• 著者: Martin Schuler, Luis Paz-Ares, Lecia V. Sequist, Vera Hirsh, Ki Hyeong Lee, Yi-Long Wu, Shun Lu, Caicun Zhou, Jifeng Feng, Stuart H. Ellis, Carl H. Samuelsen, Wenbo Tang, Angela Märten, Eva Ehrnrooth, Keunchil Park, James Chih-Hsin Yang
  • Corresponding author: Martin Schuler (West German Cancer Center, Department of Medical Oncology, University Hospital Essen, Germany)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31200814

背景

進行性の上皮成長因子受容体遺伝子変異陽性 (EGFRm+) 非小細胞肺癌 (NSCLC) に対する一次治療において、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) は無増悪生存期間 (PFS) および客観的奏効率 (ORR) を有意に改善する。第二世代の不可逆的ErbBファミリー阻害薬であるアファチニブ (afatinib) は、プラチナ製剤併用化学療法を対照とした第III相試験であるLUX-Lung 3試験 Sequist et al. JClinOncol 2013 およびLUX-Lung 6試験 Wu et al. LancetOncol 2014 において、PFSおよびORRの有意な改善を示した。さらに、第一世代EGFR-TKIであるゲフィチニブを対照とした第IIb相試験であるLUX-Lung 7試験 Park et al. LancetOncol 2016 においても、PFS、治療失敗までの期間 (TTF)、およびORRを有意に改善することが報告されている。

これらの臨床試験では、全体集団における優れた治療効果が示された一方で、一部の患者では3年以上にわたる極めて長期の治療継続が観察されていた。このような「長期応答者 (LTR; long-term responder)」の臨床的・分分子生物学的特徴を明らかにすることは、どのような患者サブグループがアファチニブ長期治療の恩恵を最大に受けるかを理解し、個別化された治療戦略を構築する上で重要な意義を持つ。EGFR-TKIの長期応答の予測因子として、EGFR変異サブタイプ (exon 19欠失 [Del19] 変異) や性別 (女性)、喫煙歴 (非喫煙) が関与するという仮説が、Maemondo et al. NEnglJMed 2010Mitsudomi et al. LancetOncol 2010Rosell et al. LancetOncol 2012 などの先行研究から示唆されていた。しかし、アファチニブを用いた複数の前向き試験データを統合し、LTRの特性を包括的に解析した報告はこれまで存在せず、その実態は未解明であった。特に、長期治療における安全性プロファイルや、患者報告アウトカムである PROs (patient-reported outcomes) を用いたQoL (Quality of Life) の経時的変化に関する詳細な評価も不足しており、臨床現場での長期管理における大きな課題として残されていた。本研究は、これら3つの主要な臨床試験データを統合的に解析することで、アファチニブの長期応答者の特徴を包括的に評価し、その臨床的意義を明らかにすることを目指した。

目的

本研究の目的は、LUX-Lung 3、LUX-Lung 6、LUX-Lung 7の各試験におけるアファチニブ治療群において、3年以上の長期にわたりアファチニブ投与を継続した長期応答者 (LTR) の割合を算出することである。さらに、LTRのベースライン特性 (年齢、性別、人種、喫煙歴、ECOG PS、病期、脳転移の有無、EGFR変異サブタイプ) を全体集団と比較し、長期応答に関連する予測因子を探索する。また、LTRにおける有効性アウトカム (PFS、全生存期間 [OS]、最良客観的奏効 [BOR; best overall response]、奏効期間) を定量的に評価するとともに、忍容性に基づく用量調整 (減量) が長期的な治療効果に与える影響を解析する。最後に、PROs質問票を用いたQoLの経時的変化を評価し、長期治療が患者のQoLに悪影響を及ぼさないかを検証し、アファチニブ中止後の後続治療の状況を明らかにすることを目的とする。

結果

アファチニブ治療群におけるLTRの割合と治療継続状況: アファチニブ一次治療を受けた患者のうち、3年以上の長期投与を達成したLTRの割合は、LUX-Lung 3試験で 10% (24/229例)、LUX-Lung 6試験で 10% (23/239例)、LUX-Lung 7試験で 12% (19/160例) であり、3試験を通じて約10〜12%と一貫した頻度であった (Table 1)。これに対し、LUX-Lung 7試験のゲフィチニブ群におけるLTRの割合は 4% であった。データカットオフ時点で、アファチニブ治療群のLTR 66例のうち 44% (29/66例) が治療を継続中であった。また、2年以上の治療継続を達成した患者の割合は、LUX-Lung 3で 21% (47/229例)、LUX-Lung 6で 19% (46/239例)、LUX-Lung 7で 28% (45/160例) であった。

LTRにおける顕著な無増悪生存期間と腫瘍縮小効果: LTR集団におけるPFS中央値は、LUX-Lung 3で 49.5ヶ月、LUX-Lung 6で 55.5ヶ月、LUX-Lung 7で 42.2ヶ月に達し、全体集団の成績を大幅に上回る長期の疾患制御が示された (Figure 1)。LUX-Lung 3試験の全体集団におけるアファチニブ群のPFS中央値は 11.1 vs 6.9 months (HR 0.58, 95% CI 0.43-0.78, p<0.001) であり、LUX-Lung 6試験の全体集団におけるアファチニブ群のPFS中央値は 11.0 vs 5.6 months (HR 0.28, 95% CI 0.20-0.39, p<0.001) であった。OS中央値は、追跡期間中の死亡イベント数が極めて少なかったため、いずれの試験でも推定不能 (NE; not evaluable) であった。最良客観的奏効 (BOR) については、LTR 66例のうち 8% (5例) が完全奏効 (CR; complete response)、71% (47例) が部分奏効 (PR; partial response) を達成し、14% (9例) が安定疾患 (SD; stable disease) であった (Figure 2)。奏効期間中央値は、LUX-Lung 3で 34.5ヶ月 (範囲: 15.0-42.8)、LUX-Lung 6で 28.3ヶ月 (範囲: 4.2-37.3)、LUX-Lung 7で 19.4ヶ月 (範囲: 7.4-33.0) であった。

LTRにおけるDel19変異および女性患者の富化: LTRのベースライン特性を全体集団と比較した結果、Del19変異陽性患者の割合がLTR集団で高かった (LUX-Lung 3 LTR: 63% vs 全体: 49%、LUX-Lung 6 LTR: 65% vs 全体: 51%、LUX-Lung 7 LTR: 79% vs 全体: 58%) (Table 1)。また、女性患者の割合もLUX-Lung 3およびLUX-Lung 6のLTRで高かった (LUX-Lung 3 LTR: 92% vs 全体: 64%、LUX-Lung 6 LTR: 78% vs 全体: 64%)。一方で、ベースライン時の脳転移を有する患者 (LTRの4〜11%) や、稀なEGFR変異 (S768I、G719X) を有する患者 (LUX-Lung 3 LTRの8%、LUX-Lung 6 LTRの4%) においても、LTRの達成が確認された。

忍容性に基づく早期用量調整と長期安全性の維持: LTRにおける治療関連グレード3の有害事象の発生頻度は、下痢が 13〜37%、発疹/ざ瘡が 13〜21%、口内炎が 0〜17% であった (Table 2)。これらの有害事象は治療開始後早期に発現する傾向が認められた (下痢のオンセット中央値: 4.5〜7日、発疹/ざ瘡: 17.5〜24日、口内炎: 7〜31.5日)。LTRにおいて、これらの有害事象による治療中止例は認められなかった。忍容性に基づくアファチニブの用量減量は、LUX-Lung 3 LTRの 75%、LUX-Lung 6 LTRの 39%、LUX-Lung 7 LTRの 53% で実施されており、全体集団 (それぞれ 52%、28%、42%) と同様の傾向であった。用量調整の多くは治療開始後6ヶ月以内に実施されており、最終用量が 20 mg/day または 30 mg/day に減量された患者においても、長期にわたる疾患制御が維持された (Figure 3)。

長期治療における患者報告アウトカムの安定性: PROs質問票の回収率は極めて高かった (LUX-Lung 3: 97%、LUX-Lung 6: 92%、LUX-Lung 7: 88%)。混合効果モデルによる縦断的解析の結果、LTRにおけるQoLスコア (EORTC GH、EORTC PF、EQ VAS、EQ-5D UK utility index) は、治療開始48週から156週の長期にわたり安定して維持されており、3年以上の治療継続時点ではベースラインと比較してわずかな改善傾向すら観察された (Figure 4)。

アファチニブ中止後の後続治療: アファチニブを中止したLTR 37例のうち、LUX-Lung 3では 78% (14/18例)、LUX-Lung 6では 29% (4/14例)、LUX-Lung 7では 80% (4/5例) が後続の抗がん治療を受けた。後続治療を受けた患者のうち、55%が1ライン、27%が2ライン、18%が3ライン以上の治療を受けており、アファチニブの長期投与後も患者の全身状態は後続治療に耐えうる良好な状態に保たれていた。

考察/結論

先行研究との違い: 従来のEGFR-TKIに関する長期応答者の報告は、単一施設の後方視的解析や、定義が統一されていない小規模なデータに基づくものが多かった。これに対し、本研究は3つの大規模な国際共同臨床試験 (LUX-Lung 3、6、7) の前向きデータを統合し、3年以上という厳格な基準を用いてLTRを定義・解析している点で、これまでの報告と異なり、極めて強固で一般化可能なエビデンスを提供している。また、第一世代EGFR-TKIであるゲフィチニブやエルロチニブの長期応答に関する既報 Riely et al. ClinCancerRes 2006 と比較しても、第二世代薬であるアファチニブが約10〜12%という高い割合でLTRをもたらし、かつそのPFS中央値が3.5年を超えることを明確に示した点で大きく異なる。

新規性: 本研究は、アファチニブ一次治療における長期応答者の詳細な臨床的・分子的特徴、有効性、安全性、およびQoLを包括的に解析した本研究で初めての報告である。特に、長期治療中における忍容性に基づく用量調整 (減量) が、アファチニブの長期的な治療効果を損なうことなく、むしろ安全な長期継続に寄与することを示した点は新規の知見である。さらに、3年以上の長期にわたるアファチニブ治療が、患者報告アウトカム (PROs) で評価されたQoLに悪影響を与えず、安定または軽度改善を維持することを実証したデータはこれまで報告されていない

臨床応用: 本研究の知見は、EGFRm+進行NSCLC患者の治療戦略において重要な臨床的意義を持つ。特に、Del19変異を有する女性患者はLTRとなる可能性が高く、アファチニブによる長期疾患制御の恩恵を受ける最適な対象であることが示された。また、臨床現場において副作用発現時に早期かつ適切な用量減量 (20 mg/dayまたは30 mg/dayへの減量) を行うことで、有効性を維持しながらQoLを保ち、3年以上の長期治療を達成できるという管理指針は、実臨床におけるアファチニブの最適な使用を強く後押しするものである。

残された課題: 本解析の主なlimitationとして、後方視的なpost-hoc解析であること、およびLTRの絶対数が比較的少ないことが挙げられる。また、治療開始前および進行時の腫瘍組織や血漿サンプルを用いた次世代シーケンシング (NGS) による共存遺伝子変異 (TP53変異など) や耐性メカズム (T790M変異など) の詳細な分子生物学的解析が行われておらず、バイオマーカーの同定には至っていない。今後の検討課題として、第三世代EGFR-TKIであるオシメルチニブが一次治療の標準となった現在の治療開発において Soria et al. NEnglJMed 2018、アファチニブを先行させ、耐性獲得後にオシメルチニブを投与する「シーケンシャル治療」の長期的な有用性を検証することが求められる。

方法

本研究は、一次治療としてアファチニブ (初期用量 40 mg/day) の投与を受けたEGFRm+ (EGFR mutation-positive) 進行非小細胞肺癌患者を対象とした、LUX-Lung 3 (NCT00949650)、LUX-Lung 6 (NCT01121393)、LUX-Lung 7 (NCT01466660) の各試験における後方視的post-hoc解析である。長期応答者 (LTR) は、アファチニブ治療を3年以上 (36ヶ月以上) 継続した患者と定義した。この基準は、各試験のPFSおよびTTF曲線が約36ヶ月時点でプラトーに達したことを根拠に設定された。データカットオフ日は、LUX-Lung 3およびLUX-Lung 6が2016年3月25日、LUX-Lung 7が2016年7月26日 (安全性データは2016年3月25日) であった。

解析対象となったアファチニブ治療群の患者数は、LUX-Lung 3で n=229、LUX-Lung 6で n=239、LUX-Lung 7で n=160 であった。アファチニブの用量調整は、グレード3以上の治療関連有害事象 (AE; adverse event) または特定の持続するグレード2のAEが発生した場合に、プロトコルに従って一時休薬および10 mg刻みの減量 (最小用量 20 mg/day) を行う忍容性管理プロトコルに基づき実施された。

LTRのベースライン特性は全体集団と比較して記述統計学的に解析された。有効性評価項目として、治験責任医師判定によるPFS、OS、BOR、および奏効期間を算出した。生存時間解析には Kaplan-Meier 法が用いられた。安全性評価として、アファチニブで頻度の高い下痢、発疹/ざ瘡、口内炎に焦点を当て、NCI-CTCAE v3.0を用いてグレード分類および発現時期を評価した。PROsは、LUX-Lung 3およびLUX-Lung 6ではEORTC QLQ-C30のGlobal Health Status/QoL (GH) スケールおよびPerformance Functioning (PF) スケール、LUX-Lung 7ではEQ-5Dの視覚アナログ尺度である VAS (visual analogue scale) およびEQ-5D UK utility scoreを用いて評価された。PROsの経時的変化の解析には、 piecewise linear model を用いた混合効果成長曲線モデル (mixed-effects growth curve models) が適用され、LUX-Lung 3/6の統合データでは48週と105週、LUX-Lung 7データでは48週と100週での傾きの変化を許容する統計モデルが構築された。