• 著者: Manmeet S. Ahluwalia, Kevin Becker, Benjamin P. Levy
  • Corresponding author: Benjamin P. Levy (Johns Hopkins University School of Medicine, Washington, DC, USA)
  • 雑誌: The Oncologist
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-04-12
  • Article種別: Review
  • PMID: 29650684

背景

EGFR (epidermal growth factor receptor:上皮成長因子受容体) 遺伝子変異陽性の NSCLC (non-small cell lung cancer:非小細胞肺がん) は、経過中に CNS (central nervous system:中枢神経系) 転移を合併する頻度が極めて高い。初診時に約25%の患者に BM (brain metastases:脳転移) が認められ、診断から2年後にはその割合は約40%にまで上昇する。さらに、予後が極めて不良な病態である LM (leptomeningeal metastases:軟髄膜転移) も9%から15%の患者に発生する。これらのCNS転移に対する従来の全身化学療法は、 BBB (blood-brain barrier:血液脳関門) の存在により薬剤の脳内移行が厳しく制限されるため、十分な治療効果が得られないという本質的な課題を抱えていた。BBBは、脳毛細血管内皮細胞のタイトジャンクションによる物理的障壁に加え、 P-gp (P-glycoprotein:P糖蛋白) や BCRP (breast cancer resistance protein:乳がん耐性蛋白) といった薬物排出トランスポーターの働きにより、治療薬を能動的に脳外へ排出する。

第一世代EGFR- TKI (tyrosine kinase inhibitor:チロシンキナーゼ阻害薬) であるゲフィチニブやエルロチニブ、および第二世代のアファチニブは、低分子化合物であり理論的にはBBBを通過することが期待されたが、実際にはこれらの排出トランスポーターの良好な基質となるため、 CSF (cerebrospinal fluid:脳脊髄液) 中への移行率は極めて低く抑えられていた。先行研究において、ゲフィチニブやエルロチニブの一次治療における全身的な有用性は確立されていたが (Mok et al. NEnglJMed 2009Rosell et al. LancetOncol 2012)、CNS病変の制御に関しては依然として不十分であった。また、第二世代のアファチニブも同様に、全身の PFS (progression-free survival:無増悪生存期間) を有意に延長するものの (Sequist et al. JClinOncol 2013)、脳内移行性の低さに起因する頭蓋内再発が臨床上の大きな問題となっていた。

このように、第一・二世代EGFR-TKIを用いた治療においては、全身病変が制御されているにもかかわらず、脳内が「サンクチュアリ (聖域)」となって頭蓋内病変のみが進行する現象が頻発していた。 WBRT (whole brain radiotherapy:全脳照射) や SRS (stereotactic radiosurgery:定位放射線治療) といった局所療法は一時的な制御をもたらすものの、特にWBRTにおいては遅発性の認知機能低下や白質脳症などの重篤な神経毒性が不可逆的であり、患者のQOLを著しく損なう。したがって、高いBBB透過性を有し、かつ獲得耐性変異であるT790Mにも有効な新規薬剤の開発が切望されていたが、その具体的な臨床的エビデンスや最適な治療シークエンスについては未解明であり、治療戦略は「未確立」のままであった。これまでの各世代EGFR-TKIにおける前臨床および臨床データを包括的に比較検証した研究は「不足」しており、治療シークエンスの最適化に向けた体系的な整理が強く求められていた。本レビューは、これらの課題を解決するために執筆された。

目的

本総合レビューの目的は、EGFR変異陽性NSCLC患者におけるCNS転移 (脳転移および軟髄膜転移) に対する各世代のEGFR-TKI (ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、イコチニブ、オシメルチニブ、および新規化合物AZD3759) の前臨床におけるBBB透過性データと、臨床試験から得られた有効性および安全性のエビデンスを体系的に比較・検証することである。さらに、放射線療法 (WBRTやSRS) とEGFR-TKIを組み合わせる最適なタイミングや治療シークエンスを整理し、臨床現場における意思決定を支援する。また、CNS病変の評価における臨床試験エンドポイントの標準化に向け、 RANO-BM (Response Assessment in Neuro-Oncology Brain Metastases) 基準や RANO-LM (Response Assessment in Neuro-Oncology Leptomeningeal Metastases) 基準の適用状況と課題を浮き彫りにし、今後の新薬開発や個別化医療の進展に寄与する治療指針を確立することを目的とする。

結果

BBB透過性と各世代TKIの脳脊髄液移行特性: 第一・第二世代EGFR-TKIは、BBBに発現する排出トランスポーターであるP-gpおよびBCRPの基質となるため、脳内への移行が制限される。平均CSF透過率 (CSF/血漿非結合型薬物濃度比) は、アファチニブで1%未満、ゲフィチニブで1%から3%、エルロチニブで3%から6%と極めて低い値にとどまる。これに対し、第三世代TKIであるオシメルチニブは、前臨床マウスモデルにおいて脳/血漿中Cmax比が3.41を示し、ゲフィチニブの0.21やアファチニブの0.36未満と比較して著明に高い脳内移行性を発揮した。この優れた脳内分布特性は、非ヒト霊長類を用いたPETマイクロドージング研究でも実証されており、P-gpおよびBCRPに対する親和性が低い化学的構造がBBB通過を可能にしている (Figure 1)。

第一世代TKI (ゲフィチニブ・エルロチニブ) のCNS有効性: ゲフィチニブ単独療法の第II相試験 (n=41) において、放射線治療歴のないEGFR変異陽性NSCLC脳転移患者における頭蓋内 ORR (objective response rate:客観的奏効率) は88% (41例中36例)、完全奏効 (CR) 率は32% (41例中13例) に達した。CNS-PFS中央値は14.5ヶ月、 OS (overall survival:全生存期間) 中央値は21.9ヶ月であったが、最終的に49%の患者が救済放射線治療を必要とした。一方、エルロチニブの後ろ向き解析 (n=17) では、頭蓋内ORRが82% (17例中14例)、CNS-PFS中央値が11.7ヶ月であった。また、標準用量で増悪したCNS転移に対し、パルス状高用量エルロチニブ (週1回900-1500 mg) を投与した後ろ向き解析 (n=9) では、67% (9例中6例) に部分奏効 (PR) が認められ、CNS-PFS中央値は2.7ヶ月、OS中央値は12.0ヶ月であった (Table 1)。

第二世代TKIアファチニブの脳転移サブセット解析: 第二世代TKIであるアファチニブの脳転移に対する有効性は、LUX-Lung 3試験およびLUX-Lung 6試験の統合サブセット解析によって評価された (Sequist et al. JClinOncol 2013)。ベースラインで脳転移を有する患者群におけるPFS中央値は、アファチニブ群で8.2ヶ月 vs 化学療法群で5.4ヶ月であり、アファチニブは進行リスクを50%有意に低減した (HR 0.50, 95% CI 0.27-0.95, p=0.0297)。特に、WBRTの事前照射を受けた患者群において、PFS中央値はアファチニブ群で13.8ヶ月 vs 化学療法群で4.7ヶ月と、より顕著な改善が認められた (Table 1)。

イコチニブの第III相試験 (BRAIN試験) における頭蓋内制御能: 中国で開発された第一世代TKIであるイコチニブの有効性を検証するため、脳転移を有するEGFR変異陽性NSCLC患者 (n=176) を対象に、イコチニブ単独療法とWBRT併用化学療法を比較する第III相BRAIN試験が実施された。主要エンドポイントである頭蓋内PFS中央値は、イコチニブ群で10.0ヶ月 vs WBRT併用化学療法群で4.8ヶ月であり、イコチニブ群で有意な延長が示された (HR 0.56, 95% CI 0.36-0.90, p=0.014)。頭蓋内ORRもイコチニブ群で65% vs 併用群で37%と有意に改善した (p=0.001)。しかし、OS中央値においては、イコチニブ群で18.0ヶ月 vs 併用群で20.5ヶ月であり、統計学的な有意差は認められなかった (p=0.734) (Table 1)。

オシメルチニブのT790M陽性二次治療におけるCNS有効性 (AURA3試験): 第三世代EGFR-TKIであるオシメルチニブは、獲得耐性変異であるT790Mを阻害すると同時に、高いBBB透過性を持つように設計されている (Cross et al. CancerDiscov 2014)。AURA3試験における全身PFS中央値は、オシメルチニブ群で10.1ヶ月 (95% CI 8.3-12.3, p<0.001) であり、化学療法群の4.4ヶ月 (95% CI 4.2-5.6) と比較して有意に延長した (Mok et al. NEnglJMed 2017)。ベースラインで測定可能なCNS病変を有する患者 (n=46) において、オシメルチニブ群の頭蓋内ORRは70% (30例中21例) に達し、化学療法群の31% (16例中5例) と比較して有意に高かった (p=0.015)。さらに、測定可能および測定不能なCNS病変を含む全CNS転移解析対象集団 (n=116) において、主要エンドポイントであるCNS-PFS中央値は、オシメルチニブ群で11.7ヶ月 vs 化学療法群で5.6ヶ月であり、オシメルチニブはCNS進行リスクを68%有意に低減した [HR 0.32 (95% CI 0.15-0.69, p=0.004)] (Table 1)。

オシメルチニブの一次治療におけるCNS進行抑制効果 (FLAURA試験): 未治療のEGFR変異陽性アドバンスドNSCLC患者を対象とした第III相FLAURA試験において、オシメルチニブは標準治療 (ゲフィチニブまたはエルロチニブ) と比較して、一次治療としての極めて高い有用性を示した (Soria et al. NEnglJMed 2018)。FLAURA試験の全体集団 (n=556) における主要エンドポイントである全身PFS中央値は、オシメルチニブ群で18.9ヶ月 vs 標準治療群で10.2ヶ月であり、進行または死亡のリスクを54%有意に低減した (HR 0.46, 95% CI 0.37-0.57, p<0.001)。ベースラインで既知または治療済みのCNS転移を有するサブグループ (n=128) における全身PFS中央値は、オシメルチニブ群で15.2ヶ月 vs 標準治療群で9.6ヶ月であり、進行リスクが53%減少した [HR 0.47 (95% CI 0.30-0.74, p<0.001)]。また、独立中央判定によるCNS評価において、ベースラインでCNS転移を有していた患者群 (n=128) におけるCNS進行までの期間は、オシメルチニブ群で有意に延長し、CNS進行リスクを52%低減した [HR 0.48 (95% CI 0.26-0.86, p=0.014)] (Table 1)。

新規BBB貫通型EGFR-TKIであるAZD3759の前臨床および臨床初期エビデンス: AZD3759は、P-gpおよびBCRPの排出基質とならないように分子設計された、極めて高いBBB透過性を有する新規EGFR-TKIである。前臨床試験において、非結合型薬剤の脳内曝露量と血漿中曝露量の比 (脳/血漿非結合型濃度比) は0.86 (標準偏差±0.12) と、ほぼ1:1の均等な分布を達成した。マウスPC-9脳転移モデルにおいて、AZD3759は顕著な腫瘍縮小効果と生存期間の延長を示した。現在進行中の第I相BLOOM試験におけるEGFR-TKI未治療コホート (n=20) の解析では、全身ORRが60% (20例中12例) であり、評価可能な脳転移を有する患者 (n=19) における頭蓋内ORRは63% (19例中12例) を達成した。これにより、AZD3759が強力な頭蓋内腫瘍縮小効果を持つことが臨床的にも証明された (Table 1)。

軟髄膜転移 (LM) に対する各種EGFR-TKIの治療成績: 軟髄膜転移 (LM) は極めて予後不良な病態であり、標準治療が確立されていない。第I相BLOOM試験において、オシメルチニブの高用量投与 (1日160 mg、標準用量80 mgの2倍) の有効性が評価された。事前治療歴の多いLM患者 (n=41) のうち、12週時点の画像評価を完了した23例の解析において、10例 (43%) に放射線学的な改善が認められ、13例 (57%) で病勢が安定した。また、CSF中のオシメルチニブ濃度は、LM治療に十分な治療閾値を超えていることが確認された。一方、第一世代TKIの比較において、エルロチニブ (n=17) とゲフィチニブ (n=5) をLM患者に対して投与した後ろ向き解析では、PFS中央値がエルロチニブ群で6.6ヶ月 vs ゲフィチニブ群で2.1ヶ月 (p=0.07)、OS中央値がエルロチニブ群で7.2ヶ月 vs ゲフィチニブ群で3.0ヶ月 (p=0.32) であり、エルロチニブが良好な傾向を示した (Table 1)。

放射線治療とEGFR-TKIの併用療法における頭蓋内制御効果: 放射線治療とEGFR-TKIの併用効果についても臨床試験で検証されている。ゲフィチニブとWBRTの併用療法を評価した第II相試験 (n=21) において、頭蓋内ORRは81%を達成し、PFS中央値は10ヶ月、OS中央値は13ヶ月であった。また、エルロチニブとWBRTの併用療法を評価した第II相試験 (n=40) では、頭蓋内ORRが86%、CNS-PFS中央値が8.0ヶ月、EGFR遺伝子変異陽性患者におけるOS中央値は19.1ヶ月であった。さらに、イコチニブとWBRTの併用療法を評価した第II相試験 (n=20) では、頭蓋内ORRが80%であり、EGFR遺伝子変異陽性患者におけるPFS中央値は12ヶ月、OS中央値は22ヶ月であった (Table 1)。

考察/結論

本総合レビューは、EGFR変異陽性NSCLCにおけるCNS転移治療において、BBB透過性の克服が治療成績の向上に直結することを体系的に示した。

先行研究との違い: 従来の第一・第二世代EGFR-TKIは、全身病変の制御には優れるものの、BBBに発現する排出トランスポーター (P-gpおよびBCRP) の働きにより脳内移行性が低く抑えられ、CNS病変の制御において不十分であった。本レビューは、これらの従来型TKIの限界と異なり、第三世代オシメルチニブや新規化合物AZD3759が排出トランスポーターの基質となりにくい化学的特性を持ち、高いBBB透過性を発揮して優れた頭蓋内効果をもたらすことを、前臨床および臨床データの双方から明確に示した点が、これまでの知見と異なる。

新規性: 本研究の新規性は、単に各薬剤の臨床成績を羅列するにとどまらず、薬物動態学的なBBB透過メカニズム (脳/血漿中濃度比やCSF移行率) と、大規模第III相試験 (FLAURAおよびAURA3) のCNSサブグループ解析データを有機的に結合させ、CNS転移に対する治療戦略を再構築した点にある。特に、オシメルチニブが一次治療においてCNS転移の新規発症を予防する効果 (CNS進行発生率6% vs 標準治療15%) を持つことを新規に強調し、早期導入の重要性を論理的に導き出した。

臨床応用: 本知見の臨床的有用性として、FLAURA試験およびAURA3試験の結果は、オシメルチニブを一次治療およびT790M陽性二次治療における標準治療として臨床現場に早期導入する強力な根拠となる。また、極めて予後不良なLM治療において、オシメルチニブの高用量投与 (160 mg/日) が有効であるというBLOOM試験の中間結果は、今後の実臨床における投与設計に直接的な影響を与える臨床的意義を持つ。さらに、放射線治療 (SRSやWBRT) を先行させるか、あるいはオシメルチニブによる薬物治療を先行させて放射線治療を遅らせるかという、多職種連携による個別化治療シークエンスの最適化に貢献する。

残された課題: 今後の検討課題として、EGFR-TKI治療後にCNS病変が再発・増悪する際の耐性機序の解明が挙げられる。CNS内では、胸部などの体幹部病変と異なり、T790M変異の発生頻度が低い (空間的・時間的不均一性がある) ことが報告されており、この特異的な耐性メカニズムの解明が求められる。また、SRSやWBRTとオシメルチニブを併用する際、放射線壊死などの毒性を最小限に抑えつつ効果を最大化する最適なタイミングの確立が今後の検討課題である。さらに、臨床試験において全身病変の進行によりCNS評価が打ち切られる問題を解決するため、CNS-PFSやRANO基準、さらにはRANO-BM基準やRANO-LM基準を適用したCNS特異的な評価エンドポイントの標準化が、今後の研究における重要なlimitationとして残されている。

方法

本論文は、EGFR変異陽性NSCLCのCNS転移に対するEGFR-TKIの有効性を検証した文献レビューである。信頼性の高いエビデンスを収集するため、主要な医学データベースである PubMedEmbaseCochrane Library、および Web of Science を用いて、2017年12月までに発表された学術論文および主要学会の発表データを網羅的に検索した。検索式には、“EGFR tyrosine kinase inhibitor”、“non-small cell lung cancer”、“brain metastases”、“leptomeningeal metastases”、“osimertinib”、“AZD3759”、“blood-brain barrier” などのキーワードを組み合わせた。

抽出された文献から、前臨床モデル (マウス、ラット、非ヒト霊長類) における薬物動態データ、特に脳/血漿中濃度比やCSF移行率に関するデータを収集した。臨床データに関しては、第一世代TKI (ゲフィチニブ、エルロチニブ)、第二世代TKI (アファチニブ)、中国で承認されているイコチニブ、第三世代TKI (オシメルチニブ)、および新規BBB貫通型TKI (AZD3759) の臨床試験データを対象とした。特に、第III相ランダム化比較試験であるAURA3試験 (NCT02151981)、FLAURA試験 (NCT02296138)、および第I/II相試験であるBLOOM試験 (NCT02228369) におけるCNSサブグループ解析の結果を重点的に評価した。

各臨床試験における統計学的評価方法のレビューにおいては、主要エンドポイントであるPFS、全身PFS、および頭蓋内PFS (CNS-PFS) の算出に Kaplan-Meier 法が用いられ、群間比較には log-rank 検定が適用されていることを確認した。また、背景因子や共変量を調整したハザード比 (HR) およびその95%信頼区間 (CI) の算出には、Cox regression (コックス比例ハザード回帰) モデルが用いられている。頭蓋内奏効率 (intracranial ORR) および病勢コントロール率 (DCR) の判定基準として、一般的な RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) 基準と、脳腫瘍に特化した RANO (Response Assessment in Neuro-Oncology) 基準、さらにはRANO-BM基準やRANO-LM基準の適用状況を比較分析した。