニブとセツキシマブの併用療法では、T790M陽性患者のORRが32%、PFS中央値が4.7ヶ月であり、Grade 3以上のAE発生率も高かった。オシメルチニブは、これらの治療法と比較して、より高い奏効率と長いPFSを達成し、かつ良好な安全性プロファイルを示した。また、先行研究で報告されたT790M変異陽性患者に対する治療選択肢は限られており、本研究の結果は既存の治療選択肢とは一線を画すものである。
新規性: 本研究は、T790M変異陽性NSCLC患者におけるオシメルチニブの有効性と安全性を大規模な第II相試験で初めて系統的に確認したものである。特に、CNS転移を有する患者においても高いCNS奏効率 (64%) と良好なPFSが示されたことは新規の知見であり、脳転移に対する新たな薬物療法の必要性を鑑みると、その臨床的意義は大きい。また、患者報告アウトカム (PRO) の改善も示され、これはオシメルチニブが症状緩和とQOL向上に寄与する可能性を初めて示唆した。
臨床応用: 本研究の結果は、オシメルチニブがT790M変異陽性NSCLCの標準二次治療として確立されるための強力な根拠となった。このデータは、オシメルチニブと化学療法を直接比較した第III相AURA3試験の設計根拠となり、AURA3試験ではオシメルチニブがORR 71% vs 31%、PFS 10.1ヶ月 vs 4.4ヶ月 (HR 0.30, 95% CI 0.23-0.41, p<0.0001) と化学療法に対して統計学的に有意な優位性を示した。これにより、オシメルチニブはT790M陽性NSCLCの標準治療薬として承認され、臨床現場での使用が開始された。また、Oxnard et al. JClinOncol 2016 らの研究で血漿中の循環腫瘍DNA (ctDNA) を用いたT790M検査の有用性が示されたことも、オシメルチニブの臨床応用をさらに促進した。
残された課題: 間質性肺疾患 (ILD) の発生が8例 (4%) に認められ、うち3例が死亡に至ったことは重要な安全性所見であり、今後の検討課題である。ILDの発生メカニズムやリスク因子は未解明であり、さらなる研究が必要である。特に日本人患者ではILDの発生率が欧米と比較して高い傾向が報告されており、適切なILD管理プロトコールの確立が必須である。また、本試験は単群の第II相試験であるため、患者選択バイアスが存在する可能性があり、PFS中央値がAURA3試験の10.1ヶ月よりも長かったのは、比較的良好な患者背景や評価基準の差異を反映している可能性がある。今後の研究では、オシメルチニブの一次治療としての有効性 (FLAURA試験で検証済み) や、T790M変異以外の耐性メカニズムに対する治療戦略の開発が残された課題となる。
方法
AURA試験 (NCT01802632) は、第I/II相、非盲検、多施設共同試験として実施された。本論文で報告されるのは、第II相拡大コホートの結果である。
対象患者: EGFR-TKI感受性変異 (del19またはL858R) 陽性の進行NSCLC患者で、EGFR-TKIによる前治療後に病勢が進行し、かつ中央検査でT790M変異が陽性と確認された患者が対象とされた。T790M変異の確認は、最新の病勢進行後に採取された腫瘍組織検体を用いて、cobas EGFR Mutation Test (Roche Molecular Systems) により中央検査室で実施された。WHOパフォーマンスステータスが0または1であり、十分な臓器機能を有することが求められた。無症候性で安定したCNS転移を有する患者も、ステロイド治療を4週間以上必要としない場合に限り登録が許容された。過去の放射線治療や手術によるCNS病変を有する患者も、安定していれば登録可能であった。
治療プロトコル: 適格患者には、オシメルチニブ80 mgを1日1回経口投与した。治療は、RECIST v1.1に基づく病勢進行、許容できない毒性、またはその他の治療中止基準が満たされるまで継続された。治験責任医師の判断により臨床的ベネフィットが継続していると判断された場合、RECIST v1.1で定義される病勢進行後もオシメルチニブの投与継続が許可された。投与中断や減量基準も明確に定められており、Grade 3以上の有害事象 (AE) が発生した場合は、最大21日間の投与中断が許容された。毒性がGrade 2以下に改善した場合、同用量または40 mg/日に減量して再開された。
評価項目:
- 主要評価項目: 独立放射線学的評価委員会 (BICR) による客観的奏効率 (ORR) であった。ORRは、完全奏効 (CR) または部分奏効 (PR) が4週間以上後に確認された患者の割合と定義された。
- 副次評価項目: 疾患コントロール率 (DCR)、奏効持続期間 (DoR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、安全性、忍容性、薬物動態が含まれた。DCR、DoR、PFSはBICRによるRECIST v1.1評価に基づき決定された。腫瘍縮小の深さも評価された。
- 探索的評価項目: 患者報告アウトカム (PRO) およびQOL (EORTC QLQ-LC13およびQLQ-C30質問票を使用) が含まれた。CNS転移を有する患者におけるオシメルチニブの活性も詳細に評価された。
安全性評価: 有害事象 (AE) は、米国国立がん研究所の有害事象共通用語規準 (NCI-CTCAE) v4.0を用いてグレード分類された。グレード3以上のAE、特に間質性肺疾患 (ILD) の発生に注意が払われた。ILDが発現した患者は、オシメルチニブ投与を中止し、適切な支持療法を受けることとされた。
統計解析: 統計解析はPharmaceutical Product Development (Wilmington, NC) により実施され、SAS 9.2ソフトウェアが使用された。正式な統計的仮説検定は行われなかった。約175名の患者を登録することで、ORRを95%信頼区間 (CI) ±8%の精度で推定し、安全性と忍容性を適切に評価できるよう試験規模が設定された。データカットオフは2015年11月1日であった。PFSおよびDoRはKaplan-Meier法を用いて推定された。